むしゃむしゃ…
むしゃむしゃ……
「なあ、俺達食ってばかりいないか?」
「いいじゃない、お祭は食べてなんぼよ。あ、そのイカ焼き食べたい。あ〜んっ」
「……」
「むぐっ…もぐもぐ。ありがと、ワルター」
あたし達は出店の間で縁石に座ってもぐもぐ食べていた。
ワルターもあたしに付き合ってもぐもぐ食べる。
「あ、次それ。あ〜ん」
「あのな…」
ワルターは少し赤くなりながらあたしの口にたこ焼きを運んでくれた。
パシャッ
「もご!?」
「何だ!?」
いきなり写真を撮られる。
二人で慌てていると、ニンマリ顔のチサちゃんとランちゃんが現れた。
「やっほー!楽しそうだね!」
「ほんと、まるで恋人同士だな」
二人はあたし達を挟むように座った。
「やだー、もうっ!!」
「………?」
あたしが謙遜すると、ランちゃんは訝しむ。
あれ、なんかあたし変だった?
「、すっごく注目されているが気になんないのか?」
「え、注目?されてるの?」
「ああ、さっきから視線が痛いぞ」
「ふーん、全然気付かなかった」
「すごーい、ちゃん!!目立つの克服出来たんだ!!」
「ん〜そうかも?」
「……まあいいや。私達は行くよ。じゃあな、」
「うん。二人とも楽しんで」
「ちゃん達もね!」
「…ありがと」
あたしは笑うと、ひらひらと手を振った。
…笑えたけど、心から笑えなかったなぁ。
あたしってダメだなぁ。
今のできっと、ランちゃんはあたしがおかしいって気付いただろう。
心に余裕がないんだ。
ワルターとお別れの時間がどんどん迫って来る。
離れたくない。
別れ別れになりたくない。
どうにかしてでも、あたしのとこに繋ぎとめておきたい。
そのためにはっ……
「、歩かないか?」
「え?う、うん」
ゴミ箱に食べ物の残骸を捨てる。
あたしが彼に振り返ると、ワルターはあたしの手を掴んだ。
「あっ……」
「何だ?」
「/////なんでもない」
足早に歩いていくワルター。
あたしはそれに着いていくのが精一杯。
だけど嬉しい。
ワルターから手を繋いでくれたんだよ?
「ここならいいだろう」
「?」
「、俺に掴まれ」
「うん」
あたしは彼に捕まると、ぎゅっと力を込めた。
ワルターは嫌がることなくあたしの力を受け止めて、手を握ってくれる。
するとワルターは目を瞑って黒い翼を出した。
ワルターの誠名、デルクェス。
黒い翼。
夜空に溶けて美しい。
「ワルター?」
「のいう花火とやらは、きっと高いところから見たらキレイなのではないか?」
「うん!!」
「一番高い木で見るぞ」
「うん!!!!!」
ワルターは一番高い木の枝に捕まると、あたしをそこに座らせてくれた。
そして自分も降り立つと、横に座る。
「もうすぐ始まるかな」
「そうだな」
「楽しみだね!!」
「………」
「どしたの?」
「それは俺のセリフだ。どうしたんだ?今日はおかしいぞ?」
「えっそう?」
「そうだ、俺は―」
ドンッ!!!
パアアアァァァァンッ
「わあぁっ!!見た?今の見た?ワルター!!」
「……ああ、見た…」
一発目の花火。
赤くて開くとオレンジ色に変化する花みたい。
ワルターは目を見開いて花火に見入っている。
その瞳には花火以外は映っていないみたい。
花火に嫉妬。
なーんて、あたしも詩人だなぁ。
「この世界には、とても美しいものがあるな……」
「そうでしょ?」
ドンッ…
パパンッ…
二連花火。
青と黄色。
「ワルター色だね」
「そうだな……」
「感動してるの?」
「……そうかもしれん」
「そっか、見に来てよかった」
「ああ。と二人で来れて良かった」
ドキン…
胸が高ぶる。
本人が気づいてなくても言いたい。
そのくらい、今のワルターの言葉には力があるよ。
ワルターはあたしに魔法を掛ける。
あたしに恋の魔法を掛けるんだ。
「ワルター……」
「俺は、この世界に来れてよかった。戻っても忘れない」
「!!」
そうだ、戻るんだ。
言って悲しくて虚しい想いをするより、言わないで過ごしたほうがあたしにとってもワルターにとってもいいはず。
さっきみたいに自分の心が闇に染まってたなんてバカみたい。
あたし、自分のことばっか考えて。
ワルターはレジェンディアに帰りたいんだから。
あたしはその手助けをしなきゃいけない。
滄我と約束したんだもん!!
「キレイだよね」
「ああ、綺麗だ」
あたしの恋もキレイ。
儚く消える花火みたいだ。
明日になったら彼はいない。
ワルターはいない。
夢のように、あたしの前から消える。
この花火が永遠に続きますように……
あたしの恋も、永遠に続きますようにっ……
「終わっちゃったね」
「ああ。下りよう」
ワルターはあたしを下ろしてくれた。
あたしは夜空を見上げ、名残惜しく思う。
携帯を開いて時計を見ると、もう時間だ。
「ワルター、この包みの中のものに着替えて」
「?ああ」
彼は不思議がりながら風呂敷を開けた。
「!!、これは!」
「うん、ワルターの水の民の衣装。血があんまり落ちなかったんだけど」
「そうじゃない!これはどういう……」
「どういう?
…ワルターは帰るんだよ。あなたの世界に」
「!!」
「滄我が教えてくれた。今日の夜…今、ワルターが帰るんだと」
「……」
「早く、早く着替えて!!」
ワルターは浴衣を脱いで、自分の服に着替えた。
あたしはその姿を見て微笑ましく思う。
「やっぱりワルターはこの服が一番だね。あ、でもこの浴衣も記念に持って帰って」
あたしは畳んで風呂敷に包んだ浴衣を、無理矢理渡した。
「……」
「何で怒ってるの?」
「……」
「ワルター、笑ってよ?
笑ってお別れしよう!」
あたしの言葉だけが響く。
ワルターは顔を逸らしてその瞳をあたしに向けてくれない。
「ワルター!」
「……っ…笑えるか!そんな…こんな…いきなりっ!!
急すぎるにもほどがあるっ……」
「ごめん、教えてあげなくて」
「……、らしい考えだ」
「そだね」
なんだかあたし乾いてる?
乾いてる返事しかしてないよね。
ごめん、ワルター。
こうしとかないと泣いちゃいそうなんだもん。
「ワルター…消えてく…」
「!!」
ワルターが足から透けていく。
やっぱり、帰るんだね。
「…浴衣、似合うって言ってもらえて嬉しかったよ。
バイトの時だって、可愛いって言ってもらって嬉しかった」
「聞こえてたのか」
「うん。
あたし、ワルターと会えて、一緒に過ごせて楽しかった。
もう、会えないけど……」
「もう会えないなどと言うな!!
俺はにまた会う。
会いに来る!!!だから…」
「そんないい加減な事言わないで!!
もう…会えるわけないじゃないのよっ」
「そんなのは誰も言い切れない!不可能なんてことはない!」
「そう…だけど…」
「信じろ、。
俺達はまた会える。」
「……」
「…俺を、信じろ!!」
あたしは唇を噛み締めた。
もう、涙が出そうだよっ!!
そんな希望持ちたくない。
会えないならいっそ、一生会えないって思いたい!!
「はもう、俺に会いたくないのか?
俺はに会いたい」
「!!
…あたしもっ……あたしもワルターに会いたいよっ!!」
もうっダメだ!!
涙がどんどん溢れてくる。
「会いたいに決まってるじゃんっ!!
あたしの隣には、いつもワルターがいたんだからっ!いないと…淋しいよ……」
「そうか…」
ワルターはあたしとは逆に、優しい顔で微笑んだ。
そして右手をあたしに出す。
あたしはその手を取ると、力を込めて握り締めた。
握り締めたての中にコロコロした感覚。
何かと思って力を緩める。
そこから出てきたのはワルターがいつもつけてるピアス。
「ワルター?」
「これは、約束だ。
それを果たすために、これを渡しておく。
貸すだけだ。今度会う時に返せ」
「…うん、わかった」
あたしはピアスをぎゅっと握り締めて、彼の手も強く握る。
「また会おう。
信じればきっと、また会える」
「っ…ワルターらしくない、そんな言葉」
「フ…そうかもしれん」
ワルターの体が透明になっていく。
握り締める感触もうっすらしてくる。
「ワルター……またね!!!」
彼は最後にもう一度微笑む。
あたしも、あたしも笑わなきゃ…
引きつった笑いだったかもしれない。
でもきっと、ワルターが見たあたしの最後の顔は笑ってるはず。
「すまない、。
礼を言う」
ワルターの最後の言葉が聞こえた。
礼を言うだって、ありがとうって言わないのがワルターらしいよね…。
あたしは夜空を見上げて叫ぶ。
「ワルター好きぃっ……」
彼に聞こえることはないだろうけど、
あたしの想いは果たされた気がした。
返事の来ない告白。
それでも、あたしは満足だ。
「ちゃん、ここにいたの!?どうしたの?」
「っ…!!」
あたしのことを心配して探しに来てくれた二人に、泣き顔を向ける。
チサちゃんとランちゃんはあたしに手を伸ばすと、優しく抱きしめてくれた。
「ワルターがね、ワルターが帰っちゃったんだよっ…」
「ちゃん…」
「、それで…」
あたしは大泣きした。
これじゃ家に一人で帰りたくないって駄々を捏ねて、ランちゃんの家に泊まることになる。
二人は一晩掛けてあたしを励ましてくれた。
翌日、ワルターのいない家に帰宅すると驚いた事に家族全員がいた。
お兄ちゃんもわざわざあたしのために帰ってきてくれた。
そしてきっとランちゃんが伝えたと思うんだけど、
豪華な食事、豪華なケーキで、
その夜、
あたしの失恋パーティが開かれた。
なんだか家族全員でこんなことするなんて、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃった。
お父さんとお兄ちゃんは喜んでるし、お母さんはがっかりしてるし、変な家族。
その後、お母さんはあたしにワルターとの会話の内容を話してくれた。
「初めまして、ワルター君」
「ああ…」
「あなたはの彼氏さん?」
「いや…」
「そうなの?のこと好き?」
「…」
「あら、そこは答えてくれないのね。好きなら悲しませないでね」
「了解した…」
ワルター!!
…ワルター、ワルター!!
ありがとね。
「言葉は荒々しかったけど、いい青年だったのに残念ね」
お母さんはそう言ってあたしの頭を撫でてくれた。
あ、また泣きそう。
ダメだっ。
泣いちゃダメ。
もう泣くとこじゃなもん。
あたしは自分の部屋に帰って見回す。
ワルターが落ちてきたとこ、ワルターが寝てたとこ…
宝石箱にはワルターのピアス…
この部屋には、たくさん彼の思い出が詰まってる。
窓を開けると、あの10日間と変わらない晴れた日の夜空。
流れる星…
「流れ星!?お願いしなきゃ!!」
神様、滄我様、
もし叶えてくださるなら、
ワルターが生きてレジェンディアの世界に戻っていますように。
また会いたいなんて、望んでるけど、望みませんからっ…
あたしの幸せで楽しい、でもちょっと悲しい夏の10日間は
こうして過ぎ去ったのでした。
【END】
Ending - time to say goodbye
by KOKIA
*********************
離れていても前よりも あなた一緒に居るから
今 私 前向いて 歩き出せるよ
別れの数だけ強くなってゆく
瞳を閉じて いつでも会える
by KOKIA 『time to say goodbye』抜粋
後書き。
お疲れ様でした☆
こんなトコまで呼んでくださっているあなた様は神様ですね!?
神様、ヒロインのお願いを叶えてやって下さいっ!!
(笑)
きっと、ここまで読んでくださった方は、10話全部にお付き合いいただけたのだろうと思います。本当に有難うございます。
携帯だけで打ち始めた話が、最後はこんな形で半日がかりでパソコンで打つとわ!!ほしのきは単なるバカですな(苦笑
それだけワルターが好きだってことですね(←バカっぽい)毎日ワルターの事ばっかり考えていた日々が、これで少なくなるかもしれませんが。あはは〜なるのかな〜?
ワルターの服を色々頭で妄想して楽しかったです。とくに海水パンツ。ワルターは絶対ブリーフ型のが似合うはず!!!とか言いながらも、恥ずかしいのでお話中はトランクス型のつもりでした♪
あとあと、バイト編のカフェ店員姿!イラストにしたい衝動にかなり駆られました!!
10話の浴衣姿は、残暑見舞いのフリー絵そのままです^^その方がイメージ湧きそうかな、と♪
自分の書きたいように書けた乙女の逆トリップ夢!!!初めて書いたわりには良い出来だったと自負してみたり(笑)
(とりあえず、レジェ世界に花火がない事を祈る…!!)
ここまでお付き合い有難うございました!
この夢は、この後書きまで一字一句洩らさず読んでくださった皆様に捧げます。
感謝の気持ちでいっぱいです。
2006/09/01
ノビルサフラン ほしのき