天幕の中は程よい心地良さで、三人で床に座り込む。地面はヒンヤリしていて、それはそれで気持ちいい。
さっきの緊張はどこかにいってしまい、今は大好きなナルニア国の女王である二人と向かい合ってる。
アスランと会ったことより劣るかもしれないけど、これも奇跡に近い。
夢みたい!
ドッキンバックンと胸を鳴らして二人の顔を見る。
すると、ルーシーが喋ってくれた。
「は私たちより先にここに来たんだね」
彼女の言葉にこくんと頷く。するとルーシーはにっこりと微笑んだ。
なんてかわいいんだろうっ!
抱きしめたくなる衝動を抑えながら、私はスーザンを見た。
彼女は私を警戒してるのか、じっと見つめている。
「スーザン?」
「あ、ごめんなさい。黒いサラサラヘアーがうらやましいと思って」
彼女は恥ずかしそうに言うと、目を逸らした。
嫌われてるんじゃないかと思ってたから、その行動はすごく嬉しかった。
もしかしたら女の子らしい話で仲良くなれるかもしれない!
「触ってみる?」
「えっ、いいの?」
「いいよ!でもスーザンの髪もいじらせて」
私たちはお互いの髪をいじっては、あみこんだり複雑な髪型にしてみたりする。
ルーシーは不思議そうに見てたんだけど、とうとう私を仲間外れにしないで!と大声を出したので、私たち二人は思いきり笑った。
「これに着替えて。最初は動きづらいかもしれないけど、すぐに慣れるよ」
「うわぁ!すごいドレス!」
「こんなの一回着てみたかったの!」
二人は大喜びで着替えると、きゃあきゃあと外に飛び出していった。
それを見送ると、私は一息つく。
「二人とも不安……だよね。だって、いきなり知らない世界に来ちゃって運命をかせられて…。エドマンドは白い魔女の元にいるし。
現実的なスーザンが一番苦しんでるかも」
私は、スーザンの手が少し震えていたのに気付いた。
ルーシーみたいにこの世界を全て知り、楽しむことが出来ないその気持ちのもどかしさ。
大人になってしまうのも嫌なのに、子供のままでいられない。
私もそうだもん。だから、数え切れないほどナルニア国物語を読んで、子供時代に回帰するんだ。
飛び出していった二人の服を畳みながら、いろいろな事を考えた。
この国の行く末とかいろいろ。
思い起こして気付いたけど、全てが本通りには進んでいない気がする。
どっちかというと映画の方みたい。
映画館で見たけど、CGが駆使されててすごかったなぁ…。
それが、現実として今ここにある。
セントールもフォーンもいる。
夢みたいだよね。
「きゃあぁっ…」
悲鳴が聞こえて我に帰る。
そうだった!川で遊ぶ二人にオオカミが襲って来るんだ!
スーザンとルーシーが危ない!!!
ボォーッ
スーザンの角笛が鳴る。それを聞いて私は天幕を飛び出して川辺に走った。
するとオオカミが三匹、一本の木を囲んで唸りなが見上げているのを見つける。
「やめて!」
その場にあった木の枝を掴んで、応戦しようと飛び出す。
小枝を振り上げて追い払おうとしたけど、オオカミはくるりとこちらを向いてニヤリと笑うに留まった。
「これはこれは守人どの。そんな小枝を持って、勇ましいですね」
そのオオカミはこの前、白い魔女に連れて来られた時に会ったモーグリムだった。
彼は馬鹿にしたような表情で私を見ている。
「その小枝で我々を追い払うと?これは傑作だ」
やっぱし完全に馬鹿にされてる!
まあ犬じゃあるまいし、確かに小枝じゃオオカミは追っ払えないけどさ。
モーグリムは困惑する私をクククといやらしい目で見る。
その視線を避けるように目を逸らすと、彼は喉を鳴らした。
「そうだ、良い提案をしてやろう。
この二人の命を助けるために自らを差し出すというのはどうだ?」
「えっ…」
こんな提案を出されるなんて思わなかったから、困っちゃう。
でも、もうすぐピーターが助けに来てくれるはずだから、行く必要はないよね…。
ピーターが来るまでの時間稼ぎだけはしなくちゃ。
「…」
「悩んでる暇はないぞ…」
これみよがしに、ぶら下がってるスーザンの足に噛み付こうとするオオカミ達。
はやく、はやく来て、ピーター!
心だけが焦る。
どうしよう、どうしようと思ってモーグリムを見つめるも、何も起こらない。
ピーターも来ない!
「…時間切れだ。
この者達を殺し、お前を女王の元に!」
えええっ!時間切れとかありえないよ!!
私は意を決してオオカミの間に飛び込むと、スーザンの足を木の上に押し上げた。
「!」
スーザンが安全なとこに登るのを見届けると、私はモーグリムを睨む。
モーグリムはニタニタ笑いながら仲間のオオカミ達と私の周りを歩いた。
「仲間を守る姿勢があって素晴らしいことだ、さすが守人と言われるだけある。しかし、自分はどうするのだ?」
「私は殺されたりしない。あなた達は私自体が必要なんでしょ?」
「…フン、頭のいい娘だ。
構えろ!」
モーグリムはオオカミ達に命令した。
すると彼らの動きはピタリと止まり、私を三方向から見据える。
しばらく睨み合いが続いた後、襲い掛かってくる!と思う瞬間が訪れた。
「行け!」
もうだめだ!連れてかれちゃうだけじゃすまないかも!
と思ってぎゅううっと目をつむった時、ピーターの叫び声が聞こえた。
「下がれ!!!」
彼は川を渡って、砂利を蹴飛ばす勢いで走り込んで来た。
その勢いに圧倒されて、モーグリムの部下は後ずさる。
「僕が相手だ!」
ピーターは両手で剣の柄を強く握り、その切っ先をモーグリムに向ける。
「やめろ。またこの間の繰り返しだ。お前には度胸がない」
「ピーター、気をつけて!!」
オオカミと対峙する彼に、スーザンが叫ぶ。
ピーターははっとして彼女を見たけれど、すぐにオオカミに向き直った。
そして慎重に剣を構える。
そんな彼の隙をついて部下のオオカミが彼を襲おうとしたけれど、野営地からアスランが走って来てオオカミの体を押さえ込んだ。
「!!!」
アスランの後ろには、鬼のような形相をしたオレイアスがいる。
見ているこっちが震え上がるほど、その顔は怖い…。
「剣を抑えろ、ピーターの戦いだ」
アスランの言葉に、オレイアスは剣を鞘にしまった。
そして怖い形相のまま、ピーターとモーグリムを睨むように見つめる。
「、こちらにこれないか?」
オレイアスの顔をじっと見ていると、彼は私の視線に気付いたのかそう言った…ようだった。
実際は声に出さずに口真似をしたので、私が読唇術をしたの。
辺りをちらちらと見回すと、もう一匹のオオカミが私の行動を不審に思ったのかマークし始めた。
「ダメ」
二言そう口真似すると、溜め息が出た。
これであのベストを着てないなんて知ったら、オレイアス激怒しちゃうだろうなぁ。
チラリと見た彼の表情はまだ怒っていたけど、それは私をマークしたオオカミに対してだった。
だって、オオカミのしっぽが股に挟み込まれてたもん。
ピーターとモーグリムの睨み合いはしばらく続き、ちょっと腰の引けちゃったピーターを嘲笑うようにモーグリムが言葉を発した。
「王になった気でいるが――お前は犬のように死ぬのだ!」
途端、モーグリムは勢いよくピーターに飛び掛かると、喉元に食いつこうとした。
けれど…
ピーターとモーグリムは重なったまま動かなかった。
周囲の草だけが、緩やかな風でひそひそと囁いている。
囁きが薄れた時、みんなはこの状態にハッと気付いて緊張は壊れた。
「ピーター!」
スーザンとルーシーが木から飛び降りてピーターの元へ向かう。
二人の顔が今にも泣きそうで、私も一緒にピーターのそばにいった。
そしてモーグリムの体を退かす。
黒くて硬い毛に覆われたオオカミは、ほんの少しの体温を残して冷たくなり始め
ていた。ごわごわと毛が絡み付き、まだ生きてるんじゃないかって恐怖を覚える。
けど、ごろりと転がるその動かない体に安堵した。
オオカミの下から出て来たピーターは、まだ剣を持つ手が震えてたけど、それは
恐怖ではなく武者震いなのかもしれない。男の子って、争いにのめり込んだりするもんね。
「よかった…」
起き上がったピーターとスーザン、ルーシーはお互いの存在を確かめるように抱き合う。
そんな彼らを見て、兄妹って羨ましいって思っちゃった。
「大丈夫か、」
感動してる私の頭を、オレイアスが優しく撫でてくれる。
彼の問いに頷くと、両手を挙げて彼の手の上に置いた。
「心配してくれてありがとう」
「…当たり前だ」
にっこりと笑うと、彼は目を細めてふと笑った。
「ぎゃわんっ…」
後ろで悲鳴が聞こえて振り向くと、アスランが押さえていたオオカミを離したところだった。
オオカミは尻尾をまいて逃げていく。
「追え!
……エドマンドのところへ」
アスランが叫ぶ。
彼の言葉にオレイアスは私の頭から手を離すと爽やかに笑い掛けてくれた。
それに少しときめきながら彼を見送って、ピーターの横に膝を着いた。
「ピーター、大丈夫?」
「大丈夫。君は?」
「大丈夫だよ。ありがとう、ピーター」
「う…ううん」
彼は少し赤くなると、スーザンとルーシーを見た。
…もしかして私、嫌われてる?
なんかあまりにもそっけなさ過ぎて、呆気にとられてしまう。
やっぱり、男の子は女の子みたいに分け隔てなく仲良くなれないものなのかなぁ…?
「!」
スーザンがピーターから離れて私のところに来た。
そして泣きそうな顔で抱き着く。
「わわっ、スーザン!どうしたの!?」
「どうしたのじゃないわよ!自分を犠牲にして私を救おうなんて…!無茶しないでよ!」
スーザンは抱き着いたままわんわん泣き出してしまった。
私は「ごめん」と呟くと、彼女の背を優しく撫でる。
「スーザン泣きすぎ」
「しょ、しょうがないでしょ!」
私達は泣きすぎなスーザンを見て大笑いした。
スーザンには申し訳なかったけどね(笑)
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ちょっとずつ仲良くなれればいいなぁと思います。ピーターは女の子苦手なんで
すかね?(笑)
スーザンとは女の子らしいところ、ルーシーとはナルニア好きのところでヒロイ
ンと話しが合いそうですね☆
2008/06/14
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