「さあ、帰って来るぞ。」
アスランの声が響いた。
ちょうど作業も終わったので、私は一息つくとアスランの横に行く。
「二人が帰ってくるの?」
「ああ、そうだよ。、暖かい笑顔で迎えておやり。」
「はい!」
アスランはそう私に言うと、空を見上げた。
空は日が沈みかかり、私とアスランと動物達、精霊達を煌々と赤く照らす。
私たちは川のほとりで首が痛くなるまでずっと、空を見上げてディゴリー達を待ったの。
そろそろ首が痛くて耐えられないという時、ずっと向こうの空にイチゴが現れた。
イチゴはすべるようにこっちに降りてくると、翼を畳んで降り立つ。
私はイチゴが止まるまで、じーっと背中を見つめてしまったの。
だって、ディゴリーとポリーが無事なのか心配だったんだもの。
「あ」
でもね、イチゴの背中にはちゃんと二人とも無事にいてとっても嬉しかったし、安心したよ。
私が安心すると、アスランもホッとしたのか鼻頭を私の手に擦り付けてきた。
本当に良かった!!
ディゴリーとポリーは、他の生物達に道を開けてもらうと、真っ直ぐアスランに向かって歩いてきた。
途中からはディゴリー一人になってアスランの目の前で立ち止まると、リンゴを持って彼に言った。
「欲しいとおっしゃっていたリンゴをお持ちしました。」
と。
アスランはきらきらした目で彼を見ると、鼻をブルルと鳴らす。
「良くやった、アダムの息子よ。」
そしてディゴリーに言ったのはこの言葉だけだったのよ!!
褒める言葉とか、労いの言葉とかなんにもないの!!
私はアスランの言動に憤りを感じると、抗議したい気持ちで心がいっぱいになって彼の名を呼ぶ。
「アスラン…!!」
でも、その声で私の存在に気付いたのか、ディゴリーがぎょろりと私を見たの。
「あれ…君は…」
彼は不思議でいっぱいな目を私に向けると何かを言いかけたけど、それはアスランに遮られてしまう。
「自己紹介は後でも出来る。今は大切な事をやらなければならない。」
「大切な事…?」
ディゴリーは恐れおののくような顔でアスランを見つめる。
「そうだ。さあ、アダムの息子よ。そのリンゴを川岸の土の柔らかい素晴らしき場所に投げるが良い。」
ディゴリーは震える手でリンゴを持ち直すと、大切そうに投げた。
その時、私は誇らしい気持ちでいっぱいになったの。
だって、あの土壌を作ったのは私と動物達なんだもの!!
アスランは私に優しく微笑み掛けると、動物達のほうを向いて言った。
「では、これからナルニアのフランク王とヘレン女王の戴冠式を行う事にしよう。」
アスランがそう言うと、彼の後ろから御者さんとその奥さんが出てきた。
小人さんが作った、私のデザインした服を着てね。
嬉しくなって思わず拍手をしてしまう。
その音につられて動物達やディゴリーやポリーも音を鳴らしたり拍手をしたりした。
「僕さ」
突然耳元でディゴリーが話しかけてきた。
「何?」
「君に会ったよね?」
「うん。ディゴリーがここから飛んでいった時に会ったよ。」
「やっぱり。」
ディゴリーは少し頬を赤くすると、にっこり笑った。
その後ろからポリーが顔を出す。
「私は知らないわ。」
「うん。ポリーは私に気付かなかったもの。」
彼女はふーんと言うと、私を頭のてっぺんから爪先まで見回した。
そして自分の前にいるディゴリーをどけると、私の前にずいっと出てきた。
「あんた、何で私たちの名前知ってるの?」
「え?あー…それは…アスランに聞いたの。」
「じゃあ、自己紹介くらいしてよ?」
ポリーの言う事ももっともだと思うと、私は深々とお辞儀して自己紹介をし出す。
「・です。宜しくね。」
今度は外国人風に挨拶する。
でもこのナルニアではどっちでも理解できるのか、難なくポリーは「ね。」と言った。
「宜しく。あんたも指輪でこっちに来たの?」
ポリーはそう言うとポケットを指した。
「ううん、違うよ。私はアスランに呼ばれたの。」
「そうなんだ!!凄いよ!!」
今度はポリーをどけてディゴリーが話しかけてきた。
「ううん、全然凄くないよ。
だって私、何にもできないもん。
ディゴリーはすごく頑張ったよね!りんご、無事に持ってきたじゃない。」
途端、ディゴリー泣きそうな顔で私を見た。
あっ…お母さんの事とか思い出しちゃったのかな。
どうしよう…。
私は夜になりかけの空を仰ぐと、本の内容を思い出した。
確かアスランがディゴリーに言ってない言葉があったっけ。
もしかしてさっきあの言葉を彼に言わなかったのは、私に言わせるためなのかな?
私は深呼吸すると、ディゴリーに優しく話しかけた。
「ねえ、ディゴリー。」
「なんだい?」
私はこの二人を迎えたときの極上な微笑みを彼に向ける。
「この木の実のために、あなたは飢えと乾きに苦しみ、また涙を流しました。
ナルニアの守りとなるべき木の種をまくのはあなたしかいなかったの。
私達が作った、あの土壌の中にね。」
ウインクをすると、ディゴリーはわっと泣き出した。
きっと、緊張して恐くて、どうしようもなくて、
苦しくてでも誰も頼れなくて、
一人で悩んでたんだろうな。
私もディゴリーの想いをちょっとしか分かってあげられないけど、
でも、
分かち合う事はできるから……
私はディゴリーの肩に触れて、そしてぎゅっと引き寄せると、
彼のおでこに自分のおでこをくっつけた。
「…?」
私を呼ぶ声が聞こえる。けど、こんなに近くにいるディゴリーの声が遠い。
目を瞑って彼の心に触れる。
ディゴリーの心から溢れ出す、彼のお母さんの顔。
それは全部微笑んでいて、全部幸せそうで、全部優しかった。
でもね、とっても色が薄くて消えそうなの。
私は必死にそのお母さんの顔を手でかき集めると、絵の具を思い浮かべて色を塗る。
何でも良いから暖かい色をお母さんに塗っていく。
すると、お母さんはもっとたくさん微笑んでディゴリーの心の中に帰っていった。
これで大丈夫かな…?
すごく不安で心配な気持ちが襲ってくる。
これがディゴリーの感じていたものの一部かもしれない。
私はそれを耐えるように全部受け入れると、
とっても悲しくて、苦しくて、涙が出た。
******************
二ヶ月以上ぶりの更新って…(笑)
ディゴリーの苦しみを分かち合うヒロイン。
ナルニアを見届けるためには、それを受け入れる勇気も必要なのです。
「君がいたから僕は強くなれる」
2006/10/09
6話へ