強い風が吹き、木々がざわめいた。
動かなくなった体をどうにかして抵抗しなければ、ラバダシ王子だと思った途端に固まってしまったから、彼の言葉通りにとられてしまうかもしれない。
「お前のようなガキがピーター王を虜にしているなんて…、この国はどうなっているんだ?」
「わっ…私は…」
唇も震えて、これ以上先が言えない。
でも私が本当は大人だって言っても、普通は信じないよね。
「嬉しすぎて声も出ないのか?」
王子はクックッといやらしく笑うと、私の顎を撫でる。
ざらざらとした皮膚が当たって気持ち悪い。その手を、すぐにでも払いたかった。
「お前はナルニアやアーケンの者達とは違う、黒髪で黄色みかかった肌。それはそれで、美しいな。
若すぎるわけでもない」
ニヤニヤし、汚らわしい瞳で私を嘗めつくす。
目を瞑っても、その視線をひしひしと感じた。
「ほう、その気になったのか」
「えっ…」
その気?と思って目を開けたけど真っ暗。
でも怪しく光るものが見えた。その途端、
「んーっ!?」
口に生暖かいものが当たった。そして水気のあるぬめりがそこを這う。
途端、体の麻痺が解けた。
自由に動くようななったんだから、このままラバダシ王子の好きにさせとくわけにいかない
ドン…
彼の胸を強く押して体を離す。
勢いあまって噴水の中で転んじゃったけど、水を滴らせながら急いでその場を離れた。
最悪。
びしょ濡れだし、何よりさっきの感触がありえないよ。
気持ち悪い、汚い。
今ならどんな悪い言葉も言えそう。
「もーっ……何だって言うの?私、あんなやつなんて嫌いなのに!」
涙が出てきた。
ぼろぼろ、ぼろぼろと流れて、自然にしゃくりあげる。
唇は拭きすぎて、皮がむけかけている。
ひりひり痛いけど、あの感触が消えるなら唇を剥ぎ取るとか、何でも出来そうな気がした。
「っく…、ひっく、ファーストキスだったのに……。
嫌な思い出になっちゃったよ。二度と思い出したくない」
それにあいつ、やっぱり高慢で自分勝手だった。
思い込み激しいし。
「くそヒゲ〜〜〜っ!!!」
私はまた唇をごしごしと吹きながら、悪態をついて泣いた。
気が付いたら朝だったのは言うまでもないけど、目が真っ赤で腫れぼったくなってて愕然とした。
こんなんじゃ誰にも会えない。
もう、やだよ〜!
それも全部あの、ラバダシ王子のせいだ。
「どうしよう。部屋から出ないと朝食もとれない。
お腹空いたのに…」
でもこの腫れぼったい目をみんなに曝すのは気が引けた。
それに、部屋を出て始めにラバダシ王子に会ったら、どうなるかわかんない。
泣き崩れちゃうかもしれないし、向かってくかもしれない。
剣が近くにあったら、刺しちゃうかも。
それくらい、乙女の心は傷ついたんだよ!!!
私は朝ご飯を諦めると、そのままふて寝を決め込んだ。
「…」
…
「…」
…
「ああーっ!お腹が空いて寝れない!」
ぐぅ〜
叫ぶと同時にお腹の虫が鳴った。信じられないほど力が抜けて脱力する。
お腹が減るって、こんなに大変なことなんだね。
どうにか我慢しようと躍起になってる時、誰かが戸を叩いた。
「〜?どうしたの〜」
ルーシーの声だ。
ベットからばっと起き上がって、ドアに走っていこうとして止まる。
やだ、こんな顔じゃ会えない。
行き場を失った体はだらりと力を抜き、その場に立ち尽くす。
私がそんな事をやってる間にも、彼女はドアを叩いて私を呼んでくれていた。
「……ううん、今日は誰にも会わないようにしよう」
鉛のように重くなった体をのそりと動かし、ベットに這い上がる。
もう、お腹が空きすぎて寝れそうな気がした。
(気を失うっていうかね…)
ルーシーは諦めたのか、ドアの前からいなくなったようだった。
そしてしばらくして、エドマンドがやってきた。
でも私は、ルーシーの時と同じように出るつもりはなかった。
だって、こんな腫れぼったい目をしてたら何があったか聞かれちゃうでしょ?
そしたら困る。
私はどうしても本と同じようにコル王子を助けたいの。
あのぷっくりとした肌にキスを落とした時に、甘いミルクのような赤ちゃん独特の香りがして幸せを感じた。
私にそんな気持ちを持たせてくれた可愛い子が、カロールメンの何処かでこき使われてるなんて、考えたくもない。
だから、ラバダシ王子がここで悪者になっちゃったら困っちゃう。
「スーザンの気持ちが心配だけど……、きっと上手くいくよね。ねぇ、アスラン」
声に出して彼の名前を呼んだけど、答えてはくれなかった。
きっと、急がしいんだろうな。
心細くなってアスランを呼んでしまった事に後悔。
だって、やっぱり来てはくれないから。
ドンッ
その時、急に強くドアを叩く音がした。
びっくりして飛び上がり、ドアへと走る。
こんなに急ぎっぽくドアを叩かれたらもう、出るしかない。
簡単に顔を整えて、恐る恐るドアを会えた。
すると、ドアの目の前には顔を真っ赤にして起こってるスーザンが立ってたの。
なんか、嫌な予感がした。
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人生はそう上手くいきません。
ラバダシ王子にキスされたとき、たぶんあのひげの感触もあったのではないかと思われます(笑
2008/08/23
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