「ピーター!」
「!」
ルーシーとスーザンが私達の名前を呼んで駆け寄ってきてくれた。
そしてお互いの無事を確かめるように抱きしめ合う。
「痛っ」
スーザンのマントがちくりと肌に噛み付いて、思わず言ってしまう。
すると抱きしめてくれてた彼女は、自分の力が強すぎたんだと勘違いして離れちゃったの。
「あ、ちがうの。スーザンのマントが私の腕を攻撃したの」
「ぷっ…、もー何言ってんのったら!」
スーザンは大笑いすると、また私を抱きしめてくれた。
今度は痛いくらいにね。
「ねえ、エドマンドは?」
ルーシーはピーターから離れると、辺りを見回して言う。
スーザンも気になったみたいで、同じ様にきょろきょろしていた。
「「そうだった!!」」
ピーターと私は大きな声で叫ぶと、一目散に走り出す。
再会を喜んでる場合じゃない!!!エドマンドは瀕死なんだから!
「エドマンド、大丈夫?…じゃないよね」
エドマンドの瞳は虚ろで、さっきよりも酷く顔が真っ白になってた。
黄色人の私と違うから、雪のようにもっと真っ白に見える。
私は彼の頭をフトモモに乗せると、呼吸しやすいように顎をクイと上げた。
エドマンドは一回咳込むと、僅かな血を吐く。
「ルーシー、早く」
ルーシーを急かす。
彼女は一瞬キョトンと私を見つめると、すぐに気付いて下げている小瓶を掴んだ。
キュ、キュ、とかわいい音を立てて蓋を開けると、中の液体をエドマンドの口に垂らす。
「っふう…」
短い息を吐いて、エドマンドは目を開けた。
その頬は、さっきまでと打って変わって健康的な赤身がさしている。
「エドマンド!」
私も含めて四人で、起き上がった彼を抱きしめた。
エドマンドはもみくちゃにされて嬉しそう。まあ、私ももみくちゃにした張本人だけどね。
彼はまずルーシーにお礼を言うと、その後ピーターと向き合って背中をたたき合った。
そしてスーザンに笑いかけ、最後に私を見る。
「大丈夫だったんだね、」
「うん。エドマンドのお陰だよ。だから頑張れたの。
ありがとう」
「どういたしまして」
彼は爽やかに笑うと、ぎゅうぅっと唇を噛み締めた。
そしてニヤリと笑ったかと思うと、
「勝った!!!」
と思い切り手を挙げた。
魔女に囚われてたエドマンドにとって、この勝利は一塩かもしれない。
もう、あの恐怖に当てられずにすむんだもん。
私達も一緒になって「勝った」だの「やった」だのワイワイ言ってると、いつのまにか後ろにアスランが腰を下ろしていた。
「ルーシー、喜びはそれくらいで他の者の手当に行くべきではないか?」
「えっ、あ……」
アスランの声にルーシーは戸惑う。もっとここにいたい、という表情をしてる。
「エドマンドはもう大丈夫だ。それはルーシーもわかっているだろう」
「……はい。私、いきます」
やる気が出て立ち上がったルーシーに水を差すのは悪いけど、怪我人ならすぐそこにいる。
「ルーシー、まず始めにそこのヘラクスを手当てしてあげて」
「あっ、そうだね!」
今その存在を気付いたかのように、ルーシーはヘラクスを見て駆け寄った。
彼だって、エドマンドに負けず劣らず瀕死の状態なのにね。
私が中心になって液体を飲んだ彼を見下ろす。
ルーシーは他の怪我人のところに行っちゃったけど、他の三人は一緒にいてくれた。
「ヘラクス、大丈夫?」
「……」
ふわりと目を開く。
そして覚束ない動きで私を写した。
「…、俺もうダメかと…」
そこまで言った時、彼の瞳には私以外の三人も入ったんだと思う。
いきなり口を手で覆って起き上がった。
「申し訳ございません、王、女王の前でこんな醜態を」
そしていつもの紳士的口調。
忘れてたけど、あの喋りは私に対してだけだったもんね。
「それはいいけど」
エドマンドが言う。そして隣のスーザンを見た。
スーザンはスーザンでじっとヘラクスを見てる。
そしてピーターは、不思議そうに
「?俺?」
と聞いた。
「気のせいです、ピーター王」
ヘラクスは営業スマイルで言い切った。
私達はその後、ルーシーの小瓶の液体を必要としないまでの怪我の人達を手当していく。
目の回るような忙しさだった。
アスランはルーシーと別れて、魔女に石にされた面々を元に戻していった。
私はそれにくっついて回ると、最後にオレイアスの前に立つ。
「大丈夫だ、。オレイアスもすぐに生き返る」
私が眉間に皺を寄せたのを見てか、アスランが安心させるように言ってくれた。
それに頷くと、彼はオレイアスに向かってゆっくり息を吹き掛ける。
その温かな風はオレイアスを纏うと、そのまま天に昇っていった。
ぱりぱりぱりぱり…
石像はゆっくりと、溶けるように彼へと戻っていく。
灰色の固かった部分はどんどん地面に向かっていき、やがて生きるものの体へと戻ったの。
「オレイアス!!」
私は嬉しさにかまけて彼に抱き着いた。
すると、オレイアスははらりと剣を離して私を抱きしめてくれた。
「無事、だったか…」
その心底心配そうな表情が憎らしかった。
だって、私の方がどんなに心を痛めたのかわからないのに。
「私のが、心配したよ?」
「すまない」
「もう、無茶するなって言ってるわりには自分が無茶したじゃない!
オレイアスの嘘つき!」
彼は苦笑すると、もう一度私を抱きしめた。
そして、
「本当に無事でよかった」
こう呟いた。
全員の手当が終わると、私達は手をとりあってアスランの後ろにつく。
彼は、私達をケア・パラベルへと連れていってくれるの。
途中何度も休みながら、ぞろぞろとナルニア人達は歩いた。
私達だって、文句言わなかったよ?
背中に乗せてくれるって言ってくれた動物さん達には、丁重にお断りした。
だって、疲れてるのはみんな一緒だもん!
そしてやっと着いたケア・パラベルは、黄金に輝く様な素敵なお城だった。
真っ白な壁、そこら中に施された装飾。
このお城を美しいと言わずして、何を美しいというんだろう!という様だった。
「さあ、着替えてくださいな」
与えられた部屋には、綺麗なドレスが用意してあり、きらきらと光るライオンのネックレスも置いてあった。
私はそれを身につけると、部屋の中を隅々まで見て回った。
バルコニーと部屋を遮るように輝くステンドグラス。その前には小さな円卓があって、それには百合が描かれていた。
よく見ると私の部屋は百合で統一されてるみたい。。
円卓だけじゃなく、ドレッサーや箪笥、ベッドまで百合が描かれ、カーテンやリネンは百合の刺繍。
どこを見ても白い百合だらけだった。
「ほんと、すごい!」
一人で舞い上がると、ぴょんぴょんと跳びはねる。
そのうち、ドレスの裾に引っ掛けてベッドに倒れ込んでしまった。
ぼよん
するとベッドも跳ねる。固くなくてよかった。すごく寝やすい。
そう思ったら眠くなっちゃって、ビーバーの奥さんが呼びにくるまでぐっすり寝ちゃったんだ。
ラッパの音と共に、ペベンシーの兄妹たちはゆっくりと玉座の前に進み出た。
それを見守る私とアスラン、それにビーバー夫妻とタナムスさんも横にいる。
そして、玉座に続く道を囲むようにセントールの騎士達。
4人は4つとも寸分違わぬ玉座を見つめ、感慨深い気持ちでいるようだった。
みんな顔には笑顔を称え、肩は少し緊張している。
「きらめく東の海は――ルーシー女王、“頼もしの君”」
ビーバー夫妻の持つ銀色の王冠を、深緑の落ちついたマフラーをしたタムナスさんがルーシーの頭に乗せる。
二人はにっこりと笑い合っていた。
「壮大なる西の森は――エドマンド王、“正義王”
うるわしき南の太陽は――スーザン女王、“優しの君”」
エドマンドには銀色の王冠、スーザンには金色の王冠。
そして、最後にピーター。
「そして澄み渡る北の空は――ピーター王、“英雄王”」
彼は宝石の散りばめられた金色の王冠を頂に乗せた。
4人の顔つきは始めて会った時とはまったく別人のように精悍になり、頼もしい存在になった。
もう、私の存在も必要ないんじゃないかな。
「ナルニアの王・女王となりし者。永久に王・女王なり。
天から星の降る日まで英知を生かせ」
『ピーター王万歳!』
『エドマンド王万歳!』
『スーザン女王万歳!』
『ルーシー女王万歳!』
全員の声が一つになる。
そして、ケア・パラベルを抜けて空へと昇っていく。
あの戦いの鬨の声のように。
私は千切れんばかりに手を叩いた。みんなもつられて手を叩く。
でも、いきなりシンとなったの。
アスランが歩み出たから。
「アスラン……?」
それも、かれは私の前に来た。
「我らが守人に、感謝の意を」
「な!?何言ってるの!?私なにもしてないよ!」
「いや、は十分にみなのために働いてくれた。
彼らが永久にナルニアの王・女王であると同時に、君も永久にナルニアの守人なのだ」
アスランは目を細めると、高らかに笑う。
その声に飲み込まれそうになりながらも、私は自分の足で立ってみんなを見つめた。
ここにいる全員が私を見ているといっても過言じゃなかった。
その視線をちくちくと感じながらも、私は自分の役目を思い出す。
私はこの国の誕生を目の当りにしたじゃない。
そして、今だってこの国を揺るがす出来事を見守ってきたじゃない。
……ちょっと、手を出しちゃったけど。
「」
アスランがもう一度私を呼んだ。
その声を聞いたときにはもう、私の気持ちも固まっていたの。
「光栄です。
私はこれからも、永久にナルニアを見守ります」
私の決意を聞いて、アスランはフと微笑んだ。
きっと彼には私の決意なんてずっと前からわかってたんだろうと思う。
そして、その決意が色々な事を体験して高まっていけばいいと思ったんだろう。
アスランの思惑通りだよ。ううん、それ以上かもしれないね。
もし私がすぐに自分の世界に帰らなきゃいけなくなったとしても、私の心は簡単にナルニアから離れることは出来ない。
だって、永久にナルニアの……アスランの守人だから。
私の大好きなナルニアよ、永遠なれ
アスランが去った後も、ケア・パラベルの火は灯されたまま、ゆっくりと夜が更けていく。
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「ライオンと魔女」編終了です☆
ここまで読んで頂いて誠にありがとうございました!
浮いたり沈んだり、大変なヒロインちゃんですが、
大人しかった最初の頃を考えると、かなり成長したのではないでしょうか??
楽しんで頂けたら幸いですが、もし何か思うことがあればどしどしCLAPかメルフォでどうぞ☆
本当に、ありがとうございました!!!
2008/07/24
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