パンを取り分けてそれぞれのお皿に乗せる。部屋に台所がないので毎日の朝食は簡易なものになってしまうのが少し不満。
パンとハム、またはウインナー。それにお野菜を少しね。簡易な食事だとバランスよく食べれないのが心配だわ。
いつもの様に無言の食事を終え立ち上がる。今日は何だか良い事がありそうで心が躍っていた。


変ね、ヴァイシスが来るだけなのに…心は何だか待ちに待った人に会えるようだわ。
そのぐらい楽しみで、待ちきれなかった。










「ワルター、どの服がいいと思う?」









そんな気持ちが滲み出てしまったのはこの言葉ね。にっこりと笑いかけたのに、訝しむワルターの表情を見て気付く。









、誰に会いに行くんだ?」

「やだ、忘れてしまったの?ヴァイシスに会いに行くのよ。」









惚けてみるけれど、ワルターに効く筈がない。彼は眉を寄せると眉間に皺を作った。










「忘れるわけがないだろう。…しかし、甥に会うのにその服はおかしい。」









ベッドに並んでいる、一際美しいドレスを指差す。
私は苦笑しながらそそくさとしまった。










「恋人に会いに行くみたいだな。」









ふと、ワルターが呟く。私はびっくりして彼を見つめた。


…あ、睨んでいるわ。










「恋人なんていないわ。」










知っているでしょうに、何故わざわざ聞こえるように呟いたのかがわからない。
少し腹を立てると、服に目を移す。彼は、まだ私の後姿を見ているみたい。









「そうか。」








ワルターはフイと顔を逸らすと、空色のマントを巻き付けた。










「ワルターったら変な事言うわね。私に恋人なんか出来たらワルターと住んだりしないわよ。」









朝から変な事を呟いたお返しにと反抗する。まあ、本当のことなのだけれども。









「…!!」








彼はマントを整えると、私の方を向いた。口は一文字になって目は心なしか潤んでるよう…。
何故そんな反応をしたのかわからなくてそのままの話を続ける。










「わかったわ。恋人出来たら出ていきます。それでいいのでしょう?」

「なっ…ちが…!!」









つんとすると、ワルターは立ち上がって近寄って来た。

もう、何が言いたいのか全然わからないわ。

ワルターはずんずん近寄って来ると、私の腕をがっしり掴む。










「一緒に、生きるんだろう!?」









強く掴まれた腕が痛い。
訳がわからず小さな苛立ちが頂点に来た時、聞き返してしまった。
あの時約束したのにも関わらずね。











「ワルター、私とずっと生きたいの?」

「……!!

…あ…」

「朝っぱらから何やってんの〜?ほら、も〜行くよ〜!」










ワルターが何か言いかけた時、ノーマがばーんとドアを開けた。彼女の準備は完璧に整っている。
ノーマはぽかんとした口をニッと上げると、ワルターと私を交互に見つめた。










「あ、ワルちんが朝っぱらからちゃん襲おうとしてる。」

「違う!」

「ノーマ、ワルターがね…」

「言うな!!!」










ノーマに話そうとすると、ワルターに口を塞がれる。もがもがと喋るけれど、声にならなかった。











「な〜に〜?ワルちんもクーみたいに隠し事があるわけぇ?」









ノーマはニヤついた顔で彼を見上げる。ワルターはうっとした顔をすると、口を曲げた。









「何かな〜何かな〜?場合によっちゃ、イシーよりこっち優先しちゃうかもよ〜?」

「黙れ!」








ワルターは不機嫌そうに怒鳴ると、私の口から手を外した。私の口から話すことを観念したみたい。
小さな苛々は頂点を過ぎても沸々とし、最後に止めを刺すように言った。










「もう…。ワルターったら、好きな子が出来たら言ってくれれば出ていくわよ?無理矢理私と生きようなんてしなくてもいいわ。

ワルターの人生は、ワルターのものなのだから!」









私はドレスの次に可愛い服を掴むと、「着替えるから部屋貸して!」と言ってノーマの部屋に向かう。











「う…うん。いいけどさ〜。

……ワルちんかわいそう。ただのヤキモチだろ〜に…」

「言うな…」










部屋を出際にちらりと振り向くと、ノーマが何故かワルターを慰めているのが見えた。














































「おはよ、!」

「おはよう、セネル。」

「あ…」









服も髪も整えて完璧に済ませると、私はスキップしながら宿屋を出た。そして街の入り口に向かうと、途中でセネルに会った。
彼は私の姿を見るなり、顔を真っ赤にして口を噤む。










「どうかしたの?」

「いや…」









セネルは私を頭の先から爪先まで見回す。
変ね。











さんがあまりにもいつもと違う恰好をしているので、見惚れているんですよ。」

「あら、そうなの?似合うかしら?」

「似合うに決まってるじゃろ〜!」

「きゃあっ…」










突然、モーゼスが抱き着いてきた。ぎゅう、とされるけれど彼の体は骨張り過ぎて痛い。











「な〜にやってるんですか、モーゼスさ〜ん?」

「いででで…ジェー坊やめぃ…」










ジェイはモーゼスの耳を引っ張ると、私の体から外してくれる。苦しくなった息を整えると彼らを見る。











「モーゼス、いい度胸してるな…」











ドゴンッ
という音と共に横ではセネルの蹴りが炸裂している。それはモーゼスに当たることはなかったけれど、隣にあった庭石が粉々に砕けた。











「あ〜もう、お兄ちゃんたら!それ、自分で謝りに行ってよね。」

「あ…すまない、シャーリィ。」

「シャーリィを困らせたな、ひとでなし。」

「クロエ…」










私の服のネタから話をこんなに広げてしまって、思わず感心してしまう。ワルターも同じようなのか皆を見回すと、私をじろっと睨んだ。
まるで、言った通りだろう、と表現しているみたい。






そうかもしれないけれど、そうなのかもしれないけれど…









「何かいいことがありそうだから、可愛くしたかったの。」









思わず言ってしまった。
すると、皆は一人の例外なくぽかんと私を見て、笑う。










ちゃんも女の子だねーっ!」

「本当だ。も普通の女の子だな。」

さんはそんなこと言わない人だと思ってました。」










女の子達がくすくす笑う。三人とも、私が女の子じゃないと思っていたのかしら。










「三人とも、失礼だわ。」

「やだな〜ちゃん。ちゃんが女じゃないなんて言ってないじゃん。」










ノーマがばんばんと私の肩を叩いた。クロエもシャーリィも頷いている。










「え?」

は女の人ではなく、女の子だって言ったんだ。」

「そうですよ。いつも大人びて、グリューネさんの方が年下に見えてしまいます!」

「あらぁ〜、ちゃんてすごいのねぇ。お姉さん嬉しいわぁ!」










グリューネだけがその場に合っていない発言をしていたけれど、皆の言いたい事がわかってホッとする。
だって、これでも王女ですからね。










「本当ですよ。さんもヴァイシスさんも歳相応な態度でなく、大人び過ぎてるんですよ。」

「ほうじゃのう。」

「クルザンドが大変だからってさ、やヴァイシスまでもが急いで大人になんなくてもいいんじゃないか?」

「ああ。二人とも、子供時代はもっと大切にした方がいい。嫌がおうでもすぐに大人になる時期が来るからな。」










ウィルがあまりにもしみじみと言ったので皆で噴き出した。
まだそんなに歳を取っているわけではないのに。











「親父らしい発言ですな〜!」

「ノーマ、黙っていろ!」










ドゴッと響くノーマの頭にげんこつが下ろされる。それを嬉しそうに見る仲間達。
こんなに心躍っていると、日常茶飯事の出来事も面白おかしかった。











「じゃが、いつもの服もそそられるしのう。」

「そそられる?」










モーゼスの呟きに聞き返すと、彼の鼻の下が伸びた。










「?」

「ああ、あのエロい服な。」

「うわ、珍しくセネルさんが言い退けましたね。」










?を頭の上に掲げていると、ジェイがにっこり笑う。
周囲を見渡すと、みんながみんな、私の胸元を見ている。











「あ、あれも可愛いでしょう?」

「うわ、何にも気付いてないし。」










ノーマの言葉にまた?が浮かぶ。彼女が着ている服となんら変わりはないと思うのだけれども。











「あの、大事なとこが見えそうで見えないとこがそそられるんじゃ〜。」










鼻の下を伸ばしきったモーゼスの言葉に、シャーリィが凄い形相で振り返った。










「モーゼスさんて最低ですね。」










顔は笑っているようで笑っていない。彼女はそのままセネルの方を向くと、










「お兄ちゃんも最悪。」










そう言ってワルターの横に並んだ。
ワルターは私をチラリと見てそのままシャーリィと並んで歩いていった。怒っているのかと思ったけれど、セネルがシャーリィに謝りながら歩いたりと、皆が港に移動し始めたので気にする暇も無くなってしまった。
















































「…どうして…」










どうしてなの!?




自分に絶望的になる。私って、方向音痴だった?いいえ違うわ。この港に来る時だけ方向音痴になる気がする。またこれも必然だというの?
どうして港に来ると、私は一人で迷ってしまうのかしら。この前クロエを迎えに来た時も一人で迷ってしまい、変な男の人に捕まったのだわ。










「この前みたいに変な人に捕まらないといいけれど。」









私は人込みを掻き分けながら歩いていた。すると、大きな船の方に一際目立つ団体!










「あっ…」










仲間達がいた。そして、精悍な顔付きのヴァイシスも。
少し会わないだけで、甥は数倍大人に近づいた気がした。彼は私の兄達と同じように背が高く、優に180センチを超えている。
彼らは逸れた私に気付くと、大手を振ってくれた。

団体が叫びながら手を振るものだから、周りの人が一斉に私の方を向く。




やだ…恥ずかしいじゃないの。




私はカーッとなった頬を押さえながら皆へと向かって歩き出す。
数歩目の足を出したその時、後ろから澄んだ声で呼ばれたの。




様って。




澄んだ声って女性の声ではないわ。聞いた事のある男性の声。
凛とした熱き思いを持った懐かしい声。










「えっ?」










振り向くと、そこには清々しい笑顔の青年。

優しい瞳、溶けない笑顔。

ああ、なんて懐かしい私の知り合い!











「シフォン!!!」











思わず、両腕を伸ばして彼を抱きしめた。













***********

彼は誰だったかしら〜?
答えはクルザンド記に!!
シフォンは一応、穏やかな美形青年です(笑)


2007/10/25(訂正2008/01/07)






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