まず始めに、私はピーターとジェイディスの戦いを見守った。
そのまま自分も助けに入ってもいいかも知れないけど(助けになるかはわからないけど)、王になるピーターにとって、それは屈辱的なことかもしれない。








ピーターをあんなに躍起に戦わせてるのは、エドマンドが刺されたからだと思う。







歯を食いしばって、鼻を膨らませている彼。
鋭い目は鷹のようで、ジェイディスの動きだけを見つめていた。
交わされる剣技は荒く、ぶつかり合う度に派手な音を鳴らす。





はらはらしながら見ていた私の肩を誰かが掴んだ。
驚いて振り向いてみると、それはジナーブリックだった。
















「今度こそ捕まえた」

「離して!」















小さいくせに力が強くて、私の力じゃ到底逃れられない。
ジナーブリックは私の腕を掴み直すと、ジェイディスを呼んだ。

















「女王陛下!捕まえたしたぞ!」
















ピーターと戦ってたジェイディスがちらりとこちらを見、そして渾身の一撃でピーターを跳ね飛ばした。


















「ぐぁっ」

「ピーター!!!」

















駆け寄ろうにも掴まれていて動けない。
見守ることしか出来なくて、ジェイディスの行動を見つめていた。
ピーターが私のせいで殺されてしまうってことがあるかもしれない!!!


















「小娘さえ手に入れば、お主など殺す価値もない」


















彼女はそう言い捨てると、ピーターが動けないように両腕の鎖帷子を地面に刺した。




全ての命をとるつもりだった彼女が、こう言ったのが意外だった。
もしかしたら、なにかが変わろうとしてるのかも知れない。




ジェイディスはピーターを捨て置いて、ゆっくりと歩み寄ってきた。
私は地面に膝をつかされて、無理矢理上を見上げる形になる。











空は青かった。
雲一つない空に煌々と差す日差しが痛かった。









アスランは来ない。

助けも来ない。









私がいることで、悪い方へと話を変えちゃったのかもしれない。









エドマンドも刺されたし、ピーターは動けない。



そして私は…




















「てこずらせてくれたな、小娘」

「…」

「喋れないわけではないだろう?答えるのが礼儀ではないのか」

「…あなたに礼儀なんて!」


















パシッ


















頬をひっぱたかれ、目の前に星が飛ぶ。
私は赤くなるほっぺたを押さえることも出来ずに、睨みあげた。


















「まったく強さがない。お前が本当に守人だとはおもえんな。

しかし…」

「っ…」















ジェイディスは私の顎を鷲掴むと、痛いくらいに爪を立てた。



そのうちに彼女の爪で皮膚が切れると、そこから真っ赤な血がぷくりと盛り上がる。
ジェイディスはそれを見て笑った。















周囲からは戦いの音がまだ聞こえてくる。ナルニア軍も最後まで必死に戦うと背で語っている。
なのに、ここだけは何か違かったの。


周りに動くものは全て、私達よりも数倍速で動いていた。この時代にぽつねんと残されたのは私達。
ううん、でもどっちかと言えばやこの場所は酷い威圧感だから、取り残されたのは周りの方かもしれない。


















「さあ、お前を取り込んでやる」

















ジェイディスは私の顎から手を外すと、どんどんと顔を近づけてきた。



って、なんで顔近づけるの?
まるで……

















「ちょっ…」

















もがくけど、全然動けない。
これって、これって、もしかして…











キス!?

キスして取り込むの!?










そう思ってる間にも近づいてくる顔。
もう、ダメだ。

でも…






















「いやーーーーーーっ!!!」

「ガオーーーーーーッ!!!」





















私が叫んだと同時くらいにライオンの吠えが聞こえた。
ジェイディスとジナーブリックは、びっくりして辺りを見回す。















「まさか!」















ジェイディスはある崖の上に一匹のライオンの姿を見つけたようだった。
凛々しく、猛々しいタテガミをゆったりと振るライオン。


















「アスラン…」

















ため息が出た。










彼の姿を見たら、途端に気持ちが盛り上がってきちゃった!
巨人だろうがなんだろうが、ジェイディスだろうが勝てる気になっちゃう。



アスランの後ろからはスーザンとルーシーが姿を現した。
その横には赤いマフラーを巻いた優しそうなフォーンのタムナスさんもいる。
そして、その後ろからはたくさんのナルニア人……援軍だ。


















「!」

















気付くと、ジナーブリックは私の手を離して斧を掴んでいた。
そして援軍へと向かって走っていく。
ジェイディスはジェイディスで、アスランの存在が信じられないかのうように彼をじっと見つめていた。




私はその隙に離れると、剣を握りなおす。



ジェイディスとアスランは瞳を交し合った後、アスランから動き出した。
彼は踵を返すと、後ろへ走っていってしまう。


















「くっ……」
















ジェイディスの悔しそうな声が聞こえた後、彼女は自分の状況に気付いてたじろいだ。
そうは言っても、彼女は動く事が出来なかったの。




私が、喉元に剣先を突きつけていたから。


















「小娘……」

「私の名前はだよ」

「……」

















彼女は思っても見なかったことが起こったので何も言えないようだった。
少しかわいそうに思っちゃうくらい無言になってしまう。


















「さあ、負けを認めなさい」

「……く、何を言うか」

「認めたら、あなたは無事に生きられる。でも認めなかったら、生きられない」


















そう脅すと、切っ先をもっと近づけた。
でもそんなのは全然効いていないようで、彼女はしばらく黙ったあとに笑い出した。


















「くくく……あははははは!!!お前に私が殺せるものか!」

「私にだって覚悟はある!あなたを刺すことだって出来る!」

「出来るものか!

お前が私を殺せば、全てが無に還るのだ」

「そんなでたらめを言わないで!!!」

















私は切っ先をちょんと彼女の首筋につけた。すると、私達と同じ赤い血が流れ出す。
それを見ただけで私の頭はくらっとなってしまう。




あれ、さっきは大丈夫だったはずなのに…

















「では、試してみるといい」

「っ…」















私は思い切り腕を引いた。
ここで、魔女をどうにかしなきゃだめだって思ったの。だから、ここで私が――






















やめなさい




アスラン!!!























ジェイディスの胸を一突きにしようとした瞬間、アスランの声が頭に響いた。
その声にビクンと反応すると、私の腕は止まってしまう。


















は、そんな事のためにここにいるのではない。
ナルニアを見守るためだろう。

ならば、ここは私に任せなさい。





……うん、わかった。アスラン…

















今まで心の中が怒りに燻ってたはずなのに、アスランの声を聞いたら一気に吹き飛んでしまった。
それどころか、魔女が憎いって気持ちも消えちゃってる。


















「私はあなたを殺したりはしない」

















私は腕を下ろすと、ジェイディスの顔を見上げた。
ジェイディスは心底残念そうな造り顔をしたけれど、すぐに崩した。


















「それは残念だ」

「何が残念だというのだね、魔女よ」

















アスランの声が聞こえた。と思ったら、それは違かったの。
私の口が、ひとりでに言ったのよ!!!


















「っ……アスラン!!!」

















魔女は私の顔から引いた。
彼女は私の目をじっと見つめて逸らせないようだった。きっと、私の目は今あのアスランのものになっているんだろう。




















「血迷ったか、ジェイディス」

「何を言う、アスラン」

「お前が犯そうとしたことは、この世界の崩壊だ」

「……」

「自身も消え去る気になったのか?」

















世界の崩壊?
私がジェイディスを殺すことが世界の崩壊になるの?




アスランに問いかけてみたけど、何も返事は返ってこなかった。



















「うるさいっ!!!!」

















ジェイディスは急に私の首を掴みあげた。
あまりにも急な出来事だったから、最初は何が起きたかわからなかったけど、段々首が苦しくなってきたからわかったの。


















「けほっ……く、苦しい……」

「苦しいかえ?形勢逆転だな」

「ぐ……」

「さあ、私に取り込まれ……」


















ジェイディスの声が途切れたかと思うと、私はすごい力で放り出された。
地面にぶつかりそうになったところを、誰かが受け止めてくれる。
















「きゃあ!」

「だ、大丈夫?

「ピーター……こそ」

「僕こそって……はは、大丈夫だよ。刺されたのは鎖帷子だけなんだ」

「良かった。って、魔女は!?」

















起き上がると、数メートル先に魔女を全身で押さえつけているアスランがいた。
きっと後ろから魔女に飛び掛って、私と引き離してくれたんだろう。



彼らは、じっと目をあわせていた。

















「今回は、これまでだ」


















アスランが呟くと、魔女の姿は跡形もなく消え去ってしまった。
とても不思議な出来事だったけど、アスランならきっとそんなことも簡単に出来るはず。


彼はゆっくりと振り向いて、微かに笑う。


















「仲が良いのいいことだ」

「えっ?」

















気付くと、私はピーターの手を握っていた。
それに驚いて彼から離れると、アスランは高らかに笑った。



















「戦いは終わった」
















****************

白い魔女との戦いは終わりました^^
みんな活躍したんだか、してないんだか…。
ヒロイン視点なのでわかりにくいですが、後で肉付け決定しているので、
今後をお楽しみに(笑)

次で「ライオンと魔女」は最終話です☆


2008/07/21







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