近衛騎士の、名前だけは聞いたことがあった。
ジェイガン殿が「今年の志願者は骨のある者がいる」そう言った中の一人だ。
確か第七小隊の隊長を務めていたアーチャーだったはず。
実戦まで会うことはないと思っていたが、まさか非番の日に二回も会うとは。



それもこの場所で。



ここはアリティア城で最も危険な場所だ。
木の高さは城壁とほぼ同じ。身を隠しやすいくらいに葉も茂っている。
賊にこの場所を見つけられては、城内に入ってくれと言っているようなものだ。
マルス王子の思い出の場所と聞いて目を瞑ってはいるが…






「着眼点はいい」






この場所に目を着けて見に来たのは良い。
この城の者は誰もここが危険だと気付いていなかった。進言してやっと王子が気付いたくらいだ。
それを城に来て数か月の若者が気付くのだ。
さすがジェイガン殿に骨があると言わせた騎士だ。



だが……






「すー…すー…」

「無防備にもほどがある」






先程も注意したが、無防備過ぎる。
ぼーっと空を見つめてるだけではなく、寝てしまうとは。
私がいるから良いものの、誰もいなかったらどうなってもおかしくはない。
それも、仮にも女性だというのに。






「……」

「う…ん」






睫毛がそよ風に揺れ、眉間に皺が寄る。
少し唸ったと思ったら、こちらを向いて体を小さくした。
寒いのかと思い持っていたマントを掛けてやると、心地よさそうに握りしめて寝息を立てはじめる。






「まるで子供だな」






自然に笑みが浮かんだ自分に驚く。
彼女に笑わされるのは二回目だ。それも自然に浮かんでしまう。
しかめ面の恐い隊長だと言われてきた私が、まさかこんな小娘に笑わされるとは。

そういえば、私の名前を聞いてもピンとこなかったようだったな。
近衛騎士がアリティアの宮廷騎士隊長を知らないとは、本当に笑える話だ。
鋭いのか鈍感なだか分からん娘だ。






「さて、私は一体いつまでこの娘の寝顔を見てればいいのだ」






安心して眠っている顔をもう一度見、本を開いて読み耽った。











            *











だいぶ時間が経ったが、は起きる気配を見せない。
本を読み終えてどうしようか迷ったが、このままおいていなくなることは論外だし、ぐっすり眠っている彼女を起こすのはかわいそうだ。
そう思い、じっと彼女の顔を見つめていた。

頬に赤みがさし健康的だ。歳相応の雰囲気をまとっているが、努力家で献身そうだな。
こういう娘を妻にしたら楽しそうだ……て、私は何を考えているんだ。

熱くなった顔に手を当て、顔をそむける。
将来の事を考えてしまうのは、病気のせいだな。
溜め息を吐いて空を見上げる。

空に限りはない。しかし人の命には限りがある…それも長さは人それぞれだ。
そして私の命はあと少し。
まさか病にやられて死を待つなど思いもしなかった。
このままずっと王子に仕え、この国の行く末を見守り、力を使えると思っていた。






「あと少しの命で、何が出来るだろう」






そればかり考えてしまう。
今までやってきたこと以上の出来事を望んでしまう。



だから……






「やめだ、考えても仕方がない。せめて悔いが残らぬように生きれればいい」

「はい」

「!」






突然返事をされ驚いて振り向く。
するとそこには、起き上がって目を擦っているがいた。






「い、いつから起きていた?」

「今です」

「私の独り言を聞いていたのか?」

「いえ、特に聞いてませんでした」

「そ、そうか…」






病の事はマルス様以外には言っていない。だから今知られるわけにはいかないのだ。
が聞いてなかったことを聞いてホッとする。






「私、寝てたんですね。すみません…」






恥ずかしそうに顔を赤らめ、掛かっていたマントを手繰り寄せる。






「こんな時間まで付き合っていただいたあげく、マントまで掛けて頂くなんて、お詫びのしようがありません」

「いや、一人でいる時とは全く別の事も考えられた。この時間は悪くなかった、気にするな」

「アラン殿…」






マントを律儀にたたむと、彼女はそれを持って立ち上がった。
そして体に付いた草を払う。






「洗ってお返しします」

「いや、いい」






彼女の手から取り、ひらりと肩に掛ける。言い方が素っ気なさ過ぎたのか、は体を恐縮させた。






「次にいつ会えるかわからん。このマントは愛用しているのでな、明日使うかもしれない」

「あ、はい」

「……出来れば、詫びではなく礼の方がいい」

「えっ?」






目を丸くして私を見上げる姿は可愛らしいと思う。
この数時間で、私のに対するイメージはがらりと変わってしまった。
骨のある若者から、不思議な娘に大変貌だ。






「詫びは後味が悪い。礼なら心が温まる」






は嬉しそうに微笑むと、深々と頭を下げた。






「はい!ありがとうございます、アラン殿!」

「ああ」






心が温まり、再び笑みが浮かんだ。
不思議だ、という娘には他人を笑顔にさせる力があるのではないだろうか。

私はそのまま別れを済ませると、彼女を置いて城に入っていった。

次に会う時は戦場かもしれない。
アカネイアから良くない噂が流れてきていた。ハーディン王が圧政を強いていると。
真意が確かではないのでマルス王子には伝えていない。
しかし、何かが起こる気がしてならない。






、次に会う時は同志だ」






その時は、お前の才能を見せてくれ。





*************

若い女の子が隣で寝ちゃったら……(笑
アランは紳士だと思います。マイユニやるなぁ♪

2011/02/12


3話→