「何故俺を締め出す!?」
「化けるからに決まってんでしょ!!」
あたしはワルターを部屋から締め出すと、バイトのためにお化粧を始めた。
「化けるとはなんだ!?」
「お化粧に決まってんじゃない!!」
ドアの向こうで文句を言う彼に叫びながら、あたしはお化粧を進める。
あんな目立つバイト、バッチリお化粧しなきゃ恥ずかしくてやってらんないもん!
「入れろ!」
「うるさい!ワルターのえっち!」
「なんだと!?」
最後のなんだと!?を境に、ワルターの声は聞こえなくなった。
どうしたんだろ?
ま、いっか。静かになったし。
「よーし、バッチリ!これで今日も割り切って張り切れる☆」
あたしは荷物をバッグに詰め込むと、ドアを開けた。
「行くよ、ワルター!」
ドアの横で座ってムッツリしているワルターに手を出す。
「……」
怒ってるのか、なかなかあたしを見ない。
「ワルター、ごめんってば」
促すと、渋々あたしの手を取って立ち上がった。
「!?」
「?どしたの?」
「……いや。行くぞ」
「はいはい」
あたしの手を掴んだワルターは、そのまま先頭切って歩き出した。
…場所わかってんのかな。
*
「ちゃ〜ん!!」
「あ、チサちゃん。おはよ」
「おはよ!ワルター君もおはよ!」
「……」
「挨拶くらいしなよ」
「いいって。ランちゃんももう着くって」
「ホント?
ワルター、ランちゃんはあたしとチサちゃんの幼稚園からの友達なんだ。スラ〜っとしてて美人なんだよ!絶対びっくりするから!」
「ほお」
そこはちゃんと反応するんだ(笑)もしかして美人好きなのかな。
「ワルターのことも話してあるから。
あとね、気をつけてもらいたいのは彼女が……」
「!チサ!お待たせ」
「あーっ、ランちゃん!」
「おはよ!
へ〜、ホントだ。まさにワルターだね」
ランちゃんは来た早々ワルターをじっと見つめた。そして、
「なんでモーゼスじゃないのさ」
と言い放つ。
あ、ワルターが怒ってる。
「さっき最後まで言えなかったんだけど、ランちゃんはめちゃくちゃモーゼスが好きだから気をつけてね」
「フン」
あらら。
「ワルターはおかんむりか。でも、私がモーゼス好きなのは譲れないぞ」
「譲らんでいい」
ワルターはボソリと言うと歩き出した。
ランちゃんは美人だけど口が悪いからな〜。
そこんとこがワルターの想像を崩れさしちゃったかな。
あたし達は笑いながら彼の後を着いて行った。
*
「ま〜っ!!綺麗な顔の男の子ねぇ」
「約束通りお給料上げてくださいね」
「わかってるわよ!今日は女の子のお客さんも増えそうだわ〜♪」
ふっふっふ。
ワルターを連れて来たのは何を隠そう、お給料二倍が目的なのよ!
「俺は売り物か。がめついことだな」
「…あたしには養ってあげないといけない痩男がいるからね」
「痩男!!」
痩男に反応すると、無言であたしの側を離れた。
痩男はいやだったかな(笑)
「さ、皆着替えて!!今日は盛大なお祭りなんだからお客さん多いわよ!!たくさん寄ってもらわないとね!」
店長さんは嬉しそうに叫ぶ。
あたし達は支給された服を手に取ると、奥の控室に入った。
「ワルターってホントに愛想悪いね。今日大丈夫なわけ?」
「ランちゃんキツいな〜。きっと大丈夫だって」
「ワルター君はちゃんのために頑張るから大丈夫だよ〜」
『え!?』
チサちゃん、いきなり何言ってんの!?
あわあわしてると、
「ほ〜、そういう関係か」
ランちゃんまで勘違いしちゃってるし!!
「違うわよっ!!」
あたしは大声で怒鳴ると、バンと扉を開けて外に出た。
後ろから二人の笑い声が聞こえる。
あたし、からかわれたんだ。
キーッ!!
ドシドシと足音を立てながらフロアに向かう。
やっぱりこの服恥ずかしいなぁ。
なんたって、メイド服だもんね。
あたし達がする一日バイトは、今日行われる大きなお祭りの出店。
出店と言っても、このカフェは毎年売上が1番だからすっごく大きいお店なんだよね。
それを今回は店長さん含めて五人で切り盛りするんだ。
って、ワルター本当に大丈夫かな。お客さん相手だし、すっごく心配。
とりあえず、男のお客さんの側には行かせないようにしなきゃだ。
ぶつぶつ考え事をしてると、人にぶつかってしまう。
「あっごめんなさい」
謝ってから、振り向いたその人を見てびっくり。
ワルターじゃん!
それも着替えてるし!!
「あっワルター!」
「か。ちゃんと前を見て歩…」
彼は言葉を途切らせてあたしをまじまじと見た。
う…何?
こんな恰好してるから恥ずかしいじゃない。
「……貴様、なんて恰好をしている!」
「え、だってバイトだもんしょうがないじゃん!」
「そういう問題ではない!」
「じゃあ、どういう問題よ!」
「それはっ…」
ワルターは口をつぐむと、視線をあたしの後ろにずらした。それに気付いて振り向くと、チサちゃんとランちゃんがメイドの恰好で歩いてきた。
「何やってんのあんたら」
「どーしたの、二人とも?」
二人できょとんとあたし達を見る。
『何でも(ないっ・ないぞ)』
反応した言葉が、ワルターと被った。
「ワルター君、すっごく似合ってるね〜」
「…」
「もー、怒らないでよちゃん」
「うん、ごめん」
あたしは溜息をつくと、テーブルを拭く。
だってさ、何て恰好してるんだ、なんて酷くない?
お世辞の一つくらい言ってほしかったな。
…まあ、それを言わないのがワルターなんだけど。
ワルターをチラリと見ると、彼は店長に色々教え込まれていた。
ぷくく…
眉毛が反り返って逆ヘの字になってる(笑)
そしてじーっと恰好を見てみる。
長袖の白シャツに黒いリボン、黒いベスト、黒いズボン、腰から下に長い黒いエプロン…それが金髪を栄やして似合ってる。
どっから見ても、カフェの店員さんだ。
これじゃ女の子もほっとかないよね〜。
「なんだ、ワルターに見惚れてんのか?」
「ランちゃん!違うわよ!」
もー…なんでこんなにいじめられなきゃいけないわけぇ…。
*
「いらっしゃいませ〜」
お店が開店!お客さんもぞろぞろ入ってくる。
「あ、お姉ちゃんコーヒーひとつ。ブレンドで」
「こっちはアイスティー!!」
目まぐるしい忙しさ!
「ナニコレ!すっげーうまいコーヒーだな!」
「この店の全てのドリンクは店長のこだわりがいっぱいなんです!本場ものなんですよ☆」
あたしは嬉しくなって説明した。
「キャー!!!」
その時、お店の奥から女の子の黄色い声。
まさか
「お兄さん!名前は!?」
「え、なになに?聞こえな〜い♪」
「ワルターって言うんだぁ。カッコイイ〜!」
やっぱり。
無愛想でも人気あるみたいでよかったよかった。
胸を撫で下ろすと再び仕事に戻る。
あたしもチサちゃんもランちゃんもワルターも、引っ張り凧で忙しかった。
「ちゃんのおかげで女の子のお客さんが増えて、売上が最高潮よ!」
「貢献できてよかったです」
「うふふ、でもあの子、もうちょっと愛想が良ければねぇ。女の子にはモテモテなんだけど、周囲の男の子にはねぇ」
確かにー。
女の子は凄いけど、男のお客さん受けがかなり悪いみたい。
嫌な予感するな〜。
「ハーブティーだ。疲労にいい。こっちはバナナミルクだったな」
ワルターは持ち前の身軽さで、テーブルの間を行ったり来たりしていた。
ワルターってこんなことすぐ嫌がりそうなのに、文句一つ言わずにやってるよ。
日が経つ度に、どんな奴なのかわからなくなってく。
変なの…
「おいっ!愛想悪いんだよ!!」
「………」
「謝れもしねぇのかよ!」
うわわわ〜っ!!
嫌な事が本当に起こった!
若い兄ちゃんに絡まれちゃってるよ、ワルター!
うわーん、ここで格闘繰り広げられたら大変!
きっとワルターが勝つんだろうけど、お給料がパアだ!
よおし…怖いけど一か八か…
「店長っ…」
「ふふ、わかったわ」
「もっと店員らしくしろよ!」
ワルターは胸をドンと押されて後ろによろける。
あっ、睨んじゃダメっ…!
「お客様っ☆」
「ん?何だ?」
「私共の店員が失礼いたしました。
お詫びに、私からお客様へのプレゼントがございますっ」
あたしはスカートをひらりんと靡かせてウインクした。
自分で考えると気持ち悪い行動だけど、こんな恰好してる女の子にこうされると特に男の人は弱いみたい。
「さあっ、当店自慢の特製ジュース。中には何が入っているかお楽しみです。さあっ飲んでみてください☆」
ジュースを若い兄ちゃんに渡す。
「お、おう」
兄ちゃんはグイっとそれを飲むと、ゴクゴクと飲み干した。
「わ〜っ!カッコイイ!良い飲みっぷりですね」
「そ、そうかぁ…?」
若い兄ちゃんは少し赤い顔で照れると、仲間のいる席に戻って行った。
ふう〜〜っ、毎年いるああいう客はあしらうのが大変。
そういうお客さんにはコレ!ちょっとした鎮静剤ね☆
違法なモノは入ってないわよ。
「おい、ネエチャン!こっちで俺らと写真とろーぜ!」
「は〜い!」
さっきの若い兄ちゃんの軍団。また騒ぎを起こされちゃたまんないもんね。
あたしはにっこり笑うと、ちらっとワルターを見た。
彼はあたしを睨んで、冷たい目で見る。
え…なんで?
あたしはそう思いながらも、彼を問い詰める暇もなく、お客さんの所に行った。
何で怒るの?ワルター…
「ワルター君、お疲れ様」
「……」
「何か言えよ、コラ」
「ちゃんは?」
「店長と話している」
「そっか〜」
「……」
「…ワルター、お前がに怒るのは筋違いだぞ」
「フン…」
「聞けよ!いつも一緒に居るからってな、お前だけのじゃないんだ」
「何を言う!!」
「図星でしょー?実はね、今日みたいなことはざらにあるんだよー。あたし達も絡まれたりするの。でも、いつもちゃんが助けてくれる」
「が…いつも?」
「そーだ。あいつはいつも私達を助けてくれる。あいつは何故か、化粧すると割り切って強くなるんだよなー。自信が持てるみたいでサ」
「そだよ、ああいう子なの。だから怒らないでよ、ワルター君の世界とは違うんだよ」
「チサ!!」
「あっ…ごめん」
「……」
「じゃあ、また後でな」
「…世界が違うのは、わかってるつもりだ…」
「あれ、ワルター?」
「!!」
「どうしたの?着替えないの?」
佇むワルターを見つけたので声を掛けた。彼はあたしに気付くと、無言で睨む。
「まだ…怒ってるの?」
「……」
「そっかあ、あの場はしょうがなかったと思って……なんてダメだよね。」
ワルターはこことは違うとこから来たから、ああいうときは本当は違う対応をするのかもしれない。
でも……
「ワルターも頑張って耐えてたもんね。本当なら殴り倒したかったでしょ?
あはは、あたしも本当はそうだったもん」
「…」
「だけど、なかなかそういうわけにはいかないからさ!…って、何言ってんだろね」
あたしは空笑いすると、控室に行こうとした。
「」
「ん、何?」
「…すまん」
「何言ってんの、ワルターは悪いことしてないじゃん。
それに、たくさんお給料もらったよ!いつもの二倍!ワルターの御蔭だし!これで明日買い物行こうよ」
ワルターはくすぐったそうに笑った。
いつもじゃ見れない顔が印象的過ぎて、あたしの頭に焼き付く。
見とれてしまうくらい、輝いててカッコイイ。
「…ワルター、そのカッコ似合ってるよ!カッコイイ!!」
「!!…フ…当たり前だ。
も………」
「え、何?」
「二度とは言わん」
そう言うと、ワルターは着替えに行ってしまった。
「バカ……聞こえちゃったわよ」
あたしは顔を真っ赤にして立ちすくんだ。
可愛いんじゃないか…
んなこと、言わないでよ。
【両親が帰ってくるまであと5日】
******************
第五話〜。
あれもこれも!と思っていたら長くなっちゃいましたー。
こういう、ありえそうでやっぱりありえなそうなありきたりな日常を書くのが大好きです!!
書いてるのが楽しくてしょうがないですよー!!
2006/08/27