「今日は朝からありがとう」
「いいって。どーせ明日もやるんだろ?」
「うん。あ」
「ん?」
「今日の昼間もいいかな?」
「別にいいぜ、付き合ってやる」
「ありがとう、ヘラクス」
私はこうして剣の指南約束を取り付けると、ヘラクスにもう一度お礼を言った。
そしてテントに戻ろうと背を向けた時、彼が私の腕を掴む。
「なあ、…」
振り向くと、動揺した表情のヘラクスが私に何か言おうとした。
けれども、彼の後ろからオレイアス達が傷ついたエドマンドを連れて戻ってきたもんだから大変!
私はヘラクスのことをさっぱりと忘れてそっちに飛んで行こうとしたの。
「オレイアス!」
走り出した途端、掴まれていた反動で私の体はばねの様にヘラクスの元に戻る。
それでも私の瞳には、傷ついたエドマンドを気遣うオレイアスしか見えてなかった。
「」
オレイアスは私に気付くと歩みを止めた。そして他の動物達にエドマンドを任せる。
動物達はフラフラなエドマンドを支えながら、私達を通り越して野営地へと向かう。
そのゆっくりとした歩みを私とヘラクス、そしてオレイアスは見守った。
彼らがアスランのテントにエドマンドを案内したと同時に、張り詰めていたオレイアスの気持ちが解けるのがわかった。
私は彼を見上げると、微笑んでみせる。
「おかえりなさい」
「…ああ。
ところで、何故ヘラクスと一緒にいるんだ?」
オレイアスの目が冷たく光った。
何故こんな表情になるかわからないけど、やめて欲しいと思う。
「剣を教えてもらったの」
「剣を?何故」
驚いた彼は、私を穴が開きそうなほど見つめる。
それは冷たい瞳ではなかったけど、色んな意味でなんか痛かった。
「私、自分だけは自分で守れるようになりたいの」
「…そう…か。志は良いと思うが…」
「恐れながら…!」
オレイアスに反対される!
とぎゅっと目をつむった時、彼の言葉を遮るようにヘラクスの声が響く。
凛とした澄んだ力強い声。
それは、意地悪い本性でなく最初会った時の猫かぶりの声だった。
「様は、かなり剣の才能があります。やる気があるなら、育てた方が良い才能です」
「……お前が言うならそうなのだろう。
しかし…」
なおも反対しようとするオレイアスには、負けられないと思った。
だから、わがままでもどうにか貫きたいと思ったの。
「私、絶対に頑張るから。お願い!」
「……。
…アスランが、必要だと言うならば」
強く言い放たれた。
心なしか、その視線もキツイ…。
うっ…、アスランに話してないのバレバレだよー!
でもしょうがない、聞いてみるしかないし。
アスランには隠し事できないもんね。
「わかった。聞いてみる。
じゃあヘラクス、また後でね」
「はい」
彼は頷くと、自分のテントに戻っていった。
ヘラクスは最後まで猫かぶりをしていた。もしかして、オレイアスの前だったからかな。
なんか、気になるんだよね。
「ねぇ、オレイアス。ヘラクスって礼儀正しいよね」
ヘラクスの後姿を見つめながらそれとなく聞いてみる。
するとオレイアスは頷いて私を見た。その瞳は複雑な色を示している。
「あの歳であるはずなのに、礼儀正し過ぎる。も変に思ったのか?」
「ううん、特には思わなかったけど。でも、特異なんだって本人が言ってたから」
オレイアスは「ああ…」と思い当たる節を見せる。
やっぱりって思う。だって、ヘラクスはオレイアスのことかなり気にしてるもん。
三人で立っていた時、エドマンドを気にするオレイアスとは別に、オレイアスを気にするヘラクスの気持ちが流れ込んできたし。
「……彼は、星を読む力がない」
「星を読む?勉強すればみんな読めるんじゃないの?」
「それは違う。セントールには星を読む内なる力が生れつき備わっている。しかしヘラクスは、その内なる力がなく読むことが出来ない。
…星達に、嫌われているのだとも言われている」
「そんな…!」
そんなこと、絶対にないと思う!!!
だって、あんなに優しくて。……確かにちょっと突飛なとこはあるけど。
星に嫌われてるなんて言いがかりだよ!
「彼には星を読む力ではなく、戦う力が宿っている」
「戦う力?」
「ああ。彼は強き心を持ち、戦いに赴く気合を持っている。きっとが彼に剣の教えをこおうと思ったのも、それを感じとったからだろう」
うーん、ただヘラクスが朝早くそこにいたからなんだけどな〜っ。
別に何にも特別なことは感じてない。だって、誰にもかんじないもんそんな力。
オレイアスは、普通に喋ってくれるようにはなったけど、過保護というか…私を神格化してるとこがあるからなぁ…。
は普通のなのに。
「じゃあ、ヘラクスって強いの?」
「ああ。セントールの誰よりも」
「そう…なんだ」
でも、その力のせいでヘラクスは一人ぼっちなんだ。
だからみんなの前では猫をかぶって…。みんなに嫌われないように必死なんだね。
「…」
涙がぽろぽろと流れてきちゃって、私は袖で素早く拭う。
でも、止まらなくてぼろぼろぼろぼろ出てきちゃう。
「、どうした?」
そのうちオレイアスも気付いて、膝を曲げて私の顔を覗く。
でも理由なんて言えない。ヘラクスは頑張ってるから。
「目…目に、ゴミが入っちゃって…」
「………そうか」
彼は少し無言でいたけれど、すぐに頷くと膝を上げる。
そして立ち上がると、私の横にいてくれた。
「もう少しだから。
ごめんなさい」
「いや…」
オレイアスは、私が泣き止むまでずっと横にいてくれた。
テントのところまで戻ると、アスランがエドマンドを連れて出て来たところだった。
私達は鉢合わせをし、お互いを見つめてその場に佇む。
「エドマンド、彼女は、皆の大切な者だ。そしてその横にいる君を助けたセントールは、オレイアスだ」
「宜しく…お願いします」
エドマンドは青白い顔を強張らせた。まだ緊張が抜け切らないみたいで、震えている。
とてもかわいそうになって、その震える手に自分の手を添えた。
彼の手は一瞬ピクリと動き、やがて震えは止まる
「大丈夫だよ。誰もあなたを責めたりしない。
一緒に、戦おう?」
震えが止まったのを確認して彼に言う。
その怯えた様な瞳に何か強い力が宿ったようだった。
だって、ふと明るい色を見せたもん。
「うん、ありがとう。頑張るよ」
「その意気だよ。やがてあなたは強い王様になる。私は知ってるわ」
彼の手をぎゅっと握って言った。
信じて欲しい、そう思いながら。強く強く握り締めて私の心を流れ込ませる。
エドマンドの笑顔が見たい。
彼、きっと笑ったらステキだもん。
「では、行こうか」
アスランはエドマンドを促すと先に丘の上に進ませた。
そして自分は私の元に留まり、その優しい瞳を向けてくれる。
「、その気持ちは忘れてはならない」
「え?」
この言葉、何度アスランに言われただろう。
きっとこれからも数え切れないほど言われるのだと思う。
本当は、ナルニアで起こった事全部を忘れちゃいけないんだもん。
私はナルニア国を見届ける者だから。
「君が守るために剣をとるならば、オレイアスにも私にも止めることは出来ないのだよ」
「え……」
「決めた事は、最後までやり遂げなさい。それが私の言えることだ」
「アスランッ……」
軽い足取りでエドマンドを追っていく彼を呼んだ私は、何を言いたいのか考えた。
呼び止めたんだから、何か言いたいことがあるはず。
「……私、頑張るね!!!」
アスランは何も言わずに目を細める。
その優しい顔は、私に温かい心をくれた。
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アスランは何でもお見通しですねぇ^^
アスランにもオレイアスにもヘラクスにも、何か思うところがあるのでしょう。
そしてのーてんきなヒロインちゃん♪
これからどうなっていくのでしょうか??
次なる説話を待て!(笑)
2008/06/24
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