「ワルター!!!」
防壁の中に響く私の声。
彼はすぐそこに立っているのはずなのに、涙で霞んで前が見えない。
誰も失わないって決めたのに、みんなで生きようって決めたのに。
ワルターも一緒に生きようって約束したのに!
私は守られてばかりで、誰も守れないんだ!!
バリンッ!!!
凄い音が鳴って、思わず目を伏せてしまう。
目を逸らしたら何も確かめられないけど、ワルターがいなくなるとこなんて見たくないもの!
「っ………殺せるはず、ないだろうっ……」
メルネスの苦しそうな声が聞こえてきた。
私は逸らした目線をゆっくり戻す。
目線の先にはワルターが、驚いたように目を見開いた状態で立っていた。
私は何が起こったのか分からなくて、でもワルターが生きていることが嬉しくて胸を撫で下ろす。
よく見ると、メルネスのテルクェスは彼の目前で粉々に砕け、飛び散っていた。
「ワルタっ…よかっ…た…。」
私は立ち上がってワルターに駆け寄った。
震える手で彼の袖を掴む。
ワルターはそれに気付くと、手をぎゅっと握ってくれた。
「今でもお前達は、そうやっていつも一緒にいるのだな。」
メルネスの悲しそうな声が耳に入り、二人で彼女を見た。
彼女は目からは涙が溢れ、言いようもない悲しみにくれているようだった。
「あの頃もそうだった。お前達はよく、二人でいた。」
「メルネス…?」
ワルターは彼女の涙に戸惑っている。
彼は自分がこの状況から逃げないようにと手に力を入れて、私の手をぎゅっと握り締めた。
「それは…お前が…。」
ワルターが言いかけると、メルネスは顔をぶんぶんと横に振った。
その動きで涙が飛び散る。
「そうだ!!私がお前に命令したんだ。
…いつもむっつりしているお前に笑って欲しかった。
私ではお前を笑わせることは出来ないから……せめて他の者でもいい、
お前を笑わせて……そんな姿を見たかったんだ…。」
メルネスは手で顔を覆った。でも顔は横に振り続けている。
「メルネス。」
ワルターは半歩彼女に近づいた。
…近づける…?もしかしてさっきの攻撃の時、結界が破れたのかしら?
私は小声でワルターに話しかけた。
「ワルター、近づけるの…?」
「そうみたいだ。しかし、油断するな。」
「うん。」
彼はまた半歩彼女に近づく。
「メルネス、何故そんなにもして俺の笑った顔が見たかったんだ?」
ワルターはそう言うと立ち止まった。
そしてメルネスを真っ直ぐ見つめる。
メルネスはそんな彼の視線を受け止めると、フと笑った。
「まだ気付いていないとはな。」
涙を拭うと見つめ返す。
「………お前を愛していたからだ。」
「!!」
「…そんな驚かなくともいいだろう。メルネスと言っても私だって女なのだ。恋もする。」
メルネスはワルターを愛しそうに見る。
ワルターはその事実を受け入れられないのか、更に戸惑っていた。
「本当に、気付いていなかったんだな。
…無理もない。メルネスは水の民にとって崇高な存在。
幼なじみであったお前も、いつからかそういう目で見るようになったからな。
…でも、けれども!
陸の民に恋をする水の民がいるのだ。メルネスが恋を知ってもおかしくないだろう!?
お前のように!!陸の民に恋をする…水の民だって……っ…!!」
メルネスはワルターから目を逸らした。
「っ…なんで、なんでこの娘なんだ!?
この娘は羨ましいほど周囲の者達に愛されているというのに、お前まで!!
私なぞ、この命を水の民に捧げるためだけの存在意義だというのに!
大切な者まで奪われて!!
…今のメルネスだってそうだ。大切な男をこの娘に奪われた。
いつだって、この娘は私の大切な者を奪っていく!」
そして殺気を私に向ける。
ワルターはそれに気付くと、私を背に隠した。
「…守るのだな。水の民のくせに、陸の民のその娘が大切か!
メルネスである私より、大切だというのか!?
…ふ…そうか。私がお前を殺せないと知って守るのだな!」
「違う。」
「嘘をつけ!さっき私がお前を攻撃できなかったからと言って…!!」
「黙れ!」
ワルターは一喝した。
メルネスはビクンと止まると、ワルターを見る。
「メルネス、貴様は自分の気持ちばかり言って他人の事は何も聞こうとしない。」
「な……。」
「俺は、昔の俺とは違う。だから言わせてもらうぞ。」
ワルターは私から離れて、彼女に近づいた。彼女は恐怖した顔で彼を見る。
ワルターはそんな彼女に目を細めて優しく微笑むと、抱きしめた。
ズキン…
あれ…?何?私…変。
もやもやする…。
「俺は、メルネスのことが大切でしょうがなかった。
俺が命を賭けて守らなければいけない、メルネスだ。
大切なわけないだろう?」
「!!……お前…」
「俺はずっとメルネスの傍にいたかった。
しかし、あの女の相手をするように命令したのもメルネスだ。
何か意図があるのだと思って、命令に従った。
まさか俺を笑わせるなんて考えは思い付かなかったがな。
…
…しかし、一緒にいるうちにあの女は、いつの間にか俺の中で大きな存在となっていった。
俺は自分でも困惑した。あいつは陸の民だ。敵である陸の民だ。
…でも俺は…俺の中のあの女の存在を認めなければならなかった。
メルネスと同じくらい、守りたいと思ったからだ。
メルネスもあいつも…同じくらい大切な者達だ。」
ワルターは一気に話すと、一息つく。
メルネスはそんな彼の顔を見て切なそうに笑った。
「私を大切に思っていてくれたのは嬉しい。だが、お前が好きなのはあの娘だ。お前は私ではなく、あの娘のところへ行った。」
「それは…」
「…私への裏切りだ。お前自身わかっているだろう?」
「……。」
「何も言えないか。…はは、そうだろうな。
…お前は私の最期には帰って来て言ったな。
あの娘が死んだと。
本当は違うのだろう!?
私がいなくなったあの後に、あの娘と一緒になったのだろう?」
「そんな事はない!」
「うそをつくな!!」
「メルネス、そう子供みたいに駄々をこねるな!」
「わっ…私は子供だ!!愛している者を取り返したいと思う子供なんだ!それの何が悪い!?」
ワルターは泣きじゃくりながら自分から離れようとするメルネスを力強く抱きしめる。
「離せ!!」
「離さん!!俺の話を最後まで聞け!」
「聞きたくないっ!お前が裏切った事にこんなに悲しみを感じるのに、それ以上はっ…」
メルネスは、本当に親衛隊長さんを愛してるんだ。
自分の傍にずっといたのに、それをあの子が取ってしまった?
ううん…違うよね。
あの子は本当は、三人で仲良くしたかった。
自分の気持ちを覆い隠してでも…
私は心の中にいるだろう私に声をかけると、二人の元に歩き出した。
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ワルター生還!
ハラハラさせてしまってごめんなさい。
そしてまたひっぱってごめんなさい。
メルネスは、親衛隊長さんの事が大好きなんです♪
2006/08/15