「ちょっ…ちょっと、こっちって、ジェイディスが向かった方じゃない!」
「ああ」
ああ、じゃないよヘラクス!
一体何考えてるの!?
すっごいスピードで走られてるもんだから、私も飛び降りれないし…。
ヘラクスはやる気マンマンだし。(何にやる気マンマンかははかんないけど)
どうすればいいのーっ!
ヘラクスの蹄がガッガッと地面を蹴る。
砂利や砂はその度に舞い散り、落ちていく。
空を見上げると、白い雲がすごい早さで流れて行くのが見えたけど、本当は私達が走ってるからそう見えるんだと思った。
「ヘラクス、帰ろう!」
「ダメだ」
彼の肩を揺らす。
でも私のお願いなんて聞いてくれなくて。
その背中は、何かを頑なに拒むよう。
私の声さえも。
「ヘラクス、みんなが心配しちゃうよ!」
「それは、に対してだけだろ!
俺なんかはいなくなればいいと思ってるはずだ!」
「!」
…それが、ヘラクスの本音なんだってわかった。
彼は苦しくてしょうがなかったんだ。
全ての痛みを内に隠して、何を言われてもポーカーフェイスして。
私も小学生の時、仲間はずれにされたことある。
あの頃は、順番が回ってくればだれしも仲間はずれにされるような、小さな子のお遊び程度のものだったけど。
みんなから無視されて、一人ぼっちで寂しかった。悲しかった…。
それ以上の感情を、ヘラクスは心の奥深くに刻み込んでる。
「わかった。付き合ったげる。
でも、どうなっても知らないよ」
「……」
ヘラクスは何も言わなかった。
ホントに何するつもりなんだろう?
そのうち、ジェイディスの兵士達の最後尾に追い付くと、ヘラクスはスピードを上げた。
兵士達は横を走って過ぎていく私達を捕まえようと、列を乱して走る。
けれども彼の足には追いつけずに右往左往するだけ。
私達はあっという間に、ジェイディスのところまでやってきてしまった。
「白い魔女、用がある!」
ヘラクスは私を背に乗せたまま、彼女の列の前に立ちはだかった。ジェイディス
はヘラクスを見て、私を見ると、部下に止まるよう指示を出した。
「何用だ?」
彼女は嘲りを含む笑いをしつつ言う。
やっぱり、失礼な人だ!
私がムスッとするのをよそに、ヘラクスは剣を抜いて自分の前に突き刺した。
「俺を仲間に加えろ!」
……ええーーっ!
な、な、何言ってんのヘラクス!
口をぱくぱくさせてヘラクスの背中を見つめる。
突飛なとこはあると思ったけど、今はもう何考えてんのかも理解出来ない気がしてきたー。
「アスランを裏切るということか」
ジェイディスは聞く。
しかし、ヘラクスは左右に首を振った。
「アスランは裏切らない。けど、あいつらは裏切る」
彼はわけのわからないことを言ってのけた。
アスランを裏切らないで、他のみんなを裏切るなんて出来ないでしょ!
みんなのナルニアなのに!
「なんと!豪快に言う奴だ」
「どうせ裏切るなら、俺は豪快に裏切る!」
あー、もう!何言っちゃってんの!
豪快に裏切るって…ハァ。
「ふ…。して、そなたを受け入れて私に何の特がある?」
「俺は、どのセントールよりも強い。
それと俺を受け入れてくれるならば、こいつを献上する!」
「えっ…」
こいつって、私じゃないの。
ほ…本気?
私ってば、献上品だったの!?
冷たい風が吹く。
ジェイディスがほくそ笑むのがわかった。
「でも、もう一つ条件がある」
ヘラクスの声が震えた。
そして、体もブルリと震える。本当の条件はこっちなんだろう。
「ほう、何でも聞いてやろう」
また、冷たい風が吹く。
ここはナルニア。生きている木々が、泣いているのがわかった。
しくしく、しくしく…泣いてる。聞こえないの?
ヘラクス。世界が変わる、そう泣いているじゃない。
ダメ、ヘラクス。
ダメだよ。
白い魔女に何を願うって言うの?
誰も声を発することなく、辺りはシンとしている。
私達も、ジェイディスの部下もたくさんいるというのに。
ヘラクスがこれから言う言葉が、どんなに大切かしらしめるかのように静か。
ヘラクスの喉がコクリと鳴る。
「俺を、星が読めるようにしてくれ…」
あ……
ヘラクスの本当の願い。
星を読むことだったんだね。
他のセントール達と一緒に、セントールらしく生きたいんだ。
でも、これが成立したらあなたは裏切り者だよ?
みんなと一緒になんていられない。
星が読めても、もっともっと一人ぼっちになっちゃうよ。
「ヘラクス…」
私は何も言えない。
これを阻止しても、彼のなにも変えてあげることが出来ない。
だから…
私はヘラクスの背中からおりた。
「…?」
「シッ、黙って」
くしゃくしゃになった表情で私を見る。
そんな顔しないで。
私、あなたが何を望んでいるのか気付かなかったんだ。
楽しませてもらったのに、友達になったのに、わかってあげられなかった。
だから、ヘラクスが望むならば。
私は……
「そういうことなの。
私は、あなたのとこにいく」
「そうか」
ジェイディスの気が高ぶるのを感じた。
そんなに、役にも立たない私を欲しがるっていうの?
捕らえられる前に、自ら彼女の元に行く。
だって、捕まるのは嫌だもん。
てくてく
てくてく
ピタッ…
彼女の前で止まる。
すると、ジナーブリックが私の片腕を掴んだ。
「捕らえました!」
ジナーブリックの甲高い声が響いた後、ジェイディスの兵士達から歓声が上がる。
「ふ……ははは、これで世界は私のものだ。アスランなぞ、いてもいなくとも同じだ!」
ジェイディスも高笑いを響かせた。
「そなたはわかっていただろうに。この私が、こんなセントールの願いを叶えてやるわけがないと」
「!」
ヘラクスが思い切り頭を殴られたような表情で私を見る。
そんなの見ていられなくて、私は目を逸らした。
わかってた、わかってたけど。
友達が望むならば、しょうがないって思ったんだもん。
「こいつのためか?健気な娘だ。
その気持ちに免じて、このセントールは殺さず石像にしてやろう」
なっ…!!
そんなの、ダメよ!許さない。
そんなこと、絶対させない!!!
私はジナーブリックの手を払うと、杖を構えたジェイディスに飛び掛かる。
「ヘラクス逃げて!」
杖から出た閃光は、間一髪で彼を掠めた。
それを見たヘラクスは、くしゃりとなっていた顔を元の爽やかな表情に戻して飛び上がる。
「くそっ!」
そして地面に刺さっていた剣を抜き、ジェイディスに切り付けた。
「フンッ…」
彼女はそれを避けると、腕にぶら下がってる私を払い飛ばした。
「きゃあっ」
それが幸して、私は軍から少し離れたところに落ちる。
「!」
ヘラクスはすかさず私を掴んで背中に放った。
お尻いたーい!
毎回同じ痛み。
でも今回は痛みを味わってる場合じゃない!
「、剣を抜け!」
「うん!」
私は左手でヘラクスに捕まり、右手で剣を突き出した。
襲い掛かる兵士達に突きを繰り出して威嚇する。
威嚇攻撃成功〜!!!
ジェイディスは本当に私が必要らしく、杖を振って石化しようとはしてこなかった。
そのため、私達はまんまと逃げおおせられたの。
****************
やんちゃな豪快さんに付き合う優しきあなた。
大切な者を一番に思えるのは、すごいことです^^
2008/06/30
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