この防壁には凄い力があるにも関わらず、ステラは私達二人が通れる穴を開けてくれた。
「、早く入れ!」
「う、うん。」
私が慌てて通ると、穴はゆっくり塞がっていく。
「塞がっちゃった…」
「ああ。次にこの穴から出るときは、メルネスを説得した時しかないな。」
「うん、そだね。」
私は説得を心に誓うと、目をつむっているシャーリィの前まで歩いていった。
そして彼女まであと数歩というところで足を止める。
そこで空間をペタペタ触ってみる。
パントマイムじゃないのよ?
ここに、結界が張られているの。
私はワルターと顔を見合わせると、結界を触るのをやめた。
だって、私には破れそうになかったんだもの。
仕方なくここからメルネスに声を掛ける。
「私の声、聞こえるでしょう?メルネス。」
「…メルネス…。」
私達の声を無視するように、彼女は目を閉じたまま。
「さあ、目を開けて。私達と話しましょう?私達はあなたに会うためにここに来たの。」
もう一度声を掛ける。
そして、彼女が目を開けてくれるのを待った。
「…久しぶりだ。」
微かな声と同時に、ゆっくりと開かれていく瞳。
それはシャーリィとは違う色の瞳。
私は知ってる、この瞳の色を。
遥か昔に私の友達だった、メルネスの瞳の色…。
「久しぶりだというに、挨拶もなしか?」
メルネスは無表情に言った。
「久しぶりね。」
「元気そうでなによりだ。…お前は、前より大人しそうな娘になったな。」
「あら、そうかしら。」
「ああ。」
メルネスはそう言うと笑った。
次にワルターの方を見ると、愛しそうに微笑む。
「お前も元気そうだ。…しかし、前より不健康そうだな。」
「……。」
ぷっ…、
私は思わず笑いそうになるのを堪えた。
だって、その時の不機嫌そうなワルターの顔ったら!
「しかし、前より男らしい。」
メルネスは好きな男の人に向けるような、とろんとした視線をワルターに投げた。
「どっちも俺だ。」
ワルターは不機嫌そうに言った。
さっきの不健康そうっていうところが効いているのかしら。
「ふっ…。
…お前達とは違い、私は幼くなったな。
考えることは同じなのに、前の私とは似つかんくらい幼い。」
メルネスは自分の姿を見回すと溜息をつく。
そうかもしれない。
だって、私が見た昔のメルネスは、私と同じか少し上くらいな感じだった。
それに比べてシャーリィは幼い。
「それにこの娘は、今までメルネスになることを拒み、ちゃんとした自我で生活してきた。
羨ましいものだ…。
私など、物心がつく頃にはメルネスだった。
感情表現も何も…」
メルネスはシャーリィの体をぎゅっと抱きしめた。
その顔は苦しそうで悲しそうだった。
私はその顔を見て胸が締め付けられる。
そんなの違う!
だって、メルネスは私と一緒に笑ってた!!
「あなたはあったわ!私と笑ってた。
…メルネスになる事は失うことじゃないでしょう?
感情を失う行為に至ったのは、あなたの覚悟よ!!」
メルネスは驚いた顔をすると、私を見た。
「……お前は、何故そんなに私のことを知っているのだ?
私は……そんなこと誰にも話した事はないぞ…?」
彼女は明らかに動揺していた。
結界の中の気は乱れ、荒れ狂う嵐のようになる。
「痛っ…」
テルクェスの欠片のようなものが私の肌を切り裂く。
切れたところから血がぷくっと出、流れた。
「大丈夫か、。」
ワルターが私の背に立ってマントで庇ってくれる。
「ワルター、あなた怪我してるのに!!」
庇ってくれる彼にも無数の傷がつき滲んでいた。
私は腕の中から逃げようとしたけれど、彼はそうさせてくれない。
「俺は大丈夫だ…。続けろ。」
「…うん…。」
私はメルネスを真っ直ぐ見据えると、深呼吸する。
「…滄我に聞いたの。」
「滄我…だと?
何故お前が滄我の声を聞けるというのだ!?
滄我の声を聞けるのは、代行者であるメルネスだけだ!!
それ以外はありえん。」
「この世界にありえないことなんて一つもない。
彼らは常に私に話し掛けている。
もうほとんど聞こえないけれど、昔はもっと聞こえたの。
あなたを助けて欲しいって、聞こえたのよ…」
静の大地でイメージを見てもいないのに、昔のことが手に取るようにわかる。
きっとシャーリィにメルネスが出ているように、私にもあの子が出ているんだと思う。
「なんだと……私を助けて欲しいだと…?
そ…うか、それでお前は私に近づいたんだな?
滄我の手先となって!!」
「最初は…そうよ。海の神様のお願いだったし、そのつもりだった。
でも、あなたに会った瞬間に滄我に頼まれたことなんて忘れてしまった。
本気であなたと話したかった。友達になりたかった。
あなたは、私にはないものを持っていたから。」
「……。」
嵐がおさまると、緩やかな風が吹く。
メルネスは今、何を思ってるだろう?
滄我に頼まれただけの私が、仲良く友達になったと知って怒るかしら。
…ううん、誰だって怒るよね。
「そんな……そんなこと、聞きたくなかった!!
お前が…滄我に頼まれて私に近づいたなど!!」
「メルネス、私は!」
緩やかな風が急に止まり、目の前に大きなテルクェスが現れる。
「メルネス!」
そのテルクェスは尖った刃の様になると、その切っ先を私に向ける。
「そんなことして私を殺しても何も変わらない!
過去は……、もう過ぎてしまったものは、取り返せないから。
だから、私は言いに来たの!過ぎてしまった間違いを受け止めて正すために。
私は自分の気持ちを伝えに来たの!!」
「うるさいっ!!」
メルネスは私の言葉を聞かず、そう叫んでテルクェスを放つ。
「!」
「!」
その時、後ろにいたワルターが私の体を横に退けた。
「ワルター!!」
見上げると、彼はそのまま立っている。
もしかしてワルター、
メルネスの想い、受け止める気!?
「やっ…だめ!ワルター!!」
叫んでも、ワルターはその場から動かない
目を瞑ってメルネスのテルクェスを待っている。
「すまない、。」
「やだ…、いや!!ワルター!!!」
「約束、守れそうにないな。」
「一緒に生きてくれるんでしょう!?そう言ったじゃない!」
「貴様は、生きなければならない。」
嫌だわ!
誰かが自分を庇っていなくなるのは、嫌!!!
私の思いと反して、シャーリィのテルクェスはワルターに真っ直ぐ向かっている。
もう、間に合わない…!
**************
メルネスの目覚め。
シャーリィは彼女の中で眠ってます。
水の民の瞳はみんな青いけど、絶対一人一人違うはず。
メルネスの瞳は深い海の色…のはず(笑)
ワルターが彼女の攻撃を受け止めようとするのは、彼女への裏切りの謝罪です。
「死をもって償う」
2006/08/13