「けっこう遠くまでいくのか?」
「うん。電車を何個か乗り継いでバス乗って…」
「…もういい」
ワルターは呆れると、ホームのベンチに荷物を投げ出した。
そんなに呆れることかな。
「ちょっと〜行く気なくさないでよね」
「わかっている。ところで、あいつらはまだ来ないのか?」
「チサちゃんとランちゃん?」
「そうだ」
「あの二人は昨日から先に行ってるよ」
「そうなのか!」
「うん。あたし達はワルターの買い物あるから一日遅らせたの」
「そうか」
あたし達は電車に乗りこんだ。通勤ラッシュは終わってるみたいで、結構空いてる。
良かった。
通勤ラッシュに巻き込まれたら、ワルターはどんなに苛々することか(笑)
この電車に少し乗った後、次の電車は一時間か。
昨日は楽しみ過ぎて寝れなかったし、この電車で爆睡しちゃおっと。
「ワルター」
「なんだ?」
「次の電車であたし寝るから」
「昨日夜更かしするから眠くなるんだぞ」
「はいはい。ワルターってば、お母さんみたい」
「なにっ!?」
彼はショックを受けていたけど、あたしは無視した。
今日もホントにワルターは目立つ。
座った真向かいの椅子は女の子で溢れてる(笑)こんなに注目されて疲れないのかな。
「あ、ここだ。降りるよ!」
「ああ」
電車を降りて次に向かう。
初めてな駅じゃないから乗り換えがスムーズ。
「よく行くのか?」
「うん。毎年ね!あ、今年は二回目だよ」
「そうか」
やっぱりこの電車も空いていて、あたし達は座れた。
でも、角の席が埋まっているの!寝たいのに!!
「ど〜しよ〜」
角じゃないと、ガクガクしちゃって寝られないよー!
「、どうした?」
「あ、う〜ん…」
「?」
「ワルター、肩貸してっ!!」
「は?」
あたしは無理矢理ワルターの肩に寄り掛かると、勝手に寝始めた。
だって返事を聞いてからだと、絶対ダメって言うもんね。
…
夢心地で寝ているあたしの中に、何かが語りかけてくる。
最初はワルターかと思ったんだけど、よく聞いたら違うみたい。
…
「誰?」
我は滄我…かの青年の故郷の者…
「ワルターの?ってことは、レジェンディアのだ?」
そうだ…
かの青年は何かの行き違いで汝の世界に辿り着いてしまった。しかし、帰らなければならぬ。
「うん…。わかってる」
かの青年が故郷に戻るのは、十日目の夜、十一日目になる直前だ。
彼を、正しく帰してやって欲しい…
「…わかった。約束するよ」
ありがとう、。
彼を導いてくれて…助かる…
「どういたしまして」
そして滄我の声は消えていった。
そうだよね。
ワルターはレジェンディアの世界に帰らなきゃいけない。
それはわかってたことだけど……
なんだかとっても……寂しいよ…
「!!」
「うあっはいっ!!」
「…なんだその…うあっはいっ、というのは」
「返事よ。着いた?」
「わからん。どこで降りるとも聞いてないしな」
「うわあっ!確かに!!」
あたしは慌てて外の駅名を見た。
あ、大丈夫だ。
でも、次の駅だったから危なかった〜
「大丈夫、次だったよ」
「俺の勘も悪くないな」
「わかんないならすぐ起こしてくれればいいのに」
「………少し前に聞いてないことに気付いたんだ」
「ふーん」
変なの。普通すぐ気付くでしょー。寝てたのかな?
「ま、いいや。降りよ?」
「ああ」
電車を降りるとそこは無人駅。
あたしはベンチに座ると、横に座るようにワルターを促した。
「まだ乗るのか」
「うん。二十分後にくる電車であと30分」
「……」
「あ、飛んだ方が早いとか考えたでしょ」
「何故わかる?」
「ワルターの考えてることなんてお見通しよっ」
ワルターはクスと笑うと、後ろに寄り掛かった。そして腕を組んで寝始める。
「あれ、さっき寝なかったの?」
「貴様が寝ているのに寝られるか」
「あっ…ごめん」
おかしいなぁ。
だってずっと起きてたなら、降りる場所聞いてないの気付いてもいいのに。
「今度は、貴様が起きていろ」
「はいはい」
次の電車が来てワルターを起こすと、ちょっと不機嫌だった。
寝が足りないのかなぁ。
あ、でも次の電車の三十分はあたしが寝ちゃったんだよね。
今度はちゃんと降りる駅を告げて。
「起きろ、」
「う〜ん?」
「う〜んじゃない!着くぞ」
「ホント?
あーホントだ〜」
目を擦って辺りを見回す。
電車の窓から見える光景は、海一色だった。
「すごい、キレイ!」
荷物をほっぽらかして、あたしは窓にしがみついた。
「ワルターっ、キレイだよ〜!」
「そうだな」
あんまりつれない返事。
海に来たくなかったのかな…ワルターは水の民だもんね。
もっとキレイな海を知ってるんだろうな…
水の民……あ!
「ワルター、もしかして海水パンツはいらなかったんじゃ!」
「やっと気付いたか。俺は水の民だぞ、そんなものはいらん」
「買うときに言ってよ!」
「いや、ああいうものは陸の民が履くものだが、この世界には陸の民しかいないのだろう?したら、俺は服そのままで海に入ったら変人になる」
「おーっ、確かに」
「しょうがないから履いてやる」
ワルターはそう言うと、あたしの鞄を掴み、開いたドアからホームへ降りた。
あたしも慌ててそのあとを追う。
「さー!目指すはチサちゃんとランちゃんのところへー!!!」
ワルターから鞄を取ると、先導して歩き出した。
*
つ、着いた!!
歩いた!
暑かった〜!!
「まずは宿屋に荷物置きに行って着替えよ!」
あたし達は宿に荷物を置いて、水着に着替えた。
ワルターは最初、海水パンツを履いて上半身を曝すのを嫌そうにしていたけど、いざ外に出ると堂々としていた。
外では弱みを見せないなんて、ワルターらしいというか…(笑)
あたしはタオルを彼の肩に掛けると、手を握って浜辺に走った。
宿の後ろが浜辺だから、すっごい楽なんだよね。
「ワルター、見て見て!
ほら!」
腕を開いて見せる、長く続く浜辺。
「日本の海へようこそ!!
きっとワルターの世界よりはキレイじゃないけど、ここもなかなか捨てたもんじゃないでしょ?」
ワルターはフと笑う。
「いや、こっちの海の方が穏やかだ……」
「こっちの海の方が…?」
「帰ったら、こっちより穏やかになっているかもしれん」
「そうだといいわね」
穏やかになってるよ。
なんて言えないけど、ワルターが帰ったら平和になってる。
「だが、俺は海に還るからな。見ることはないだろう」
なっ…
「何言ってんのよっ!!ワルターは生きるの!生きるのよっ!!」
あたしが涙を浮かべながらムキになって叫ぶと、ワルターは目を見開いた。
そしてうっすらと口を開けると、何か言おうとした。
「………」
「あんたら何やってんの?」
「あ、ちゃん、ワルター君、いらっしゃい!!」
その時、浜辺から知っている声が聞こえた。
振り返るとそこには、チサちゃんとランちゃんがいる。
「…あ、ごめん。遅くなっちゃって」
「いや、いいけど」
ランちゃんは訝しげにあたしの顔を見た。
う、やばい。
あたしが泣きそうになってるのバレちゃう!!
「さ、泳ぎに行こ!!」
「あ、おい…ワルターも……」
不自然に促すあたしをおかしいと思ったのか、ランちゃんは逆にあたしを引っ張ってワルターの前に出した。
ワルターは何も言わずにあたしを見ている。
「何そんなトコにぼーっと突っ立ってんの!行くよ、ワルター!!」
あたしはちょっとほっぺたを膨らませながら言った。
― あたし、本当は怒ってんだからね!
あんな事言うなんて……嫌なんだから。
ワルターはあたしがほっぺたを膨らませてる意味が分かったのか、クスリと笑うと、
「すまない」
と呟いた。
あたし、ワルターが海に還るなんて絶対信じない。
たとえ、レジェンディアがそう示唆していても―……!!
【両親が帰って来るまであと3日】
******************
七話でーす^^
海編はあと一話続きます。
水の民はそのままの衣装で入るから水着なんていらないですよねー!
前回のお話では海水パンツにツッコめましたか?(笑)
そしてここまで滄我がっっ!!
逆トリップ夢ってなんでもありだー♪
2006/08/29