繋がれた手は、変な汗が出てぬるりとしている。
繋ぎ直そうとすると指が縺れてうまくいかないの。

それに、走りながらも何度か試して繋いだエドマンドの手は、異様な冷たさを放っていた。


















「エドマンド?」

「ごめん、緊張してるんだ」

















緊張してる。そう言った彼の表情は焦りが見えていた。
緊張という二文字の言葉で片付けられてしまったけど、彼の顔にはそれ以上のものが表れていたんだ。
けれども、それを詳しく言い表したところで何があるわけでもないから言わないね。












カツンて石に躓いて転びそうになったところを、彼に助けてもらい再び走り出す。
崖下に見えるナルニア軍は、突き出した岩に足をとられながらも必死に敵を引き付けている。



私達はそれを窺いながら、崖の上に構えた。



















、一人で立てる?」

「大丈夫」

















足がすくんだわけじゃないけど、何故か足に力が入らなくてふらついてしまう。
エドマンドに助けてもらいながら、しゃんと立った。


















「僕が守るから、大丈夫だよ」

「うん、ありがとうエドマンド」

















ナルニア軍が息を切らせながら走ってくる。
そして、それを追い立てるように1番後ろを走るピーター。
白馬のいななきが聞こえる。




はらはらしながら見守り、どうか無事にたどり着きますようにと願う。



































でも、やっぱりそれは起こった。
私の祈りなんて、最初から無視するように。


































岩場から出て来たジナーブリックが、ピーターに向けて矢を放ったの。
それはあろうことか、白馬の後ろ脚に命中。そのまま転倒してしまう。


















「ああっ!」

















私は思わず声を上げて、口元に手をあてた。するとエドマンドもピーターの状況に気付いて目を見開く。
でも、彼は取り乱したりはしなかった。




















だからね、オレイアスは私の驚きを見て後ろを振り向いてしまったの。



















彼はピーターが地面に転がっているのを見ると、隣にいたサイさんと目を交わした。
サイさんは、ブルルと鼻を鳴らし、前足を地面に叩き付ける。



二人は示し合わせて、そのまま敵軍に突っ込んでいった。




















「オレイアス!!!」



















私はもう、冷静ではいられなかった。岩場を下りようと足を踏み出した。





















!」

「離してエドマンド!このままじゃオレイアスも…!」

「駄目だ!離さない!」






















エドマンドは強い力で私の腕を掴む。そして、絶対に離さないと凄んだ。



















がいなくなったら大変なことになるんだよ!ここでみすみすそんな危険をおかす必要はない!」

「でも!」


















オレイアスの背中を見る。彼は迷いなくある場所に向かっていた。
ジェイディスのとこだ。























「やめろーーーっ!」





















ピーターの声が響く。
彼の横を風の様に駆け抜けていくオレイアスとサイさん。



このままじゃ、オレイアスが石になっちゃうよ!
その話も変えられないなんて、私は本当の役立たずだよ…。



















「うおぉぉぉぉ!」



















立ちはだかったミノタウロスを双剣で倒し、最後の剣を抜いてジェイディスを切り付ける。
けれども彼女は、それを悠々とかわして振り返ったかと思うと…






















「オレイアスーっ!!!」





















私の叫びは空しく、魔女の杖は激しい閃光を放ち彼を包み込む。



そしてそこに、生々しいオレイアスの石像を作り上げた。


























「いやあぁぁっ!」



























それが信じられなくて、悔しくて悲しくて、ジェイディスに報復したい気持ちでいっぱいになった。
歯を食いしばって剣を握り直すと、私は走り出す。



エドマンドは私の豹変に驚いた拍子に手を離してくれたし、セントールの女性達は戦況を見て応戦し、私を止めるどころじゃなかった。



















「許さないっ…」


















自分の下りられそうなとこを見つけてぴょんぴょん飛び下りる。
そして戦っているみんなと同じ場所に降り立つと、剣を構えた。




エドマンドは慌てて追ってくる。ピーターは私に気付いてない。
そしてジェイディスはソリから降りてピーターの元へ向かってる。



















「やあっ!」



















とりあえず、襲い掛かって来たドワーフのナイフを叩き落とす。
って、ナイフで襲い掛かってくるなんて、どんだけナメてるんだって言うの!



























!早く崖を上がって!」

「ダメだよ!ほらそんなこと言ってないでエドマンドも戦って!」

























私は彼の心配も無視して言い付ける。






















「あ!!!エドマンドはピーターを守って!ジェイディスが来ちゃう!」

「っ…ほんとだ。

わかった、。君は剣が使えるみたいだし、僕はピーターのとこに行く。でも、絶対無理しちゃ駄目だよ!」

「うん!任せといて」

「…何が任せといてだか…」






















エドマンドはぶつぶつ文句を言いながら敵を払ってピーターの元へ向かった。

















戦うのなんて、嫌だけど…
そんなこと言ってられない!















ぶん投げられた槍をなんとか避けて、私は剣を振った。
教わった基本的なことを忠実に再現しただけなのに、案外いけるものだと知った。


でもこれが誰かの命を奪うことだと思うと、罪悪感が沸く。















そんなこと考えちゃいけない!
私は今ナルニアで生きてるんだもん!




















「はっ…」



















二人目の敵を倒した時、隣にセントールが寄ってきた。
こんな時に・・・と不思議に思って見上げると、それはヘラクスだった。





















、なに戦ってるんだ!逃げるぞ!」

「ダメ!ヘラクスったら、話し掛けないでよ!」



















集中して必死に戦ってるのに、簡単に話し掛けないでほしい。
でもヘラクスは、なおも私にへばり付いて離れない。
















戦いのさなか、逃げてる場合じゃないって言うのに!




















「オレイアスに言われた。お前を連れて逃げるようにって」

「嫌!私は逃げない。ヘラクスだって私の気持ち知ってるでしょ!」

「そりゃ…昨日聞いたけど」

「じゃあわかってよ!」


















私達が言い合ってた時、バリンて大きな音がした。
その音の方を見てみると、エドマンドがちょうどジェイディスの杖を砕いたようだった。


















マズイ…!!






















「エドマンド、逃げてーーっ!」





















エドマンドは杖が砕けたことに目がいってしまい、動くことを忘れているようだった。
当然、私の声も聞こえなくて…


























「うっ……」
























彼は、砕けた杖でお腹を刺されてしまった。






















「エドマンド!」





















ヘラクスはエドマンドの方に走り出す私を止める。
ハッとしてジェイディスを見ると、彼女は杖をエドマンドのお腹から抜き捨て、こちらへ向かってきた。



















「ばっ…、逃げるんだ!」

















ヘラクスが私とジェイディスの間に立ちはだかる。
私を逃がそうとしてるみたいだけど、みんなを置いていくわけにはいかない。






















「どけ!愚かなセントール!」





















ジェイディスはヘラクスの剣を打った。しかし彼はびくともしない。




私は申し訳なかったけど、ヘラクスにジェイディスを任せてエドマンドに駆け寄った。





















「はっ…はあ…はっ…」




















彼は青白い顔で空を見つめていた。私に癒しの力はないし、何もしてあげられない。




















「エド!」


















ピーターが敵を薙ぎ倒しながら駆けて来た。そしてエドマンドの状態を見る。





















「エドは、僕を狙ってたジェイディスに突っ込んだんだ」




















ピーターの顔も蒼白になっていた。
彼は弟になにもしてやれないことを悟ると、深呼吸をして立ち上がる。






















、君はここで…」

「甘いっ…!!」




















近くでジェイディスの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、私達の目の前にヘラクスが仁王立ちしていた。
でもその数秒後、彼の体は崩れ落ちる。





















「ヘラクス!」




















私より先にピーターが彼を抱き上げる。
よく見るとヘラクスの脇腹に大きな傷があり、血がどろどろと流れ出ていた。



私が驚きを隠せずに立ち尽くす中、ヘラクスはうっすらと目を開けた。






















「ピーター王、お逃げ下さい。と王さえいれば…」

「何を!馬鹿を言うな!」





















ピーターは彼の顔を叩いたが、ヘラクスはそのまま意識を失ってしまう。




















「あっ…」



















ヘラクスの後ろ、私達の真っ正面にジェイディスがいた事に気付かなかった。
でも私の手は勝手に、彼女の一太刀を受け止めたの。



驚いた。
私にこんなことが出来るなんて。





















「やるではないか!小娘!

あのセントールも、お前達を守ろうとしなければ危なかったがな…」

「やあっ!」




















でも私の手は、何故か私のものじゃない様にうねると、ジェイディスの剣をはねのけた。
何かの力が私に加わってるみたい。




















「何っ…」




















彼女はニヤニヤ笑いを止め、私を睨む。そして素早く打ち付けてきた。



カンカンと剣がぶつかる。
私は負けはしないけど、圧されてる。



足場がなくなったら、私の負けは決まったようなものだ。






















「お前の相手は僕だ!」





















横からピーターがジェイディスに打って出てくれた。
彼女は彼の剣捌きを見ると、防戦一方だった私を置いてピーターの方に向き合った。
そして両手の剣をたくみに操って技を繰り出す。

















私はヘラクスとエドマンドを横に並べると、守るように周囲を見回した。
まだ動ける兵士達は互いに戦い、傷つけ合っている。




















アスランはまだ?


どうして来てくれないの?


















みんな、まだ生きてる。


だから早く助けに来て!!!





















私はエドマンドの手を握りしめた。


彼はもう限界だ。
意識が朦朧としてる。早くルーシーの薬を飲ませなきゃいけないのに。




















アスランが来ない。


スーザンとルーシーも来ない。


援軍も来ない。















これじゃあ、負けを待つだけになっちゃう。


どうすればいいの?


私は…























…」

「エドマンド!」






















彼は朦朧とした意識の中、はっきりと私の事を呼んだ。
そしてなけなしの力で私の手を握ると、喋り続ける。





















「何、やってるの?逃げなきゃ…だめだ…」

「やっ…みんなを置いて逃げるなんて考えられない!」

「……じゃあ、戦わなきゃ。

ここで僕を見てても、何も変わらない」

「何も変わらない…」

「そう…だから…戦わなきゃ…うっ…」






















エドマンドは血を吐くと、意識を失ってしまった。
慌てて脈をとると、まだ彼の生を感じる。






















「ごめんなさいエドマンド。私、逃げないって決めたはずだったのに…」






















私は持ってたハンカチで彼の口を拭くと、剣を握り直した。






























私が、なんとかしなきゃいけないんだ…

























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本当の決心がついたようですね!
アスランは、間に合うのでしょうか…?


2008/07/16







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