ヴァーツラフは一瞬、妹にだけ笑みを向けた。
それはだけが気付くような、ほんの数秒の出来事。




きっと、鋭いジェイも気がついてはいないだろう。









は兄の笑みを困惑した顔つきで見る。
兄はふと目を細めると、すぐ目を逸らした。


































「滄我砲が発射されれば、ガドリアなんぞ木っ端微塵だ。」





「何……。」








ヴァーツラフの言葉に、クロエは拳を握り締めた。
彼らの誰一人とも、ヴァーツラフに手を出す事は適わない。
なぜなら、彼らとヴァーツラフの間合いは長すぎるのだ。









ヴァーツラフは痺れで震える体を押さえ込む様に、耐える声をだした。













「…レクサリアなんぞに拘束されたとしても、私は必ず、メルネスの娘を追うぞ。」





「なんだと!?」












セネルが唇を噛み締めて睨むと、ヴァーツラフはスイッチを持った手をひらひらさせた。












「私は再び、クルザンドの軍事力を持ってその娘を手に入れる。
そして、滄我砲で今度こそ……全てを手に入れるのだ。」





「何を言っとるんじゃ!!ワレみたいな奴が、捕まって牢から出れるワケあるか!!」











モーゼスがそう叫ぶと、ジェイが静かに言った。












「彼は、出られるんですよ。」





「何じゃと!?」











モーゼスはジェイの胸倉を掴んで持ち上げた。
ジェイはモーゼスの胸を軽く蹴って胸倉を掴んでいる手を放させると、音も無く地面に着地した。











「止めて下さい。

……彼はそういう立場の人間なんです。なんていったって、クルザンドの将軍である前に王子なんですから。」




「!!!」






ヴァーツラフはフと笑った。











「貴様、なかなか機転が利く奴だな。」





「お褒めに預かり光栄ですよ。」











ジェイは前に垂れてきた髪の毛を後ろに払うと、フンと鼻を鳴らした。






「その通りだ。私はいつでもお前達を葬れる。そしてその娘を手に入れることが出来るのだ。今…お前達がやっている事は無駄な足掻きに過ぎぬ。」




「そんなぁ〜っ!!」




「ヴァーツラフめ!!!……どうする事も出来ないのか……!?」

























ヴァーツラフは再び妹に向き直った。
そして、スイッチを半分押した状態で妹に言葉を投げた。









。」







「……何ですか、ヴァーツラフ兄様…。」







「…私は、絶対に諦めん。」







「……。」








「絶対に、戦うことを止めはせん!!!」










「っ……。」















「わかるだろう?我が妹よ!!」








「…………!」








は兄を悲痛な面持ちで見た。
しばらく彼らは見つめ合っていたが、は涙が溜まった目を擦ると俯いた。




























































「くぅっ……!!!!!!!!」







彼女は両腕を交差させて自分の肩を抱くように掴むと、固く目を瞑って嗚咽を洩らした。






































そして顔を上げたかと思うと、





























「クロエ、ごめん。」


































と呟いて、彼女の手から剣をもぎ取って走り出した。




































































!?」







































































「……うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」








クロエが彼女の名を呼ぶ刹那、は苦しそうに吼えると、両手で剣柄を強く握り締めて切っ先を前方に向けた。











剣は外の陽光を一身に受け、その身を白銀にきらめかした。










は剣をはためかせ、足に力を入れて軽々と舞い上がる。


































仲間達はの行動に目を釘付けにし、動く事が出来なかった。




誰もがの剣技の素晴らしさに息をのみそして、次の行動を予測した。




しかし、彼らはそれを信じたくなかった。































































彼女はそのまま音も無くヴァーツラフの前に降り立つと一瞬、













止まった。































































「ヴァーツラフ兄様、を置いて行かないで下さい!!私は、兄様がいなくていつも淋しい思いをしているのですから。」




「そうかそうか。では、これからは昼も夜も一緒にいるとするか。」




「本当ですか?」




「…可能な限りな。」




「そう言って、また私を置いていくつもりなのでしょう?」




「…そんな事はないぞ。」




「間が、ありましたわ。」




「そんな事は…。」




「もーっ!!ヴァーツラフ兄様の意地悪!!」


















































は昔を思い出し、悲しんだ。

















― 全てが……終わる。




























































彼女は手にありったけの力を込めると、兄の腹を一突きした。























































ズシャァッ



















































赤い鮮血。
それはの手へと流れ伝っていく。






彼女の白い手は赤く染まり、次第に真っ赤に変色していく。





それは美しく鮮やかで、狂おしいほど愛しきものだった。










































は剣を突いたまま顔を上げ、兄の顔を見た。







兄の顔は激痛に苛まれ歪んでいるが、口元は清々しく微笑んでいた。








― 私の大好きな…ヴァーツラフ兄様だ…。






































































「お前なら、殺ると思った。」




ヴァーツラフは微かに口を動かして言った。




「に…さま…」





「…泣くな。お前は私の敵だ。涙を流すなど、言語道断。



…勝ち誇れ。」





「ヴァーツラフ…兄様…」





「…残念だ。私は、諦めぬと誓ったばかりだったのに。」





「…ううっ……」





「……剣を、抜けっ……。」









は言われるがままに、兄の腹から剣を抜いた。








「ぐうぅっ……」







兄の呻きと共に傷からどっと血が溢れ、は恐怖で剣を離した。
すると、兄の体が自分の方に倒れ込んできてそのまま覆われるように床に倒れる。
















































「あれは、サジェの剣技ではないか。……お前はいつまでも、あいつと共にいるのか。」






ヴァーツラフは途切れ途切れ言いながら、自分の懐を弄った。そしての手を探して何かを持たせた。








「これはっ…、サジェの……。」







が驚いたように言うと、ヴァーツラフは笑った。








「共に、いるのだろう?」







は泣きそうになりながら、自分の首からチェーンを引っ張り出した。

それは、ヴァーツラフからもらったペンダントだ。












「兄様も、いつも私と共におります!!!」






「そ…うか。」






「ヴァーツラフ兄様!!!」















ヴァーツラフは血を吐きながら、微かに言った。









































































「…さよならだ、愛しい。」













































































カチッ…








































ヴァーツラフは最後の力で、滄我砲のスイッチを押した。
は兄の体からスルリと抜けると、機械を見る。





機械はスイッチに反応し、滄我砲発射の準備を始めている。
は複雑な気持ちで、兄を見下ろした。






その時兄の唇が動き、何か呟いた。



























































「これが、ヴァーツラフ・ボラドだ。」
































それは、最後にスイッチを押した自分を称えるような、勝ち誇った言葉だった。























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「ありがとう、ヴァーツラフ兄様。」
ヴァーツラフの冥福を祈りましょう。
私の中で彼はすごく活躍してくれました。
皆さんの中のヴァーツラフも、格好良く活躍してくれたのを
願いつつ……。


2006/06/06