「ああ、任せとけ!!」
セネルの声がしたと同時に、視界が戻る。
私の目に映ったのは、気を失ってるシャーリィが、高台からふらりと落ちていく姿。
「シャーリィ!」
「、危ない!」
身を乗り出した私をワルターがガシリと捕まえる。
彼に掴まれて気付いたけれど、私達の周囲はほとんど崩れて足場がない。
「ひゃあっ…。」
ワルターに引き寄せられて、私は彼の胸に収まった。
「ご、ごめんなさ…。」
「…いや。」
彼はボソと言うと、セネルの方を見た。私もつられてセネルを見る。
ドサッ
見ると、セネルがシャーリィをちょうど受け止めた時だった。
セネルはうまくシャーリィを受け止めると、大事そうにそおっと抱き留めた力を緩め、彼女の頬を手で触った。
愛おしく触るその仕種は、きっと兄としてのものなんだろう。
私にも兄がいるからわかるの。
「う…ううん…。」
「シャーリィ!!」
「お兄ちゃん…。」
「シャーリィ、大丈夫か!?」
セネルはペタペタと彼女を触ると、怪我がないか確かめる。
「大丈夫だよ。さんとワルターさんが、命を賭けて私を助けてくれたから。」
「ああ、そうか…。
良かった。」
セネルは優しくシャーリィに微笑みかける。
そして、
「…おかえり、シャーリィ。」
「!!
…ただいま、お兄ちゃん」
セネルとシャーリィは強く抱きしめあった。
私は胸がほんわかと暖かくなると、ワルターの背中ををぎゅっと抱きしめた。
「…降りるぞ。」
「あ、うん。」
ワルターは力を振り絞ってテルクェスを出して、一緒に高台から降ろしてくれた。
私はそんなフラフラな彼を支えながら、みんなのところまで歩いて行く。
「ちゃん、おかえり!!」
「ただいま、ノーマ!!」
「お疲れ様、。」
「ありがとう、クロエ。」
ノーマとクロエはぎゅうっと私を抱きしめてくれる。
「さんにしてはちゃんとやりましたね。」
「…ふふ、そうでしょう?」
今ならジェイのいじわるも、寛大に許せそうな気がする。
「ノってこないなんて、つまらないですよ。」
「いいじゃない、こんな時くらい♪」
「〜〜!!」
ジェイとお喋り中だというのに、モーゼスがいきなり抱きついてきた。
「ちょっ…モーゼス!!」
「心配したんじゃぞ〜〜!あん中で何が起きてるかわからんし…。無事で良かった!!」
「もう……よしよ〜し。」
「なんじゃそれ…」
「え?宥めてるのよ。」
「モーゼスさんにはお似合いですよ、宥められるの。」
「なんじゃと!!ジェー坊!」
「ふふ、二人ともこんな時でも相変わらずね。」
安心できる居場所。
心が暖まる。
少ししか離れてないのに、もうずっと皆と離れてる気分だったみたい。
みんながいる。
これがどんなに落ち着くことか。
今度はシャーリィも一緒なんだ。
やっぱり、仲間が一番よね!!
…それにしてもみんな、ワルターには声をかけてくれないのね。
新しい仲間だっていうのに。
私と一緒にシャーリィを助けたっていうのに。
…でも、しょうがないか。今まで敵だったんだものね。
私はワルターに向き直ると、
「おかえり、ワルター」
と笑いかける。
ワルターは少し照れたように顔を逸らすと、
「ああ。」
と言って、微かに唇の端を上げた。
「…滄我よ、何故こんな……。
こんな陸の民のやつらと…。」
私達は仲間以外の声がしたのに気付くと振り向いた。
そこには項垂れたマウリッツがいる。
「何故だ…。我々水の民の思いが…こんなにも簡単に崩れ去ろうとは…
メルネスめ…。」
私はワルターから離れると、つかつかとマウリッツの前まで歩いて行った。
「…マウリッツ殿」
「なんだ…陸の民の娘よ。」
「あなたには、猛の滄我の負の気がとりついています。」
「何を言っている…」
「シャーリィは、自らの意思で戻ってきたのです。
彼女が自分で、私達の手をとったのです。」
すると、シャーリィはセネルから離れて私の隣に立った。
「私、今回のことでわかりました。
人を恨むも人、人を許すも人、ならば私はどうするべきか、どうすべきか。
私は、この人達を信じます。
この人達と紡ぐ明日を信じます。
差し延べられた手を握ること、それは私の意志です!
滄我が陸の民との共存を望むのなら、私は水の民代表のメルネスとして滄我の意志を代行します!」
シャーリーの決意に、マウリッツは舌打すると彼女を睨む。
「…メルネスの役割も果たせないで、ここでメルネスを語るとは…。」
「マウリッツ殿!!…あなた達は、本来のメルネスの役割を履き違えてる。
メルネスは、陸の民が造ったこの装置のために死ぬ運命ではないわ。
滄我の声を聞いて、あなた達水の民を導く存在でしょう?」
「そうだ。そのためには陸の民をっ…」
マウリッツは床を拳で打ち付けた。彼の皺々の手に血が滲む。
「……もう、滄我が望んでないというのに……?」
「!!」
「猛の滄我の負の気持ちに捕われてはだめです。
…あなたは可哀想な方……。
…滄我からあなたに、安らぎを与えましょう。」
私はシャーリィの手を握って、滄我に祈る。
「なっ……」
するとマウリッツは、ぱたりと床に倒れた。
「まさか、殺したのか!?」
ウィルが心配そうに叫ぶ。
私は苦笑いをすると、
「安眠をもたらしただけよ。」
と言って安心させた。
みんなは胸を撫で下ろすと、再びマウリッツを見た。
「マウリッツさんは、滄我に支配されてたのか?」
「いいえ。彼の思いが強いために、猛の滄我の負の気を取り込んだ……いえ、思い込んだの方が正しいかしらね…、彼は声を聞くことはできないから。
だから彼一人ではもう、何もできない。
彼の思いが強くとも、シャーリィや私のように、滄我を代行できる者がいないと何もできないの。
シャーリィも私も、もう大丈夫よね。」
「はい!!」
シャーリィは元気よく返事をしてくれる。
「さて、変わったはずの滄我でも見に、外へ出ましょうか。」
「そうだな。」
ジェイの提案に頷くと、私達は眠っているマウリッツを置いて外へ出た。
外に広がる青い海。
メルネスが私とワルターに見せてくれた、あの海みたいだった。
日の光が反射して、水面がキラキラと光っている。
「うわ〜!なんてキレイなの!青さがほうしょうになって、光ってるみたい。」
「海ってこんなに青いものだったんですねぇ」
「穏やかじゃのう」
そう言うみんなの顔も、とても穏やかだわ。
「輝ける青」
えっ……?
グリューネの発言に私の心が掴まれる。
輝ける青って、私もさっき言った…
「何それ?」
グリューネはノーマに問われると、にっこりと笑って答える。
「長旅の果てにこの世界へやって来た人達が、最初にこの海を見たときそう呼んだの。」
「何でそんなこと知ってんの?」
「何でかしらね。」
グリューネは再びにっこり笑った。
……本当に、なんでそんな事を知っていると言うの?
…滄我のグリューネに対する態度もおかしかったし。
グリューネは一体…
「だ〜も〜!わけわかんないんだからっ!!」
私の考えは、ノーマの叫びによって掻き消された。
それをきっかけに、私は考えるのをやめて肩をあげた。
その時、自分を見ているセネルの視線に気付く。
「セネル?」
「な、。ステラも、喜んでるかな…?」
セネルの問いにハッとなる。
ステラはもう、私の中にいないんだ。
私が困っておろおろしていると、ワルターが私の肩に手を置いて「俺が言う。」と呟いた。
「ステラ・テルメスはの中から消えた。」
ワルターはいつもの無表情だったけど、どこか辛そうな感じがする。
ああ…私ったら、辛いことをいつもワルターに背負わせてばかりいる。
こういうのは、自分で背負わなきゃいけないのに。
「消えた……?、本当なのか!?」
「……うん。シャーリィの防壁を破るとき、ステラは私達のために力を使ってくれた。その時に……。」
「…まだ、さよならも言っていないのに消えちまうなんて…ステラ……。」
「お兄ちゃん……。」
その瞬間、急に海が光りだした。
「何あれ!?海が光ってるよ!!」
「本当だ。あれは一体どういうことだ!?」
「さん、滄我は何か言っていませんか?」
「えっ?」
「何か言ってるんなら、嬢ちゃんかやに聞こえるじゃろ!!」
ジェイとモーゼスの言う通りだ!
私は耳を澄ませると、滄我の声に耳を傾けた。
『…祈れ…』
祈る……?
『汝らの手で、あの娘の意識を我の元へ返すのだ…』
!!
私はシャーリィを見た。
彼女にも声が聞こえたのだろう、私の顔を見て頷く。
私達は手を繋ぐと、一緒に滄我に祈った。
『ステラ……』
私達の目の前の空間にうねりが生じると、なんとも例え難い意識がのしかかる。
みんなも同じなのか、苦しそうな顔で空間を見つめていた。
大気が震え、海が震える。
波は反対方向へと進み、渦を巻いている場所も出てくる。
これから何が起こるのか、何が起きるのか。
それはきっと、滄我だけが知っている。
ギュウゥンッ
目の前のうねりが治まり、私達は起こっている出来事を真正面から受け止める。
するといつの間にか、私達の前には本当のステラの姿があった。
「ありがとう、シャーリィ、。
私、戻って来れたわ。」
「ステラ!」
「お姉ちゃん!」
私とシャーリィは繋いでる手をブンブン振って喜んだ。
でも私達とは別に、他の皆は唖然としている。
特にセネルなんて…。
「やだセネル。そんな顔しないで。」
「あ……ああ。」
「もう…。
セネル……私ね、滄我に約束してもらったのよ。それが叶うの。」
「え…?約束?」
「ええ、のお蔭なの。」
ステラは私に微笑んだ。
そういえば、ステラ言ってたものね。
滄我との約束。
「ステラとしての意識はなくなるけど、いつかきっとセネルとシャーリィに出会うために生まれ変われるって…約束したのよ。」
「!!」
ステラはにっこりとセネルに笑った。
「本当か?ステラ…。」
「ええ!」
「じゃあ、さよならじゃなくて…また今度!だな。」
「ええ!!!」
ステラの嬉しそうな笑い声と共に、先ほどのうねりが戻ってくる。
「、私がと共にいた理由わかったでしょ?」
「誠名、でしょう?」
「そうよ。その共通と、シャーリィの姉であった私が滄我に選ばれたの。そのお蔭でまたいつかみんなに会えるんだものね!嬉しいわ。」
「うん!!」
「テルメス……には合っているわよ。」
「当たり前じゃない!!メルネスがつけてくれたのだもの。」
「…ふふ、そうよね。」
ステラの姿が消えていく。
「みんな、みんなありがとう!!
シャーリィ、セネル、……また会いましょう!!」
私達はみんなで大きく手を振った。
千切れるくらい強く、ステラが消える最後の瞬間まで見えるように。
『また今度!!!ステラ!!!!!』
「いっちゃったね。」
「はい。でもお姉ちゃんとっても嬉しそうでした!!」
「そうだね!!」
海は穏やかに波を立てている。
ステラの意識は、海に還ったのだろうか。
きっと…ううん、絶対還ったよね。
そしてまた、生まれ変わる。
私達はその時まで忘れてはならない。
水の民と陸の民、
そして滄我の存在を。
『この海が、いつまでもこのままでありますように。』
私達がつくっていく未来。
そこには、希望がある。
**********************
終了〜っ!!
と思ったら、本編終了のエピローグがあります♪
でも本編のほんとの終わりはこの81話です。
81話なんて、よく書いたなって感じです。
でも、ここまで読んでくださった方もよくぞここまでな感じです^^
2006/08/19
epilogue+あとがきへ