私はアスランと一緒に彼らが来るのを待つ。
彼らが、ナルニアに伝わる四人の子供達だということをドリアードから教わり、この軍はその助けを待っているのだと知った。
でも、本当は思い出しちゃったという方が正しかったの。
ドリアードが話すことを、私の脳はするすると受け入れていって…、その奥にあるドアを開けて衣装箪笥から毛皮のコートを引っ張り出すように、ひとつひとつその事実を思い出していったんだ。
だから、ここに来るのが三人だってこともわかってた。
「じゃあ、そのアダムの息子二人と、イブの娘の二人にナルニアを救ってもらうんだね。
それで、私は何すればいいのかな?」
テントの中で寛ぎながら、私はアスランに聞いた。
彼はゆっくりと顔をあげて左右に首を振る。
「それはの決めることだ。私が決めることではない」
「…そう…なの?アスランが決めるのかと思ってた」
「、それに関しては何度も言っているだろう。らしくやりなさいと」
私は窘められると、しゅんと体を小さくする。彼のたてがみが逆立った気がしたからね。
でも、絶対そんなことはないけど。
「私、とにかく自分を守ることから始めてみる。だって、サンタクロースさんがこのベストをくれたのはそういう意味が込められてると思うの」
「ああ、そうだろう」
アスランは目を細めて微笑んだ。
私は相変わらずベストを着ずに持ち歩いていたた。
オレイアスにはちゃんと着るって言ったけど、なかなかそういう気にならなくて。
着なきゃいけないと思うのに、何だかおかしい。
普通だったら、自分の身を守るためなら何でもするでしょ?
戦争なんだよ!
でも、そんな気にならなかったの。
何かの故意的力が加わってるみたいに。
「…外が」
耳に外のざわめきが入ってきた。何かに驚くような、そんなざわめき。
それと共にオレイアスの角笛が響く。
私は外が気になると、立ち上がって天幕に手を掛けた。
「少し待ちなさい」
「え?」
出ようとした時にアスランに止められてしまう。
私が不思議に思って振り向くと、彼はにっこり笑った。
「楽しみは取っておくものだ、」
外のざわめきが一段と大きくなり、私の心はそわそわし始めた。
そっか…!これは、きっとそう。
私達が、ナルニア人達が待った彼らの登場!
胸が高鳴る。
ナルニアの王、女王となる人達…どんな人なんだろう。
「やはり」
テントの隙間なくうろうろと歩き回ってる私に向けて、アスランは声を掛けて来た。
その声は寂しく、悲しそうに落ちたものだ。
私は驚いて彼の顔をみる。その堂々とした金色のたてがみは寝て目尻は心なしか下がり、眉間に皺が寄っていた。
彼がこんな表情をするなんて!
「アスラン…?」
「、君はやはり本の内容を覚えているのだろう?」
「!」
そうだった…アスランには私の心の中がわかっちゃうんだった。
どんなに隠しても、考えたらわかっちゃうんだ…
「、この前帰った時に本を何回読んだ?」
「…数えきれないくらい」
「そうか……それでは思い出しても当然だ。忘れるようにしたのは最初の数回分。少しずつあやふやになるようなしたのだが…。
それ以降は思い出しても致し方ない」
「致し方ない……って?」
「…いずれ、わかる。
とにかく今は、本の内容を覚えていることをオレイアスに知られてはいけない。
彼が望んでいるのは、不確定な未来だ」
アスランが言っていることはちんぷんかんぷんだった。
でも、オレイアスや他のナルニア人達にこの事を内緒にしなきゃいけないっていうのはわかる。
「うん。誰にも言わないって約束する」
「よろしい」
アスランはそう言うと、立ち上がって私の横に立った。そして首筋を私の頬に擦り寄せてくれる。
「あったかい。
…ごめんなさい、私。黙ってればアスランにも知られないと思ってた。…思い込みだったけど」
「そんなことはない。ただ、は仄めかす様な発言が多いのだ。癖かも知れないが、気をつけた方がいいだろう。いずれの時もだ」
「うん」
「…オレイアスはもう気付いているかも知れないが…」
アスランは呟くと背筋をピンと伸ばし自分は先にテントを出る。
私が一緒に出ようとすると、彼は私の足を止めた。そして、
「少し時間差があった方がいいだろう」
こう言うとくつくつと笑った。
「え、時間差って?」
聞き返したと同時に、アスランは出ていってしまった。
私は慌てると、彼が出ていった反動で揺れる幕を掴む。
どうしよう…
はたと行動を止めて外を覗き見た。
私と同じくらいの子二人と小さな子が一人が、アスランの前にひざまずいている。
あの三人がピーターとスーザン、ルーシーだ!
そんなことを思ってるうちに、彼らの話は進み、ますます出ていけなくなっちゃった!
「よく来たピーター、アダムの息子よ。スーザン、ルーシー、イブの娘たちよ。ビーバーたちもよく来た。礼を言う。
だが、四人目はどこだ?」
「そのことで来ました。お力が必要です」
「色々と問題が起きて…」
「弟は魔女の手に」
「捕らわれたのか?何があった」
「兄や姉妹を裏切ったのです。陛下」
言いにくそうにしているピーターとスーザンを気遣うように、でも率直にビーバーさんは言った。
その言葉に憤りを感じたのか、オレイアスは叫ぶ。
「我々への裏切りだ!」
「静かに、オレイアス。何か理由があるはずだ」
でもアスランはそれを窘めて再びピーターとスーザンに向かい合う。
二人は彼から目を逸らすと、小さく溜め息を吐いた。
そして、
「僕のせいです」
ピーターは真っ直ぐアスランの目を見た。
「厳しくしすぎて」
スーザンが兄を気遣って腕に手を当てる。
そして彼女もアスランを真っ直ぐ見つめた。
「私もです」
そしてルーシーもアスランを見つめる。
「私のお兄さんなの」
「わかっている。肉親の裏切りは深刻だ。
……救出は難しい」
話はエドマンドのことに移っていったけど、私はオロオロと聞いてるだけで、まだ出ていくことが出来ない。
ど…どうしよう。
だいたい、出てく時だってどんな風に行けばいいの?明るかったらおかしいし、くらくてもおかしいし…。
どーすればいいのかわかんないよー
「さて、紹介したい者がもう一人いる」
さっきとは打って変わり明るい声を出したアスランは、こちらを向いた。
そして私の顔を見てパチリとウィンクする。
私が出る番だ!
でも、結局どうするか決めてないよー!
ドキドキどころじゃなくバクバク状態で、私は天幕をめくった。
そして爪先でソロリソロリと歩き出した時、頭の中で声が響く。
堂々と歩きなさい、
その言葉を聞いてビクンと背筋を伸ばす。
確かに、猫背じゃ格好悪い。すると、
それと、笑顔だよ。
柔らかいアスランの声が頭に染み入った。
彼の声には包容力とか、励ましのようなそんな力があると思う。私は出来るだけの努力をして背筋を伸ばした。
誰かに笑顔を向けるのがこんな難しいと思わなかった。
だって、こんなに緊張してるのに笑わなきゃいけないなんて。
カチンコチンと固まったまま思い切って外に出る。
顔にはこれでいいだろうかという笑顔を貼付けて。
「おお…」
周囲から声が上がる。
でも、当の私は何が「おお…」なのかわからない。というか、それどころじゃない!
アスランの横に進み出てみんなに笑顔を向けた時、始めてなにが「おお…」なのかわかった。
ドリアードだ。
彼女は他のドリアード達を連れて私とアスランの回りを舞った。その花びらが陽光に輝きながらきらきらと私達を引き立てるお見事な演出!
その後はもう緊張が解れたも同然だった。
私達に注目しているナルニア人はたくさんいたけど、その一人一人の顔を見つめた時に私の心に新たな気持ちが芽生えたんだ。
「この人達を見守りたい」って。
だから大丈夫だった。
その気持ちを大事にしなさい。
アスランの声がまた聞こえた気がした。
私は彼ににっこりと微笑みかけ、ペベンシーの三人を見た。
「私は・。って呼んで!よろしくね!」
「私はルーシーよ!よろしく、!」
私の自己紹介に即座に反応したのはルーシィだった。
彼女は瞳をきらきら輝かせながら私を見つめている。抱きしめたいくらいカワイイ女の子。
その中には、純粋な美しい心が見えた気がした。
「スーザンです。よろしく」
次にスーザンが答えてくれた。彼女は笑うことなく私をじっと見つめている。
その中は、現実を冷静に見極める心の持ち主だと思った。
私は最後にナルニアの一の王になるピーターを見た。
彼は何も答えず、ただ私を見つめていた。驚きと不思議さにつつまれたような奇妙な眼差しだったの。
その真っ直ぐな眼差しを数秒交わした後、彼は自分の名前を言った。
「ピーターです、姫ぎみ」
なんとおかしな呼び方をするのか!
私はキョトンとしてしまって、アスランやオレイアスの顔を見た。
アスランは普通の表情だけど、オレイアスは満足気な顔付きをしている。
「…私は姫じゃない。だだのだよ、ピーター。
みなさんも、私はただのって呼んで下さい」
そう呼びかけると、ナルニア人達はざわめいた。
どうしてそこで悩む必要があるのだろうと思いながら困る。どうしたらこのざわめきは治まるんだろう?
「では、ただの、と呼ぼうではないか」
アスランが言った。
何か含みがありそうだったのでよく考えてみると、ひどいじゃない!
彼ったら、みんなに私のこと「ただの」って呼ばせようとしてるの。
「アスラン!」
「はっはっは、では『』挨拶も済んだことだし、君にはスーザンとルーシィのことを任せる。私はピーターと話をしよう」
「うん」
私とアスランは二手に別れ、私はスーザンとルーシィを連れて二人用に用意された天幕へと導いた。
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三人と出会いましたーっ!
ようやっとですよ、ホント。
そしてピーターの姫ぎみ発言。これからの展開が気になるところです☆
次は二人とのお喋りから始まります^^
2007/06/04
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