「ピーター…?」
「うん」
私の「あなたはピーター?」というような問いかけに、彼は頷いてくれた。
我ながら馬鹿げた問いだったかもしれないけど、泣いてたからそんなことはお構いなしだったんだもん。
私は泣き虫。
マユモからよく言われたけど、ホントそう。
どんなことでも、一度涙腺が緩むとメソメソ泣いちゃうんだ。
「、少し話さないか?」
優しく声を掛けてくれる。
穏やかな声が心地良い。
でも、泣いてる女の子なんてウザくないかな。
「う…うん。でも…」
「大丈夫。おいで」
ピーターは右手を差し出してくれた。
その優しさに触れたくて、思わず手を乗せてしまう。
私は、自分が甘えすぎだと思った。
しばらく手を繋いだまま無言で歩くと、ピーターは初めてたくさん話した丘の上に連れて来てくれた。
それは昨日の出来事なのに、あれからいろいろなことがありすぎてそうは思えなかった。
「座って」
彼の言葉に頷くと、私は草の絨毯に腰をおろした。ピーターは横に座ると、真っ正面の夕焼けを見つめる。
その顔は凛々しくて、昨日の彼とは大違いだった。
「どうした?」
「え?」
「泣いてるから」
「……」
彼は夕焼けから目を外すと、私の泣き顔を見つめて問う。
見つめられるのが恥ずかしくなって、袖を持ち上げて涙を拭った。
でもそれは、彼の手で止められてしまう。
「泣きたいときはたくさん泣いた方がいいよ。たくさん泣いて、スッキリした方がいい」
「…そんな…こと…」
そんなこと言われたら私、涙が止まんなくなっちゃうよ…
「我慢はだめだ」
優しい表情を見せてくれるピーターを見てたら、溜まってたものがどっと溢れ出してきた。
「うっ…うえぇん!」
いつもと同じ涙じゃない。全部をさらけ出したような泣きざま。
それでも、ピーターは何も言わずに横にいてくれた。
慣れた手つきて背中をゆっくりと撫でながら。
温かい…
そんな彼の存在が、私にはとても嬉しかった。
「ご、ごめんね」
「いいや。スッキリした?」
「う…うん」
ぐすぐすと鼻を啜りながら、持っていたハンカチのような布きれで顔を拭った。
そしてチーンと鼻をかむ。
「よしよし、スッキリしたならよかった」
「うん。とってもスッキリした。ありがとう、ピーター!」
「ああ…」
ピーターは私の顔を見つめる。
あまりにも真っ赤でぐしゃぐしゃな顔をしてたんだろう、くくくと笑われてしまう。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
「ルーシーが泣いた時に似てる」
「ルーシーに?」
「うん。エドマンドに意地悪されてね。でも、ここに来て兄弟が兄弟らしく戻った気がする」
ピーターは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、もう夜だというのにそこで咲き誇るひまわりのよう。
私の心も、グンと惹き付けられた。
「僕は今、ナルニアに来てよかったと思ってるんだ。
昨日、に言われたよね。ナルニアって素晴らしいって。
今は心からそう思える。素晴らしい……、だけじゃない。
美しくて、輝かしくて、魅力的で…、戦いが無ければもっと幸せだけどね」
ピーターはくすりと笑った。
そしてもう落ちきった夕焼けの色を追い求めてその瞳が動く。
彼が見つめたのは、下に並ぶたくさんの赤いテント。そしてその横でたなびく軍旗。
「ナルニアの平和を取り戻したい。僕は、やれるだけのことをしたいんだ」
「ピーター!」
彼の言葉に感極まって、私は思わず抱き着いてしまった。
するとピーターは私の頭を撫でてくれる。
「大丈夫。僕がを守る」
「ピーター……ありがとう。私も、ピーターを守るね」
彼から体を離して、ぐしゃぐしゃな顔で微笑んでみせると、ピーターは顔を赤らめた。
「…」
そんな彼を見て、心がきゅっと縮む。
あれ、なんだろうこの気持ち。
嬉しいような、恥ずかしいな胸の高鳴り。
彼はぽんぽんと私の頭を叩くと、ひと呼吸置いてニヤリと口端を上げた。
「の兄ちゃんだからな、俺が守るよ」
はにかんだその顔を見て、あれ?と思った。
そういえば、ピーターったら私を避けてたんじゃなかったっけ?
「ピーターって優しいね」
「?」
「だって、私の事避けてたのに…今はこんな優しくて…」
「そ、それは…」
そうだった。
避けられてたはずなのに、こんなに慰めてもらうなんて。
「私が全然役に立たない子だから、嫌になっちゃったんだと思ってたんだ」
「それは違うんだ、」
「え…違うの?」
ピーターはこくんと頷くと、真剣な眼差しで見つめてくる。
こんなに強い眼差し、違うという言葉はきっと嘘じゃない。
「僕は……」
ごくりと喉が鳴る。
もっとひどいこと言われたらどうしよう!
私、立ち直れないかもしれない。なんて、そんな事まで思ってしまう。
「僕は、が遠く感じたんだ。アスランと同じくらい、近くにいるはずなのに遠く感じた。
だから、近づいちゃいけない気がしたんだ。
でもこうやって僕の前で大泣きしてくれてさ、同じだって思えた。
だからごめん、避けたことは謝る」
「うん…!よかった!私、変な事しちゃったんだと思ってた!」
そう言うと、ピーターは目を細めて微笑する。
そして私の背中に両手を回して抱きしめてくれる。
「ううん……、
は変な事しても、美しくて輝かしくて、魅力的で…」
「えっ?」
胸がドッキンドッキンして、顔が真っ赤になってしまう。
そんなこと、誰にも言われたことないよー!
抱きしめられて赤くなってる私をよそに、ピーターはぎゅーっと一度力を込めて私を抱きしめると、パッと離した。
「…まるで、ナルニアみたいなんだ、君はね」
「ナルニア…?」
あ、ああそういうことね。
さっき、ピーターが言ってたナルニアが素晴らしいって言葉。
…もしかして、私も素晴らしいなんて……ないよね、絶対。
「そう。だから僕は、ナルニアとを守りたい。
もちろん兄としてだよ」
「兄として」をピーターは最後に慌てて付けたみたいだった。
兄として………、ううん違う。
四人の中に私は入れなかった。
だからピーターは私のお兄ちゃんにはなれない。
違うんだ。
「ピーター、やっぱりお兄ちゃんてのはナシにして」
「え…」
この時の彼の表情は、何故か悲しみというか淋しさを含んでいたの。
もしかしたら、本当に私のお兄ちゃんになりたかったのかな。
でも私、ピーターはお兄ちゃんじゃなくて…
「友達になって欲しいの!」
「友達…」
「うん、そう友達!」
ピーターは俯くと、肩を揺らした。
心配になって覗き込むと、彼は大笑いしてる。
「何がおかしいの?」
「ん、いや…何でもない」
「もう!笑いすぎ!」
何でもないと言うわりには笑うピーター。
じっと見つめると彼は笑うのをやめた。そして、
「あのヘラクスっていうセントールも友達?」
と聞かれる。
一瞬ぽかんとした私は、こくんと頷いた。
「うん、友達。オレイアスには反対されてるんだけどね」
「そうか…うん、友達な」
「?どうしたの、ピーター?」
「いーや、何でもない」
ピーターは私が食事を持ってくるまで、ずっとにこにこと笑っていた。
うん、友達になった事は嬉しいもんね!
きっと、ピーターも喜んでくれたに違いないよ!
よかった!
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優しいピーターを垣間見た気がします^^
ヒロイン視点からだからか、ピーターピーター言ってますな、しかし(笑
2008/07/01
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