軽い朝食をとってテントから出ると、爽やかな風が吹いていた。
足元に生えている小さな草や、テントの横にこれ見よがしに立てられている黄色いアスラン軍の旗が靡く。
風は気持ちよく、私達生きている者を祝福してくれていた。
少し散歩をしようと歩き出した時、ちょうど同じようにテントから出てきたピーターと鉢合わせてしまう。
一瞬動きが止まったかのように見えた彼は、すぐに私に背を向けるとスタスタ歩いて行ってしまった。
「……私、何かしたのかなぁ」
あからさまに私を避けているようだったので、きっと私が何かしたんだと思う。
でも何をしたかなんてわからないよ。
普通に喋って、落っこちて…
…落っこちて…ああ…
「きっと、アスランに迷惑掛けてるだけの子だって思われちゃったんだ」
絶対そう。
ピーターの中では、私はただの役立たず…むしろ迷惑な子になったんだ。
ガックリしちゃうよ。
確かにそうなんだけど。全く役に立つどころかアスランの背中に落ちる大ばか者だもんね。
ああ、ダメだ私。
「……でも、これからは剣を使えるようになって強くなる!」
自分を守れるくらいにはね。
あはは、苦笑い。
「おはよう、。早起きね」
一人で悶えているトコに、スーザンが声を掛けてくれた。
私は振り向くと、彼女に笑いかける。
「あ、おはようスーザン。ちょっとね、用があって早起きしたの」
「ふうん、そうなの。朝食はまだよね?」
「あ、ごめん。先に食べちゃった。お詫びにスーザンが食べてるのを見ててあげる」
「そんなの嫌よ、私は……あっ」
歩きながら話していると、彼女はその先に何かを見つけたようだった。
私も目を凝らして見てみる。
あ、エドマンドとアスラン。
彼らは丘の大きな岩の上で向かい合って何かを話していた。
私とスーザンはゆっくりとそこへ向かって行く。
「……きゃっ」
上ばかり見上げながら歩いていたものだから、何かに腕がぶつかってしまいその何かを見る。
「!」
その何かはピーターで、ばつが悪そうに後ずさった。
「ごめんね、ピーター。私、上見てて……」
「いや」
彼は小さく呟くと私から目を逸らす。
やっぱり、あからさまに私を避けてる。
悲しいよう。
「エドマンド!!!」
後ろから大きな声がして振り向くと、喜ばしくてしょうがないといった顔のルーシーがいた。
彼女は今にもエドマンドとアスランの元へ走って行きそうだ。
ピーターは彼女を抱きとめると、一緒にエドマンドとアスランを見た。
すると、彼らもこちらに気付いたのかチラリと見る。
でもエドマンドの顔が一瞬曇り、すぐアスランに向き直った。
「無事だったのね」
スーザンが胸を撫で下ろすのを見て、ピーターは彼女の肩に手を置く。
ああ、やっぱり本物のお兄ちゃんは違うよね。
私なんかがピーターをお兄ちゃんと思うこと自体、間違ってるのかも知れない。
そのうちに、エドマンドはズボンの両ポケットに手を突っ込んで下りてきた。
アスランもその後をゆっくりと着いてくる。
エドマンドはまだ下ばかり向いていて私達の顔を見れないよう。
でもピーターもスーザンもルーシーも、そんなエドマンドを心待ちにしている。
三人が横一列に並んだので、私はその後ろでみんなを見守る事にした。
だって、本当の兄弟の再会シーンを邪魔するわけにいかないもん。
アスランと共に三人の前に立ったエドマンドは、やっぱりポケットに手を突っ込んだままで目を合わせられないでいた。
その横に立つアスランは三人の兄妹を見つめる。
「過去は過去だ。過ぎたことを話す必要はない」
彼はそれだけ言うと、立ち去ってしまった。
もしかして、私もここにいるべきじゃないんじゃないかと思ったけど、アスランみたいに立ち去る瞬間がわからない!!!
うわ〜、場違いな私…。
「やあ」
エドマンドは恐る恐るピーターを見上げて、眩しそうに目をしかめた。
ピーターもスーザンも嬉しそうに口を歪ませたけど、エドマンドの元に走りはしない。
だって…
「ああ…」
ルーシーにその役を譲ったんだもん。
嬉しそうにエドマンドに抱きつくルーシー。エドマンドも噛み締めるように彼女を抱きしめた。
それを見て、泣きそうなピーターとスーザン。
次はスーザンの番だった。
彼女はにこにこ笑うと、弟を抱きしめて聞く。
「大丈夫?」
「ちょっと疲れた」
エドマンドの顔には、もう笑顔が戻っていた。
見てるこっちが嬉しくて微笑んじゃうくらい、素晴らしい光景。
「少し休め」
ピーターはとってもお兄ちゃんらしい言い方をした。
エドマンドは顔をこわばらせると、彼の横を通ってテントに向かって行く。
でも、ピーターは再び弟の名前を呼ぶ。
「エドマンド!」
振り返るエドマンド。ピーターはニヤリと笑った。
「消えるなよ」
それを聞くと、エドマンドは嬉しそうに笑った。
エドマンドに朝食を用意しようということで、私はスーザンとルーシーと料理を取りに行った。
そこで世話しなく働いているビーバーの奥さんにエドマンドの話をすると、とても喜んでみんなよりもたくさんのパンを用意してくれる。
たくさんのトーストと卵を何個か持つと、私達はエドマンドが休んでいるテントに向かった。
まだテントの中で寝ているエドマンドを起さないように、私達はテントの外に布を広げて簡易なテーブルを立てる。
そこら辺はピーターに手伝ってもらったけど、彼はやっぱり私と言葉を交わすことも、視線を交わすこともしなかった。
変だと思うけど、ピーターが私と話したくないんじゃどうしようもないよ。
「おはよう、エドマンド」
そう思っているうちにエドマンドがテントから出てきた。
私は一番に見つけると彼に挨拶をする。
「おはよう、」
「何よエドマンド。といつの間に知り合ったの?」
「僕がここに来た時、オレイアスと一緒にいたんだ。アスランに紹介された」
「うふふ。そうなんだ」
彼の言葉に私も一緒に頷くと、スーザンは残念そうな顔をした。
どうしてかなぁって思って覗いてみると、彼女は頬を膨らましている。
「私がを一番に紹介しようと思ったのに」
「姉さん、そんなこと思ってたの?」
「いいじゃない、別に」
スーザンは溜め息を吐くとトーストを掴んでエドマンドに渡す。
エドマンドはそれを掴んで齧ると、止まらなくなったのか勢い良くがっついた。
「トーストはたくさんあるわ」
ルーシーがにっこり笑う。
エドマンドは頬張った口端をニヤリと上げた。
「帰りにも何かもらえる」
岩に寄りかかっていたピーターは、飲み物をクイと喉に流し込んで言った。
帰り?……帰ってしまうつもりなの?
「帰るの?」
不思議そうな表情の三人と私に見られ、ピーターは頷くと三人に向かって言う。
「お前たちはね」
ピーターは彼らの輪に入ると、ゆっくり腰をおろした。
スーザンは目を細めて訝しみ、エドマンドとルーシーは呆けてしまっている。
「みんなを守ると母さんに約束した。僕は残って手伝う」
真剣な話に移り変わっていく。
またもやここで、私は場違いな存在になってしまった。
だって、私は四人と違ってこの世界に来たんだもん。帰り方も違う。
「私たちが必要よ、4人一緒でないと」
「危険すぎるよ。お前もエドマンドも死にかけた」
ルーシーの言葉に声を荒げるピーター。
その心配は計り知れないよね。だって、三人のお兄ちゃんだもん。守らなきゃいけない気持ちが人一倍あるはず。
下を向いて彼らの話を聞いていたエドマンドが、小さく呟く。
「だから一緒に残ろう」
「……」
「僕は魔女の力を知ってる。この目で見た。
……ここの人たちを苦しませたくない」
エドマンドの言葉に、帰れと言ったはずのピーターは嬉しそうだった。
顔がニヤケちゃってる。わかっちゃうよ。
今の4人の中に、私の居場所はなく感じた。
だから、今ならいなくなっても誰も気づかないかもしれない。
私はゆっくりと、エドマンドが寝ていたテントに入った。
案の定誰も気付かない。
「…じゃあ、決まりね」
スーザンの声がする。
衣ずれの音がしたから、彼女は立ち上がったのだろう。
「どこへ行く?」
「弓の練習よ」
彼らは同じように立ち上がってその場からいなくなってしまった。
私はそおっとテントから外を見て愕然とする。
だって、誰も食器を片付けてないんだよ?私に片付けろって言ってるもんじゃない!
私はプンスカ怒りながら、みんなの食器を重ねて布に包む。
そして、食器を片付けてるだろうビーバーの奥さんのところへと向かった。
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年頃の男の子って、女の子を避けたりしますよね。
そういうのは、特別な感情を持っていたりするものです(笑)
でも女の子って凄く鋭いかったり、鈍かったりするので
気付かないことも多々あるんですよ〜〜〜。
ピーターとヒロインがそんな感じだったらいいですねぇ♪
2008/06/25
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