「ありがとう、」
「ううん、こちらこそ!」
ディゴリーとポリーは元の世界へ帰る準備を始めた…と言っても、アンドルー伯父を起こさないように引っ張っただけなのだけど。
ディゴリーはそわそわしだすと、ポケットに手を入れて中をまさぐった。
そこに入っているリンゴの存在を確かめるように、何度も、何度も。
「大丈夫だよ、ディゴリー。お母さんはよくなるよ!」
「うん…」
「大丈夫、アスランと私を信じて!あと、リンゴとお母さんもね!」
私は彼のポケットに入った彼の手を引っ張ると、強く握りしめてぶんぶん振った。
ディゴリーはちょっと驚いていたけれども、文句を言わずに手を振らせてくれた。
彼との握手が終わると、ディゴリーを押しのけてポリーが前に進み出てくる。
「あんたに会えてよかったわ」
「ポリー…私も!」
「友達よ、私達」
「もちろん!」
ポリーとも握手して抱き合うと、私達は離れた。
風がそよそよと流れ、その空気は心なしか冷たい。
きっと新しく出来たこの空も、二人の別れを惜しんでいるのね。
「さあ行こう、二人とも」
アスランが言った。
二人は彼の横にいくと、私に手を振る。
「さようなら、」
「また会いましょう、」
「うん!バイバイ、ディゴリー、ポリー!!」
二人とアスラン、アンドルー伯父はゆっくりと色が薄まっていく。
そんな状況を見て、ナルニア人達も私達のことを不思議に思ったのか見物にやってきた。
「、なんだいあれは」
ビーバーさんが言った。
「あの子達は、アスランと共に新しい使命に向かうのかい?」
続けるようにイチゴが私の肩に鼻頭を乗っけて言ったので、それを撫でながら首を左右に振る。
「違うよ、帰るの」
「あの、前いた気がするよくない世界にかい?ずっとここにいればいいのにねぇ」
ブルルと鼻を鳴らしながら言う。
「そういうわけにはいかないんだよ。二人には、置いてこれない家族がいるんだから!」
「そうかい」
イチゴは興味なさそうに頷いた。
「あ、ディゴリー!」
私はあることを思い出して、消え行く彼に声を掛けた。
すると、彼はポケットに突っ込んでいた手を慌てて出してこっちを見る。
「なんだい、」
「みんなによろしくね!」
「?うん」
彼にはまだ私の言った意味がわからないだろうけれど、いつかは…
「ディゴリー、ポリー、元気でね!」
私がちぎれそうなほどたくさん手を振ると、二人も消えるまで同じく手を振ってくれた。
バイバイ、違う世界の友達
ディゴリーとポリーと見送りに行ったアスランを見届けて、私はナルニアを歩き回った。
きっと、私がどんなに歩いたとしても、この世界の全部を見ることは出来ないだろうな。
天馬になったイチゴに乗っても、ナルニア国物語を何度も読んだとしても。
きっと、この世界の全てを見届けることが出来るのは、アスランだけなんだ。
「う〜〜〜んっ!」
私は背伸びをすると、見つけた川の辺に佇んだ。
そして川の中を覗いて魚を見つけ、手を入れてみる。
「わあ、くすぐったい」
笑いながら魚を見ると、彼らは私の事を「、」と呼んでいる気がした。
川から離れて小高い山に登ると、甘い花の香りが漂ってきた。
私の足はその香りに誘われて、酔っ払ってるおじさんみたいにちどり足で歩く。
ふらふら〜、ふらふら〜と芝生の上を転びそうなくらい。
ふらふらと移動しているさなか、たくさんの動物たちに「」と呼ばれた気がしたけれども、私は立ち止まらず花の香りを目指した。
そしてついにその香りが強くなった!と思った時、目の前に一本の木があった。
「匂いはこの木…?」
私はその木に触ると、あのリンゴの木と同じ様にドクンという音を感じた。
「やっぱり、生きてる」
撫でると嬉しそうにドクンドクンと音がした。
そのうちにざわざわと風が吹き、その木の花びらが舞い出した。
きらきらと日の光りを帯て、若い女の子が楽しそうに踊っているように見えた。
「楽しそう…」
そう思って見上げると、その花びらは女の子を形づくっていた。
私と同じくらいの女の子で、にっこりと笑っている。
「、一緒に踊りましょう!」
彼女はこう言って、私の手を取った。
とても驚いたけれども、あまりに楽しそうだから私もつられて踊ったの。
時間を忘れるくらい、ずっと。
私達の周りに数えきれないドリアードや自然の精、バッカスの神が集まり踊り明け暮れた頃、騒ぎの端が静まった。
急に静まったから何が起こったのかと思って見てみると、そこにはアスランが立っていた。
その表情は柔らかく、私達の騒ぎを怒ってはいないようだった。
「お帰りなさい、アスラン」
「ただいま、」
アスランは私の前でお辞儀した。私も同じ様にお辞儀すると彼の肩に手を添える。
きっと、後にも先にもナルニアで彼と踊ったのは私だけかもしれない!
そんな思いにのぼせながら、私は楽しい時間を過ごした。
私をここに呼び寄せてくれたあのドリアードとも、友達になったのよ!
「そろそろ行こうか、」
「え?」
「君は一度、家に帰らなければならない」
「家に…?」
アスランは私の足を小突いて、自分の背に乗りなさいと言った。
恐れ多いとか思いながら跨がると、金色の小麦のような毛に纏われ、幸せな気分になる。
その幸せに十分浸る前に、アスランは風のように走り出した。
いくつもの野を超え、風を切って…。景色が代わる代わる私の目に入って、そして去っていく。
私がさっき思ったこの世界の全部を見たいこと、アスランに伝わっちゃったのかな。
そういえば、私が家に帰らなきゃいけないってどうしてだろ。
もしかして、私がここにいたらナルニアがなくなってしまうまでは生きられないからかな。
う〜ん…
「君が私と同じようにこの世界での外見が変わらないとしても、ずっと見ていることは出来ないのだよ」
「え…?」
私が考えている事がわかったのか、アスランはそれに対して答えてくれたみたいだった。
でも、彼が言っている意味がよくわからなかったので聞き返してしまう。
すると、彼はきっぱりと言った。
「君に見ていて欲しいのは、彼らが来た時なのだ」
彼ら=ディゴリーやポリー、ペベンシー四兄弟とかのことね。
でも、私の役目である『ナルニアを見守ること』って一体…
「君は私の手伝い兼彼らの導き手なのだよ」
「お手伝いと導き手?なんか、簡単なようで難しそう…」
「難しくはない。はらしく振る舞えばいい。君が考えて、思ったことを実行すればいいのだよ」
「でも、それじゃあ本が…」
私はナルニア国物語のストーリーを思い出した。
何回も何回も読んでるから、細かいところまで鮮明に思い出せる。
「本は、一つの物語に過ぎない」
アスランは言った。
彼はピタと立ち止まると、私を背から下ろす。そしてその緑の瞳を私と合わせた。
「あれ…」
鮮明に覚えていたはずの物語が、どんどん頭から抜けていった。
しゅるしゅると音がするように、ゆっくりと。
最後には物語があやふやになり、どんな話だったかもわからなくなる。
「あれ、私…」
「このナルニアでは、が物語を作っていくんだ。本など関係ない。君が皆を導いて行くのだ」
「アスラン…」
「わかったね」
「うん」
アスランは目を細めて微笑むと、私から離れていった。
え、あれ?ううん、私が離れていってるんだ!
「アスラン…?」
「、また君が必要になったら呼ぶ。だから、それまで元気でおいで」
「うん、でも…」
こんな形で、すぐにお別れが来るなんて思わなかった。
だって、まだたくさん話したいことがある。
出来上がったばかりのナルニア国だって、見たいものがたくさんあるよ。
「アスランーーー!!!」
次に叫んだ時はもう、元いた部屋に戻ってた。
真っ暗な中、私は押し入れからはい出る。体はなんともないし、何も変わってない。
えーと、
ここに来る前って、何してたっけ?
「………あーっ!!!
私、学校に行くんだった!」
押入れに手を突っ込んで赤いリボンを掴む。
そしてそのまま家を出た。
「あっ、おっはよ〜!!!」
向こうから歩いてくる友達の姿。それに大声でおはようを言う私。
いつもの生活。
でも、
今の私には本じゃない『ナルニア』がある。
次の冒険を楽しみにしながら、今日は学校に行こうっと!
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ナルニア誕生『魔術師のおい』編終了☆
次は『ライオンと魔女』編になります。これは、
本ではなく映画沿いにいこうかと思っていますので、
あしからず〜。
読んでいただき、ありがとうございました!
2008/05/15
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