それにしても、ナルニア軍のみんなに気付かれなくてよかった。
もし、今ここで戦争になっちゃったら困るもん。



本の通りにうまくいかなくなっちゃう。



あ、こういう考え方はダメなんだよね。
アスランに言われたじゃない。































必死に走るヘラクスの蹄の音が聞こえる。
ガッガッと地面を蹴って、野営地へと向かってる。



それを聞いていたら、緊張していた気持ちが解けて辺りを見回せる程の余裕が出てきた。
くるりと見回して、周囲の木々たちの静けさに安堵する。




きっと、もう安全なんだ。














気付くと、私はずっと剣を持ちっぱなしだった。
手は固まったように剣の柄から離れず、震えている。
カタカタと小刻みに震える手から剣を離すのは、容易じゃないことがわかった。

















「少し、休むか」

















ヘラクスはそう言うと、道から少し入った木々の下で私をおろす。
そこで立ち尽くした私の意識はぼーっとしていて、座る事も忘れてしまったの。














剣をとることに対して、頭がぐるぐるとパンクしそうだった。
だって、今回は威嚇だけだったかも知れないけど…次は。


















「…

「あっ……、何?」
















呼ばれて気付く。
そうだ、ヘラクスがいたんだった。



呼んだ割には何も言わない彼との間が嫌で、無理矢理にでも引き攣った顔で笑みを作る。


















「…無事でよかったね」

「……ああ」

「あのね、私…」
















今回のこと、誰にも言わないよ!

そう言おうとした時……



















!!!」


















道の方からオレイアスが走って来た。
いつも以上にすごい剣幕だ。



















「ヘラクス!一体、何をしていた!」


















彼が怒鳴ると、ヘラクスの体がビクンと震えた。
そして、恐怖の表情でオレイアスを見返す。





オレイアスはそれだけで何が起きていたのか悟ったようだった。

彼は勢い良く走って来ると、ヘラクスの顔を拳で殴る。
































ガッ…



















「きゃああ!

やめて、オレイアス!」



















止めに入ろうとしたけど、逆にオレイアスに止められてしまった。




















「お前、が我らにとってどれほど大切な存在かわかってないだろう!」

「っ…」

が魔女のものになるということは、ナルニアの…、

世界の終わりなんだ!!!」


















えっ…

世界の終わり?

オレイアス、何言って…



















「お前のつまらない願いのために、だけではなく、世界を犠牲にするところだったんだ!!!」

















私の体は、もう一度殴ろうとするオレイアスを止めに入った。



だって、そんな言い方…ない!

ヘラクスの願いがつまらないなんて言う権利、誰にもないよ!!!



















「……に免じて、お前は追放しない。

だが、二度とに話し掛けるな。お前とは比べものにならないほど、は尊い存在なのだ」


















ヘラクスは殴られた頬を押さえたまま、地面にうずくまっていた。
私達を見るではなく、ずっとどこか一点を見つめている。






でも、そのうちにぽつりと呟く。

















「…んで、追放しないんだ…」

















その肩はブルブルと震え、悔しさを滲み出していた。





























































涙がぼろぼろと零れ落ちて、悲しくて悲しくてどうしようもなかった。









だってみんなは私を大事にしてくれるけど、何にも返してあげられないもん。
私って、なんて役立たずなんだろう。

ほんとに、ただの足手まといだよ。
















ぼろぼろ…









ぼろぼろ…













ああ、涙が止まらない。
ずっとずっと流れてる。




































オレイアスが気遣って、横をとぼとぼと歩く私に声を掛けてくれた。
私の事、怒っててもいいのに優しいんだから。


















「もう、剣は離した方がいいだろう」

「あ…」















言われて気付く。
そうだ、まだ握ったままだった。




ゆっくりと指を開いていくと、関節と関節の間の肌が、赤紫色になってた。
あまりにも強く握ってたんだって思う。
絶対に離さないようにと強く。










落とさないようにゆっくり握り直して鞘に収める。
そしてオレイアスを見上げた。


















「オレイアス、私も悪いの」

















こんなこと言っても、何も変わらないのはわかってる。
でも、言わないと心がパンクしそうだったんだ。




















「そうかもしれない。しかし、言われなくてもわかる。を連れて行ったのはあいつの我が儘でしかない」

「そう…かもしれないけど。私も止められなかった」

、ヘラクスは確かに紳士的で魅力があるかもしれない、しかしまだ子供だ。

…愛を求める…子供なんだ。だからあまり優しくしすぎるな。付け上がる」

「……」
















オレイアスも彼が寂しいことをわかってるんだ!
じゃあ、何故彼を受け入れてあげないんだろう。
















「…もう、あいつは今以上の関係になるのは難しいだろう」















オレイアスの呟きに、私はヘラクスがかわいそうだと思った。
かわいそうで、いたたまれない友達。






セントール達はヘラクスを同じセントールだとは思っていないのかもしれない。
オレイアスだって……














私が、どうにかしてあげらればいいのに。

















「さあ着いた。は、アスランの元へ」

「う…ん」
















オレイアスはそれ以上話すことはないらしく、着いたばかりのアスランのテントへ入るように促した。
私はまだ話足りなかったけど、厳しい顔で促されたら、しょうがなくアスランのテントに入しかないよね。
とぼとぼと、気乗りしない足取りで入っていった。

















「おかえり、

「ただいま、アスラン。

ごめんなさい」
















私は聞かれる前に謝ってしまった。
だって、後で気まずくなるよりはいいじゃない。
















「先に謝ればいい、悪いはないのだよ。だから安心しなさい。

それにが起こしたことは、ヘラクスにとって彼が変わる一つの選択をもたらしたかもしれない」

「でも……」
















私はアスランの目を見た。
それは、深い悲しさを讃えている。















そっか、この後アスランは…















自分のことで精一杯で忘れてしまってたけど、この後のアスランの方がもっともっと大変なんだ!
私のことで彼を煩わせる必要はない。


だから、この話はもう終わらせなくちゃ。













私はアスランの元に行くと、休んでいる彼の体を抱きしめた。
ぬくもりがふわりと私の体に移り、幸せを感じる。



たくさん噛み締めておかなくちゃいけない。

















…」

「アスラン…。

アスランは私に言ってくれたよね?私がいなくなったらどうしていいかわからないって。

私もそうだよ!私も、アスランがいなくなったらどうしていいかわからない!」

…」

「だから、私と一緒にいて。いなくならないで!」
















抱きしめる手に力を込める。
離したくない、けど、これ以上煩わせたくない。















、私は君を煩わしいなんて思ったことは一度もない。

寧ろ、そう思うような出来事を体験しているということは、ナルニアを肌で感じているということなのだろう。

それは、とても素晴らしいことなのだ」

「素晴らしいこと?」

「ヘラクスのために、何をしてやれるか。ナルニアのために、何をしてやれるか。

考え悩むといい。自ずと答えは見つかるだろう」

「う…ん」

「私の言葉が信じられないかね?」

「アスランの言葉だもん!信じられるよ!

でも、自分に自信がないの…」

















しょんぼり言うと、アスランは何か言いかけた。
でもすぐに口をつぐむと、顔を上げる。
















、君が話すべき者は私ではない。もっと相応しい相手がいる」

「え?」

「大丈夫。今度はうまくいく…」















彼は私にとって不明な事を口にした。
抱きしめられてる手をひとなめし、私を立ち上がるように促す。



私ってば、促されてばっかだなぁ。
















、君がやっていることが良いか良悪いかはわからない」

「え?」

「未来とは、無限大なのだ」
















アスランははっはっはと明るい笑い声を立てた。
それはこのテントの中だけではなく、ナルニア全土が震えるようなもの。


















「ありがとう、アスラン」

「さあ、行っておいで」

「うん」














弾かれるようにテントから飛び出すと、自分のテントに向かって歩き出す。
最初はアスランの言葉が胸に残って元気でいられたのに、アスランのテントから離れていくとどんどん落ち込んでいく。

アスランが近くにいないだけで、こんなにも不安になる。
この後の事を考えると、どうすればいいかわからなくなるよ。


















「やっぱり、夜までアスランと一緒に……」














引き返そうとして方向転換したけど、足は動かなかった。
私が今アスランのそばにいることを、彼は望まないだろう。
それならば、戻らない方がいい。
















「でも、アスランがいなくなることを考えると……」













不安で不安で仕方ない。
恐くて、立っていると足が震えちゃう。


アスランは、私にとってこの世界の支えなんだ!!!



















「アスラン……、オレイアス……、ヘラクス……、動物達……、ナルニアのみんな……」

















私は、こんなに泣き虫でごめんなさい。
何にも出来なくてごめんなさい。















私はアスランのテントに背を向けて歩き出す。
ゆっくりと、涙を流しながら自分のテントに向かっていく。















かなり時間をかけて戻った時、私のテントの前に誰かいるのが見えた。
背の高い…男の人?

ゆっくりと近づくと、相手が私に気付いたようだった。

















?」




















あれ、この声は……

















「ピーター?」
















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はい。ちょっと気になるところで終了(笑
ヘラクス君は当分名前しか出てきませんよ〜。

次回は一の王と二人っきりでお話しちゃいます☆


2008/07/01







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