パチパチと薪が鳴り、暖かな空気がテントの中を満たす。
誰かが朝食を作っているのかおいしそうな匂いが漂い、それに刺激されて寝ているのお腹がくぅ、と鳴る。


昨日寝ていたベッドと違い、今日の寝心地はあまりいいものではなかった。
地面に布を敷いただけの雑魚寝なので、背中がじんと痛い。





「…起きろ、。」


「…ん…」


クロエに起こされて、は薄く目を開ける。

しかし、視界がぼんやりしているので起きる気をなくし、
ごそごそと毛布を被ると二度寝を決め込もうとした。



!」



「わわっ!」



クロエが耳元で怒鳴る。


その声に驚いて目を見開き、ガバと跳ね起きた。


何が起こったのかと辺りを見回すと、隣りには苦笑するクロエとほんわかと笑うグリューネがいた。
その反対側には、ノーマが威勢良い格好で布団を剥いで寝ている。



はごしごしと目を擦ると、


「おはようございます。」


とクロエとグリューネに言った。


「おはよぉ。」


グリューネは何気なく返事をしてくれたが、クロエは不意に優しい目付きになって


「怪我は大丈夫か?」


と聞いてきた。



先程、跳ね起きるぐらいの大声でを起こしたというのに、何て心配そうな顔をするのだろうか。

そこにクロエの優しさがチラリと見える。


「えぇ、大丈夫。ノーマとウィルのお蔭だわ。」


はそう言ってクロエを安心させると、毛布から這い出て枕元に置いてある服を掴んだ。


以前ジェイからもらった服は牢番に破られてしまったので、新しく買い直した服である。


…もちろん、これもジェイに選んでもらったものである。


ジェイが選ぶと不思議なくらいサイズがピッタリなのだ。
それに関心しながら、は服を広げていそいそと着替えた。




「あらぁ、似合うわねぇ。」


着替え終わったのを見て、グリューネが言った。


「そ、そうですか?」


はちょっと照れながら、くるりと体を回して自分でも眺めてみた。


それは薄水色の服で、腰には透明な布をゆったりと巻き、少し長い袖は二の腕辺りで皮の紐を使って纏める。


スカートは、前のものとは違って布をたっぷりと使ったひらひらしたもので、丈が短で動きやすくなっていた。



―  ジェイには感謝してもしきれないわ。



心からそう思う。


シャーリィを助ける事ができたら、まず初めにジェイにお礼をしなければいけない。



…する機会があったらだけれども。




そう考えると、はもう一度くるりと体を回した。




自分の服の具合に満足すると、


「顔洗って来ます。」


は言い、テントの幕を上げる。


「いってらっしゃ〜い。」


グリューネが手を振り、優しく見送ってくれた。













「わ、…寒い…」


外は霧がかかっており、風が緩やかに靄を運んで肌寒い。

身を縮めながら手のひらで二の腕を擦ると、摩擦で少し暖かくなる。
しかしそれを止めると、すぐ冷えてしまった。

何度か繰り返してみるが、とりとめのない行動に思えてきたので終いには止める。





顔を上げて霧の中に目を凝らす。
目の前の景色は、たくさんの石が転がり大きな岩が聳えている。


の目の前には、草さえも生えていない荒廃した大地が広がっていた。




「この地で、皆が戦うのだわ。」




荒廃した大地の先に見えるは、シャーリィが囚われている艦橋。




…そして、あそこには兄もいる。




      ― 私が止めるから…


        私が絶対にヴァーツラフ兄様を止めるから…
  




決意が頭の中でこだまする。


は真っ直ぐ艦橋を見据えると、胸を手で押さえて目を瞑った。













?」


突然背後から呼ばれ、驚いて目をしばたかせる。

振り向くと、そこにはセネルが居た。


「おようございます、セネル。」


驚きを辛うじて隠すと、何もなかったように朝の挨拶をした。



「おはよう、。良く寝れた?」


「えぇ、お蔭様でよく眠れました。セネルは?」



そう言って、セネルの顔を見てから気付く。



  ―  セネルがよく眠れるわけないんだわ。



セネルは目の下に小さなクマをつくっていた。

しかし、は気付かない振りをして返事を待つ。



「あ、あぁ。まあまあ眠れた。」



セネルはそう言うと、顔を逸らした。






無言が続く。



すると、が首を傾げながらセネルに話し掛けた。



「セネル、今日はシャーリィを助ける事だけを考えるのよ?」



がそう言うと、セネルは微かに笑った。



「あぁ。そしてステラもだ。」


「え…ステラ?」


急にステラの名前が出て来たので、びっくりして聞き返してしまう。




は知らなかったんだっけ。シャーリィと共に姉のステラも捕まっているんだ。


 俺は必ず、二人とも助ける。」



セネルは重いものを背負っている真剣な眼差しでを見た。



「ええ、必ず助けましょう。」



は深く頷くと、同じようにセネルを見た。







―  ステラは、シャーリィのお姉さんだった…


   それならわかるわね。


   私がステラにシャーリィとセネルを任された事。
 


   あ…
 
   もしかして、その意味は…




   まさか…






?」


の顔に不安の色が浮かんだのを、セネルは見逃さなかった。


彼女は最悪の結果を思い浮かべてしまったのだ。







       ステラは、もう助からないのではないかと。







「…?」」


セネルが不安そうに名前を呼ぶ。
それに気付いては謝った。


「ごめんなさい。まだ寝ぼけているみたいだわ。」


下をぺろりと出して言うと、にこりと微笑む。





―   ステラが助からないなんて事、絶対ないわ。





言い聞かせる様に呟くと、考えを頭の奥に押し込んだ。








「セネルは、シャーリィとステラと、仲がよかったのね。」


が言うと、セネルが頷いた。


「あぁ。」


その答えにはクスと笑うと、


「いいですね。」


と言った。



は昔から仲の良い友達はいないのか?」


セネルはふと疑問に思い、聞いてみる。
すると、は悲しそうにセネルを見た。



「ごめん。」


そんな顔を見せられていたたまれなくなったのか、セネルは返事を聞くの前に謝ってしまう。



それを聞いてがくすりと笑うと、セネルはしまった!と思い、顔を歪めた。




「私に同じくらいの歳の友達が出来たのは、セネル達が初めてです。」



「えっ…」



にこにこ笑いながら言うの言葉が余りにも以外だっため、
セネルは驚いての肩をがしりと掴むと、



「本当か!?」



と揺さぶった。



は頭をガクガクと前後しながら、


「私には歳が離れた兄が三人いて、いつも兄達と一緒にいたから、お友達はできなかったの。」


と言った。





セネルはその事実にも驚き、


の兄達はシスコンなんだな。」


と呟いた。



セネルの呟きを聞いて、はぷっと吹き出すと、 




「…あはは!!そうかもしれません。」



と笑った。





「うふふ…くくくく…」


が珍しく羽目を外して笑うため、セネルもつられて笑い出した。


「はは…は本当に不思議だ。それに面白いよ。


 俺…なんだか吹っ切れた気がする。」



セネルは笑うのを止めると、をじっと見つめて言った。




「セネル…」



「俺、本当は眠れなくてさ、シャーリィとステラを絶対助けるって気持ちに追われてたんだ。


 手も震えるし、胸を掴まれた気分にもなる。


 これは、俺が自分に自信を持ててないんだとか弱気になってたんだ。」









セネルはの肩に置いていた手を、そのままゆっくりと背中に回す。



自分の体を近付けながら、手のひらに力を入れ、の体を引き寄せる。



ぎゅ、という人肌のやわらかな感触。



からふわりと香る、甘い匂い。




視界に入る銀色の髪の毛。光輝きうつくしい



セネルは強く抱き締めながら、フウと溜め息をつく。






は嫌がる事もなく、セネルに身を任せた。






「少しだけ、このままでいいかな?」






セネルが耳元で囁く。


囁く息がくすぐったい。




「はい。」




は微かに返事をすると、セネルの肩に頭をもたれた。











 ―   好きだ、


     





セネルは心の中でに告白する。

しかし、に聞こえる事はない。




聞こえなくていいのだ。






 ―   シャーリィとステラを助けて、全てが終わったら改めて言おう。


     一緒にいると、安心すると。


     いつまでも、隣にいて欲しいと。




     

セネルは、静かに心の中で誓った。













再び流れる無言の刻。




最初に口を開いたのはだった。


「ねぇ、セネル。」


「何だ?」


「…ひょっとして、セネルはクルザンド出身じゃないかしら?」


「!?」


セネルは驚いてから体を離す。
そして、辛そうで悲しい顔を向けた。


はその顔を見て、聞いてはいけない事を言ってしまった事に後悔する。



「ごめんなさい。深くは聞かないけれど……戦い方が、クルザンドの人々に似ていたのでそう思ったのよ。」


「…そっか…」


セネルは顔を下に向けると、溜息をつく。





すごく近くなったはずのセネルとの関係が、急に遠くなった気がする。
はそれに悲しみを覚えると、胸が押さえつけられた様であった。




は一歩下がると、セネルに背を向けた。



「私も、クルザンド出身なのよ。」



セネルはの告白に目を丸くした。



がクルザンド出身…?」



「ええ。」



セネルは驚きを隠せず、目を丸くしたまま背中を見つめる。
そして、少し振り向いた彼女の横顔に、自分と同じものを読み取る。




 ―  にも、話せない事があるんだ…




セネルは、に同じものを感じるとホッとした気持ちになった。
そして、自分と彼女を客観的に捉える。





― 人には話せない事だってある。俺とは同じなんだ。





「なぁ、。」



セネルは照れくさそうに言葉を掛ける。



「なんですか?」



は振り向き、憂いを帯びた目でセネルを見つめた。






「いつか、お互いに隠さず話せる時をつくろう。」





セネルが二カッと笑って言うと、は嬉しそうに微笑み返す。




「ええ、セネル。きっと、きっとよ!!!」



「あぁ。約束する。」




とセネルは小指を絡ませると、目を瞑りお互いの額をくっつけ、



「指きりげんまん!!」



と言った。







この日、二人は相手を必要とする自分達を、微笑ましく受け入れた。





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あれ?あれれ…

ワルターと絡むはずの16話が、セネルになってしまった…

ということで、17話はワルター絡みで☆


自分的には今回のお話は満足しています。
(自分でちょっと幸せに浸っちゃいました・笑)

なんだか、救護テントでの話がかなり多いですけど、
ほしのきの自己満なので、許してやってください!(オイ!)

2006/02/16