冬の寒いさかり、私達があの白い魔女の支配を思い出す頃、カロールメンからへこへこした大使がやってきた。
彼はしきりに友好的に振る舞い、みんなを関心させた。





でも私にはそのヘコヘコ具合が腹黒さに見えて、全然いい気分がしなかったんだ。
それはエドマンドも同じだったみたいで、隣にいたら「あの黒デブ…」という悪態が聞こえたもん。














「カロールメンも顔が黒くて野蛮だと思っていたが、そうでもないようだな」



これはピーター。










「本当。今度ナルニアに訪れるラバダシ王子という方は、どういう方なのでしょう」



これはスーザン。











「カロールメンて、あんまりいい噂を聞かないわ。ラバダシ王子が来るの、大丈夫かしら」



これはルーシィ。











「本当だよ。僕は心配だ」



これはエドマンド。














なんだか性格の違いが現れてるよね。
いっつも、見てて楽しいって思うの。


でも、今回はエドマンドにつくわけにはいかない。
そうしないと、コル王子を助けられないから。












「大丈夫だよ、ルーシィ。ラバダシ王子はここまで来て何かしようなんて思わないはず」

「…そうだね、の言う通りだ。僕は反対したけど、の意見には賛成する」

「私もよ。もし敵だったとしても、ナルニアで何か起こすほど馬鹿ではないでしょう」










エドマンドの同意に、ルーシーも頷いた。










私の言葉って重いでしょ?
四人とも、私が言うことをそのまま実行してるみたい。



たぶん、数年前に失敗したことを覚えてるんだろうな。















「じゃあ、ラバダシ王子のためにいろいろ用意しなきゃね!」













私はピッとウィンクをした。

















































その春、ラバダシ王子はたくさんの付き人と一緒にナルニアにやって来た。
最初に出迎えたフォーンの歩兵や、セントールの近衛隊に驚いて目を丸くしたけど(たぶん、初めて人以外の喋る生き物を見たんじゃないかな)すぐに表情を戻して前に進む。
彼はゆっくりゆっくりと進み、その威厳を見せ付けるとピーターの前で止まった。



ペベンシーの四人は、友好的だというように彼を玉座から立って向かえ、同じ高さの場所で握手を交わした。
それにはラバダシ王子も驚いたようで、その友好的な握手をちょっと小馬鹿にした目で見た。












それにはきっと誰も気付かなかったはず。
彼を目ざとく見てないとわかんないもん。




ラバダシ王子はピーターとエドマンドを見て少し緊張した面持ちになった。
そのあと、近づいてきたルーシィにカロールメン式のお辞儀をする。













「お初にお目にかかります。」











最後にゆっくりとラバダシ王子に歩み寄るスーザン。
それをすかさずピーターが紹介する。













「スーザン女王です」













すると、ラバダシ王子は最初の時よりも真ん丸く、ううん目玉が零れ落ちそうな程瞳を開いた。















「貴女が優しの君、スーザン女王…」

「はい…」














またスーザンもおずおずと答えちゃってもう…、見てられない!
こっちが恥ずかしくなっちゃうよ。




私はへたに紹介されまいと、みんなとは別の見えないとこでそれを見ていたので、ラバダシ王子と面と向かうことはなかった。
あぶないあぶない。あんな視線の絡み合ったところで紹介なんてされたくない。
きっと、スーザンの方ばっかに目が行って、私のことなんて忘れちゃうだろうしね。















「ではケア・パラベルを案内しよう」












ピーターがそう言うと、ラバダシ王子はにっこりと笑って頷く。
でも視線は絶えずスーザンに向けられ、彼女もそれをひしひしと感じているようだった。





彼らが出ていってしまったあと、しばらく間を置いて私はつけるように玉座の間を出た。
まあ、特に何もなかったからすぐ部屋に帰ったけどね。

































あれやこれやで三日ほど経ち、私はピーターに呼び出されて中庭の噴水の前で彼を待っていた。
冬だからといって、この噴水は凍ったりしないんだ。ケア・パラベル自体、魔法のお城だからこんなこと普通なんだよ。


その水を触りながら(実は、天然温泉なんだけど、ふふ)温まってると、しばらくしてピーターが顔を出した。
















、すまない。待たせてしまったな」

「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」














ピーターは私の横に座ると、ううむと唸る。一体どうしたんだろ?
そんな横顔を見て思う。













大人の男の人だと。













顔は日に焼けて健康的で、顔を覆う髭は、彼を精悍な男性へと見せている。
王の中の王といえるくらいかっこよくなって(アスランの次だけどね)、優しい王様になっていた。




エドマンドと並んで、女の子達に騒がれることも少なくなかったんだけど、彼ら二人は気にすることなく…、結婚も考えていないようだった。
もったいない。きっと花嫁候補ならたくさんいるだろうにね。















「明日、北の国境の巨人征伐に行ってくる」

「そんな急に!?」















驚いた。
ここのところ、北の巨人の素行が前にも増して悪いと聞いてたけど、征伐に行く程じゃなかった。
それが急に征伐ってことになったのは、何かあったってことだ。
















「何か…あったの?」

「…ああ。巨人達は木が入り用になったのか、物言う木らを切り倒し始めたんだ」

「ええっ!」















北の地は、荒れた山脈続きて木はなかった。
だから巨人達は山脈に生える最低限の木だけで暮らしてきたはず。
それがナルニアの木を切り倒すなんて…













「許せない」

「ああ、だから行ってくる。近衛隊も何名かつれていくが、ナルニアの指揮はエドマンドに任せたから大丈夫だろう」

「うん、それなら大丈夫だよ。

ピーター、気をつけて」

「大丈夫だよ、。僕は大丈夫だ」














今のピーターの一人称は「私」なんだけど、彼は私と話す時は「僕」って言ってくれた。



他の三人と同じく、特別にしてくれて嬉しいな。
そう思うと、顔が綻んでしまった。















「しかし、ラバダシ王子には申し訳ないことをしてしまうな。せっかく来て頂いたのに」

「大丈夫よ、ピーター。ラバダシ王子はそんな心の狭い方じゃないと思う」














本当はありの巣以下に狭いだろうけど、ナルニアではそんなとこは微塵も見せないでしょうよ。



腹の中でそう思いながら、ピーターには王子を庇うように言う。
この使い分けが難しいんだけど、物語を本通りに進めるには我慢するしかない。















「…は、ラバダシ王子が好みなのか?僕はてっきりヘラクスかと思っていた」














はい?ラバダシ王子が好み?
それもヘラクスだと思ってた?




ありえないから、ピーター。
















ガサッていう音がして、二人でそちらを向く。
けど誰が聞いてるとかはなくて、話を戻した。















「違うのかい?」

「違います!ラバダシ王子にもヘラクスにも興味ないよ。もう、変なこと言わないでよ」














私がそう言うと、ピーターは目を細めて笑った。
あまりにも穏やかな表情だったから、逆に心配になる。















「なんかあった?」

「?何がだい?」














キョトンとした顔を見て、何もないって確信する。
あまりにも穏やか過ぎて、何かあったのかと思っちゃうじゃない。
心配し過ぎなのかな…?















「何でもないならいいよ。

北の巨人討伐、気をつけてね?巨人て何にも考えてなかったりするから、予測つかない行動するかもしれないよ」

「大丈夫だって」

「でも、何かあったら…」














そこで言葉を止める。
何かあったら、なんだろ。何がいいたいのかな…。




考えてると、ピーターがクスリと笑って私に顔を近づけた。

うっ…顔が近くて赤くなっちゃう。















「ピーター…」

「なんだい?」













ピーターはこの歳になってから堂々とこういうことをするの。
私のことからかってるんだよ。絶対。















「そんなに心配なら、祈りのキスを下さい。守人さま」













くすくす笑いながら、でも目が合うと真剣に言う。
こう言われたら、私はアスランの代わりに応えてあげなきゃいけないんだって。
セントールのうらべが言ってた。だから















「わかりました。じゃあ、目をつむってください」














私はそう言って、祝福のキスをほっぺたにしてあげるの。




でも今日は、顔から火が出そうだった。

















*************

とうとう馬と少年が始まりました!前置きの話が長くてすみませんでしたー。
これからも、楽しんで下さいね☆


2008/08/19







41話へ