ふわりと頭に乗ってくる手。
その温かさは心に沁みて、やっぱり涙が出る。
「ディゴリー…」
本当に悲しいのはディゴリーなのに、
苦しいのもディゴリーなのに、
私の目からは涙がでちゃったの。
「泣かないで、。僕は大丈夫だよ」
「う……うん…」
「は泣き虫なのね。でもわかるわその気持ち」
「ポリーにもわかるの?」
しみじみ言うポリーに、ディゴリーはきょとんとした顔で聞いた。
すると、ポリーはむっとして…
「失礼ね!あんた、私だって女の子なのよ!」
「うわぁ…!」
「クス…」
ポカスカとディゴリーを殴るポリーを見て、可笑しくて笑ってしまった。
すると、二人は安心した表情で私を見る。
「笑った、よかった。は笑ってる顔の方がいいよ」
「え、そう?ありがとうディゴリー」
「いっちょまえに女の子褒めちゃって」
「…ディゴリー、ポリーも褒めて欲しいって」
「そんなわけないじゃない!」
私がそう言うと、ポリーは顔を真っ赤にして怒ってしまった。
両腕を腰に当てると、胸を張って文句を言う。
「ごめん、ごめんってば、ポリー!」
私はそんなポリーに観念すると、即謝ってしまった。
そんな私達を見て今度はディゴリーがお腹を抱えて笑い出した。
「くくく、はは!二人ともおかしいや!」
私とポリーは顔を見合わせてアイコンタクトをした。
「ディゴリーが笑ってよかったね!」ってね!
そんな話をしているうちに、周りの様子は一段と厳かなものに変わっていった。
葉はさざ波のように揺れていたのをやめ、草はその生長を止めたかのようにぴんと立った。
私達はフランク王とヘレン女王の方を見た。すると二人はアスランと一緒にある四つの木(のようなもの)を眺めている。
「!驚いた!アンドルー伯父だ!」
ディゴリーが言った。
そっか、ナルニアが生まれる物語…ディゴリーとポリーが出てくるお話は『魔術師のおい』だ。
ということは、もしかしてアンドルー伯父が主人公…?なわけないかぁ。
主人公は私の横にいるディゴリーだもんね。
変な事を考えながら、私はディゴリーの横顔を見た。
散々な目に合わされてきたのに、ディゴリーは心配そうにアンドルー伯父を見つめている。
「その生き物を出してあげなさい」
アスランは動物達に言った。
アンドルー伯父はゾウさんに助け上げられ、怯えた顔をしていた。
でもその顔は蜂蜜がついてぐちゃぐちゃで、上等だっただろう服も破れてぼろぼろ。見るも無残な姿だった。
ちょっと同情の気持ちが浮かんでくると、私は一歩踏み出してアスランに訴えた。
「アスラン、どうかその人を安心させてあげて」
すると彼はちょっと考えてゆっくりと喋る。
「私には出来ないのだよ、」
「あ……」
思い出した。大人のエゴとかそういうのから来る意味。
彼は自分で、アスランの声を聞こえないように自分自身を操作してしまっている。
だからアスランが安心させようとしたって、それは出来ない話なんだ。
「何でですか?」
ポリーが言った。
「あなたが作った世界なのに、何か、安心させる言葉も無理なんですか?」
「……この老人は自ら私の声がきこえないようにしてしまっている。私が話しかけても、ただの唸り声か吼え声にしか聞こえないだろう。
ああ、アダムの子らよ。あんたがた人間はなんと手際よく、自分達によいことをしてくれるものから身を防ぐことか!」
アスランは言った。
ポリーは理解できたのか、私達より下がって「ごめんなさい」と言った。
「しかし、あの者がまだ一つだけ受け取ることの出来る贈り物を与えることにしよう!」
柔らかな足で出来たばかりの草を踏みしめ、アスランはアンドルー伯父の前に立った。
そしてその大きな顔を傾げると、優しい吐息を吹きかけてあげる。
「眠れ。眠って、僅か数時間なりとも自ら作り出した苦しみより逃れるがよい」
すると、アンドルー伯父はゆっくりとした動作で目を閉じ、その場にぱたりと倒れてしまった。
私はびっくりして駆け寄ると、その息を確かめる。
「規則正しい寝息…」
「心配ない、。
さあ、小人達が今から王と女王の冠を作る。、君の仕事はわかっているね?」
「うん!冠のデザインでしょ?……実はもう、出来てるの」
「さすがだ」
私はアスランの言葉に胸いっぱいになると、小人さん達にデザイン説明をした。
彼らは喜んでそのデザインを受け入れ、作業にとりかかる。
「すごいわねぇ。王冠って、こんな具合につくられるのかしら」
「う〜ん、金の木も銀の木も普通はないから、ここだけに限られるんじゃないかなぁ…」
ポリーの言葉に少し考えると、ここがナルニアだと思い出して私は答えた。
エメラルドのはめ込まれた軽くて美しい王冠が出来上がると、小人達はそれをアスランに渡して後ろに下がる。
アスランはフランク王とヘレン女王を目の前に跪かせると、王冠を彼らの頭に乗せた。
その時、私達を照らす光(太陽だと思うけれど)が、彼ら二人を包み込み王冠をきらきらと輝かせる。
神秘的な力に包まれた二人は、ゆっくりと立ち上がって微笑んだ。
「ナルニアの王と女王、またナルニアと島々とアーケン国の王たるべきの者達の父となり、母となる者よ。正しく、情け深く、勇気あれ。あなたがたに恵みあれ!」
アスランのその言葉に、周囲にいた動物達は喜びの声を上げた。
もちろん私達も声を上げて喜んだ。ポリーもディゴリーも、今まであったことを忘れたかのように笑って手を叩いている。
「ナルニアのフランク王、ヘレン女王ばんさ〜い!!!」
私がそう叫ぶと、動物達も同じように叫ぶ。
フランク王もヘレン女王も恥ずかしそうだったけれど、幸せそうに嬉しそうに微笑んでいるのが印象的だった。
「見よ!!!」
嬉しい騒ぎの中で、アスランが皆に言った。
私達はそちらへ目を向けると、ほう、と溜め息を漏らす。
何でかって?それはね……
「リンゴの木だわ!」
ポリーが言ったのを聞いて、ディゴリーにもわかったみたい。
彼が苦労して取ってきたリンゴの実が、戴冠式の最中に人知れず大きくなっていたのを。
「アダムのむすこよ、あんたの種の蒔き方がうまかったな。
ああ、もちろん達の土壌の作り方も良かったのを忘れてはいない」
「光栄です。アスラン」
私はクスリと笑った。
「ナルニア人よ、この木を守ることを、第一のつとめとせよ。これはあなたがたの盾となるものだから。
ここに降り立ったあの魔女は、この世界の北方はるかかなたに逃れ去っておる。魔女はそこで生き続けて邪な魔法を用い、ますます強くなっていくだろう。
しかしこの木の茂る間には、魔女はナルニアに決してやってこないだろう。この木から150キロ四方の中には入れないのだ」
私はみんなの元を離れてリンゴの木へと駆け寄った。
その木には今にも実が膨らんで、芳香な香りを漂わせそうだった。
手を伸ばして木に触れると、その木は私を受け入れるかのようにドクンと音を鳴らせる。
「?」
もう一度触れて撫でる。するとまたドクンという音。
「この木……私達と同じ?」
木に心臓があるなんて知らなかった。けれど、確かにこの木はドクンという音を立てたのだ。
「」
アスランに呼ばれると、私は振り向いて彼の元へ駆け寄った。
そしてその黄金の鬣を一撫でし、頬を摺り寄せる。
その行動にディゴリーとポリーは驚いたようだった。自分にはそんなことは出来ないと、いう表情をしている。
でも動物達は私がした行動を当たり前のように感じているみたいだった。
は特別だから、と言われているきがしたの。
「魔女のこれから、ナルニアのこれからは私とが見守っていくのだ」
「……うん、そうだよ」
この言葉に二人は、さらに驚いたようだった。けれども、ポリーは納得したように頷いたの。
「は特別なんだ」
「わたしは、アスランに呼ばれてここに来たの。それが私のつとめなの」
「さあ、アダムの息子よ。母のためにあのリンゴの実をもぐといい」
アスランは鼻頭をディゴリーの背に押し付けた。
そして彼をリンゴの木の方に押しやると、腰を下ろす。
ディゴリーはというと、最初アスランに言われた言葉の意味が理解できずに立ち尽くしていた。
けれども、よく考えてその意味を理解すると、顔を真っ赤にしてリンゴの実をもいで帰ってきた。
そしてアスランに言ったの。
「お願いです。もううちに帰っても宜しいでしょうか」
***************
一年半ぶりの更新となってしまいました^^;
本当にごめんなさい。
もうすぐ映画の公開ですね!待ち遠しい…(笑
ナルニア誕生編は次のお話で終わりになります^^
2008/05/10
7話へ