ここはどこだろう?
そう思って見渡すと、周囲の木々は揺れた。
きっと私の言葉がわかるのだと思い、話し掛けてみる。
けど、何も応えてくれなかった。
まるで、私の反応を楽しんでるみたい。
厭味ったらしいと思って膨れると、その場に座り込む。
すると、木々は再び揺れた。
カサカサ…
カサカサ…
生い茂った葉っぱが互いに擦れあって音を鳴らす。
でも、私に話し掛けてる気がしないから無視をした。
「どうやったら、ナルニアに戻れるのかな」
首を傾げて考え込む。
今回ばかりはおかしいよ。いつもだったら、何かした時に私がいた世界から離れてナルニアに来るんだもん。
でも、今度ばかりはちがかった。
寝てるうちにナルニアから他の世界に来ちゃった気がする。
「もし、白い魔女がいるような世界だったら…」
例えば、彼女の故郷であるチャーンだったら?
ううん、ありえない。あそこは廃墟だし、一千年前に滅んだんだもん。
そして…私の世界もチャーンのように滅びに向かってる。
「はあ…」
こんな深緑の世界に囲まれてたら頭がおかしくなりそう。
木々はまだ、私を見下ろして笑ってるようだし、時々過ぎる風は、私の頬をぺしんと打っていった。
「誰か……」
言いかけてやめる。
駄目だ。いつもみんながいたから、頼り癖がついちゃってる。
彼らがいなくなって、私も帰るとは限らない。
私が、もしかしたらどうにかしなくちゃいけないかもしれない。
そうしたら…
頭を左右にブンブン振って考えを改める。
こんなとこにいるから、気持ちもブルーになっちゃうんだ!
立ち上がると、もう一度左右を見渡す。
そして、適当な方向に歩き出した。
しばらく歩くと、深緑の森は消えていった。
木々は特に着いてくることなく、私を笑いながら送り出した。
その後足を踏み入れたのは、一面の原っぱ……ううん、草原なのかも。
とにかく短く刈った草原が続き、何も見当たらなかった。
溜め息をついて歩き続ける。
だってね、ここで止まっても何もない。私は飢えて死ぬだけになっちゃう。
ずんずん歩けどもずっと草原。根を上げそうになるけど、我慢我慢。
ナルニアを見届けるまで私は死ねない。
もう数時間歩き続けて、休憩しようと考えた時、休む場所かのように一本の大きな木。
あの「このーきなんのき きになるき」のCMに出てくる木みたいだった。
私はそこまで歩くと腰を下ろした。
この木は私を笑ったりしない。でも、淋しそうに見下ろしてる。
こんなとこにぽつねんと立って、この木は淋しくないのかな?
そう思ってると、木の上から実が落ちてきた。
親指くらいのでっかい実だから、これがこの木と同じになる時には、ナルニアももう滅んじゃってないかもしれない。
「しょうがない。埋めてあげるか」
そう呟いて穴を掘る。
なんとか小さな穴が出来て(地面が固かったの!)実を落として土を被せた。
しばらく経つと、そこからグングンと木が伸びてきた。ありえない早さで大きくなっていく。
目を丸くして見つめていると、木は大きくなることに満足したのか延びるのをやめた。
「……ここはどんな世界なんだろう」
思うに、自分のしたいように出来る世界な気がした。
木は、淋しいから実を落として仲間を作ったもんね。
「じゃあ…」
私は、アスランに会いたい。
目をキラキラさせて願う。
きっと、なんでも叶うはず。
…だけど。
「やっぱり、違うのかなぁ?」
がっくし。
宛が外れてしまったので、私は立ち上がるとその場を後にした。
またまだ続く草原。
でも変化があったの。
さわさわ流れる一面の草が、緑から小麦色に変わったんだ。
すごく綺麗だった。
その草を触ると、先っぽには稲穂がたくさん。
きっと、本物の小麦なんだ。
「はあ…きれい」
ここならナルニアに戻れなくてもいい気がしてきた。
だって、この美しさはケア・パラベルでも敵わない。
「私は…」
何か言おうとした時、前方で不自然に稲穂が揺れてるのが目に入る。
まさか、何か動物がいるのかもしれない。
しゃべれるかな。
でも、ナルニアじゃないしわかんないよね。
うーん、でも、ここで待ってみよう。
ということで、私はその風に揺れる稲穂に逆らって歩いている何かを待つことにした。
「…窺ってる」
私がいることに気付いたのか、その何かは立ち止まって私の様子を窺っていた。
でも私が動かないのがわかったのか、それはまた歩き出した。
そして、私の目の前で止まったの。
「…何故、逃げない?」
「わあ!話せるんだ!」
「……平和な生活に慣れて、危険を察知することを忘れてしまったのか」
「そうだね、そうかもしれない」
「それでは、命がいくつあっても足りはしない。ここで私が飛び上がって、君の喉元を食いちぎることも出来るのだ」
「そうだね」
ライオンに喉元を食いちぎられるイメージを浮かべて身震いをする。
でも、今はそんなことはないだろう。
「あなたはそんなことしないよ。アスラン」
「」
小麦から顔を上げ、体を起こす。そのつややかな黄金の毛並みは、小麦畑に溶け込んでいたんだよ。
だから最初はアスランだってわからなかったの。
「、会いたかった」
「私も、アスラン」
「元気そうでなによりだ。…しかし、大人になった」
「えっ?」
確かに、もう29歳だけど…。見た目は15歳から変わってないはず。
でも、アスランの目が節穴なわけないし。
「私には、本当の姿が見えるのだ」
「本当の姿?29歳の私?」
「そうだ」
29歳の私ってどんなんだろう。やっぱり、スーザンみたいなのかな。
……ううん、スーザンは美人だもん。
人種が違うからわからないけど、私はもっとちっこくて、ずんぐりむっくりしてるかもしれない。
「……おばさんぽくなってる?」
「生き生きして輝いている。瞳はキラキラ光り、しかしその奥に秘める優しさを讃えている。
魅力的な女性だ」
「////////」
ちょっ……恥ずかしい。
でも、アスランに言われるととっても嬉しい。
「嬉しい、幸せ」
「……」
にこにこ笑いながら言うと、アスランはしごく真面目な表情で私を見た。
そして、呆気にとられるような事を言う。
「このままこの世界の女王になるか」
「へっ」
「ここは、私の治める国なのだ」
さらりと言うアスラン。
その言葉はするにと私の頭に入って来ずに、目の前で止まった気がした。
「じゃあ、ここってナルニアの裏とか?」
「そうだ。はなぜ、こんなところにいるのだ?気付いたらナルニアに気配はなく、我が国にいる」
「私も何がなんだか…」
「そうか…。
しかし帰るのはたやすい。目を瞑ればいいのだ」
目を?と思ったところで、アスランの大切な言葉を無視しちゃったことに気付く。
女王って、私が?
もしかして、アスランのお妃さまになるってこと?
「そうだとしたら、どうするのだ?」
アスランは朗らかに笑った。
私は顔を真っ赤にして彼を見つめる。
やだ、恥ずかしい。
「私は…」
答えようとしたとこで、私は目をつむってしまった。
そして次に開けた時には、ナルニアの私の部屋。
「戻って来た…。一体、なんだったんだろ?夢?」
ベッドから起き上がってカーテンを開ける。
急に外の陽射しが差し込んで、思わず目を閉じた。
「夢ではない。うまく戻れたようでよかった」
「アスラン、どこ?」
そこは真っ暗闇。
目をつむったままかと思ったけど、違うみたい。
「カロールメンに気をつけなさい。
近々、また会えるだろう。会うのを楽しみにしている」
真っ暗闇に吸い込まれるようにアスランの声は消えていった。
私は目を開くと、いつものナルニアを見下ろした。
*************
向こうの世界の物語。
アスランが王様の世界って、どんな世界なんでしょ?
想像力が掻き立てられますねぇ(笑)
2008/08/16
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