― 誰…?











― 誰ですか?





…私は、ステラ…





― ステラ?





…シャーリィを、守ってあげて…





― え…





…シャーリィを、導いてあげて…





…あなたがここに…





― ステラ、よく聞こえないわ。





…私は…





― ステラ?





…っていた…





― ステラ!!



頭の中で響いた声は、プツリと途切れてしまった。

この声の主がステラという人物の声だとはわかったが、それ以上は何もわからなかった。

ステラはなぜ自分に話しかけたのか。

こんな牢屋の中にいる自分に、どうしてシャーリィを守れるのか、導けるのか。

自身が教えて欲しかった。





は牢に入れられて一年近くになる。

今まで食事が出てこないなんて事は一度もなかったし、誰も自分の相手をしに来ないなんて事もなかった。
クルザンドの王女だと言う事は内密にされている様だったが、その事実を知っている者達が代わる代わるの世話をしに来てくれた。
しかし今回に至っては、五日前から食事も世話も来ていない。



暗い牢屋の中で日の光に当たることもなく、身体は弱っていくばかりであった。



牢の中で考えるのは、祖国と兄の事。

そして、ステラの声の事ばかりであった。



― 私は、どうすれば…



ステラの声は、牢に囚われているにひとつ変化がもたらした。

考えもしなかった自分の行く末を、考えるようになったのだ。


今までは、何もかも諦めてもう一生この牢で暮らして行くのだろうからと自暴自棄になっていた。
しかし、ステラがシャーリィについて話しかけてくれたお蔭で、はシャーリィをどのように導けるか、守れるかをひっきりなしに考えていた。




― どうすれば、私はシャーリィを守れるのか。






キイィ






夢中になって考え込んでいたため、牢の格子が音を立てて開いたが気付かなかった。



「体の具合はどうだ?」



いつもの牢番が話しかけて来た。

食事を運んできたり、シャーリィを移動させたりした牢番だ。

牢番は腰に鍵の束を括り付け、じゃらじゃらいわせながら、にやついた顔つきで牢に入って来た。



「…何か用があるのですか?」

はありったけの皮肉を込めて言った。

牢番は、さらににやつきながら の肩に手をかけた。





パシッ





それを払い除けると、 は目を細めて睨み付けた。


「用がなけりゃ、こんなとこ進んで入らねぇよ。」


牢番は、 の目の前に座ると、 の体を舐める様に見ながら言った。



「あんたが連れて来られた時は、将軍閣下はどっかの姫さんをさらってきたかと思ったが、
もうそんな事も思い出せない程、ボロい女になったな。」



牢番はそう言うと、また の肩に手をかけようとした。

が冷たい目で睨んだため、牢番は手を肩にかけずに脇に下ろす。



「なぁ。なんで五日前からメシが出なくなったと思う?」

牢番は、 にいきなり見当違いな質問をしてきた。



「…?」

が困惑した顔で答えられないでいると、牢番はいきなり を押し倒し 、馬乗りになってきた。



「何をするの!?」



は慌てて抵抗したが、腕や足に力が入らなかった。



「そう。そのためだよ。今日、あのメルネスっていうガキを将軍が雪花の遺跡に 呼び寄せるために、ここの人間が使われたんだ。
今、ここには俺とあんたの二人きり。
あんたが俺のいいなりになるように、メシを抜いてやったんだよ。」

牢番は倒れた の肩を床に強く押しつけ、ボロ切れのような服を、ぴりぴりと破り始めた。





―シャーリィが、メルネス?それならあの力の意味が分るけれど…





ピリリッ…





― 兄様が、シャーリィを呼び寄せた?





ビリッ…




太股の脇の服が、上の方まで破られ、牢番の汚い手が の太股を弄る。




「ひっ…!」



「気持ちイイだろ…」



牢番は、 の叫びを自分勝手に解釈し、再び弄る。





― き、気持ち悪い…

  どうにかしないと。このままでは、この男に汚されてしまう。





は、自由になる手で床を探った。



牢番はなおも太股を弄っている。



触られる度に、拒否の声が洩れる。



その時、床を探っていた手があるものを見つけた。シャーリィが隣りの牢に来た時、壁を叩いた石である。





― これなら…





は、牢番が夢中で自分の足を弄っているのを確認すると、石を掴んで、思いきり牢番の背中を殴った。



「ぎゃあぁっ!」



牢番は悲鳴を上げると、背中を抱えて牢の中を転げ回った。
はそのうちに牢番の腰に下げてある鍵を盗り、格子を開けて牢を出る。
そして、牢番が出られないようにと素早く牢に鍵を掛けた。



「こっ…このアマ!」



牢番は尚も背中を抱えながら転げ回っていたが、 をすごい形相で睨み付けると、そう叫んだ。



は牢番の叫びを聞き流しながら、持てる力で牢屋の階段を掛け上がった。

この砦から少しでも早く立ち去れるようにと、走る。



後ろからは、牢番の悔しそうな叫び声が微かに聞こえた。



「覚えていろよ!」 と…。





































タッタッタッ…





どのくらい走ったか、



あの砦からどのくらい離れたか。





を追って来る者が いないということには確信が持てた

あの牢番は牢屋の中にいる。追ってこれるはずがない。



牢番が言った通り、砦には他の者はいなかった。

だから、追っ手がいるはずもない。

しかし、 には他の心配事があった。



は遺跡船に来て以来、牢屋以外の場所を見た事がない。

どこに逃げればいいのかわからないのだ。



は、遺跡船に自分の逃げられる場所があるかということに確信が持てなかった。



何もあてがない。

しかし、 は力の限り走り続けた。

いつまでたっても木々の終わりは見えず、力尽きるのも時間の問題だった。





− もう、だめかもしれない…





そう思ったのは、砦から離れて数時間経った頃だった。



裸足の足は傷だらけになり、胸は、苦しそうに激しく上下に揺れていた。



足を前に出すのも辛いぐらい、動けなかった。





体中に、疲労が溜まっている。





− もう、だめかもしれない。





再び思う。



しかし、簡単には諦めきれない。



ここで諦めれば、シャーリィを助けられないかもしれない。



ステラの願いを叶えられないかもしれない。



兄様を止められないかもしれない。





― 諦められない!!





の気持ちは、体を置いて先に行こうとする。

しかし、体は付いて行かず、ガクガクと震えた。





立ち止まっても震えは止まらず、支えきれなくなって地面に膝を付く。





「あ…れ…?」





気持ちだけが先に行く。

もどかしくても体が動かない。





「う、動いて…私の体…」





自分に言い聞かせるように呟く。



しかし、体は動かない。



悔しくて、涙がほろほろと流れる。





つと頬を伝う涙は、肌を離れて地の上を跳ねる。



それを眺めるように、悲しむかのように、 の瞳は細くなり、光が消えていく。



意識が遠のき、自分が体から離れたかの様になる。

求めるものすべてが、頭の中から消えてゆく。





兄の顔も、シャーリィとステラの声も、すべてが遠ざかっていく。





「…あぁっ………」





やがて、 の体は、静かに崩れ落ちていった。






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つ…つまらなくてすいません。シリアスすぎるのかしら。

もう3話目なのに進んでいないような。前置きっぽいですね。

でも、どうにかもてる限りの?表現を駆使したので、名前変換の時に主人公に入り込んでいただけたらなぁ。と思います。

次はいよいよ!!彼が登場〜♪

これから色々なキャラと絡ましていきたいと思いますので、だらだらと長くなったりしたらごめんなさい。



2006、1/23