うーん、眩しい。








窓から照り付ける太陽の光に当てられて、あたしは目を覚ました。



今日も晴れてる。











せっかくワルターという珍客がいるこの期間くらい、毎日晴れて欲しいよね。


…ふふ。あたしってば、いつからこんなこと思うようになったんだろー。









あたしはくすくす笑うと、ベッドの横に布団を敷いて寝ているワルターを見た。



ワルターってばさ、他に部屋はあるのにわざわざここに寝るんだよ。



何か予測できない事態が起こったら、対処するのがめんどくさいんだって。
何か起きたらとりあえずあたしに任すためにここにいるんだって。



なんだよそれって感じでしょ?



あたしは開けかけのカーテンをバッと開けると、ワルターの顔に日が当たるようにした。





こうすると勝手に起きてくれるんだ。










「眩しい…」

「おはよ、ワルター」

「ああ」








ワルターはおはようなんて絶対に言わない。返事するだけ。








「今日も天気がいいな」

「うん!絶好のお買い物日和だ!」







ワルターはもそもそ布団から出ると、お兄ちゃんの部屋に行った。
あたしもこのうちに着替えると、台所に下りていく。



今日はお買い物だからスカートを履いてみました!スカートなんて滅多に履かないから照れるー



あたし達は簡単な朝食を済ませると家を出た。


電車に乗ってちょっと遠くまで行くの。
駅まではバスに乗って…と。









「車…というのか、これは」

「そう。ワルターのとこにはないよね」

「ああ」

「電車も乗るのよ」

「電車……?機関車のことか?」

「うーん…そのようなものね」








今日は初めての遠出だから、ワルターが見た事ないものがたくさんある。
彼は何かに興味を持つと、あたしに聞くようになった。








「今日は何の買い物なんだ?」

「あれ、言わなかったっけ?」

「聞いてないが」







うわ〜っ、言った気になってた!!
かなり今更なんだけど、怒るかも…。







「あたしね、明日からチサちゃんとランちゃんと一泊二日で海に行くの」

「ほお、俺を置いてか」








無表情で怒ってるよ…。








「んなわけないでしょ!!ワルターも一緒によ!」

「俺も…?」

「うん。なんのためにバイトしたんだと思ってるの!

でね、今日はそのための買い物なわけ」

「そうか」

「……」

「………」

「買い物のメインを聞かないの?」

「メインなぞあるのか?」

「うん。

ワルターの海水パンツ」

「!!」














ボカッ













うわ〜ん、殴られた!!










「いった〜い!!何なの!?」

「何故それがメインなんだ!」

「え〜っ、だって本当にそれがメインなんだもん」

「……バカバカしい…」









ワルターはプンプン怒ると、あたしを置いて先に行こうとする。
あたしは彼の腕をガッシリ掴むと、逃げないように組んだ。















「あった〜!水着コーナー!」

「……」

「これどう?」







赤と黒のシマシマ。









ボカッ









「つ〜!」








また殴られた。
冗談だったのに。








「じゃあ…」







また選ぼうとすると、鋭い視線を感じたのでそっちを見てみる。


ワルターが冷たい目で睨んでるよ。









「あー、じゃあ、自分で選んでよ」

「…選べるか!」

「……じゃあ、どうしろっての?買わないでお兄ちゃんの使う?

嫌でしょ?」

「…が選べ」









えー!
嫌そうだったじゃん。








「ただし、真剣に選べ」








うわっ、怖い。

あたしは目を皿のようにすると、真剣に選び始めた。









「これー」








あたしは一枚の海水パンツを手に取って彼の前に広げた。









「ワルターに似合いそうでしょ?」








これが何枚目だろうか。
我が儘言って選ばせてるくせに、全部却下される。







でも、今度のは真剣に選んだから大丈夫なはず!!!








「まあ…いいだろう」

「やったー!!」






あたしは喜んで海水パンツをレジに持っていって購入した。







その後、他の入用なものを何個か買うと、デパートを出る。





あたしはワルターに荷物を持たせて、ルンルン気分でスキップする。

ふと気がつくと、周囲を歩いているのはカップルだらけ、それも凄い人数!!
お祭のときみたいに歩くのが困難なくらい。










「えっ何?」

「ここは人が多いな。迷子になりそうだ……貴様が」

「あたし!?なるのはワルターでしょ!ここ初めてなんだから!!」

「確かにそうだ」









ワルターは目を細めて笑う。








「逸れないように…手繋ぐ?」

「……無理だ。荷物がある」







…せっかく勇気を出して言ってみたのに。








「しかし、貴様の手は両方空いているな。……俺の腕を持て」







腕を持つ?掴めばいいのかな?









「うん、わかった」







あたしが腕を掴むと、彼は変な顔をした。








「何だか貴様に捕まえられている気分だ。やはり組め」







あたしは言われるがままに腕を組む。











まともにやると、恥ずかしい……!!











でも今日は周囲の目があんまり気にならないの。

ワルターは前と同じように目立って、カップルの女の子からもすれ違いざまに何か言われるけど(彼氏と一緒なんだからよそ見しなきゃいいのに)、今日はお化粧してるせいかな、堂々と歩ける。
いつも通りスッピンで家を出ようとしたあたしに、ワルターは化粧してけ!って言ったのよね。
スッピンのあたしは、そんなに見られない顔かしら…?




















「ねえワルター、家に帰る途中で一箇所寄りたいところがあるんだけど」

「しょうがない、付き合ってやる」










駅から家までのバスの間、あたしは彼に頼んで途中下車した。
ワルターは荷物を持っているにも関わらず付き合ってくれる。



あたしが行きたいのは公園。
昔よくお兄ちゃんと行ったんだ。









「今から行くのは公園なんだ、昔よくお兄ちゃんと行ったの。ワルターにも見せたくて。」

「そうか」








あたしは笑った。
思い出すな、あの頃の事。








「滑り台から落ちちゃって、落ちたあたしよりお兄ちゃんの方が泣いちゃって……、でもおんぶして家まで連れ帰ってくれたの」

「…いい兄なんだな」

「うん!!」

「兄……か」






もしかしてワルター、シャーリィとセネルの事思い出しちゃってる?
まずったかなぁ。








「あ、ここだよ!」







話していた公園に着く。
昔と一つも変わったところが無い懐かしい公園。







「入ろう」






あたし達が公園に入ろうとしたとき、中からボールがコロコロと外に向かって転がっていった。
そしてそれを追いかけて、小さな男の子が走って行く。









「えっ…」







この先は道路…あたしもよくボールを追いかけようとしてお兄ちゃんに止められたっけ。








あたしは急いで振り返ると、一目散に男の子を追いかけた。









「おい!!!!!」








ワルターの呼び止めにかまってる暇はない!








「待って、ぼく!!」






男の子はちょうど道路の真ん中でボールを拾ったところだった。
あたしの呼びかけにきょとんとした顔をする。







右から車が!!






咄嗟に男の子を突き飛ばした。
あたしはそのまま転ぶ。




男の子はあたしの突き飛ばしで歩道で転んでいた。







あそこなら大丈夫だ。

あとはあたしが逃げるだけ――――!!








って、間に合わない!!!









車はもうそこまで来ていた。
あたしが立つ瞬間をもくれないような僅差。






あたしは諦めて目を瞑った。










今までの事が走馬灯のよう駆け抜けていく。
これが、死ぬときなのかな?




ワルターもこうだったのかな……?














ぎゅっと瞑ってた目を開けた。



飛び込んでくるワルターの必死な顔。
















!!!!!」













あ、あたしの名前、呼んでくれてる……


























                 *
































ビュウゥと風を切る音。

生暖かい風が私の頬を掠めていく。






時には優しく、

時には鋭く、






これは一体…?









































…」

「う……うん…?あれ、ワルター…?」









あたしが目を覚ますと、飛び込んできたワルターの心配そうな顔。



…ち…近いっ!!









「大丈夫か?貴様は無茶しすぎだ」

「え?…そうだ、あたしあの子を突き飛ばして!!もしかしてここ、死の世界!?」

「っく…!」








ワルターは笑った。


あれ、あれれ?何で笑うのよ!!












「ここは、空だ」

「え……」










あたしの目に飛び込んできたのは、オレンジ色の太陽とそれに照らされて同系色になった雲。

あたしの視界の中で、ワルターはそれを全部背負っている。




何故かって?
それは…










「黒い翼……!!デルクェス!!!」

「そうだ」

「出せるの……!?」

「みたいだな」







ワルターはあの黒い翼を羽ばたかせて、あたしを抱いて空を飛んでいた。

うそ………夢みたい!!!









「素敵!!空を飛んでる!!!いつもは見れないような景色だ…」

「そうか、それは良かったな」








感動で胸がいっぱいになる。
空をこうやって羽を生やした人と飛ぶなんて、この世界で絶対あたしだけだ!!

嬉しい!!








「でもなんで?最初から出せたの?」

「いや、さっき貴様を助けようとして咄嗟に出せた」

「あたしを助けようと……、あ、ありがとう!!」

「//////」







お礼を言うと照れる。
これが、ワルターなんだ。







口や見た目でつっぱってても、中身は優しさとか照れとかいっぱいある。
本当はとっても、いい人なんだ。









嬉しくなって彼に微笑むと、ワルターはますます照れた。











「キレイな夕日でしょ。あたし、あの公園でこれをワルターと一緒に見たかったんだ」

「では、戻るか?」

「ううん、ここがいい。

いつもじゃ絶対見れない場所だもん」

「そうか」

「うん。

でもあたし重いよね?大丈夫?」

「なんとかな」

「なんとかって何よー!!」









自然な笑いが込み上げてくる。
とっても嬉しくて幸せって思う。










「ワルター、あの時あたしのことを名前で呼んだよね?」

「……」

「あたし嬉しかったんだ」

「だからなんだ?」

「……名前で呼んでよ」

「……






「なに?」

「……」

「もっと…ずっと呼んでよ」

「……また後でだ、

「……うん!!!」










心の中がくすぐったくて、
ふんわり暖かくて、











とっても満たされた気持ちになった。




































【両親が帰って来るまであと4日】




















********************

第六話です。
とうとう半分きりましたー。

今回は二人がもっと近づいた日です。
名前で呼んでなんて、ロマンチックな場所でないと恥ずかしくて言えない!!!(笑


2006/08/28