大体の違和感とか、嫌な予感って当たるものなんだよね。














この時だってドレス着てるのに、ドアの前で仁王立ちしてる彼女を見たら嫌な予感がしたもん。


でも、それは思ってた以上に最悪なものだった。



















「スーザン、そんなに慌ててどうしたの?」

「どうしたの?あなたがどうしたのなんて言える立場じゃないわ」
















キッと目尻を吊り上げて私を見下ろす彼女を、何がなんだかわからない私は受け止めるしか出来ない。
いつもとは違う…あまりの異様さに、朝食をとらなかったことを怒りに来たんじゃないのはすぐにわかった。
















だったら一体、何に怒ってるの?

















「スーザン、何を怒ってるの?」

















私、何もしてないよ。
そんな意味で言った言葉。だけど彼女は、さらに目尻を吊り上げた。


















「何を怒ってる?、あなたの胸に聞いてみなさいよ!」

















カッカした彼女は、もう止めようがなかった。
大きな足音を立てて私を部屋に押し込めると、バンと強くドアを閉めた。


















「自分の胸に聞く?」

「まだわからないの?

……その腫れた目はなに?」

「えっと、これは…」


















今更隠しても仕方ないけど、何でこうなったかは言えない。

コル王子のため、本通りに進めていくためなんだから。

















「これはっ……なんでもない」

















誤魔化すとますますスーザンが怒るような気がしたけど、しょうがなかった。



















「……、あなたラバダシ王子に手を出したんですって?」

















スーザンは冷たい口調で言い放った。
その内容ときたら絶対ありえないようなことで、一瞬目の前が真っ暗になる。


















「なっ…何言ってんの!」

「わかってるのよ、。隠そうとしたって駄目よ。

王子が明日帰るからって、早まったことをしてくれたわ」


















スーザンはきっつい表情で私を見下ろすと、肩に手を置いた。
強く掴まれて痛みを感じる。


















本当に怒ってるよ…

















、あなたって最低ね。

私とラバダシ王子の仲が進んだから嫉んだのかしら」

「仲が進んだ…?」


















そんなこと、誰にも聞いてない。それに、仲が進んだってなに?



















「私たち、結婚の話が出てるの。でも、あなたが余計なことをしてくれるからぶち壊しになっちゃうわ」

















スーザンも、こんなにも怖い表情が出来るのかと思うと悲しかった。



ずっと一緒に過ごしてきた私より一時の恋人の言い分を信じるなんて…、これまでの信頼関係は何だったんだろう。

















「私、ラバダシ王子に手なんて出してない!」
















辛いと思ったら、途端に否定の言葉が出た。どうしても、スーザンに信じて欲しい。
なのに、



















パンッ…



















部屋に渇いた音が響く。
それに伴って、頬っぺたが張ったように痛かった。








頬っぺたに手を当てると、ひりひりと熱を持っている。

私、ひっぱたかれたんだ。

















「何するの!」

















睨むと、スーザンは唇を噛み締めた。
何か強いものを奥に潜めた瞳が、ぎらぎら光る。




















「何よ!あんたが最初に手を出したんじゃない!」

「違うって言ってるでしょ!」



















また否定すると、彼女は私の髪の毛をひっつかんだ。

ギリギリと引っ張られ、痛みに涙が出そうになる。
もうこうなったら、やられてばかりじゃいられない。
結局信じてくれないなら、もう否定するのも無意味だ。



私はスーザンの綺麗な髪の毛を掴んだ。そして同じように引っ張る。


















「なっ!痛いじゃない!」

「私も痛いよ!」
















グイグイ引っ張り合い、どちらも引かない。
睨み合う瞳は外した方が負けだと言わんばかりに合わさったまま。瞬きもろくに出来ない。

















「ラバダシ王子に謝りなさいよ!」

「嫌だ!むしろあっちが私に謝れ!」

「何言ってんのよ、ドロボウ猫!!!」


















スーザンがそう叫び私を押し倒した時に、声を聞いたのかルーシーが駆け付けてきた。


















「ちょっと、何やってるのよ!」

















ルーシーはびっくりして私たちを離そうとしたけど、聞く耳もつつもりがない私たちは彼女を突き飛ばす。


勢いが凄すぎて自分では止められないと思ったのか、ルーシーはそのままエドマンドを呼びにいった。
彼が来た時の私たちは、まだ取っ組み合いをしてて、私が馬乗りになった直後だった。
















「二人ともやめろ!」
















エドマンドはスーザンを、ルーシーは私を羽交い締めにして喧嘩を止めた。
でも私たちはまだ睨み合ったまま、終わってはいない。

















「一体、何があったんだ」

「二人とも、どうしたのよ?」

















心配そうに聞く二人を無視して、スーザンは私から目を逸らした。

















「フン…」

「スー!!…、何があったんだ?」
















私に背を向けたスーザンを見て、今までの取っ組み合いや睨み合いが馬鹿馬鹿しくなっちゃった。
私ったら、こんな歳にもなって、何してるんだろう。



















「スーザン、何でずっと一緒に過ごしてきた私のこと信じてくれないの?」

















口から出た言葉。
それは、憎しみも全てかなぐり捨てて…悲しみだけ込めたものだった。

でも、スーザンは何も言うことなくいなくなっちゃったの。
だから、部屋には私の言葉から事情を察したエドマンドとルーシーが残った。
二人とも心配そうな表情で私を見ている。

いつの間にか出てきてしまった涙を拭って、二人に背を向ける。
今の状況を見られただけで居た堪れない気持ちだよ。

















…」

「ごめん、エドマンド。ひとりにして」

「……わかった。行こう、ルーシー」

「ええ…。食事は、後で運ばせるから」

「ありがと、ルーシー」















ルーシーの言葉に感謝する。
だって、朝から何も食べてなくてお腹が空きすぎだったんだもん。

きっと、スーザンにイラついちゃったのはご飯を食べてなかったせいだと思う。
そうじゃなくてもそう思ってたい。



でも、スーザンは……。













「今日はもう考えるのをやめよう」













私は泣きながら布団に入った。



















違うのに、信じてもらえないってことがこんなに苦しいなんて知らなかった。






どうしてラバダシ王子を信じるの?

どうして私を信じてくれないの?













もう、ファーストキスを奪われた事件どころではなくなっちゃった。

















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女の戦い

って、恐いんですよね。何が起こるか分からない上に
ねちっこいときたもんだ。
喧嘩になりそうな場合は気をつけましょう。


2008/08/23








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