翌朝、騒がしいと思ったらラバダシ王子が帰国するとのことで、ナルニア人達がケア・パラベルの城門に集まっていた。
そういえば、昨日も私が部屋に閉じこもってる間、送別会たるものをやってたみたい。
私の部屋にもパーティーの食事らしきものが運ばれてきたけど、結局ほとんど手を付けなかった。
あんなにお腹空いてたのに、なんでだろう?
城の出窓から城門を見下ろしてすぐに目を逸らす。
あろうことかラバダシ王子とスーザンが親しく抱擁を交わしているとこだった。
なんてタイミング悪いんだろ。
私って、ついてない。
今、ピーターもオレイアスもヘラクスもいないのが寂しかった。
私が悩んでる時、いち早く力になってくれるのはいつも三人の誰かなんだもん。
今の私は、なんだかひとりぼっちな気がした。
「あ、朝ごはん」
部屋に帰ってみると、テーブルにホカホカのスープとパンが置いてあった。
量が少なめだから、きっと昨日の夕食の食べた感じで持ってきてくれたんだろう。
気が利くなぁ…。
席についてパンをかじる。
大口を開けて噛み付くと、思ったより大きくちぎれてのどにつっかえそうになった。
「んーっ!」
もごもごいいながら、コップのミルクを飲む。
すると、それは人肌に温められて飲みやすかったので、パンはスムーズにのどから外れていった。
「ごちそうさま」
食器を重ねて持ち、部屋を出る。運んでもらってばかりじゃ悪いからね、私から戻しに行かなきゃ。
しばらく歩くと、エドマンドと会ってしまった。ちょっと気まずい。
彼の姿が遠くに見えてたら絶対他の廊下を行ったのに!
角を曲がったら目の前にいたのよ。
「やあ、」
「エドマンド、おはよう」
じっと見上げて、溜め息をつく。
よく見たら、背中を壁に付けてよっ掛かって待ち伏せしていたのがわかった。
「待ち伏せてたでしょ?」
「さすが。鋭いね」
エドマンドは悪びれずに開き直った。彼らしいと言えば、彼らしいんだけどね。
そのまま私の食器を持ち上げると、キッチンに向かって歩き出した。
「ねえ、。スーがおかしいと思わない?」
「スーザンが…?」
「そう。昨日のケンカだって、変だよ絶対。ピーターも含めて僕たちの誰よりも大人ぶろうとするスーザンが、あんな子供じみたケンカをすると思うかい?」
エドマンドはぴたりと足を止めて身を屈めると、私の目を見つめた。
その目に見つめられると、体全体をぎゅって握られたような気持ちになって動けない。
「どう思う?」
「……それって、私が子供ってこと?」
「は子供だろ?見た目も中身も」
検討違いの発言だったのに、ちゃんと答えてくれるのもエドマンドらしい。と思いながら、ズバリ子供だと言われたのが心に刺さった。
大人になりきれない子供は、子供なんだよね…まだ。
「がずっとそのことを気にしてるのは知ってる。でも、今はスーの話をしているんだよ」
「うん、そうだね」
私の言葉がどんなに冷たかったか。自分で自分が恐くなった。
何気ない「うん、そうだね」がイントネーションなく平坦だった。
それって、心が何もこもってないってことだ。同意した言葉なのに、全く同意してないって意味。
ハッとしてエドマンドを見上げると、すっごく驚いた顔してる。
「〜〜〜〜〜っ」
申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ち、そして自分にガッカリする気持ちが入り混じって、もうその場に居られなくなってしまった。
私は、彼に食器を預けたまま部屋に逃げ帰っちゃったんだ。
「ありえない…」
エドマンドがスーザンのことを心配するのは当たり前だよ。
だって、姉弟だもん。大切なお姉さんの方が、居候の私なんかよりももっともっと大切に決まってる。
「うーっ…」
やだぁ、私、なんて考え方してんの?
どっちが上、とかじゃないのに…。
でも私だって色々な事で悩んでるのに、エドマンドが私よりもスーザンのことを話そうとするから。
いきなり何が起こったか分からない状況でラバダシ王子にキスされて、それをスーザンに咎められて…信じてもらえなくて。
そんな時に、エドマンドには私のことは置いといてスーザンの話をしようとするから…。
私だって…私だって辛い思いしてるのに。
誰にも相談できなくて、胸が爆発しそうなのに。
なんで、なんで…私のことは考えてくれないの?
こんな考え方ダメだって思うほど、苦しみが溢れてきた。
誰かに聞いてもらえればスッキリするだろう言葉が、どんどん溢れてくる。
でも、この部屋には私しかいない。誰も聞いてくれない。
またこの思いを、自分で飲み込まなきゃいけないんだ。
どばっと出る涙とは違い、今日の涙は静かに流れる涙だった。
ほろほろ、ほろほろ、頬を伝って流れていく。
しゃくりあげもせず、ただ哀しく涙が流れる。これは、自分でもおかしいと思った。
「アスラン、助けて」
彼を呼ぶ。でも返事はない。
「アスラン……」
やっぱり、返事はない。
近いうちに会えるって言ってたけど、きっとそれは今日ではないんだろう。
諦めて目を閉じると、そこは違う景色。
でも、ここにはアスランはいなくて……
「?」
「オレイアス…?」
「、何故ここに…?それに透けている…」
森に佇むオレイアスがいた。
それも、私の体は透けていてふわふわ漂っている。まるでドリアードみたいだった。
「そっか、これは夢なんだ。だからオレイアスも一人でいるんだね。だって、今頃は北の国境だもん」
「……」
夢だから、何を話してもいいよね。
「あのね、聞いてオレイアス!!!」
*
「そうか…そんなことが……」
「うん。私ね、自分が嫌な子だって思うの。いっつも自分のことばっかりで、役立たずで」
オレイアスは私の顔を見ると目を細めた。そして、透けているはずの私の頭をゆっくり撫でる。
温かくて心地よかった。その温もりが、本当は私が一番欲しかったの。
でも、彼からこんな温もりはあの戦い以降もらえなかった。
「そんなことはない。生きているものは誰しも自分のことを最優先する。それは本能なのだ。
だからが考えていることは万人全てが持っているものと思っていいだろう」
「うん……」
「しかし思うに、スーザン女王はエドマンド王が仰る通りおかしくなっていると思う」
「えっ?」
オレイアスは長い癖毛の黒髪をかきあげた。そして普段滅多に笑わない口元を緩ませる。
彼のこんな顔を見るのも久々だった。私の心も安らいだ気がするもん。
「、物事の本質を見極めるんだ。それを見極められたら、さっき言っていたこと全部が、馬鹿らしく思えてしまうだろう」
「全部が?」
「そう、全部だ」
オレイアスはくすくすと笑って、私を抱きしめてくれた。
嬉しい、本当に良い夢だ。
「わかった。もうちょっと感情的にならないで物事を見極めてみる。そしたら、本当のことがわかるんでしょ?」
「ああ」
「頑張るね。私の話を聞いてくれてありがとう。スッキリした!
あ……夢だからもう一つ言っちゃおうかな」
「なんだ?」
オレイアスを見上げて、ニンマリと口をほころばす。
だって、せっかくだから言っておかないと。私の「ファーストなんとか」は、いっつもだめになっちゃうんだもん。
だから…
「私ね、ずっとオレイアスのこと好きだったの。
でも、私はアスランの守人だし、人間だし…オレイアスはセントールでしょ?だから胸の奥の奥に押し込んで我慢したんだ」
「……」
「あはは、夢だから言っちゃた。
じゃあ、帰ってきたらいっぱいお土産話聞かせてね。私も聞かせてあげるから。あ、お小言は勘弁してね。私…」
ふわりと包み込まれ、何かと思ってきょろきょろ見回してしまう。
すると、その包み込んでくれたのがオレイアスの腕でびっくりした。
あんな大きな剣を振るう筋肉もりもりの太い腕なのに、こんなに優しく抱きしめてもらえるなんて思わなかった。
その温もりは、頭を撫でられる以上に心地よく、この身を任せてしまいたくなってしまう。
いけない、と思ってオレイアスの胸を押すと、彼は小さく「ありがとう」と呟いて消えた。
目を開けたそこはもう、ケア・パラベルの自室のベッドの中だった。
「やけにリアルな夢だったなぁ…」
それに、いつの間にベットに入ったんだろ?記憶ないや…。
目をこすって起き上がり、ベットの横のランプに手を伸ばした時、凄い音でドアを叩かれた。
びっくりしてベッドから飛び降り、急いでドアを開ける。
「ルーシー、どうしたの?」
「どうしよう、!!!」
「?
……一体、何があったの?」
ルーシーはいつもの彼女らしくなく、おろおろしながら私を見た。その眉は逆への字になっている。
その背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせると、彼女は一呼吸置いて言った。
「あのね、スーザンがナルニアを出てっちゃったの!!!」
********************
悩んでる時にいい夢みたり、逆に悪い夢を見たりさまざまですよね。
ヒロインはいい夢だったようです^^
これでオレイアスは一段落か…。
さてさて、スーザンはどこ行っちゃったんだか♪
2008/08/25
45話へ