「こう見えても少しは泳げるのよ!」
「本当に少しだな」
「水の民のあなたには及ばないかもしれないけどさー」
「ふ…」
あたし達は海にぷかぷか浮かんで言い合っていた。
(というか、あたしが一方的に言ってるだけなんだけどさ)
「さっきから競争しようと言う割には、全然相手にならん」
「うるさいわねー!本気で相手しちゃってさ」
そうなの。
ちょっとは手加減してくれてもいいのに、ワルターは全然してくれない!
水の民なんだから、あなたが勝つに決まってるじゃん!
「ちゃん、ワルター君、待ってよー!!」
後ろから浮輪で近づいて来るチサちゃん。
彼女は泳げないからいつも浮輪持参なんだよね。
「っはあ〜!疲れたよー。二人とも早いんだもん」
「ごめんごめん。あれ、ランちゃんは?」
「疲れたから傍観してるって」
「あーそう……って、ランちゃん見てみ?」
あたしは浜辺で休んでるランちゃんを見た。
あたしの言葉でチサちゃんとワルターも浜辺を見る。
「あちゃー、まただよー」
「ホント」
「……」
呆れてしまう。
彼女が一人になると、どっから現れたのか男の人が寄ってくる。
美人は大変だなー。
「ねぇ、ワルター」
「わかった」
あたしが何も言わないうちに、ワルターは沖から浜辺に向かって泳ぎ始めた。
そして無言で砂浜をてくてく歩くと、ドカリとランちゃんの横に座った。
「阿吽の関係だねー」
「七日もずっと一緒にいればね」
「い〜な〜。私のとこにもジェイ君来ないかな〜」
「あのね、チサちゃん」
「わかってる。わかってるって」
「もー」
チサちゃんと戯れながら、あたしは再び浜辺を見た。
ランちゃんの近くにはワルターだけで、少し離れたところに男の人が立っていた。他にもなんと、ワルターを見ようと女の子達が集まってきてる(笑)
二人でいると、ホントに目立つなぁ。
それにしても、自分が目立ってる事を気にしないってのが尊敬しちゃうな。
「わざわざ上がってこなくてもよかったのに」
「の意見だ」
「ふーん、のねぇ。……の。」
「……」
「一日会わないだけで、名前を呼ぶまで進展しているなんて何があったんだ?」
「知らん」
「私は大丈夫だよ、慣れっこだから。それに、口が悪いから男の方が逃げていく。
お前はの傍に居てやりなよ」
「だからこれは、の言ったことだと…!」
「頑固だな。
の言ったことを忠実に守るのか。まるで騎士だな」
「なっ!」
「好きなんだろ?」
「………」
「ワルター」
「俺は、いつかの前から消える」
「…それは、お前がいつかの前から消えるから言いたくても言えない、という肯定ととっていいのか?」
「なんて女だ」
「はは…
そうか、いつかいなくなる存在だもんな、ワルターは。
何も言えない…か」
「……」
「私も、お前の意見に賛成だ」
「……」
「でも、を想うなら……」
「あの二人、何を話してるんだろうねー」
「そうだね」
「ちゃん、そろそろ日も陰ってきたし上がらない?」
「んーあたしはもうちょっと泳ぐよ」
「そっか。じゃあ、先に上がってるね」
チサちゃんは苦労しながら浜辺まで泳いで行った。
あたしは一人、沈む夕日を見ながら思う。
ワルターが帰るのは、十日目の夜。
あと…二日だ。
それまでに、何ができるかな。
あたし、ワルターに楽しい思い出をつくってあげられるかな。
それとも、いっそもう会えないなら何もしないで思い出が残らないほうがいいのかな。
ううん、…そんなの、もう出来ない。
今日までの思い出が鮮やかすぎて、あたしの胸に焼き付きすぎて、もう……忘れることなんて出来ないよ。
あたし、ワルターのこと忘れたくない。
ううん、それ以上に……
「」
「うわあっ!!ワルター!!」
「何故そんなに驚く?」
「べっ…別に!」
慌てて言うと、ワルターは微かに笑った。
彼は最近、微笑んでくれるようになったんだ。
ワルターは地平線の方を眩しそうに見ると、指差した。
「日が…沈んでいく」
「うん…キレイだね。」
「ああ。日が沈むのを一緒に見るのは二回目だな。
……あと何回、とこの景色が見られるだろう」
「ワルター……」
あたしは切なくて胸がきゅんと萎縮する。
ワルターも感じ取ってるのかもしれない、もうすぐ自分が帰るんだと。
あたしは俯いて勇気を出すように一回頷く。
そして顔を上げてワルターを見た。
「見られる限り、一緒に見よう!
あたし、ワルターと見たいもん」
「…
ああ…」
ワルターは嬉しそうに笑ってくれた。
この言葉があたし達にとっていいものかはわからないけど、今は、幸せだからよしとしようっと。
*
「満腹〜!」
「ホント、いっぱい食べたな、は」
「本当!ちゃんは大食いだよね」
「未来が見えるようだな」
「なにを〜〜!!」
あたしをいじめるみんなの頭をボカボカと叩く。
「さてと、お布団敷いて話しでもしよっか」
「うん!
あ、ワルター君はちゃんの横でいい?」
「は?」
「は?じゃないよ。みんな同じ部屋なんだから、慣れてるちゃんの横がいいでしょ?」
ワルターは目を見開いて白黒させている。
しまった、まだ言ってない!
「俺も…同じ部屋なのか?」
「う、うん。言うの忘れてた。
お金が足りなくて四人で一部屋に…」
彼は声が出ないくらい驚いている。
そうだよね。
あたしの他に女の子二人も…
「俺は外で寝る」
「あ、ワルター君待ってよ!」
ワルターが部屋から出ていこうとするのを、チサちゃんは引き止めた。
「なんだ?」
「私達気にしないから、ここに居てよ。
チカンとか来たら嫌だし」
チカンってチサちゃん…。
「……仕方ない」
ワルターもそんな理由でいいんだっ!?
彼はドカリと部屋の角に座ると寝始めた。
「あ、布団…」
「そのうち起きるから大丈夫。
先に布団敷いちゃおう!」
あたし達は四人分の布団を敷くとそれぞれの場所に寝っ転がった。
ドアの方からワルター、あたし、チサちゃん、ランちゃんってね。
「ワルター君って旅の人みたいだよね。あんなとこで座ったまま寝れるなんて」
「チサ、そのままだから」
「あ、そっか」
三人でくすくす笑う。
「今日も楽しかったね!今回はワルター君もいたから、ランちゃん助かっちゃったでしょー?」
「ああ。でもいつもより視線が多かったのは疲れたな」
ランちゃんはフウと溜息をつく。
あ、あのワルターを見に来た女の子達の視線のことかな(笑)
「こいつはあんな視線も気にならないのか」
ランちゃんが感心する。
けど、ワルターの性格だと、どっちかというとランちゃんより気にしてる気がするけど。
なんであまりそのことを言わないかは…きっと、
自分がこの世界の人と違うことがわかっているからだと思う。
「ふあ〜あ、私眠くなっちゃった。もう寝るねー!」
「私もだ。も早く寝ろよ」
「う、うん。二人ともおやすみ」
『おやすみ』
結局ほとんど何も話さないで寝ちゃったし。
あたしも寝ようかなー。
うーん…
ううーん……
うう…
寝れない………。
あたしはむくっと起き上がると外を見た。
窓から見える月がキレイ。
とっても神秘的。
浜辺で見たら、きっとキレイだろうなぁ…。
そう思うと、どうしても浜辺で月が見たくなってしまう。
皆寝てるし、ひとりで見て来ようかな。
あたしはそう決めると、そろりと音を立てないように部屋を出た。
「うわー!!すごい、ピカピカ!!」
外に出ると、キレイなのは月だけでなく星もキラキラ光っていた。
「大空を架ける川みたい…!!」
「詩人なことだ」
「ワルター!!!寝てたんじゃないの!?」
「あんな物音を立てれば誰でも気付く」
うそー!!凄い気を遣ったはずなのに。
「一人で外に出るとは、この世界に魔物はいないだろうが危ないだろう?」
「う、うん。そうだね」
「仕方ないから一緒に居てやる」
「ありがと」
ワルターは海を懐かしそうに見た。
「俺をここに連れてきたのは、お前の考えだろう?」
「えっ何でわかったの?」
「……言われなくてもわかる…。
の考えらしいからな…」
「え……」
ワルターは黙ると目を瞑った。
「懐かしい香りだ。
俺の世界の海は絶えず猛っている中で、時折優しさを見せてくれた。
その時の感じに似ている」
大切な思い出を語るように、一つ一つの言葉を紡いでいく。
ワルターの表情は暗くて良く見えなかったけれど、きっと、
優しく微笑んでると思う。
「この世界の海は、俺達の世界とは違う悲しみを持っているが、
素晴らしい事に、それでもこの世界に住む者達を愛おしく包み込んでいる。
暖かい…気持ちになれる。
こんな世界で育ったも、俺にとってはとても暖かい存在だ」
ワ…ルター…?
「お前に出会えて、本当に良かった」
ワルターの心に反応して、あたしの心も打ち震える。
泣いちゃいけない。
最後まで笑顔で、彼を見送るんだ。
あと二日。
ワルターとどんな思い出を作ろう……?
【両親が帰って来るまであと2日】
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第八話です。
今回はせつなめにきゅんと。
限りある恋はどんなに苦しいのだろうか…。
2006/08/30