「重そうだな」
四人の食器を背負って運んでいると、上から声を掛けられた。
そんな喋り方をするのは一人しかないと思い、見ないで答える。
「そう言うなら手伝ってよ、ヘラクス」
「しょうがねーなー」
彼はぶつぶつと文句を言いながら、ヒョイと片手でそれを掴んだ。
そして持ち上げる。
すると急に軽くなった私の体は、バランスを崩して前につんのめってしまった。
けど、
「あぶねーっ!」
ヘラクスはもう片方の手で私をヒョイと掴んでくれた。
「ありがとう。ヘラクスって頼りになるね」
「だろ?」
「……そういう言い方しないで、謙遜したらもっとイイ感じなのに」
「あ?うっせ!」
ヘラクスは私をしゃんと立たせると、食器を包んだ布を掴んだまま高く飛び上がった。
そして目の前に着地したかと思うと、尻尾を私の顔にぺシンと当てる。
「いたっ!
も〜、何すんの!」
「あっはっはっ!」
彼は大笑いしながら私の周りを走り回った。
何だか楽しそうだよね。子供みたい!
でも、彼はビーバーの奥さんのところに着くと態度を豹変させた。
「ビーバーの奥方殿。食器をお持ちしました」
「あら、ありがとう」
ビーバーの奥さんは顔を赤らめながら(毛むくじゃらでわかりにくかったけど)食器を受け取っていた。
ビーバーの奥さんから見ても、セントールのヘラクスはカッコイイ部類に入るのかな。
う〜ん、複雑。
「さあ、用事も済んだことですし行きましょう。様」
「う……うん」
ヘラクスは食器を渡してしまうと、私を促して野営地から離れた。
彼はゆっくりとした私の歩調に合わせて、草原へと向かって行く。
私達は何も話さなかった。
きっと、野営地の中ではヘラクスの緊張があまりとけないってわかってたから。
あえて何も話さなくてもいいと思ったの。
「ここまでくれば誰にも見つからないだろ」
「そうだね」
ヘラクスは周囲を見回して誰もいないのを確認すると、二ヤッと笑った。
相変わらず爽やかな王子様顔なのに、意地悪そうな表情をすること!
言葉使いも元の荒いやつに戻すと、私の前で膝を折った。
そして一振りの剣を見せてくれる。
「、コレなんだけど」
「えっ?これどうしたの!?」
彼が私に見せてくれたのは、今朝の練習で使った剣よりも軽くて細い剣。
それは、私のためにあるようなものだ。
「あの後、武器庫で探したんだ。が使えそうな剣をさ。んで、あったのがコレってわけ」
「へぇ〜っ!」
私のために探してくれたんだ!
嬉しい!大切にしなきゃ!
「ありがとう!絶対大切に使う!」
「馬鹿!大切に使ってどーする!身を守れよ身を」
「あ、そっかぁ。ごめ〜ん!」
ヘラクスってすごくイイ奴!だってこんな事までしてくれて……友達になったばっかなのに。
この言葉使いも私に対してだけみたいだし。気を許してくれてるんだよね。
どうしてだろう?
「ねえ、ヘラクス」
「なんだ?」
「どうしてここまでしてくれるの?」
「えっ…」
ヘラクスは絶句すると、顔色を何色かに変えて慌てた。
でも最後には真っ赤に落ち着いたようで、口をぱくぱくさせながら私を見ている。
一体なんだろうと思いながら彼を見つめていると、観念したのか言葉を吐いた。
「……だって言っただろ」
「え?よく聞こえなかった」
「うっ……」
肝心な部分が聞こえなくて聞き返すと、彼はまた絶句して顔色をくるくる変える。
そしてまた口をぱくぱくさせて言う。
「友達だって、言ったから…」
「それだけ?」
思わず聞き返しちゃう。
私が友達になって欲しいって言っただけでこんなにしてくれるの?
私のこと、考えてくれるの?
もしかしてヘラクスって、良い人どころじゃなくて純粋なんじゃないのかな。
見たことないくらいな純粋なセントール。
なんか、いいな…こんな友達。
「それだけって、お前な!俺にとって友達ってのは……」
「ごめんごめん!私が悪かった。友達だもんね。
ありがとう、ヘラクス」
「っっ…お、おう!」
顔を真っ赤に染めながら頷く彼を、くすくすと笑いながら見てる私。
ヘラクスにはたくさん驚かされるけど、今回もすごくびっくりしたよ。
だから一緒にいると楽しい!剣も上達するしね!
「さって、練習すっぞ!この剣はな……」
「は〜い!」
私達は彼が持ってきた細身の剣を見つめながら、練習に入っていった。
*
「すげえな!はもう一人前だ!」
「本当?嘘ついてない?」
「ホントだって!なんだかこんなに早くうまくなっちまうなんて、の思い通りじゃねーか!」
「うん!うれしい!!!」
細身の剣の指南をしてもらって、実際にヘラクスとやり合う。
カンカンと剣を打ち付け合い、相手を睨んで威嚇する。
私の場合、威嚇出来るような顔してないんだけどね。
「そこを素早く突け!」
そんなことで私の場合、威嚇するには剣技で圧倒させるしかないんだって。
だから、この細身の部分を生かした素早い突きをたくさん練習したの。
「まあ、これで戦力にはならないにしろ、身を守るくらいは出来るだろ」
「よかった…」
ホッとして胸を撫で下ろすと、ヘラクスがぽんぽんと肩を叩いてくれた。
「で、鎧はどうする?軽いのがいいだろうけど、貫かれたら終わりだし…」
「鎧?あ、それは大丈夫。持ってるから」
「ん、そうか。用意がいいんだな」
「まあね」
鎧っていっても、ベストだけど。
何ものも貫かないって、サンタクロースさんのお墨付きだから大丈夫☆
私達は剣をしまうと、一息ついた。
肩の力を抜いて、ゆっくりと深呼吸をする。
見渡す限りの緑の絨毯。同じ方向に同じ角度で流れ、美しい波を表している。
私達はそこに風を感じ、草原と空を見渡して佇んだ。
これで、私はアスランの迷惑にならないはず。役には立てなくても、足手まといにはならないかな。
フウと深呼吸すると、空気がとても美味しかった。
こんな空気、元の世界に帰ったら吸うことが出来ない!
「なあ、ちょっと走らないか?」
「走るの?」
「まあ、走るのは俺だけど。は乗ってるだけ」
ヘラクスが意地悪く笑ったので、朝のことを思い出す。
お尻がぴょんぴょん浮いて、痛くなる記憶。
目を細めてジトリと見ると、ヘラクスは最初、キョトンとした。
けどすぐにハッとして笑う。
「フツーに走るだけだって。この風、感じたら気持ちイイぞ」
「わかった。そーいうことなら!」
頷いて見せると、彼は私を掴んで自分の背に放り投げる。
もう、そこは変わらないんだから!
またブワァッて体全体に当たる風。気持ちいいけど、時々強くて落ちそうになる。
でも今回はガッシリとヘラクスにつかまらなくても落ちるなんてことはなかった。
だって、彼も気をつけてくれてるのがわかったから。
「どーだ?楽しいか?」
「うん、とっても!お尻も痛くないし!」
「うっ…あれはしょうがないだろ。
……しかったからさ…」
また言葉の途中が聞こえない。
恥ずかしいことは小さな声で言うみたいなんだよね。
でももう、わかっちゃったよ。
言いたいこと共々ね!
「嬉しいなんて思ってもらえると、私も嬉しい!」
「!!聞こえたのかよ…」
ばつが悪そうに、でも顔を真っ赤にして呟くヘラクスが、何だか可愛かった。
「様〜〜!」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえて、ヘラクスに乗ったままその声の主を探す。
声が近くなったとこで、少し離れた所にピーターとスーザン、エドマンドとルーシーが馬に乗っているのを見つけた。
その前にはビーバーの旦那さんがいる。私の事を呼んだのは、彼みたいだった。
「ここにいらっしゃいましたか。よかった」
「私を探してたの?」
「はい。…ヘラクスと一緒ですか」
「あ、うん。ちょっとね」
ヤバイと思った。
だって、セントールである彼の背中に乗ってるなんて、良くないことかもしれない。
「ジェイディスがですね、アスランに会わせろと言ってきたんです」
「ジェイディスが!?わかった、すぐ戻るよ。
ヘラクス、私おり…」
「いいえ、僕に乗って行った方が早い。行きましょう」
彼はいつものように猫をかぶると、ちらりとみんなを見る。
特にピーターと目線を交わす時は、火花が散りそうだった。
男の子ってこう、なんで闘争心が強いんだろう???
「……うん、ありがとう」
私はそれを見なかった事にして、ヘラクスの肩につかまった。
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ヘラクス一色になっちゃった…。ま、いっか。
ピーターとヘラクスの間に何か戦争が起きそうでちょっと楽しいですね(笑)
次はジェイディス登場☆
2008/06/26
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