「ここは…」

「私達の軍だ」

「私達の軍……」














太陽の光を浴び、喜びに満ちた顔のナルニア人達が、テントの横で戦支度をしている。
それを見下ろしながら、私はアスランの首に片手を置いた。
フワリと暖かな体温が伝わってきて、思わずそのふさふさとした鬣に手を埋めてしまう。














「戦争なんてなければいいのに」

「その通りだ…」













私の呟きに、彼は重い声で答えた。
戦争なんてないのがベスト。でももうあると決まっているのだから、これからどうするかという道を考えていかなければいけない。
私はそう思い直すと、アスランに笑顔を向けた。














「魔女には負けないよ、大丈夫」

「ああ、













アスランは私を促すと先に下りていった。彼の体はしなやかに揺れ、トスンとその大きな足が地面に着く。
私は丘陵を見渡して自分一人でも下りれると判断し、ゆっくりと時間を掛けて下りていった。
きっとアスランもそのつもりだから私を置いて先に下りていったんだろうかね。

私がやっとこさ下に着くと、彼はクイと私の体に顔を押し付けた。














「我らがナルニア軍へようこそ、

「うん!」











私はアスランと一緒に野営地を見渡した。



カンカンと叩かれる鉄の音。そこから同じ様にジュッという鉄が冷やされる音も聞こえる。
他にも刃を磨ぐ音や、鋭く張られた弦を弾く音など、様々なものが耳に入る。

でも私の目には、美味しそうなスープを作っているとこしか目に入らなくて、口の中の唾が多くなった気がした。
















「後でもらうといい」

「えっあっ…ごめんなさい」

「いや、食欲というものは、人の生理的現象のひとつだ。お腹を鳴らしそうになったとしても恥ずかしいことではない」

「アスラン!」
















ハハハと笑う彼を非難して、もう一度野営地を見た。
するとナルニア人達はみんな、作業を止めて私を不思議そうに見ている。















「さあ、

「うん」















二人でゆっくりと歩き、一番大きなアスランのテントまでいく。
こんな大勢の目を向けられたのは初めてだった。セントールやフォーン、良い小人達だけでなく、ゾウさんやカバさんとか動物達。
ドリアードやナイアード、木達からも見つめられた。



こんなにドキドキしたことはないんじゃないかってくらい鼓動が早くなって、気持ちが高ぶる。
煌々と燃え上がるこの思いは、私の鼻を高くしてしまうんじゃないかってほど。
胸を張って歩いちゃったもん。


















、オレイアスだ」

















私が色々考え事をしている時、アスランは立ち止まって一人の男の人を紹介してくれた。
そのセントールの戦士は、思いきり見上げても顔がよく見えないほど背が高かった。
それに太陽の光も邪魔をして、思わず目を細めてしまう。

















「失礼」
















すると彼は少し膝を折ってお辞儀をしてくれた。
その優しさに感謝して、気取って頬にキスを返してみる。

















「はじめましてオレイアス。私は

「はじめまして。守人殿」

「?」















確か、白い魔女も私のことをそう言ってたっけ。
その『守人』という言葉の意味を聞く間もなく、アスランとオレイアスは話し合いを始めてしまった。
その内容が全くちんぷんかんぷんな私はその場から放り出された気分になると、二人を一瞥して離れた。



男の人って、戦いになると普段と違うって聞いたことあるけど、そうなのかも。
二人は誰も入れないような雰囲気で、会議を始めたみたいだった。

















そこから離れてふらふらしていると、小さな小川の横に立つ一本の木を見つけた。
なんとなくその木に見覚えがあって見上げてみる。















「きれい…。それにこの花は…」














まさかと思う。
だって、一千年も経ってるのに!!













美しく咲き誇る花から、ひらひらと花びらが舞う。
その花びらが不自然な風(言い方はよくないけど、そう見えるの)によって美しい女性を形どると、彼女は奥ゆかしく微笑んだ。

















ああ!なんてことでしょう!















私が本の中で何か台詞を言うならば、こう書かれると思う。
でも、私はこんな大人びた言い方しないから、私らしく言うね。
















「うそ!なんで…?」















彼女はくるくると舞いながら、私の前でお辞儀した。
そしてまた笑うと、私の手を取る。
















「あ…あの時はあなたが『守人』だなんて知らなかったんです。一緒にはしゃぎ回るなんて。あれは若気の至りというか…」















はにかみながら、彼女はかしこまって一千年前の出来事を謝罪してきた。
でもそれがとても可笑しくて、思わず笑ってしまう。














「何かしこまってるの?私達、親友じゃない!変なの」














そう言うと、彼女は怒ったようだった。














「まあ!変なのなんて、その言葉がどのくらい私を傷つけるか知ってるの!!」

「あはは、その方がいいよ。ドリアード」

「そうでしょうよ、そうでしょうよ!」














ドリアードはつんつんと怒ると、そっぽを向く。
お腹を抱えながら謝ると、ドリアードの機嫌は少しだけ改善されたようだった。















!元気だった?」

「うん!私ってば、全く変わったとこないでしょ」















私にしてみれば、ナルニアが誕生した時から一週間しか経ってないから当然だけど。















「そうね。でも私は千年経ったから歳老いたわ」














彼女は花びらで形どった髪の毛を払った。
確かに最初に出会った時の彼女は、私と同じくらいの年齢の女の子に見えた。
けど今は、美しい女性の姿になってる。















「いいなぁ」

「え、何が?歳をとることが?いやぁね、ったら。子供の時代が一番楽しいのよ」















なんか誤解を与えたままだったけど、特に否定はしなかった。
ドリアードの言った通りだもんね。美しい女性になることもとっても大事だけど、子供時代が一番楽しいって言うもん。
私達は再会を祝った後、その場に座り話し込んでいった。













数時間経って日が沈みかけた頃、私達の元にオレイアスがやってきた。
ズシンとした重い雰囲気を纏ったこの男性は、寝転んでいる私の顔を見下ろす。
















「風邪をひきます」

「大丈夫。こんなに暖かいもの…くしゅんっ」















言ったそばからくしゃみをしてしまって、二人にじとりとした視線を向けられる。
















「はーい、わかりました。テントに行って着替えてきます」














私はドリアードとの話の途中でコートを脱ぎ捨ててきたから、ちょっと寒かったの。
でもせっかくの話をやめたくなくて我慢してたんだ。





オレイアスってすごいよね。私が思ってることがわかるのかなぁ。




私がテントに入る時、オレイアスとドリアードの二人は何か言い合っていたけど、その内容は知る由もなかった。








































「『アスランの守人』にその喋り方はなんだ?」














オレイアスは咎めるように言った。しかしドリアードは頬を膨らませると抗議する。















「私とは、一千年来の親友なの。あなたとは違うのよ!」













腰に手を当てて得意顔で言うドリアード。
彼女はわざとオレイアスより高い位置に立った。














「……」

「残念でした。生きてる時間が違うわよ。歳上をもっと敬いなさいよね」

「歳上扱いをすると怒るわりに、何を言うか…」















ドリアードはくすくす笑う。
オレイアスは呆れると、溜め息を吐いた。






























                *



























「どう、似合うかな?」














私は貰った簡易なドレスを着てくるりと回った。するとスカートがひらひら舞っていい気分♪















「似合いますよ」














オレイアスはニヤリと笑った。
いつもはむっとしているだろうその顔が、こんな些細なことで緩むはずがないと思っていたから胸が高まる。
もっとニヤリとさせてみたいと思っちゃう。




そんなことを考えているうちに、オレイアスの表情は元のむっとしたものに戻ってしまった。















「あ〜あ」

「何故溜め息を吐かれる?」

「だって、オレイアスの顔がむっとした顔に戻っちゃったんだもん」

「元からこういう顔ですが」















他人事の様に言う彼をじっと見つめて、また溜め息を吐いてみる。
すると、オレイアスは不思議そうに私を見た。

















「…なんで他人みたいに話すの?」

「敬っているだけです」

「私は敬われるような人じゃないもん」

















それが当たり前かのようにオレイアスは言った。でも私、みんなと仲良くしたい。
敬われるような人間じゃない。
ナルニアを見守るのが仕事だってアスランに言われたけど、だからってみんなと普通に喋っちゃいけないなんて言われてない!!!

















「あなたはアスランの守人です。その時点で特別な人なのです」

「そんなの違う!

私は、みんなと同じにナルニアを守りたい!」
















興奮してつい大きな声を出しちゃったけど、オレイアスは冷静なまま私の言い分を聞いてくれた。
自分がわがままかもしれないって思う。
でも、私は敬われたいんじゃなくて…

















「私は、オレイアスと仲良くしたいの…」
















呟く様に言ったので、彼には聞こえなかったかもしれない。
でも私の目からは涙が溢れてしまって、とても格好悪かった。


















「っ…ごめんなさい」

















逃げるようにテントを出ようとした時、手首を掴まれて後ろに倒れ込む。
でもそのまま床に転ぶとかはなくて、がっしりとしたオレイアスの胸に抱き留められた。
















「オレイアス…?」

「すまない」

「え…?」















彼は、本当の彼の言葉で謝ってくれた。その優しい顔を見上げて頷く。

















「私ね、オレイアスとも仲良くなりたい」

「ああ…」
















彼はニヤリではなく、目を細めて優しく笑いかけてくれた。
ドキドキするくらいカッコイイ!


















「ありがとう、オレイアス」
















彼に屈むように言うと、その頬にキスをした。
すると、
















「…!」
















彼も、私の頬に優しいキスをくれた。

















*************

なんか、恥ずかしくなりました(笑)オレイアスはカッコイイですよね!
ムスッとしてるけれど、熱くて周囲をよく見てる。
そんな彼と他愛のない会話がしたいと思って書きました。
オレイアス話は続きます^^


ドリアードの名前募集!(笑)
いい花が見つからなかったので、名前無しになってしまいました。
我こそは!と思う方は、トップページのメールフォームから送信してね!
いいなぁと思ったものをほしのきの独断で決めます^^


2008/05/28







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