「ピーター」
「あ、ごめん。どうした?」
もう一度呼ぶと、彼はハッとして私をちゃんと見返した。
それにホッとすると、王と王妃を見る。
「何とかできない?」
「うーん、本人達の気がおさまるまでそのままの方がいいと思う」
「えーっ、そうなの?」
私達は二人の喜びが落ち着くまでその場で待つことにした。
そのうち、部屋の外で待機しているナルニア人達を掻き分けて、アーケン国の兵士が駆け込んで来た。
彼は大事そうに古い箱を抱えている。
「王!お持ちしました!」
「そうか!」
リューン王は兵士から箱を受け取ると、カパリと開けて中に入っている布を広げた。
それは、とっても古びたドレスだったの。
「…あれ?」
それを見つめて懐かしさを感じる。見たことあるし、なんか…知ってる気がする。
「覚えておられますかな?」
リューン王の言葉がすっと体に入ってきた。不思議、覚えてる気がする。
これは…
「ヘレン王妃のドレス…」
思わず呟く。
そうだ、これは私がデザインしたドレス。どうしてここに…
「、あなたは本当に創世の時代から私達を見守っていたのですね」
「このドレスがヘレン王妃のものだと、王家の者しか知らない。それを知っているということは、あなたが創世の時代から我らを見守っていたということだ。アスランと共にな」
すごく嬉しかった。だって、ナルニアのみんなは私のこと疑わないんだもん。アスランの守人だってね。
でも、本当は疑われてもいいはずなんだ。私ってばあんまし役に立たないし。
そんな中で、どういう形にしろこう認めてもらえることは嬉しかった。
「そのドレスはずっとここに?」
ピーターが不思議そうに尋ねる。確かに、ヘレン王妃はナルニアの人だもんね。
「アーケン国の初代王が、ナルニアのフランク王とヘレン王妃の第二子だったということはご存知ですな?このドレスは、この地を開拓し国を造りあげた時に王妃より承ったものなのだ」
そっか…、ナルニアではフランク王朝が衰退して、魔女の支配が始まったんだよね。
だからこのドレスもアーケン国に来てよかったのかもしれない。
「そして、ヘレン王妃からへと伝えられた言葉がある」
「えっ?」
驚いた。
だって、彼女にドレスをデザインしてあげて少し話しただけなのに。
「その言葉を私は知らないのだ。歴代の王妃だけに受け継がれる」
リューン王と私は、メリンダ王妃を見た。彼女はにっこりと微笑むと、私に手招きする。
「ヘレン王妃の言葉を伝えるわ」
耳元で囁くように言う。
他の人に聞かれちゃだめなのかな。
「はい、お願いします!」
『ありがとう、。こんなに素晴らしい世界に住まわせてくれて。そして、こんなに素晴らしいドレスを与えてくれて。
あなたがナルニアの全てを見守るということは、楽しいこともあれば、辛いこともあるわ。
だけど、この世界を見捨てないで。一緒に、精一杯愛しましょう』
「!」
鼻の奥がツンとしたかと思うと、涙腺が緩んできてみるみるうちに涙が貯まり出した。
こんなに嬉しい言葉を、千年もの時を越えて届けてもらえるなんて。
ありがとう、ヘレン王妃。
「…」
ピーターが寄ってきて、肩に手を掛けて引き寄せてくれたので、私はそのまま体を預ける。
「…すごく、嬉しいです」
泣きながらも、辛うじて言えたのはそれだけ。それもピーターの肩越し。
でも、リューン王も、赤ちゃんを産んだばかりのメリンダ王妃も、優しく微笑んで私を見つめてくれた。
何故だか、創世時代のフランク王とヘレン王妃もこの部屋にいる気がした。
*
2、3日滞在してナルニアに戻り、他の三人にコルとコーリンの話を聞かせてあげた。
私が名前を当てた話はみんな喜んで聞いてくれて、数日はケア・パラベルの噂になったの。
恥ずかしいくらいみんなが知ってて焦ったけど、それを誇りに思ってくれてるナルニア人がいて嬉しかった。
私も、そういう風に誇ってくれるみんなが誇らしいよ。
あっという間に何日か過ぎ、(ナルニアの毎日は楽しすぎて日がどのくらい経ったか忘れちゃうの)アーケン国の双子の王子がナルニアの高名?なセントールに祝福してもらう日になった。
祝福というか、なんというか・・・、予言らしいんだけど。
私も始めて見るから楽しみだな。
私達はナルニアに訪れるアーケン国の人々のために、木に話をつけて少し移動してもらい、道を作った。
そしてドリアードに協力してもらって、フラワーロードにしちゃうんだよ。(だって、お祝いごとじゃない!)
私はまた青いドレスを着せられ、四兄妹は正装をする。近衛隊長のオレイアスを先頭に、セントール達は鎧を着て道の両はじに立って整列した。
印象的だったのは、ヘラクスが列の1番後ろにいたこと。
だってオレイアスの右腕と言われるのにも関わらず、下座にいたんだよ。
きっと星が読めないことが関係して、追いやられたか…自分で後ろについたのかかな。真意はわからないけど。
「来たわ」
ルーシーが呟いたのを聞いてそちらを見ると、ピーターと並んでリューン王、その後ろに王妃。
そのすぐ後を二人の乳母が大事そうに王子達を抱えている。
ぞろぞろと続くアーケン国の貴族達が通り過ぎて、私達はその後ろについて歩いていった。
なんたって今回の主役はコルとコーリンだがら、アーケン国の人々を差し置いて私達が前にいくわけにもいかないもん。
まあ、それでもスーザンとエドマンドとルーシーと私は、アーケン国の貴族に紛れ込んでその儀式を一心に見つめていた。
誰もが期待をこめてそれを見守る中、隣に立っていたアーケン国の貴族の男の子(と言っても、私と同じか年上くらい)は、私をじっと見つめてきたの。
「あなたがか?」
彼は興味深そうに私を見つめた後に聞いてきた。
私が頷くと、ドレスも含めて私の全体を見渡す。
一体なんなんだろうと思いながら目線を前に戻した時、隣の彼はいきなり凄いことを言い出した。
「私の妻になれ」
「!!!」
えっ!?空耳だよね?
そう思った時、周囲がどよめいたので今のを聞かれたのかと焦った。
でも違かったみたい。
「いつかこの子は、まさに滅びる間際のアーケン国を救うことになるだろう」
「おおお!まさかさんなことが!」
「コルがアーケン国を救うなんて!」
王と王妃ははしゃぐ様に声を上げた。
なんとも誇らしげで喜びに満ち溢れているだろうか。
私はさっき起こったことも忘れ、大きく手を叩いたの。
するとそのまま大きな拍手が響き合って、王と王妃の胸は反り返って後ろに倒れちゃいそう。
セントールの預言者はコーリンにも何か言って、彼らの前から離れた。
すると再び拍手喝采が起こる。
その間に王と王妃の横にいたピーターは私達を手招きし、隣に来いと言った。
ルーシーが一番最初に走り、続いてエドマンドが走る。
「行くわよ、」
そしてスーザンが続いて、私も行こうとしたその時、軽く腕を掴まれた。
振り向いてみるとまたあの男の子。
「ぜひ、考えてほしい」
彼はそう言うと、すぐに離してくれた。
今の出来事にぽーっとしながら、(だって初めて告白?あれが告白と言えるならね。されたんだもん)よたよたと前へ歩いていく。
そしてやっとコルとコーリンの元へたどり着いた。
微かなキスを彼らのおでこにし、私の祝福を与える。
そして願うの。
コルが元気で健康な男の子になりますようにって。
だって今日別れたら、13年後まで彼とは会えないかもしれない。
微かなキスだけじゃ足りない気がして、王妃に無理を言って抱かせてもらうと、顔中にたくさんのキスを落とす。
もしかしたら泣き出しちゃうかと思ったけど、コルは泣き出すどころか始終笑っていた。
なんだか切なくなる。
私は未来を知っているのに変えてあげることが出来ない。
予言された以上、コルの未来は『馬と少年』の話に移っていくだろう。
そしたら、今後起こることは必要なことだから。
彼にとってお母さんとお父さんと居られない苦しい日々が待っていたとしても、変えてあげることは出来ない。
そうでしょ?アスラン。
変に思われないようにコーリンにも同じくらいのキスをすると、こっちはまんまと大声で泣かれてしまった。
困ってあやすけど、結局は上手くいかずに王妃に預ける事になってしまった。
ホントにごめんなさい。
その後は簡易なテーブルを広げてランチパーティが行われた。
色とりどりの果物が並べられ、間には大きなお皿にでっかいチキンの丸焼き。
こんなところでそんなものが用意されるなんてびっくりしちゃって、もしかしてアスランが戻ってきて出したのかもって思ったんだけど違うみたい。
近くにセントールが住む谷があるらしいんだけど、そこで用意したみたい。
私は話すの機会を掴んで、リューン王にさり気なくさっきの男の子の名前を聞いた。
だって、初めて告白してくれた人の名前くらい覚えたいじゃない。
「あの、あそこにいる男の方はどなたでしょうか?」
「どれどれ…」
「あそこの……あれ、二人いる」
指差したそこには、同じような顔をした男の子が二人いた。
一人は緑の帽子で、もう一人は赤い帽子。
あ、でもさっき話した子は赤い帽子だった気がする。
「あの二人か。緑の帽子が兄のダール、赤い帽子が弟のダーリンだ」
「ダーリン……」
「はダーリンが好みなのかね?それでは私が話をつけて……」
「違います!!!」
リューン王が早とちりして行こうとするのを止めると、
「急に話しかけてきたのでどんな人か気になった」
と言った。
すると彼は残念そうに「そうか」というと、王妃と子供達の元へ行ってしまった。
あぶないあぶない。
何か起こったらどうしていいか分からなくなっちゃうもん。
いきなり結婚しろなんて言われても、私には使命があるからそんなこと出来ないし。
それに、そんな騒動を起してアスランを呼ばなきゃいけなくなるのはもっと嫌だよ。
なんていうか……恥ずかしいしね。
「ふう……」
それに、私はみんなと違うから。
もし一緒に生きたいって思う人がナルニアで出来ちゃったら、どうすればいいんだろ。
きっと、私が一緒に生きられるのはアスランだけなんだろうな……
私は盛り上がるみんなを見ながら、隅っこの方でアスランに思いを馳せた。
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実はここまでの四話は突然考え出した馬と少年の土台。
また読んだらやっぱり書きたくなってしまったので、
書きました^^テヘへ
次はまた数年後の話です。
2008/08/14
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