「おはよう、ルーシー!」
「おはよう、」
「おはよう、スーザン」
「お、おはよう」
「おはよう、ピーター、エドマンド」
「「おはよう!」」
私はみんなの間を駆け巡ると、挨拶をしまくった。
驚いた顔で私を見つめる四人は、いつの間にか頼れる大人の顔になっていた。
「相変わらずね、は」
「本当、相変わらず!くすくす…」
はしゃぎ回る私を見て、スーザンは呆れ、ルーシーは笑った。
その横でピーターは一人不思議そうな顔で私を見つめている。
彼がこんな表情をするのは私達といるときだけになってしまったけど、(一の王は気難しくなっちゃったの!他の人の前ではね)私にはそれでじゅうぶん。
だって、気を許した仲だってことでしょ?
「どうしてはそんな嬉しそうなんだ?」
「うふふ、内緒」
「やーね、ったら」
「うふふふ」
聞かれても言わず、ただ笑うだけ。みんなが知ってればいいと思ったけど、王様、女王様がわざわざ出刃ったら困る。
私はいいんだけど、オレイアスがね。
「ってことで、私は出掛けてきます」
「どこに行くんだ、。何が起きるかわからないから誰かを…」
「大丈夫!ヘラクスが迎えにきてくれてるから!」
にっこり返答すると、ピーターはあからさまにムッとした。
でもそんな彼を構ってる暇もないからそのまま部屋を出る。
「いってらっしゃい、」
「気をつけてね!!」
ドアを閉めざまにスーザンとルーシーの声が聞こえた。
あの戦いから何年経ったかな。
うーん、三年?五年?そのくらいかな。
じゃあ、アーケン国のコル王子が掠われてからは二年から四年くらい経ったんだね。
皆はどんどん大人になってくのに、私は全く変わらない。
それはあの日…ケア・パラベルで四人が戴冠した日にアスランが言った通りだった。
「アスラン!」
お城を出て、ゆっくりとした足取りで砂浜を歩く彼を呼び止める。
ナルニアを取り戻したことと四人の戴冠のお祝いのためか、誰もがアスランが去ることに気付いていなかった。
私は玉座の間からこっそりと抜け出したアスランを見つけて、あとをつけたの。
どこに行くのかと思ったら、お城に背を向けて歩き出したからびっくり!
今度会えるのはいつだかわからないから、今話しておかないとだめだと思ったんだ。
「、来ると思っていた」
「…つけてるの知ってたでしょ?」
「ああ」
私達は無言になると、とぼとぼと歩き出した。
珍しくアスランは何も言わない。
「アスランはもういっちゃうのに、私はここにいていいの?」
「君は、ここにいるべきなのだ。だから、彼らと共に帰るべき時までいなければならない」
「そっか」
ということは、私が帰るまでは少なくとも十五年あるってことだ。
長いなぁ。
「ホームシックかね?」
アスランは目を細めて私を見る。でも、その瞳は笑ってるように見えた。
「アスランひどいよ。笑ってる」
「おや、は私の考えていることをわかるようになったのか?」
おどけて言うアスランに膨れると、立ち止まって海を見つめた。
もうすぐ夕日が沈む。
橙の陽が彼を照らし、その顔に今以上の温かみをもたらした。
「ホームシックにだってなるよ、私がここにいる十五年はすごく長いんだもん」
そう言うと、アスランは大きな溜め息を吐く。そして私の目を見据えた。
「、君は彼らと違う。
だから姿も何も変わることはない」
「えっ?」
いきなり何を言われたかと思った。
けど確か、前にも同じような事を言われた気がする。
「はずっと今のまま。しかし彼らは歳をとる。
、違いは明らかだ。
君は誰とも違う。
私と…同じなのだ」
「えっと…アスラン?」
アスランは真剣な表情で私を見つめた。そして頷く。
「はずっと、のままでいなさい」
「……わかった。
でも、もっとホームシックになっちゃうよ。だってみんなはどんどん変わっていくのに、私だけ置いてけぼりだなんて」
そんなの、本当は嫌だよ。
みんなと同じことを経験して、同じ様に大人になりたい。
「ホームシックになってしまった時は、私に語りかけなさい。
私は、いつでもと共にいる」
アスランははにかむように微笑むと、私の頬っぺたをペロリと舐める。
そして鬣をこすりつけてきた。
「本当?」
「本当だ。約束しよう、」
アスランが言ってくれる約束ほど、信じられるものはないと思う。
私がこの世界に取り残された気分になることがあったら、絶対にアスランに話しかけよう。
そしたらきっと、いつもの高らかな笑いが私を包んでくれる。
「うん、約束だよ」
私はアスランと指切りを交わすと、にっこりと笑い合った。
アスランは私を置いて、ゆっくりと歩き出す。のっしり、のっしりと砂浜を踏み締めてゆく。
その大きい足跡がたくさん砂浜に残され、彼は消えていった。
私が、どんな年月を過ごしても変わらないことと、私といつでも共にいることをを告げて。
「私が変わらなくても、みんなは怖がらずにそばにいてくれるかな…」
ホームシックになることより何よりも、周りのみんなが今まで通りに一緒にいてくれるかが不安でしかたないよ。
だって私の姿はずっと、今のままなんでしょ?
大丈夫かな……
みんなが怖がるから逃げるような生活をしなきゃいけないなんていうのはヤダ。
そんなこんなで過ごしてきた数年。
周りのみんなは特に何も言わないし、それが当たり前のように接してくれてる。
でも、どこにいっても言われる言葉。
『相変わらず』
ずっと、変わらないからね。
「」
「あ、ヘラクス。わざわざ出迎えごくろう」
「なぁ〜にが出迎えごくろう、だ!」
久々に会った彼も相変わらずで、私の頭を軽いげんこつで叩いた。
ヘラクスの背に跨がり、向かうはセントール達の住む谷。
何故かって?
「ちゃんと渡した?」
「おう、渡したよ。喜んでた」
「そっかぁ…。よかった!」
寝ずにデザインしたドレスとヴェール。
小さいお花をいっぱいくっつけて豪華にした純白のドレス。それにレースをふんだんにあしらったヴェール。
そう、今日はオレイアスの結婚式なの!
セントールは結婚式なんて事はしないで、夜空の星の下でちょっとした儀式をするみたい。
でもそんなんじゃもったいないから、私は結婚式の話を持ち出して強制的にドレスとヴェールをつくったの。
オレイアスったら、出来てしまったものはしょうがないって、やっと結婚式をやってくれる気になってくれたんだよね。
「うふふ〜、楽しみだなぁ」
「そうなのか?」
「オレイアスはどうでもいいの。キャシー(オレイアスのお嫁さん)の花嫁姿と結婚式が楽しみなの!」
「キャシーの、ね」
ヘラクスはカラカラ笑うと、スピードを上げて走った。
駆け抜けていく林(本当は私達が駆け抜けてくんだけど)を抜け、セントールの住む谷へと向かう。
風はいつでも気持ちよく私を纏い、流れ行く葉と挨拶を交わす。
緑が茂り、みのりある国を思わせて、ナルニアの繁栄を讃えている。
大地に抱かれ、自然と生きる事がどんなに素晴らしいことか。
便利さにかまけて、機械の蔓延する世界がどんなに寂しいものか。
私はナルニアに来てたくさん勉強したと思う。
知ってる?
星ってすごいんだよ!夜空をわがもの顔で輝いて埋めつくしているの。
あんなにたくさん光っていたら、セントールが星を読むのも難しいんじゃないの?って聞いたら、オレイアスはそんなことないって言ってた。
きっと、独自の読み方があるのかもしれないね。
林を抜けちょろりとした小川を跨ぐと、そこはセントールの住む谷。
浮かれた心に、少し闇が霞んだ。
************
たぶん、ライオンと魔女の話から3年〜5年後の話ですね。
それぞれ歳を重ねて大人になっていく中で、自分だけが変わらないことに少し劣等感を感じるヒロイン。
星のイメージは宮古島に行った時、空を見上げたら凄かった。
東京では見られません(笑)
2008/07/27
36話へ