「いってきます!」
が元気にドアを閉めた。
今日は散歩ではなく、ウェルテスの街に出掛ける。
理由は言わなかったが、どうしても行くと言うので、ジェイはしぶしぶ送り出した。
「…」
「ジェイ、どうしたキュ?」
ジェイはドアを見つめている。
「ジェイ?」
ポッポが話しかけるも、ジェイは気づかない様子だ。
「そんなに心配なら、一緒に行くって言えばよかったキュ。」
「!?」
ジェイは驚いた顔でポッポを見る。
「…聞こえてるなら、返事くらいしてほしいキュ。」
「ごめん。」
ポッポはジェイの傍によると、ぽんぽんと頭を叩いた。
「何するんだよ…」
ジェイはポッポから目を逸らして言う。
「は可愛いから注目されやすいキュ。」
「…」
「また、捕まってしまったらどうするキュ?」
「でも。」
「ジェイは、守ってあげなくていいキュ?」
「それは…」
そこへ、ピッポがやってきてジェイの頭をぽんぽんと叩く。
「煮え切らない男はモテないキュ。」
すかさずジェイに言葉を刺した。
ジェイは恨めしそうにピッポを見る。
「わかった!!わかったよ。そんなに言うなら行くよ!」
ジェイは思い切り立ち上がった。
急に立ち上がったので、ジェイの頭に手を乗せていたピッポとポッポは勢い良く倒れる。
「い…痛いキュ…ジェイ、ひどいキュ。」
「ヒドイ男はモテないキュ。」
「うるさい!」
ジェイは一喝すると、ドアを飛び出していった。
「やっと行ったキュ。」
「世話がかかるキュ〜。」
ピッポとポッポは顔を見合わせて、満足そうに笑った。
「シャーリィ、どうしているかしら…」
はダクトから降りると、街に向かった。
― だいぶ時間が経ってしまったわ。私が牢から出てからもう5日も経つ、どうにかしてシャーリィを助けに行かないと。
は街の入り口に着くと、恐る恐る入っていく。
― まず、武器を手に入れなければ。兄様の軍の方と戦うのは忍びないけれど、シャーリィを助けるためだもの。仕方がないわ。
兄様が私に戦い方を教えてくれていて本当に良かった。
結果的には兄様と戦う事になってしまうけれど…
兄様の行動は…人間として許すまじき事ですもの…
は考え込みながら街の中を歩いていく。
街の人々が自分を見ているのにも気づかず、ただひたすら街の中心に向かって歩いていった。
「でも…武器ってどのくらいの値段なのかしら…?」
ふと立ち止まって呟く。
― 何か、売るものないかしら。
お金は、この前ジェイに売ってもらったイアリングの残りがあるけれど…足りなかったらどうしましょう。
はとりあえず考え事をするために、街の中心である噴水広場に向かった。
「まあ、キレイ。」
広場に着き、噴水を見上げる。
巨大なモニュメントから、太陽の光をキラキラ反射する水がいたるところから溢れ出し、優雅な音色を奏でているようである。
の目は噴水に釘付けになり、唇は微笑する。
― 素敵…。
あぁ、久しぶりに思い切り歌いたい。
は目を瞑り、思い出す。
昔、城の噴水を見上げながら歌ったことを。
平和を願い、人々の平穏な時を願い、歌ったことを。
少しずつ思い出し、口ずさむ。
最初は微かだった歌声も、気持ちがこもってくると大きくなる。
平和を願い、全てが平穏に暮らせるように、
全ての者が平等に、自然に生きていくことを、願う。
歌の内容はそれを称えるものであった。
彼女の声を聞いた街の者達が、いつしか噴水広場に集まってくる。
噴水の水がキラキラと、太陽の光が反射して水面には小さな星が踊っているよう。
太陽の光は歌うを照らし、スポットライトに照らされているように髪がキラキラ光る。
さらさらと、緩やかな風に揺られながら銀色の糸が紡がれていく。
大気が震え、共鳴している。
の声は、高く、高く、遠く…
全ての者に聞こえるように、運ばれていく。
彼女の周囲にはたくさんの人々。
の声に聞き入って、目を瞑って一緒に呟く。
知らない曲であるのに、人々は懐かしく感じる。
つい、口ずさんでしまう。
皆が平和で平穏な刻を夢見てしまう。
彼女の歌声には、そんな力が備わっているようであった。
「…ふう、」
は歌い終わると、後ろを見てたくさんの人々に気付く。
恥ずかしそうにお辞儀をすると、微笑んだ。
街の人々は盛大な拍手をし、彼女に声を掛けていく。
は一人一人に感謝しながら、ニコニコと笑っていた。
そんな観客の中にジェイの姿。
そこから少し離れたところには4人の若者。
「きれいな声だな。」
「ああ、素晴らしい。」
白髪で少し色黒の男が呟く。それに隣にいた腰に剣を差した女性が答える。
「それに、可愛い顔しちょるの〜」
「モー助やらし〜!」
「何でじゃっ!」
その後ろで元気そうな少女と上半身半裸な男が話している。
彼らはの歌を聞きつけ、噴水広場に来たのだ。
「すごいな。街の人の顔が元気になった気がする。」
「あぁ。最近はヴァーツラフ軍のせいで皆落ち着かなかったからな。」
「あの娘と仲良くなれんかの。」
「モー助、それはかなりやらしいってば。」
若者達はを見ながら話していた。
元気そうな少女が、の方へ向かうジェイを見つけ、
「ねえ、あれジェージェーじゃない?」
と他の若者に言う。
「お、ほんまじゃ。何しよるんかいのう。」
「あの女の子に近づいていくな。私達も行ってみよう。」
「なんだ、クーもあの女の子と仲良くなりたいわけ?」
「ノーマ!!」
「…まあまあ。」
彼ら4人は言い合いながらジェイの後を追った。
「さん!!」
ジェイは人々をかき分けてのもとに寄る。
人をはらってから彼女を怒る。
「あなた、馬鹿ですか?こんなに人から注目されて。また捕まったらどうするんですか!!」
「ジェイ、ごめんなさい。こんな事になるなんて思わなかったんです。ただ…」
「ただ?」
ジェイはを細い目で睨む。
「噴水を見たら歌いたくなってしまって…」
は申し訳なさそうに白状する。
ジェイはその告白に呆れると、
「歌はとても素晴らしかったですけどね…」
と聞こえないように呟いた。
「ジェイ!」
後ろから自分を呼ぶ声がしたので、ジェイは振り向く。
後ろにいたのは先ほどの若者4人。
「誰かと思ったら、セネルさん達。」
ジェイは声を掛けてきた男を見て言う。
はジェイの言葉を聞くと、ふと男を見る。
「ジェイの知り合いか?」
「…ええ。まあ。」
― セ…ネル?
今、セネルって…
はジェイを押しのけてセネルの前に出る。
そして、肩を掴んだ。
「ちょっ…さん、どうしたんですか?」
ジェイはの行動を見て驚く。
「あながセネル?」
「…そうだが…。」
セネルは、の突然の行動に戸惑いを見せる。
「セネル、シャーリィは?シャーリィは今、どうしているの!?」
はセネルの肩を揺らすと、真剣なまなざしで訴えた。
「なんで、あんたがシャーリィを知っているんだ?」
セネルは目を細めると、を疑うようにじろりと見た。
そんなセネルを見て、彼女は肩から手を外すと、失礼を詫びた。
その行動に、セネルの警戒も緩くなる。
「私は、といいます。以前、軍の牢屋にいたときにシャーリィと出会いました。
シャーリィは私に、あなたの事をたくさん話してくれました。」
セネルはの顔をまじまじと見る。
は申し訳なさそうな目でセネルを見返した。
その目を見て、セネルは少し顔を赤くするとこう言った。
「シャーリィが、俺の事を?」
「はい。あなたのお名前も教えてくれました。
シャーリィは、私をお姉ちゃんみたいだとも言ってくれました。
…だから、どうしても助けてあげたくて。
シャーリィの事、他人とは思えないのです!!」
は真剣に訴えた。
セネルは何も言わず、考え込んでいる。
「私も、私もあなた方のお力になれませんか?」
はセネルに懇願するように言った。
セネルは少し考えると、
「わかった。」
と言った。
「クーリッジ!!」
腰に剣を差した女性がセネルを呼ぶ。
「いいんだ、クロエ。シャーリィが、何で彼女に俺の事を話したのが分かる気がするから。」
「クーリッジ…」
セネルはクロエを見ると笑う。
「それに、ジェイの知り合いなんだろ?」
ジェイはを見た。
は、決意の固い表情をしている。
「そうですけど…、さん、あなた戦えるんですか?」
「はい。弓を扱えます。」
はにこりと答えた。
「…あなたは、何でも出来る人なんですね。」
ジェイはお手上げだという顔をすると、セネルに向き直り、
「この人は薬草の調合も出来ます。何かと役に立つ存在だと思いますよ。」
と付け加えた。
「ジェイ!!」
は嬉しそうにジェイを見る。
「なんです?」
「実は、ジェイが反対するのではないかと心配だったのです。」
「どうしてですか?」
「ジェイは、心配性ですから。」
彼女の言葉にジェイは顔を赤くした。
「お。ジェージェーが赤くなってる!」
「赤くなってなんていません!!」
ジェイは照れ隠しにノーマを怒ると、キッと睨んだ。
「僕は心配なんてしませんよ!あなたの人生ですから。あなたが決めたことに口出しできません。」
ジェイはそう言うと、噴水広場から街へと歩き出す。
「キュッポ達には僕から伝えます。では。」
こう言うと、彼は走り去っていった。
少し簡単な別れだったが、ジェイとはまた会えそうな気がする。
そう思うと、新たな旅立ちが嬉しくてしょうがなかった。
「ジェイ、ありがとう。」
は呟いた。
「仲間を紹介させてもらうよ。クロエとノーマ。こっちがモーゼス。」
セネルが簡単に他の仲間達を紹介する。
「私は、といいます。よろしくお願いしますね、皆さん。」
「ああ!」
「よろしく!ちゃん!」
「仲良うしような!」
がにこりと笑いかけると、彼らもつられて笑う。
「さあ、行こうか。」
セネルが促すと皆歩き出した。
「あ。」
が突然声をあげた。
彼らはびっくりしてを見る。
「どうしたの?ちゃん。」
ノーマがに問いかける。
「あの、武器を買いに行って宜しいでしょうか?」
「いいけど。」
セネルが答える。
「セ、セネル。その、付いてきて頂いてもよろしいでしょうか?」
彼女は恐る恐る聞いたが、セネルは極上の微笑で、
「分かった。」
と答えた。
他の皆は先にマウリッツの庵に帰るということだったので、武器屋には二人で行くことになった。
― あぁ、これがシャーリィのお兄さんですか。
とっても良いお兄さんですね。
必ず、必ず会わせてあげますから。
それまで、待っていてね。シャーリィ!!
は新しい決意を胸に、セネルと武器屋に入っていった。
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お疲れ様でした。
なんだか一番会話が多かった気がします。
それも、絡みなし。つまらないかも〜。
とりあえず、彼らに会ったから良しとしましょう。
この場面は、ウィルにガキだと言われて皆でしょんぼりして
いたところを街に行って気を紛らわしている所。という時間設定☆
8話はセネル絡みになります☆
2006、1/29