「いつでもギーとんに会いに行けるってのがいいよね〜!」














ノーマが嬉しそうに呟いた。頬が緩みきっている。













「そうね。」












にっこり笑って答えると、ノーマもニヒヒと笑った。

私とノーマはモーゼスを誘うことなく二人でギートに会いに行く事が多くなった。
今日はセネルとだけれども、普段はクロエやワルターを共に連れていく。














「あたし、何か落ち込んだ時に一人で会いに行っちゃいそうだよ〜。」

「ノーマも落ち込むのよね。」

「何、ちゃん。その言い方〜!あたしが落ち込まないみたいじゃん!」

「うふふ、反対。ノーマでも落ち込むことがあるってこと。」

「むきー!同じじゃん!」

「何ケンカしてんだ?行くぞー。」












宿の受付からセネルの声がした。
私達はセネルが痺れを切らした顔をしているのを想像すると笑い合う。












「早くしろーっ!」












笑い声を聞いてふて腐れたのか、セネルの声が再び響いた。
















いつ見ても不思議な世界が広がる昇降装置。
私はまったく機械の事がわからないので、見ただけで操れる人が凄いと思ってしまう。

例えばジェイとかね。
そういえば、ヴァーツラフ兄様も操れたのかしら。あの時、スイッチを持っていたけれど…。














?」

「…え?」

「何か、考え事してるな。大丈夫か?」

「あ、ええ。」

「そっか。何かあったら言えよ?」

「ありがとう、セネル。」













微笑むと、セネルも目を細めて微笑んでくれた。
その顔が眩しくて思わず、目を逸らしてしまう。
















?」

「あ、ごめんなさ…」

「いや、いいよ。気にするな。」














セネルは再び笑うと、私の手を取って歩き出した。前を見ると、ノーマにかなり遅れをとっている。
しかし、セネルは急に立ち止まると振り返らずにそのまま言った。














「いつでもそばにいるし、助けるから。」

「え…」

「だから、やっぱり逸らさないでくれ。」












彼はそう言って、強く強く私の手を握って引っ張っていった。















「あ〜っ!」















ノーマの残念そうな声が聞こえセネルと二人で彼女を見ると、彼女のいるもっと先に、モーゼスがギートと座り込んでいた。















「先約がいたな。」

「私達が勝てない程のね。」













くすくす笑い合うと、ノーマが飛び出して行きそうな勢いで地団駄を踏む。















「モーすけのやつ〜!」













セネルはノーマの腕を掴んでこれ以上進まないようにし、私を振り返って言う。
















ならあの二人の中に入れるんじゃないか?」

「いやだ、もう。私にだって遠慮というものがあるわ。」

「だよな。」














私達はノーマを引きずりながら、静の大地を散歩することにした。















「本当に静かだよな。」

「ええ。」

「ちょっとセネセネ、そろそろ腕離してくんない?」

「ん、すまん。」













セネルはパッとノーマの腕を離した。でも、














ちゃんの手は離さないんだ?」

「滅多にこんなことないからな。」













セネルは私の手を握りしめる。













「私と、手を繋ぎたいの?」

「……」











セネルは目を見開くと、ゆっくりと笑顔になった。
それを見て、ノーマが意地悪く笑う。















「今日はリッちゃんがいないしねぇ〜。」

「ああ。」

「あ、そうね。シャーリィに悪いわ。」














私から離そうとすると、セネルはがっちり掴んで離さない。















「シャーリィは妹だ。俺は今、と手を繋いで…歩いていきたい。」













セネルは真剣な表情を私に向けた。
それに驚きを覚え、そして嬉しさを隠せなかった。
















「ありがとう、セネル。」

「ああ。」















にっこり笑いあった彼の背の向こうで、やってられないという顔のノーマが見受けられた。
















「セの字!にシャボン娘!」














声を掛けられて振り向くと、モーゼスとギートがのっしのっしと歩いてくるところだった。
彼等の顔には幸せが浮かんでいる。















「セの字の熱い言葉が聞こえての、来てみたら案の定じゃ。

に告白なんぞ、百年早いわ。」

「…告白?」













モーゼスはセネルを睨む。
すると、受けて立つかのようにセネルもモーゼスを睨んだ。


わけのわからないうちにギートが私の周りをくるくる回り、体を擦り寄せるように丸くなると、それを背もたれにするように座った。

ノーマはまたもやってられないというように両手を上げる。
男の子二人は睨み合っていたかと思うと、セネルの方が私とギートをちらりと見て肩を落とす。















「どうしたんじゃ?」

「別に。」















彼はモーゼスに背を向けると、ノーマの腕を取った。















「帰るぞ。」

「へっ?セネセネ?」















ズルズルと引きずられる彼女を見るのは、今日二回目だと思った。

















































「セの字には悪い事したの。せっかくとおったのに。」

「?」

、どのくらい天然なんじゃ?それとも気付かないフリしちょるだけか?」

「??」
















モーゼスはの頭をぽんぽんと叩くと、しゃがみ込んだ。そしてニッと笑う。

















「やっぱり好きじゃ。」

「え?」

「誰にも渡したくない。」

「あ…えと…」
















吃ってしまう彼女を見て、普通の女子とは違うと思う。
何かが欠けているような感覚。
















「そがあな困った目を向けると、押さえがきかん。」

「押さえ?」















ある時はすぐに理解して素早く行動を起こす
しかし、恋には疎いのか誰の気持ちにも気付いていないようだった。それも、告白したのにも関わらずだ。


頭のデキがようないワイがわかるんじゃ。はやっぱりおかしい。


















「私もモーゼスが好きよ。皆好き。大切な仲間なの。」

「じゃがの、その中で誰かを選ばんといかん時が来たらどうするんじゃ?」

















はギートの柔らかな体に顔を預けた。
その温かみにほわんとなると、瞼が重くなる。
















「皆を選ぶわ。」

「じゃから、誰かを…」

「絶対にみんな…

スー…」















体ごと預けて寝てしまったを、モーゼスは優しく撫でた。
















「そういうとこも、全部が好きじゃ。」














モーゼスは彼女の体を抱きしめると、甘い匂いに鼻孔を擽られる。

女の子特有の匂いだ。
















「背は高く、威力のある弓を引く割にはか細い体。何がこんなにを重くしちょるんじゃ?」
















モーゼスは銀色の髪を撫でる。さらりさらりと流れるそれは、天に流れる天の川の様だ。















「くぅん…」

「ギートもそう思うんか。」















モーゼスはゆっくりとの顔に自分の顔を近づけた。
小刻みに震える長い睫毛が、彼の心を掠う。潤いに満ちた唇を眺め、舌なめずりしたくなる。

















「きっと、甘いんじゃろうな。」














モーゼスは珍しくクスリと笑った。
そして彼はの唇を指でなぞると、眼帯を外して光を失った目を宛がう。

自分の瞳に光りが戻った気がした。それは有り得ない事ではあるが、の唇が触れたところから熱が体中に広がる。
こんな熱くなったのは、この目が見えなくなった時以来かもしれない。















「熱い…のう…」














モーゼスは不思議と満たされた気がした。

が自分のものにならなければ満たされないと思っていたこの心。彼女の欠けた恋への感情。
全てわかった気がして本当は何もわからない。

















「ワイの気持ちに、諦めがついたんか?

…ついたかもしれん。」
















好きで、告白したこの少女への思いは今でも変わることはない。
しかし今回の野生化の件で気付いてしまったのだ。




は、自分のものになり得ないことを。
















「あん時、ワイが答えを出したようじゃったが、本当は……」














が先に答えを出していた。
はギートだけのために生きられないと。ギートとワイのためだけに生きられないと、答えを出していた。

















はみんなのじゃもんな。」















モーゼスはクカカと笑うと、彼女の頬を撫でた。
すると眠っているはくすぐったそうに口をきゅっと結ぶ。



彼女がもう既に自分の所から遠いところに行ってしまったことに悲しみと悔しさを感じた。それと共に、どこまででも追いかけて行くはずの自分の執念深さがなくなった事にがっかりする。


















「いつから、ワイはこんなに物分りがよくなったんじゃろ。

……これが、大人になっていくっちゅうことか?」
















モーゼスはの顔を引き寄せると、ゆっくりと見下ろした。
優しい顔で見つめ続ける。

















「勝手に奪ったら、この場を譲ってくれたセの字に悪いからの。」















そして、彼女の額に自分の唇を寄せた。





それは長い時間だったか、それとも一瞬だったか。
後に聞こえたのは、

















「ありがとう、















モーゼスの掠れた声だった。






















*************

お疲れ様でした^^
ノビルサフランのモーゼス編は、『モーゼス&チャバ編』でした。
その割には最後の方はずっとモーゼスでしたが(笑

モーゼスとチャバ、そして他のみんなの中でどんどんと違う力を現していくヒロイン。
それに気付いていくみんな。
特に今回はモーゼス編だったので、ちょっと鈍感なモーゼスがそれに気付いて少し大人になっていくところを書きました^^実はヒロインに一番最初に告白したモーゼス。それからずっと目で追ってきたけれど、告白している事も忘れてしまったようなヒロイン。もどかしく思っていたけれど、モーゼスはヒロインが今そんな気持ちではない状況だという事と、恋に対しての感情が抜けていることに気付きました。
まあ、その感情に関してはヒロイン編に続くのですが…。

ということで、モーゼスの心的にはヒロインを諦めたわけですが、表面的には諦めてません(笑
だって、自分がその戦いからおりて傍観者になるような彼ではないでしょう???
まあまあ、これからも今まで通りな皆を宜しくお願いしますねっ!


2008/01/06






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↑注意!一度は必ずクルザンド記を読んでから読むようにしてください!!