胸がざわめく。
どうしてだろうと、見えてきた陸地を向いて思った。
待っている。あなたが私を待っている。
……彼が、ナルニアに戻ってきた。
「ねえ、。私、考えていたんだけど…」
「どうしたの、スーザン」
スーザンは甲板に出て海風を感じている私を呼び止めると、同じように陸地を見据えた。
あそこに見えるはナルニア。私達の祖国。
カロールメンのタシバーンの都を出て数日、まんまと船で逃げおおせた私達はナルニアへの帰還を果たそうとしていた。
「もう安全ね。ナルニアが見えるわ」
「うん、スーザン。あなたと一緒に戻ってくる事が出来てよかった」
微笑んで見せると、彼女は少し頬を染めて私を見る。
風が、冷たいのかな。
「寒いの?中に入った方がいいよ?」
「違うのよ、。私嬉しくて」
「嬉しい?」
「そう。あなたと仲直り出来て良かったわ」
彼女はそう言って、美しい髪を振り乱しながら抱きしめてくれた。
優しい温もりと、ふわり香る大人の匂い。
スーザンの大きくてほっそりした背中に腕を回すと、強く抱きしめ返す。
「私も。スーザンとあんな別れ方は嫌だもん」
「ふふ、同感」
私達はクスクス笑い合って、その場に座り込んだ。
でも気になるのはスーザンが言いかけた言葉。一体、何を考えたんだろう。
「さっき考えたって言ってたのは何だったの?」
「ああ…」
それなんだけど…と、話し始める彼女を見つめて溜め息が漏れる。
ピンクの唇がゆっくりと開いたり、閉じたり…白い絹肌が太陽の照りつけを反射させている。
風が弄ぶように彼女の髪を持ち上げてストンと落とし、それを押さえようとほっそりした手が空を舞う。
本当に美しい人っていうのはスーザンのことを言うんだと思う。
私からは遠い遠い人。
ラバダシ王子が惚れ薬を使うのもわからなくないって思っちゃう。
「って思うの……、!聞いてるの?」
「え?ごめん」
「もう……。
私達が見たコーリンに似てた男の子って、もしかして双子のコルなんじゃないかって」
「そうだよ」
彼女の考えをあっさりと頷いてしまい、しまったと思う。
眉間に皺を寄せたスーザンは、すっくと立ち上がると私を見下ろす。
「知ってたならどうして行かせたの?一緒に戻ってくるべきだったわ!!!」
「それじゃだめなの」
「何言ってるの、!あそこはナルニア人にとっては危険だわ!
あなたの考えてることって、どうしてそうなの!!!」
かんしゃくを起しそうなスーザンを見て姉弟だと思う。
こういうとこ、エドマンドとそっくりだ。
「やっぱり、姉弟だね。スーザンとエドマンドの怒り方はそっくりだよ」
私も立ち上がって溜め息を吐いた。
もうこれ以上話してもわかってもらえない気がしたから。そのままここを去ってキャビンに戻ろうと思ったの。
でもスーザンはそうさせてくれなかった。
「…ごめんなさい、。私が悪かったわ。
あなたが言う事はいつも正しいもの。私達の目分量で意見を言うのは誤りだってこと、とっくの昔に知ってたのに。
許してちょうだい」
「わかった。すぐに謝ってくれたから許してあげる。
あのね、彼は彼の使命があるの。危機をアーケン国に知らせなきゃいけないの。私達はナルニアに帰れば終わりかも知れないけど、ラバダシ王子は許さないんだよ。
スーザンを追ってくる」
「えっ…」
顔色を悪くしてへなへなと座り込んでしまうスーザンに肩を貸すと、私は一緒にキャビンに戻ることを促す。
一歩一歩をゆっくり踏み出し、また話し出す。
「私達じゃアーケン国に危機を伝えるのは間に合わない。だからコルが行くんだよ。
それに、彼には心強い仲間がいるから大丈夫なんだ」
「巨人の仲間でもいるの?」
「ううん、ナルニアのお馬さんが二頭とタルキーナが一人」
「タルキーナ!?カロールメンの貴族じゃないの!
大丈夫なの、それ…」
「大丈夫。彼らにはアスランがついているから。
それに私達にも…」
そう言うと、スーザンは緊張して強張っていた肩の力を抜いてふと微笑んだ。
よかった、これならゆっくりお茶が出来そう。
「さて、ナルニアに着くまでお茶しない、スーザン」
「それ、いいわね」
私はスーザンを一人で立たせると、タムナスさんを探しにいった。
だって、お茶を淹れてもらうならタムナスさんが一番なんだもん!!!
「着いた〜!!!」
「ああっ、愛しのナルニア!!!」
私とスーザンは、周囲の目を気にする事なく船から陸地に走り降りた。
そして船着場を抜けてお城へと急ぐ。
「早く湯浴みしたいわ!」
「私も私も!!!
きっと湯浴みの前にルーシーに会ったら、たくさんの包容とキスをくれるだろうけど、こんなベタベタした体じゃ嫌だもんね」
「そうね、早く湯殿に……」
その時、私達二人は丁度ルーシーにぶつかってしまい、驚いた彼女にたくさんの包容とキスをもらって、結局三人で湯浴みする事になってしまったの。
その夜、まんまと逃げおおせたことに対しての祝杯を挙げた後、私は酔いを醒まそうと自分の部屋に戻り、バルコニーからたくさんの星を見ていた。
きらきらと光る星は美しくて、まるで私のいた地球とは大違い…だったと思うんだけど。
姿は変わらないけどね、記憶が段々薄れていく気がするんだ。
お母さんの顔とお父さんの顔は覚えてるんだけど、私には幼馴染のマユモがいて……、でも顔がはっきりしない。
性格は覚えてるんだけどね。
だって、ヘラクスと同じなんだもん。
そういえば、ピーターとオレイアス、ヘラクスは大丈夫かな。
怪我とかしてないかな。
私、何の役にも立ってあげられないけど、無事を祈る事は出来る。
「アスラン、どうか彼らを守ってください」
『彼らは大丈夫だ、』
お祈りした瞬間にアスランの返事が聞こえて、私はびっくりしてひっくり返ってしまった。
そして周囲をキョロキョロと見回して彼の姿を探す。
『私はそこにはいない』
「じゃあ、どこにいるの?」
『城の外だ。
、迎えに来た』
その言葉をどんなに待っていたことか。
アスランに迎えに来たと言われたら、私はその身一つで彼のところへ行くだろう。
顔に満面の笑みを浮かべて頷く。
きっとアスランに見えたのかもしれない。彼はいつもの調子で高らかに笑った。
「待ってて、今行く」
『、身支度を整えなさい。何かあるかも知れない。それに手紙を書いていくこと。皆が心配するだろう』
「わかった!!!」
そうだね。アスランと一緒に居るから安全ではあるだろうけど、私が身支度する事でアスランの役に立てるかもしれないし。
それに、もしかしたら私にはアスランと違うところで何か役目があるのかもしれない。
「手紙…と。
勝手に出てったら、もっとエドマンドとケンカになっちゃうかもしれないもんね。彼らが帰る時までずっとケンカしてたら、今度会うとき気まずくなっちゃう」
羊皮紙を取り出して羽ペンにインクをつける。
ガシガシして書きにくいったらありゃしない!それに滲んじゃうし…。私ったら、いつまでたってもこれには慣れないんだよね。
それに練習さえもしないから上手くならないし。
「よし、と。さて、今日はみんな酔っ払ってるから正面から出て行っても大丈夫かな」
私は前に作ってもらったリュックの様な鞄に必要最低限のものを詰め込むと、堂々と正門から出て行った。
アスランに会うために。
**************
やっとアスランも動き出しました☆
と言いながら、アスランは先ほどまでシャスタの方にいたので
動いてはいたのですが…(笑
さてさて、これからどうなるんでしょ???
2008/09/23
50話へ