「だ〜も〜!だから人喰い遺跡はいやだって言ったじゃん!」
ノーマが魔物から逃げるためにそこら中駆け回る。
駆け回るだけならいいとして、大声で不満も洩らすので手に負えない。
「ここに来る様に提案したのはだれだったか?」
セネルは拳を繰り出しながら言う。
「セネセネ〜、戦いながら喋る余裕があるなら守ってよ〜!」
「ノーマ!!」
ノーマの泣き言をクロエが窘めた。
ビュンッ
矢がすごいスピードで魔物に向かって飛んでいく。
その矢は、ノーマを追いかける魔物の足に刺さった。
「ギャアァァッ」
魔物は悲鳴をあげると、標的を、矢を放ったに絞り突進してきた。
はぎりぎりまで魔物を引きつけると、もう少しで攻撃をくらうというところで後ろに避けた。
そこへクロエの鋭い剣技が魔物を襲う。
深手を負った魔物は、ビクビクと痙攣すると、動かなくなった。
「クー、ちゃん、ありがとー!」
ノーマがホッとして笑う。
「ちゃん連れて来て良かったよね。ウィルっちに反対された時はどうなるかと思ったけどさ〜」
ノーマの言葉に、ウィルの耳がピクリと反応する。しかし、ウィルは何も言わなかった。
これまで何度も魔物に遭遇したが、のお蔭と言っていいほど、皆は傷を負ってはいなかった。
後方で自分勝手に戦うモーゼスと違い、は皆を守るために矢を放つ。
結果、皆のピンチを救えるのであった。
「モー助はもう、二軍いきかな、こりゃ〜!」
「何をいうんじゃシャボン娘!ワシはちゃんとの援護をしておるんじゃ!そうじゃろ?」
モーゼスがを見るとはにこりと笑った。
「はいはい、そうですかー、っと。
よーし、この調子で進んでこー!」
ノーマはオーと右手を出すと、勢い良く進んでいった。
「何が、進んでこー!なんじゃか…」
モーゼスが隣りで呟くのを聞き、は口に手を当てて微かに笑った。
「お前達の意見は認められん!」
ウィルは有無をいわさせない強い態度で言った。
「お前達は一度失敗しているのだ。」
セネル達は唇を噛む。悔しそうな顔をしながら、ウィルを真剣に見つめていた。
「それに、なぜ増えてるんだ?」
ウィルはを見て言う。
は自分の事が言われているとわかると、前に進みでてお辞儀をした。
「といいます。宜しくお願いしますね、ウィル。」
は簡単な挨拶をすると、一歩引き下がった。
のあまりにも普通な態度に、ウィルが飲み込まれそうだ。
「…あ、あぁ。宜しく。。」
挨拶を返したウィルは、雰囲気に飲み込まれそうな自分にふと気付いて焦る。
「と、とにかく、お前達の意見は認められん。」
ウィルはもう一度そう言うと、後ろを向いた。
「一晩、皆で話し合って決めた。誰かが暴走したら、必ず止める。」
「私達はレイナードの指示に従う。絶対、暴走はしない。」
「頼む―!」
セネル達は先ほど訴えた言葉を再び言った。
その時、水の民の集団の中から声が聞こえた。
「さん!!」
出て来たのはフェニモールだった。
フェニモールはの前にくると、手を取った。
「フェニモール!」
はにこりと微笑み、強く手を握る。
「知っている者か?フェニモール。」
先ほどからセネル達のやりとりを見ていたマウリッツが、フェニモールに言った。
「はい、長。あの時助けていただいた方です。」
「おお、そうか。殿、以前はお世話になった。」
マウリッツが感謝の意を示すと、は小さくお辞儀をした。
「フェニちゃんが怯えずに喋ってる…」
ノーマが呟く。
「本当だな。」
クロエがそれに答えた。
不思議そうに見る二人を尻目に、とフェニモールは楽しそうに喋っていた。
「お前達、本当に言うだけのことをできるのか?」
「そ、それじゃあ…」
ノーマが嬉しそうにウィルを見た。
その時、
「長!大変です!ワルター達が…」
皆が勢い良く駆け込んで来た水の民の青年を見る。
「ワルターがどうした?」
マウリッツは落ち着いた様子で青年に聞いた。
「以前から遺跡を巣くっていた魔物にやられたようです。」
マウリッツは少し顔色を変えると、部屋の外に出た。
水の民達が怯える中、セネル達は状況を把握するためにマウリッツに続いて部屋を出た。
「ワルター。」
傷だらけの水の民の青年達がいる。
そしてそれを従えたワルターも見るからに傷だらけだった。
「ささやきの水晶入手に失敗した。」
ワルターはボソリと言うと、マウリッツを見た。
マウリッツの後ろにはセネル達がいる。
彼はセネルと目が合わない様に顔を逸らそうとした時、に気付く。
彼女の姿を見つけると、ワルターは少し目を見開いた。
はそれに気付き、ワルターを見る。
その目があまりにも心配そう自分を見ているため、ワルターは居た堪れなくなり、完全に目を逸らした。
「皆を、休ませて来る。」
ワルターはそう言うと、青年達を伴って部屋に入っていった。
「…ささやきの水晶入手を失敗したか…。」
マウリッツが呟く。その呟きを聞いて、ウィルが問う。
「大事なものだったのか?」
「我々の勝利の鍵を握っていると言っても、過言ではない。」
マウリッツは考え込む。
「ねーねー、これって良い機会じゃない?」
ノーマはクロエに話しかける。
「何がだ?」
クロエはノーマが考えていることがわからず、小声で問い返した。
ノーマはムフフと笑うと、
「は〜いはいはーい!あたしらが、その何とかの水晶取りにいってきまーす!」
と叫んだ。
「諸君らが…?」
マウリッツがノーマを見つめた。
「だから、ちゃんと取ってきたら、同盟軍に加えてくださいっ!」
ノーマは交換条件のように切り出した。
― ワルター、大丈夫かしら…
は先程からワルターが気になってしまい、ノーマが話してる事も耳に入らない。
「ノーマ、それとこれとは話が…」
「いや、そうしてもらうと助かる。」
うっすらとマウリッツの声が頭を通り抜ける。
はやりとりを聞き流しながら、ワルターが入っていった部屋をちらちら見ていた。
「ね!!ちゃんも行くでしょ!?」
いきなり自分に話を振られて、はびくっとした。
「あ、は、はい!!」
驚いた勢いで返事をすると、ノーマがじとっと睨む。
「だ〜!!聞いてなかったっしょ?」
は苦し紛れに笑うと、「ごめんなさい。」と謝った。
「も〜!ちゃんも行くかって聞いたの!」
「もちろん、ご一緒させていただきます。」
はノーマに言った。それを聞いてウィルが待ったをかける。
「な、なぜもいくのだ?」
「あら、私はだめなのでしょうか?」
が首を傾げた。
ウィルは返答に困ると、
「いや、戦えそうに見えないのだが。」
と呟いた。
確かに、の格好は戦いに向いているようには見えなかった。
大きな布をかぶり、くるぶしまで垂らしてひらひらしている。髪の毛は結ぶことなく肩にかかったり、背中を流れたり。
「あ、この格好ですか?…それなら」
はそう言うと、くるぶしまでかぶっていた布を取る。
ジェイの買ってもらった丈の長い服は、の手で直されひざ上までの長さになり、太ももの脇に切り込みが入れてある。
首から太ももまではぴっちりとした黒いスパッツに覆われ、足は丈の長いブーツを履いていた。
背中には矢筒がベルトで括り付けられ、その横に弓もかけてある。
そして、腰には小さなバッグ。
準備万端といった感じである。
ウィルはこれに絶句し、信じられないというような顔つきでを見た。
「これで大丈夫でしょう?」
はウィル笑いかけた。
「あ、もし、弓の腕をお知りになりたいのでしたら…」
は思い出したように言う。
「遠く離れていただければ、ウィルのそのピアスを砕いて見せますけれど…、
でも、何か起こったら取り返しがつきませんから、止めておきましょうね。」
ウィルはこれを聞いて少し青くなった。
「レイナードを手の上で転がし始めたぞ。」
「すっご〜い、ちゃん。」
「ウィの字が青くなっておる。」
「…すごいな。」
他の四人はそれを見て関心し始めた。
ウィルが何も言わなくなったので、五人は出発することにした。
「あ、少し待っていていただけますか?」
がふとセネルに頼む。
「ん、どうした?」
「怪我をしている方々に薬を分けてきます。」
はそう言うと、腰のバックから袋を取り出す。
セネルは笑うと、「待ってる。」と言った。
はお礼を言うと部屋に向かって走っていった。
ガチャ…
ゆっくりとドアが開いた。
怪我をしている者達を見回るワルターが、ドアの音に気付く。
少し開いたドアから中を覗くのはだった。
「…」
ワルターは無言でを見た。
部屋の中は血の臭いが充満して、むわっとしていた。
鼻をつく臭い。
見渡すと、怪我人に対応する回復の人員が足りないようだった。
は眉間に皺を寄せると、どのぐらいの薬が必要か計算する。
荷物になると思い、マウリッツの庵に置いていこうとした薬でぎりぎり足りそうだった。
腰に入っている薬はグミが足りなくなった時用。これは使えない。
遠くから怪我人を見てあの人はこれ、この人はこれ、と頭の中で決めていく。
怪我人達を見ていると、自分を見つめているワルターに気付く。
はドアを完全に開けると、ワルターの下へ走り寄った。
ワルターはの格好を見て驚き、叫んだ。
「き、貴様、なんて格好をしている!!」
「え?戦いやすいようにと思ったんだけど、似合わないかしら?」
はきょとんとして答えた。
「に、似合うとか似合わないとかの問題ではない。」
ワルターはから目を逸らす。
そして、まったく、これだから陸の民は…とぶつぶつささやいた。
水の民の女性は長い丈の服を愛用するため、こんな服は着ないだろう。
かといって、ワルターは胸の開いたノーマの服や、身体の線が見えるクロエの服も見ているはずだ。
なのに、あの二人ほど悩殺的な服を着ているわけではないがそんなことを言われることが腑に落ちなかった。
「そ、そんなこと考えている場合ではないわ!」
はそう言うと、ワルターをどかして脇に寝ている青年を見た。
傷が深い。
「ワ、ワルター…」
青年はワルターを呼ぶ。ワルターはの横に来ると、青年を見おろした。
ワルターの顔に、もう駄目かもしれないという表情が浮かぶ。
は諦めずに薬のストック袋に手を突っ込むと、ガサガサと掻き回した。
そして、一つの小瓶を出し、青年に飲ませようとする。
すると、青年は持っている力を振り絞ってその手を払いのけた。
「!?」
は驚くと、青年を見た。
「り、陸の民のものなんて…み、んな毒だ。」
青年はそう言うと、ゲホゲホと血を吐いた。
はその姿を見て悲しくなる。どうすれば彼は薬を飲んでくれるのか、自分の力では助けることが出来ないのか。
が困惑した顔で青年を見つめていると、ワルターがの手から薬をもぎ取った。
びっくりしてワルターを見上げる。
ワルターは青年に言う。
「生きたいならこれを飲め。こいつの薬は……意外と効く。」
はこの言葉に感謝しても足りないような感じがした。
「ワ…ル……」
青年は,、ワルターが言うならと、手を伸ばしかける。
が、ゲホゲホと血を吐きながらむせる。
少し経って咳が消えると力を使い果たし、青年は一人で薬を飲むということが出来なくなったようだ。
青年は青い顔でワルターを見た。
その時、
はワルターから薬を取り、中身を自分の口に含むと、血だらけの青年の口に唇を当てて彼の口から、身体の中に流し込んだ。
彼はゲホゲホと咳をしたが、薬を吐くということはなかった。
ワルターはこの出来事に動揺した。
しかし、目の前の青年が静かな寝息を立てて寝入るのを見ると、安心しての方へ向く。
彼は突然、汚れた自分の服の袖での口を拭いた。
この突然の出来事に、はびっくりしてワルターを押しのけようとする。
しかし、怪我をしているとはいえ、ワルターの力は強く、押しのけられない。
どうしようも出来なくなったは、ワルターが満足するまで我慢することにした。
ワルターは満足するほどゴシゴシすると、腕を脇に下ろした。
「血がついていた。」
そう一言言うと、背中を向けた。
「…ワルター…?」
よくわからないその行動に、は困惑するばかり。
はセネルたちを待たしていることを思い出すと、ワルターの横に薬の袋を置いた。
「どういう症状に使うかは、書いてあるから…」
こう言うと、部屋を出る。
ワルターは何も言わなかったが、の薬袋をあさり始めたので、大丈夫だと確信する。
ワルターや水の民の青年達が気になりつつも、はセネル達が待っている方に走り出した。
「遅くなってごめんなさい。」
は謝る。
「大丈夫だ。さ、行こう。」
セネルはそう言うと、の手を取った。
― 先ほどのワルター、何か、変な感じだったわ…
後ろ髪ひかれる思いで、はマウリッツの庵を離れた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
お疲れ様でした☆
またワルターと絡んでしまった。
私的にはセネルが最後に手をとるのがポイント(笑)
次の話はどう続こうか、大体の流れは決まっていても、
細かな話を書くのは難しいですね。
でも、これを読んで下さっている方がいらっしゃる事を励ましに、
今日も私は頑張るのです☆
2006、2/2