見渡す限りの草原。
緑が風に流れ輝く大地は、私達を抱き込むように広がり、世界の大きさを知らしめる。
この世界から見れば、ここで戦いを待つ大軍の私達でさえちっぽけな存在にしてしまう。
ナルニアは約2500年続く国だ。
その年月から言うと、今日という日はちょっとした一日なのかもしれなかった。
仲間達の息遣いが聞こえる。
誰もが緊張を隠せず、震える指で武器を握りしめていた。
それは私も例外ではなく、ヘラクスにもらった細身の剣を汗ばんだ手で握りしめている。
周囲の緊張にまみれてみると、さっき考えてたことは全く違うということがわかった。
今日はちょっとした一日なんかじゃない。
少なくとも、ここに立ってる全員。
ううん、この世界に生きてる人にとって運命の日であることは間違いない。
もし魔女が勝ったのなら、間違いなく世界は彼女の手に落ちる。
そうしたらナルニアは、この世界はどうなるだろうか……
そう考えたら今日は、世界にとっても運命の日なのかもしれなかった。
ビュウゥ…
強い風が吹いたと思った時、偵察隊が私の横を飛び去った。
それに驚いた自分を窘める。
緊張しすぎだよ、私。
こんなんじゃ、誰も守れない。
いざっていう時に、起こることばかりに目がいって、起こすことを忘れちゃう。
草原から山肌に続いて私が立っているところまで、ナルニア軍がびっしりと埋め尽くしている。
彼らはアスランを示す赤色に黄色いライオンの旗印を掲げ、敵が向かってくるだろう真正面を一心に見つめていた。
私は汗ばんだ手を拭って剣の柄を握り直すと、軍の戦闘に立つピーターとオレイアスの背中を見つめた。
小さな岩場に立つピンと張った背中は、多大なる命と、国と…アスランの思いを背負っている。
その背中は、自分達は負けるわけにはいかないと語っていた。
ピーターがふとこちらを見て、眩しそうに目を細める。
私じゃなくて、エドマンドを見てたかもしれないし、ただ空を見ただけかもしれなかった。
でも私は微笑みかける。すると、彼が胸を撫で下ろした気がした。
私はこの世界を守る役目じゃないけど、見守ることが出来る。
それが私の役目だから…。
私がどうなろうと、最後までナルニアを見届ける。
その思いはどんなことがあっても変わらない。
ここにナルニア軍が陣を張る前に、ドリアードが私に会いにきた。
彼女は花びらを涙のように散らしながら、私を抱きしめたの。
「どうしてまで行くの?」
「私に出来る、唯一のことだから」
「戦いなのよ?怖くないの?」
ドリアードは私の服を引っつかむと、前後に揺らして叫ぶ。
苦笑しながら「痛いよ〜」と言うと、渋々ながらやめてくれた。
「戦いは怖いよ。でも、私は逃げたくないの」
「でも…」
「きっと…ううん絶対、私が逃げたいって言ったら、みんな許してくれる。だからしょうがないって言ってくれる。
でも、逃げたいって思ってるのに逃げられない子達はどうなるの?
私だけ許されて、許されない子達はどうなるの?」
ドリアードは私の勢いに尻込みした。彼女はまごまごと瞳を泳がせて私を見る。
「ナルニアを見守る役目なら、みんなを見届けなきゃ!逃げたら何も見届けることなく、後でアスランに怒られちゃう!」
「でも…アスランは…」
「アスランは死なない。絶対戻ってくるの。
私は信じてる」
そこまで言い切ると、胸のつかえがスッと消えた気がした。
それだけじゃなく、ドリアードの表情も和らいでいる。
「わかった。がそう言うなら大丈夫な気がしてきた!
私は戦うことは出来ないけど、応援することは出来るから…」
「うん!ありがとう、ドリアード!」
私達が抱き合った時、木々の生い茂ったところからパキンと乾いた音が聞こえた。
ハッとしてそちらを見ると、若いセントール。
金髪の巻き毛、吸い込まれるような青い瞳。
ヘラクスだ。
「あ…ヘラク…」
彼は一瞬目が合うと、すぐに立ち去ってしまった。
でも、その目が合った一瞬が気になってしまう。
彼の瞳は……とても悔しそうな、でもスッキリした表情だった。
もしかして、私を逃がそうと連れに来てくれたのかな…。
それをやめたってことは……
「私達の話を聞いてたみたいね」
ドリアードが言った。
「うん。でも、よかった」
「何が?」
「ヘラクスは大丈夫。持ってる力を発揮して、私達を助けてくれる」
私がそう言うとドリアードは疑わしそうな目で見る。
何かと思って見返すと、彼女はニヤリと笑った。
「紳士なヘラクス君にホの字かな〜?」
えっっっ!?
びっくりして彼女を見返し、慌てて否定する
「ヘラクスじゃないもん!」
でも彼女のニヤニヤは増すばかり。
「へ〜、ヘラクス‘じゃ’ないね。誰だかは聞かないでおくわ」
慌てて口を塞いでも遅かった。ドリアードは笑いながら、そよ風に紛れて流れていった。
みんな、ヘラクスが紳士だって思い込んでるから、始末に負えないよ!もう!
そんな事を思い出していたら、エドマンドに呼ばれているのに気付かなかった。
「!」
「へっ?」
「へっ?じゃないよ、もう。ってば集中して!」
「あ、ごめん」
私は彼に怒られて、半ば促されるように下を見た。
私達の軍は変わってない。
でも、ひとつ変わったのが…
「あんなにたくさん…」
ジェイディスの軍が草原の向こうに現れたこと。
こちらよりも、黒い点々が草原を埋め尽くす数が多い。
みるみるうちに黒い草原が広がり、体中が震えるくらいの大軍が草原を占拠し始めた。
「数では負けてるんだ」
「数なんかじゃないよ、エドマンド。気持ち次第なんだから!」
「うん。そうだね、」
彼は緊張の面持ちで見下ろした。
私達が見守る中、ピーターはこちらを見た。
エドマンドがそれに深く頷くと、ピーターは正面を見据えて剣を抜き放つ。
キイィィン…
その音がこだまし、私の耳にも届く。
彼の剣は、この戦いを待っていたかのようだった。
パッパパーパパパパー…
明るめの角笛の音が響く。
うおおぉぉぉっ!!!
その音にナルニア軍が沸き立つ。
槍を地面に突き立て、戦いの気合いを音で示した。
ドッドッドッ
リズムよく鳴る音につられ、私の心臓も跳ねる。
気を抜いたら、体ごと跳びはねそうだった。
この戦いで決まる。
今までは本の通りだった。何も変わったとこはない。
だったら、アスランはきっと甦って私達を助けにくる。
でもそれは私が読んだ本の出来事であって、これからこの戦いがどうなるかを示したものじゃない。
何かが少しずつ変わって、アスランが間に合わないかもしれない。
そんなことがあるかもしれない。
アスランが言った未来が無限大というのは、こういうことだろうと思う。
だから、私は手をこまねいて見てるだけにはいかないの。
それじゃあ私がここにいる意味がないから。
アスランは戻ってくる。
信じてる。
でも彼が戻って来た時のために、私にも何か状況をよくすることが出来るかもしれない。
だから、絶対に諦めない。
ウオオオォォォォ!!!
ナルニア軍の数倍の勢いで、ジェイディスの軍が沸き立った。
そして、その先頭にいるミノタウロスが大きな斧を振り上げる。
「来る…」
エドマンドが呟いた。
「突撃!!!」
ミノタウロスはここにも聞こえるような大声で叫ぶ。
するとジェイディスを囲む真っ黒な軍は、こちらに向かって走り出した。
喉がごくりと鳴った。
戦いが始まる。
世界の戦いが。
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ヒロインの意気込み的話になりました☆
アスランがいないなら、自分の出来る事をやるだけですね!
27話からは、ぜひサントラのTHE BATTLEの曲を聴きながら読んでもらいたい…!!!
(私の文章の稚拙さを覆い隠すために…!笑)
2008/07/07
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