「うーん?」




起きたら朝。
お母さんったらなんで起こしてくれないのよ、とか思ったら、お母さんとお父さんは二人で旅行に行ってるんだった。
今日も明日も一週間、私だけの生活。




「もー、学校に遅れちゃうよ。……あれ?ちゃんと窓閉まってんじゃん。」



ふと窓を見て呟く。
昨日、寝ながら閉め忘れたと思った窓は、ちゃんと閉まって鍵まで掛けてある。




「?」




その代わり、きっちり閉めた筈の押し入れのドアが少し開いてる。
あのまま寝ちゃったから開くはずないんだけど。
ドアがイカれちゃってるのかしら。



「おかしいな〜。」



とか思いつつも、学校に行く時間が迫っていて気にしてる暇がない。
私は押し入れを開けると、制服を取った。
チェックのスカートに白いブラウス。紺色のベスト、紺色のブレザーを着て準備完了っと。あ、靴下も紺色よ。
チェックのスカートが映えて可愛いでしょ?
そして、最後に赤いリボンをブラウスの襟の下につけるの。ワンポイント!
私がそのリボンを取ろうと押し入れに手をつっこんだ時、何かぬるりとしたものに触る。




「!?」




押し入れの中にぬるりとしたものがあるわけないじゃん!!
と思って、手探りでぬるぬるしたものを触る。



ねちょ…



えぇ!?何、ねちょって!



固まりかけた蜂蜜を触ったみたい。それとも、犬にベロベロに舐められた時。
どっちかと言うと後者だろうな。



なんだか怖くなってきた!!…手を引っ込めようかな。



私が手を引っ込めようとすると、そのぬるぬるねちょりとしたものは、あろうことか噛み付いてきた。




「んんー!!!!!」




押し入れに手をつっこんで何かに噛み付かれて焦ってる自分って、かっこ悪い!!でも、手が抜けないし。



「助けて〜!」



とうとう声に出して助けを呼んでみたけど、誰もいないんだから助けも来ない。
噛まれていない手で部屋のそこらへんのものを掴むけど、何故かするりと抜けて掴めない。




あれ?私、だんだん押し入れの中に引っ張られてない?グイグイと体が押し入れの中に収まっていく。



「ひゃあぁっ!」



噛み付かれてるのは痛くないんだけど、(甘噛みってやつかな?)こんな事、非現実的過ぎてわけわかんない!!!
こんな事思ってたら私、とうとう押し入れの奥深くに連れ込まれてしまった。

はぁ〜。

























どさっ























「いった〜い!」
尻餅ついた。



恐くてぎゅっとつぶっていた目を、ゆっくり開ける。
何が起こったのかと目をしばたかせてみるけど、わかるのは此処が私の部屋じゃない事だけ。




だって、




真っ暗でなんにも無いんだよ!?
見えないと言うか。




ここ、虚無の世界?




何で私、こんなとこにいるの!?



頭の中は疑問符ばっか並んじゃう。



見上げた空は、真っ暗で辺り一面何も無い。何かを探すように差し出す手は何も掴むことが出来ず、ただ空を掴むだけ。
私は少し怯えると、心細い気持ちになる。
何も無い。私ただ一人。







どうしよう。







私が頭を抱えて悩んでいると、後ろから低く響く声がする。
その声は、深々と私の中に響く。
心地よい声。






「…よくぞ、来た。」






誰の声だろう?と思って振り返る。どんな人の声だろう?って考える。でも、
そこに立っていたのはヒトじゃない。










「アスラン…?」










私は一目でわかった。
そこに立っていたのはライオンだけど、普通のライオンとは違う…。
厳かというか、何と言うか…。
そう、とてつもなく偉い人、神様に会ったら感じるような心持ちになる。
私の心は、彼を見ただけでいっぱいになる。嬉しくて、自然に涙が出て来てしまう。でも、口には微かに笑みが浮かぶ。







「よくぞ来た、よ。」







彼は私の名前を呼ぶと、ゆっくり近付いて来る。

その足元では、彼が地面を踏み締める度にそこから新芽が生え、彼が通った所には、虚無の世界とは程遠い新緑が、命を紡いでいく。その後ろの空では、たくさんの星がきらきらと輝いて胃一気に空を明るく照らす。
そして彼の足元からは、だんだんと緑が周りに広がって、素晴らしい世界が出来上がっていった。その緑のひとつひとつの葉が、自分の美しさを競って輝いている。
彼らは見て、見て、と私に囁いているみたい。




私、こんな自然見た事ない。
ここは…広い、広い世界。



目の前に広がる草むらを見て、私は思いきり息を吸う。吐き出したくないくらい澄んだ空気。
ライオンは、ふと目を細めて笑うと、フウと口から風をもたらす。



暖かい風。
そこからも命が紡がれていく。
風は木々に当たり、葉や花びらを散らしてドリアード達が生まれる。
ドリアード達はひらひらと舞い降りると、私に手を振った。
私が小さく振り返すと、ドリアード達はにっこりと笑って花びらを散らした。










「アスラン、私は…」







私がそう言いかけると、アスランは私の頬に自分のたてがみを擦り付けた。
ふわりとくる感触が優しくて、思わずくすりと笑ってしまう。








「私がを呼んだのだ。」







私はそれを聞いて驚いた。でも、すごく嬉しかった。アスランに呼ばれて私はナルニアに来たんだ。(まだここがナルニアだとはわからないけど、直感的にそう思ったの。)
私は、アスランの鬣に手を添えると、力を込めて抱き締めた。
(何て恐れ多いことをしたんでしょう!)







「私、あなたに会いたかった。」







出てくる涙を隠すように、鬣に顔を擦りつける。
アスランは嫌がること無く、それを受け止めてくれた。






「さあ、進もう。、君はナルニアの始まりを見届けなければならない。」






彼は私に優しく言う。
そして、鼻を私の肩にトンとつけると、私を促した。








「私が、ナルニアの始まりを見届ける?」







アスランの言葉に嘘偽りはない。
それはわかってるけど…やっぱり疑ってしまう。


今まで本で読んできたナルニア国の物語を、私が見届ける?
実際にこの目で?
私の気持ちは、嬉しさと疑わしさでいっぱいになる。



なんで私なんだろう?



幸せであるはずのこの出来事をしっかり受け止められない自分がいて、私は悔しくなった。






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アスランと出会いました。


「私は、あなたと共に、この世界と共に、歩んでいく。」


2006/03/25


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