眠くて、
眠くて眠くて眠くて…。
私は授業中に居眠りをした。
と言ってもそれは日常茶飯事で、この授業はちゃんと聞いて、この授業は寝て、とか科目ごとに決まってるんだけど。
アスランに呼ばれて、ナルニアに行って帰って来てから早一週間。
あの時のことが夢のようで、心がドキドキしっぱなし!
あれから毎日夜も遅くまでナルニア国物語を読んで、あれやこれや考えちゃうんだよ。
でもわかってる。私がナルニアに呼ばれたとしても、本の中身なんて忘れちゃうんだ。
アスランが言ってた。私は、私らしく実行すればいいんだもんね!
「眠い…」
そう呟いた時、後ろの席に座っている幼なじみのマユモが背中をつついてきた。
はっと思って先生を見るも、私の居眠りと呟きには気付いていない。
先生はずっと、黒板に向かって長い英文を書き綴っている。
「何?」
私はそう言って振り向く。
するとマユモは、ニヤニヤしながら言った。
「居眠り大魔王」
「…」
大魔王ってなんだろうと思いながら、彼を見つめた。
マユモはつんつんと私を突きながら言葉を続ける。
「お前、今日ちょっと寝過ぎ。大丈夫かよ?」
「あ、うん。大丈夫」
さすがにナルニアに行ったとも言えないし、私は軽く頷く。
でも彼は訝しげに私を見つめた。
「ホントかなぁ〜」
「っ!無駄話をするんじゃない!」
「はいいっ!」
はい。
後ろを向いていたので、先生に怒られました。
そして放課後、プリントのホチキス留めを罰として与えられていた私は、一人教室でパチンパチンとホチキスを鳴らしていた。
話し掛けてきた原因のマユモは、薄情にも部活に行っちゃったの。
「ああ〜、居眠りが原因だよね〜。罰なんて、あんまりないのに」
パチン
パチン
クラス全員分を留め終えてその束を輪ゴムで纏めると、教卓の上に置く。
「やっと終わったぁ」
背伸びして一息吐くと、鞄を持った。
確かロッカーに教科書をいれっぱにしといた気がする!
と思ってロッカーに手を突っ込み、中を探る。
するとまた、アスランに噛まれた?時みたいに変な感触があった。
「あれ?」
冷たい?
冷たい風が手に当たる。変だと思って手をひらひらさせるけど、やっぱり冷たい。
ロッカーって冷たいっけ?
とか考えながら、手前に置いてある教科書を掴もうとした時、
「きゃああっ!」
いきなり手を掴まれた!
「何?なになに?」
パニくってぶんぶん振るも、離してくれない。
びくともしない!
「ちょっ…なんで!?」
じたばたともがいて騒いでいるうちに、私の体は頭からゴクリとロッカーに飲み込まれてしまった。
*
ひんやり…というか、ひんやり以上に冷たいものが体に当たり、凍えそうになる。
目を開けなきゃいけない。
でも怖くて開けられなくて、ブルブルと震えるのみ。
だってこんなにも冷たくて、寒くて、怖くて……、これはもう一つしかないよ。
冬が続くナルニアに来たんだ!
まさか一週間でこんなことになるとは思えなくて、何も対策とか用意してない。
本を読んだけど、結局忘れちゃって何かわからなければ意味ないもん。
「寒い…」
とうとう寒さに負けて目を開けなきゃいけなくなると、私は思い切ってパッと開けた。
「!!」
ここは…
ああ〜、一番来たくないとこに来ちゃったよ。
「お城だ…ここ…」
そう、ジェイディスのお城。
だって、ナルニア人達が石になってる。
「やっと起きたか、小娘」
「!!」
ビクウゥッと肩を震わせて後ろを見ると、そこにはジェイディス本人が立っていた。
その顔は雪のように白く、この世のものでない程に美しい。
「……」
「喋れぬのか?」
高慢な態度で、彼女は私の顎を掴んだ。そしてグイと上を向かせる。
正直、痛かった。
けど、怖い方が数倍勝ってた。
だから私は何も言えずに彼女の顔を見つめてたの。
「異世界の娘、アダムとイヴの四人の者はいつ現れるのだ?あの猫の言った、ナルニアの救いは」
私はあくまで喋れない風を装った。
喋れる事を知られたら根掘り葉掘り聞かれて、今覚えているナルニア国物語の全てを話してしまいそうだから。
小さく左右に首を振ると、私はジェイディスを見つめた。
怖かったけど、そうするのが一番に思えたから。
「わからぬのか。
…そなたも私と同じ異世界の者だ。私がわからぬものをわからぬのは致し方ないのかもしれぬ」
「……」
ジェイディスは自分なりの解釈をしてその話を切り上げると、私の腕を掴んで立ち上がらせた。
そして力強く引っ張っていく。
怖くてしょうがなかった。声を出すことも叶わず、ぶるぶると震えながら辺りを見回すことしか出来ない。
それに辺りを見ても生きてる者は誰もいないの。
だって、みんな石になっちゃってるんだから。
「っ……」
言いようのない悲しみに襲われると、突然目から涙が溢れ出した。
ぽろぽろと零れる水滴は、周囲の寒さで一気に冷たくなり、私の頬を赤く染め上げた。
「おや、声が出せないのに泣くことはできるのかえ」
彼女は私の涙に気付くと、渇いた笑いを見せる。
私はそれにも恐怖を覚えると、袖で涙を拭った。
ここに吹く風は、すきま風のような侘しいものがあった。
まるで、この世界から締め出された外れの国の城かのよう。
しんしんと降る雪は石像に積もり、彼らを世界から遮断する。
どのくらい昔に石像になってしまった人達なのか私には計り知れないけれど、わかるのは、彼らはまだ生きているということ。
それは永遠に刻みこまれた、苦痛の表情が物語っている。
「もっと早く歩け!」
ジェイディスに強く引かれ、現実を思い出す。
そうだ、私は今この状況を脱しないといけない。
このままじゃ、アスランが助けに来てくれるまで牢で過ごすことになるか、石像になってしまう。
「お前はここで待て」
ジェイディスは急に立ち止まると、私の手を離した。
「モーグリム、モーグリム!」
そしてあの狼の名を呼ぶ。
ほどなく狼達が走って来ると、私は彼らに取り囲まれた。
狼に囲まれるなんて、どれ程の人が経験したことがある?
そんな事態に陥ったら、死を覚悟しちゃうよね。
でも今回は、ジェイディスのしもべ。喋る狼。それが幸いかもしれない。
「この娘を覚えておけ。あとで必要になる」
モーグリムは彼女の言葉に一礼すると、私を見つめた。
「この娘は、アスランの守人だ」
「アスランの守人…この娘が」
モーグリムは嘲笑うと、ジェイディスに再び頭を下げた。
ジェイディスが彼に、もう行ってもいいとジェスチャーをすると、モーグリムは素早く立ち去った。
「お前の名を何と言う?書け」
「……」
ジェイディスは名前を聞き出そうと小枝を私の足元に投げた。
それを拾おうとしたその時、ここではありえない声が聞こえたの。
『おい、。何やってんだよ!』
?
『それ、何かの冗談か?』
マユモの声だ
私の頭の中に、マユモの声が響いた。
その声に混乱しながら、私は小枝を掴んで立ち上がる。
「何をしている!書け!」
ジェイディスが苛立ちを隠さず、大声で叫ぶ。でも、私はそれを見据えるだけ。
だって、マユモの声が聞こえたならば私は帰れるかもしれないもん。
「おい、娘!」
「あ…」
『大丈夫かよ、!どうしちゃったんだよ!』
慌てた幼なじみの声が聞こえた後、私は足から透け出した。
ジェイディスは仰天した後に憤怒の表情になると、私の腕を痛いくらいに強く掴む。
「逃がしはせん!」
でも私の体はどんどん透き通って、彼女に掴まれている痛みも薄れてきた。
『、起きろよ!!』
マユモの泣きそうな声が聞こえた後、ジェイディスは私の手を離した。
「絶対にそなたを取り込んでみせよう」
取り込む?この人は何を言ってるの?
「そして、我が力となるのだ」
運命は決まったものといいたげに笑う彼女を見て、急に言い返したくなってしまう。
あなたは滅びの道をゆくのに!
「アスランは、あなたには負けない!」
私が言い放つと、彼女はククと笑う。
「喋れるではないか。
そなたの名前を聞いておこう」
「よ。・」
「…か。私はジェイディス。ナルニア国の女王だ」
その言葉を聞いて、私は消える直前に危うく舌を出しそうになってしまった。
まあ、そんな暇なく元の世界に戻っちゃったけど。
「!!
俺がホチキス留め任せたからこんなことに…」
マユモの声がはっきり聞こえて安心すると、私は目を開けた。
すると、彼とバッチリ目が合ってしまった。
「!」
ぎゅ〜って抱きしめられて実感する。無事に帰って来たんだ!って。
「…?」
そう思ったら急に涙腺が緩んで、涙が溢れて来た。
「あ〜ん、怖かったよ〜!!」
**************
始まりました、「ライオンと魔女」編ですね!
今回はジェイディスと顔合わせ。
そして幼なじみ君も登場!
彼はなかなか重要?な人物なので、仲良くしてやって下さい(笑)
2008/05/19
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