…
優しいキスをくれたこの男性を不思議な気持ちで見つめていた時、頭の中にアスランの声が響いた。
びっくりして辺りを見回したけれども彼はいない。
気のせいかなと思ってオレイアスを見ると、彼は何もなかった様に真っ直ぐ上体を上げた。
「ねえ、オレイアス」
「何だ?」
「今ね…」
オレイアスと共に来なさい
また聞こえた。
こんなにはっきり聞こえるんだから、気のせいじゃない。
私はオレイアスの体に手をつくと見上げる。彼は少し驚いて、私のためにまた上体を下げてくれた。
「どうした?」
「アスランが呼んでる」
「…アスランが?聞こえるのか?」
「うん」
彼は少し考えると、ゆっくりと頷いた。そして私の肩に手を置く。
「どうやって聞こえる?」
「頭の中に直接話し掛けられてる感じ」
「……そうか。では、行ってくるとしよう」
オレイアスは背を向けると、テントを出ようとした。
それを慌てて呼び止める。
「あ、私も呼ばれてるの!」
「もか」
くすりと笑ったその表情と、初めて名前を呼ばれたことに胸がドキドキした。
こんなこと、初めてだ!!!
私はそんな自分にもドキドキしちゃった。
*
「来たか」
アスランのテントに入ると、見覚えのある初めて会った人が立っていた。
ん、変な言い方だって?しょうがないよ。
私だってサンタクロースはわかるけど、そのサンタクロースさんには初めて会ったんだもん。
「初めまして、・」
「初めまして」
私はお辞儀をすると、その姿をじっと見つめた。
あの赤い服でもないし、白いボンボンがついたあの帽子も被ってない。もちろんテントの中だからソリもない。
でも、彼はまさにサンタクロースという感じだった。
「君にプレゼントを持って来たよ」
「わあ、ありがとう!!でも、私なんかがもらっちゃっていいのかな?家でも、クリスマスプレゼントなんてもらわなくなってからけっこうたつよ?」
こう言うと、サンタクロースさんは豪快に笑った。
あまりにも豪快過ぎて、こっちがポカンてしちゃう。
「それはサンタクロースの怠慢だよ。申し訳ないことだ」
彼はそう言うと、ウィンクした。
その後、サンタクロースさんは持っていた大きな袋から畳まれた服を渡してくれた。
もらった服を広げてみると、それは茶色の布に金糸の刺繍が入っている小さなベストだった。
「これは、何物でも貫くことがないベストだ。まあ、鎧と同じだ」
「鎧…。そっか、戦争だもんね。私にも鎧が必要だよね」
サンタクロースさんには悪いけど、鎧だったことに少しがっかりしちゃった。
これだって素敵なプレゼントだけど、戦争の道具でもあることはかわりないもん。
私はそのベストを畳んで抱える。
サンタクロースさんはそんな私を見て、困ったように笑った。
「だから、ベストなのだ。これは鎧ではない」
「はい…ごめんなさい」
「が着るべきだと思った時に着ればいいだろう」
「ありがとう」
お辞儀をすると、大きくてしわしわな手が私の頭に乗った。
そして優しく撫でてくれる。
「頑張りなさい」
深く頷く。
サンタクロースさんはゆっくりと手を下ろして颯爽とテントを出て行った。
見送りに出ると、彼は「また来年!」と言ってソリに乗った。
「また来年ね!」
思い切り両手を振って見送る。
ソリが空の彼方に見えなくなるまで見つめると、私はテントの中へ入った。
「、彼が向かったところはわかるかい?」
入った途端にアスランが聞く。
でも、私はサンタクロースさんが次に向かう場所なんて到底想像出来ない。
左右に首を振ると、アスランは満足そうに笑った。
「もうすぐ、彼らが来る」
彼らというのが誰かということは、私はわからなかった。
でも、アスランは他にいくつか質問をしてきた。
彼らの兄妹は何人かとか、本がどうのこうのとか。
聞かれればなんとなくだけど思い出せる気がする。
でも言われなければ思い出しもしない。
本なんて、一体なんのことやら。
「変なことを聞くんだね、アスランたら」
「いいや、大切なことなのだ。
…どうだ、オレイアス」
「その通りですね」
「なんのこと?」
「、君は何者にも左右されずに、君の生き方が出来る。
思ったように行動するのだよ」
「うん。ホントに変なこと言うね、アスラン」
私はくすくす笑った。
アスランとオレイアスは顔を見合わせて、何故か安堵の溜め息を吐いた。
丘陵の上でぼーっと座り、この後誰が来るんだろうと想像していた。
何か頭の中に引っ掛かるものがあるんだけど、よく思い出せない。
空を見上げては緩やかに漂う雲を見つめて、ぼーっとする。
私はここに座って、ずっとそれを続けているの。
「」
呼ばれて振り向くと、そこにはオレイアスが立っていた。
こんな丘陵によく、彼みたいな大きい体の人が登れるなぁ。
そんな事を思いながら見ていると、彼は呆れたように笑った。
でもすぐに真面目顔になると、私の横に置いてあるベストに目をやる。
「何が起こるかわからない。着ておいた方がいい」
「でも…」
「戦争は嫌なものだ。しかし、たかがベストを着る着ないだけでは戦争の何も変わらない。
いや…」
彼は私の横に来ると、足を折り曲げて横に座った。
彼が座ることがあるなんて、思わなかった!
だって、本では…!!
「本…て?」
「!」
今「本では」って思った。
私は本のこと、知ってるんだ。だからアスランは色々聞いてきた。
「…」
オレイアスが眉を寄せて心配そうに私を見る。
申し訳なくなって笑いかけると、彼は慎重に聞いて来た。
「本を知っているのか」
「ううん!ちがうの!『本当』にオレイアスは心配性だなって!」
私は即座に否定する。
だって、何だか私が本を知っていることにアスランもオレイアスも神経質になるみたいだもん。
誤魔化した方がいい。
「そうか……。
…はアスランの守人だ。怪我があっては困る」
「うん…」
オレイアスは子供をあやす様に私の頭に手を置いて撫でてくれた。
その動きが優しくて、でも少し切なかった。
「、命というものは自分だけのものではない。守れるものは、守れるうちに対策しておかなければならない。
がそのベストを着て自分の命を守ることで、たくさんのナルニア人が救われるのだ…」
私は頭の上の彼のごつくて大きな手を取ると、彼の方に押し戻した。
そんな行動を不思議に思ったのか、オレイアスは私を見つめる。
「…そっか、そうだね」
私は、アスランの守人だもんね。無事生きなきゃいけないもんね。
「?」
「ごめんなさい、ちゃんと着るから大丈夫!」
私はベストを掴んですっくと立ち上がると、オレイアスを置いて丘陵を下りていった。
きっと、私が変な行動したから怒ったかもしれない。
だけど、だけど。
私、嫌な子だ。
オレイアスにああやって「アスランの守人だ。怪我があっては困る」って言われたことに怒ってる。
でも、怒ってるのと同じくらい悲しいんだよ。
私は、私なのに。
私がアスランの守人だから生きなければいけないみたい。
守人って何なんだろう?
どうして、私なんだろう?
私が、アスランの守人じゃなかったらダメなのかな。
「……ダメ?何が?」
自分で考えてて何がなんだかわからなくなっちゃった。
でも、気持ちだけはもやもやしてる。
「私、どうしちゃったんだろ」
いくら考えてもよくわからなかった。
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オレイアスにドキリとしてしまうちゃんです♪
本の事は忘れているはずなのに、時々思い出してしまう彼女。
次はぺベンシーの三人が出てきます^^
2008/05/30
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