暖かい。




心地良い。





彼の頭の中は、この二つの言葉に満たされる。




ずっとメルネスのために努力してきた。
それなのに、この思いを軽く踏みにじられた。





セネルという男に。




俺の苦労は何だったのだろうか。

そんな事を思うと、自分の努力が報われないと思えてくる。



だから、セネルを憎む。



あの男を憎むことで、俺の努力は報われる…。
ワルターはそう自分に言い聞かせていた。

今だってそうだ。





俺はあいつを憎む。






しかし、本当はなぜ憎むかわかっているのだ。

だけど、認められない。
これだけは、認められない。









俺はいつまでもあいつを憎む。























この暖かくて心地よい気持ちは、俺の考えを改めて突きつけられるようで、居心地が悪い。

しかし、ずっと切り詰めてきた身体が休まる気もする。

居心地が良いのか、悪いのか。




…よく、わからん。




ワルターの率直な感想だった。


この暖かみは、あのと名乗った女のものだ。

あいつは陸の民のくせに、俺達を同じ人間であるように接する。
それもあるが…あの女は、なんと言うか…水の民に近い。本当だったらこんな事を考えただけで水の民失格だ。

しかし、これは俺だけが感じたわけじゃない。フェニモールがすぐ打ち解けたのも、俺が拒めなかったのもこれが原因だ。
あいつを初めて見たときに、そう感じさせるものがあった。
接しなくてもわかる、その暖かさを。



こんな人間がいるのか。



気にしないようにすると、更に気になってしまう。
あの女の存在を。








空気のように自然なのに、


風のように緩やかなのに、


そこにいる強い存在感。










…本当に、わからん。


ワルターは夢見心地で考えていた。


























「ぐっすり眠っていますね。」

フェニモールがワルターを見て言う。

「ええ。この副作用は強いから。でも、大体の人は1、2時間で起きるのに、ワルターは3時間くらい経っても起きないわね。どうしたのかしら?」


は不思議そうな顔でワルターを見る。


ワルターが寝ていた約3時間、 とフェニモールはたくさんの話をした。
フェニモールは最初とは違い、打ち解けて喋ってくれたので、 は楽しい会話が出来た。
水の民だけの儀式や行動など。 が知らないことはたくさんあった。

中でも、特に素敵だと思ったのは水舞の儀式。
「水の中で男女の愛が試されるなんて素敵ね。でも、拒否の場合は逃げられてしまうなんて、少し悲しいわね。」
は淋しそうに感想を言った。


























「…う…」

ワルターが声をあげた。
とフェニモールは顔を見合わせ、同時にワルターを見る。
ワルターの目が微かに開いた。その瞳には、自分を覗き込む の顔が映った。



「!?」



それもその筈である。
ワルターは、 の膝枕で寝ていたのだ。
彼は、目を見開いてを見つめた。は不思議そうな顔で見つめ返している。






「っ……」



一間置いて彼は急いで立ち上がると、彼女達に背を向けた。



「どうしたんですか?」


「…」


「どうしたの?ワルター。」


とフェニモールは心配そうに話しかける。



「傷、まだ痛む?」


が立ち上がり、ワルターの肩に手をかけた。


「……大丈夫だ。」


ワルターはやっとのことで答えると。自分の顔を隠すように右手を当てた。





…顔が、赤い気がするぞ。





見られないように に背を向けた。




「いくぞ。フェニモール。」

「えっ…」


「もう、テルクェスも出せる。」


「でもっ…」


フェニモールはワルターと を交互に見た。

はフェニモールに笑いかけると、


「おいきなさい。」


と優しく言った。




フェニモールが困ったように近寄ってくると、ワルターは黒い翼を出した。
は驚くともなく、静かに彼らを見つめている。

ワルターはそれをちらりと見やると、一瞬目を細めた。
はそれを見て安心した様に微笑む。



それに、ワルターの感謝の意を感じたのだ。



さん、本当にありがとうございます!」


「どういたしまして。また会えたときはもっと、あなた達のお話を聞かせてね。」


「はい!」




フェニモールはワルターに抱きかかえられながら に手を振った。

ワルターとフェニモールは飛び立つと、9時の方向へと消えていった。
はそれを、いつまでも見送っていた。
































「何時だと思っているんですか!!」

モフモフ族の村に帰ってみると、村の入り口でジェイがうろうろ左右を行ったり来たりしていた。
の姿を見つけると、すかさず近寄ってきて怒鳴る。

は微笑むと、「ごめんなさい。」と頭を下げた。



「…本気で謝ってませんね?」


ジェイは目を細めて を睨む。


「謝ってますよ。」


は再び微笑む。
ジェイはこれ以上話しても無駄だ、というように肩をあげた。



「何を持っているんですか?」


が両手に持っている草をみて、怪訝そうに言う。


「薬草です。調合すれば良いお薬になりますので。」


「… さんは、薬の調合を出来るんですか?」


「はい。祖国で習いましたから。」


「ふーん…」


「ジェイ?」


「いえ、キュッポ達も心配しています。家に戻りましょう。」


「はい!」









「あ、 が帰ってきたキュ!」


「おかえりなさいだキュ〜!!」


「ただいま。」


が家に入ると、キュッポ達が飛びついてきた。
ふわふわした毛に顔をうずくめて、ぬくもりを感じる。


「さぁ、ご飯にしましょう。」


ジェイが促すと、二人で絨毯の上に座る。
キュッポ達は食べ物を取りに出て行く。


「もしかして、私のためにご飯を待っていてくれたのですか?」


はジェイを見る。


「もしかしなくても、そうです。」


は困ったような顔で、


「ごめんなさいね。おなか減ったでしょう。」


と謝った。


「これに懲りて、次はもっと早く帰ってきてくださいよ。
 まったく、どこまで散歩しに行ってきたんだか。」


ジェイは不満を並べていく。


は大人しくそれを聞き、ジェイの言葉を繰り返す。



「これに懲りて、次はもっと早く帰ってきてくださいよ。」



次は…?次があるってことは、


「わ、私は、ここに居ても良いのですか?」


は恐る恐る聞いた。
ジェイは、不満を並べるのをやめると、

「そういうつもりじゃなかったんですか?」

と逆に聞き返した。

は嬉しくなってジェイに抱きつく。

「な、なな、何するんですか!」


ジェイは顔を赤くして を引き剥がそうともがく。
は気にせず、ぎゅっと力を込めて抱きしめた。


「ありがとうございます!ジェイ!!」


ジェイは顔を赤くしながら立ち尽くす。


「あ、なんか涙が出てきてしまいました。」

が呟いた。


「うれし涙です。」


はジェイを抱きしめながら言う。


「……」


ジェイは、 の背中をちらりと見て、行き場のなかった自分の手を持ち上げ、 を軽く抱きしめた。


「ん…」


が吐息を洩らす。



華奢な身体。震える背中。
何もかも儚げで、壊れそうですね。



純粋な人…。



あなたぐらい純粋な人は、どこにもいませんよ。
守ってあげたくなる。



ジェイは抱きしめながら思う。



「ジェイ。」
「何ですか?」

「本当に、ありがとうございます。ジェイ。」
「…どういたしまして。」



昨日会ったばかりなのに。
あなたは僕の中に入ってくる。
あなたがいることに、違和感を感じないんですよ。
あなたの存在が、僕には普通に感じるんです。
あなたはいったい…






「ご飯、食べましょうか?」

がゆっくりジェイを離しながら言った。

「あ、はい。」


ジェイも の背中を抱きしめる手を緩める。



「今日もホタテだキュ〜!!」
が好きだって言ってたから、腕によりをかけて作ったキュ!!」
キュッポとポッポがホタテ貝の皿を持って現れる。


「これは、毎日ホタテになりそうな予感がしますね。」

ジェイは呆れ顔で呟いた。

「そうですね。でも、ホタテはおいしいから許します。」

はそう言うと、ジェイに笑いかけた。



。聞くキュ!」
「なあに、ピッポ?」
「ジェイは一番 を心配していたんだキュ。」
そして、ポッポがピッポの話に付け加える。

「そうだキュ!仕事を早めに切り上げて帰ってきたキュ。 が帰って来ないから、心配そうに入り口に走っていって3時間くらいうろうろしてたキュ。」

はそれを聞くと、申し訳なさそうにジェイを見た。

「ち、違いますよ!!仕事は、そう。早く終わったんですよ!!!」
ジェイはピッポとポッポの告白に、顔を赤くしながら焦って否定した。

「不可視のジェイの評判もガタ落ちだキュ。」
それにキュッポが付け加える。

「不可視のジェイ?」
は不思議そうにジェイを見た。

「こっちの話ですよ!!」
ジェイは更に焦ると、キュッポたちを追いかけ始めた。

「お前ら〜!!!」
キュッポ達は面白そうに逃げ回る。


は楽しそうに観戦していたが、ジェイが懐から苦無を取り出そうとするの
を見ると、止めに入った。









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ワルター編とジェイ編が同時に終わってしまった。
くっ……申し訳ないです。
もう少し章分けをうまく出来るようにします。
次の話は、仲間の皆と出会いたいなぁと思っています。
セネルとか、モーゼスとか、絡みたいですねぇ。ふふふ…
ワルターも、まだ終わったわけではありませんよ^^
ジェイだって、まだまだ行きます!!
でもこの人、本当にヴァーツラフの妹なんでしょうか。(笑)


2006、01、28