私は新しい服…と言ってもデザインは同じ服だけど…に着替えると部屋を出た。
階段をトントンと降り、居間を覗き見る。
でも、ハリエットもマダムミュゼットも自室にいるみたいで、ここにはいなかった。
私はそのままドアノブに手を掛けると、静かに回す。
二人に聞こえないように。
だって私、居候させてもらっているのにいつもこの家から出て行ってしまうんだもの。
だから申し訳なくて…。
外は少し涼しくて、湯冷めしないようにマントの金具を外して広げ、肩から掛け直した。
空を見上げるとさっきと同じで星がぴかぴか光っている。
「きれいね。」
私が呟くと、星が喜んだ気がする。
私は嬉しくなって、「いつもきれいよ。」と言ってあげた。
噴水広場に向かって歩いていると、途中でウィルに出くわした。
でも彼は、私が来た方向に向かって歩いていて、明らかに噴水広場に向かっていなかった。
「どこに行くのですか?」
「あ、ああか。」
「ハリエットに会いにいくのでは?」
ウィルは口をもごもごさせた。
…違うみたい。
「マダムミュゼットに報告ですか?」
「あ、ああ。」
ウィルは気まずそうに頷いた。
「そうですか…。」
私にはそれ以上何も言えなかった。
だってハリエットのことは、私が言ってもいい事なのかわからなかったから。
「じゃあ、広場に行くには時間かかりそうですね。」
「そうだな。」
「では、また後で…。」
私は足を踏み出した。すると、
「待て、。」
「えっ…。」
「その…な。」
ウィルは続きを言うのを渋ってるようだった。
私はきょとんとした顔で彼を見る。
「……いや、なんでもない。」
「?変なウィルですね。
では失礼します。」
「ああ。」
今度彼は、私を呼び止める事はなかった。
ウィルは一体、私に何を言おうとしてたのかしら。
そんな事を考えながら着いた広場には、セネルが一人でぽつんと腰を下ろしていた。
「こんばんは、セネル。早いのね。」
「あ…。」
セネルは驚いたような顔をすると、目を逸らした。
「……。」
どうしたんだろう?
「…みんな遅いよな。」
「え、あ…うん。そうだね。」
私はまだ来たばっかりなのに、つられて答えてしまう。
セネルは空を見ながら、ぼーっとしているようだった。
本当に、どうしたんだろう…?
「ねぇ、セネル。」
「ん…?」
「どうしたの?」
「どうもしない。」
「うそ。」
「うそじゃない。」
「だって……。」
言いかけた時、急に腕を掴まれた。
それにびっくりしてセネルを見ると、なんて言っていいかわからないほど苦しそうな顔をしていて、私は言葉を飲んでしまった。
「セ…ネル……?」
「……だよ。」
「…え?」
「…何て言えばいいんだよッ!!!」
彼はこう叫ぶと、荒々しく私の腕を引っ張って自分の体に体当たりさせた……というか、私を自分の腕の中に引き寄せたの。
セネルは私の背中に両腕を回すと、痛いくらいの力で抱きしめてきた。
ぎゅ、と抱きしめられる力がとても悲しい。
悲しい感覚がセネルから伝わってきて、私も思わず泣きそうになってしまう。
でも、それと同時に感じるセネルの男らしさ。
彼の体は細いのに、ちゃんと筋肉がついてたくましい。
荒々しく包み込んでくれる力が信頼できて安心する。
私はなんてことを思っているのかと慌てると、アワワ…と顔を真っ赤にした。
私、どうすればいいの?
どう声を掛ければいいの?
「セネル……」
…考えても結局は答えが見つからなくて、恐る恐る名前を呼ぶことしか出来なかった。
「………ごめん。何やってるんだろうな、俺。」
「ううん…。」
「……もうちょっとこのまま…いいか?」
「う……うん。」
セネルは抱きしめる力を緩めて優しく抱きしめ直してくれる。
その時ふんわりと香るセネルの男の人らしい香りに、私はまた顔を真っ赤にしてしまう。
抱きしめられているから私の顔は見られてない。
それに少しホッとしてしまった。
しばらくお互いに何も言えなくて、無言の刻が続いた。
私も、パニック状態で何も考えられないはずなのにいっぱい考えちゃって頭がパンクしそうなの。
あら、矛盾してるわね(笑)
でも、その無言を破ったのはセネルだった。
「俺さ、悔しかったんだ。」
彼はまた、私を強く抱きしめた。
「自分の気持ち、自分で言えなかった。
それがすごく悔しくて。
だからさ、改めて言うよ。
俺は、が好きだ。」
「!!」
聞いたのは二回目のはずなのに、初めて聞いたかのようにドキンとする。
「……。」
私は何も言えなかった。
…どうしよう、と思ってしまったの。
「ホント、は素直で優しいよな。」
セネルはくすりと笑うと、きゅと再び私を抱きしめる。
「俺、何言われても大丈夫だから。
の本当の気持ち、聞きたいんだ。」
私が内心困っているのがバレてしまって恥ずかしい。
そんな傷つける事、他にないもの。
…そんなことをする私を、セネルは見てくれている。
背中から伝わってくる、セネルの溢れるような感情。
震える手、震える想い。
全てが嬉しくて、…でも、辛い。
だから私は意を決して、言葉を紡ぐ。
「私は今、セネルの気持ちに応えることが出来ません。
今の私は、自分がこの遺跡船で皆とやっていくことに精一杯で、そこまで考えられないの。」
抱きしめられる力が一層強くなる。
セネルの指が私の背中に食い込んで痛い。
私はそれも、受け止めなければならない。
「ここに来てから、本当に色々ありすぎて…いっ…色々…」
いつの間にか目から涙が溢れ、喉はしゃくりあげてまともに言葉を紡ぐ事が出来なくなってしまう。
でも、伝えなきゃいけない。
自分の気持ちを伝えてくれたセネルに、私も伝えなければいけないから。
「兄様も…いなくて、クルザンドも遠くて、一人でっ……でも生きなければいけないから……だからっ…
自分のことで精一杯なんです。」
私はセネルの背中に自分の腕を絡ませて抱きしめた。
「私、嬉しいです。私のことそうやって見ていただけて…本当に嬉しい。
ありがとう、セネル。
私もセネルが好きです。……今は大切な仲間として何ですけれども…。」
一瞬間が空いたあと、セネルは私の体を自分の体から引き剥がした。
そして私の顔を見てにっこり笑うと、
「やった!!!俺は今、それで充分だよ!!!」
と言ってくれた。
私もセネルの笑いにつられてにっこり微笑む。
「も頑張ってるんだもんな。ごめん。俺の気持ちばっかり押し付けて。」
私は首を横に振った。
「俺、出来る限りの力になるから。」
セネルはぽんぽんと背中を叩いてくれる。
お兄ちゃんなんだなぁっ…て思う。
ずっと前の自分が幼い頃、兄様たちが泣いている私をあやしてくれた、そんな暖かい手だ。
「な?」
「うん……うんっ!!」
私はまた、泣きながらしゃくりあげてしまう。
でもさっきとは違う。
途切れながらも、私はセネルに「ありがとう」を言い続けた。
「なぁ、。」
「なぁに?」
「俺とモーゼスとジェイって同じか?」
「…?みんな同じくらい大切な仲間よ。」
「そっか。じゃぁ、ワ……。…いや、なんでもない。」
「?」
「…あっ、見ろよ、流れ星だ!!!」
セネルは空を見て叫んだ
「えっどこどこ?」
「あそこ!!」
「わぁっ…本当だ!!…お願い事しなきゃ!!」
「ああ!!」
私達は目を瞑ると、流れ星にお願い事をする。
お願い事が終わっても、きれいな流れ星はキラキラ光りながら夜空を翔けている。
「あれならたくさんお願い事できちゃうね。
…あっ、流れ星の向こうからみんなが来るわ!!」
「ホントだ。あいつら遅いよな。」
セネルは笑いながら皆に手を振った。私も一緒に手を振る。
「ねぇセネル、流れ星にどんなお願い事したの?」
「ああ、それは…。」
「待って、言わないで。きっと、私とセネルのお願い事一緒だと思うわ。」
「…そうかも。じゃあ、せーので一緒に言ってみるか。」
「うん!」
『せーのっ!!』
『みんなが幸せに生きられる世界になりますように!!!』
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クロエごめん。
シュチュを取ってしまいました(笑)
揺れる心、揺れる想い。
こんなに想われて、幸せだなーっ。
セネルのちょっと荒々しいけど、
お兄ちゃんみたいな優しさがつまった愛をもらいました☆
2006/08/05