「コルはもう大丈夫かな」

「大丈夫だ。もうすぐナルニア人が彼を見つけ、食べ物を振る舞うだろう」

「うん。あんな小さな非常食じゃなくて、温かいスープをね」













私達はナルニアとアーケンの国境近くに入ると、コルはもう一人で大丈夫だと判断して彼から離れた。
それはこの上なく自然で、コルもすんなり受け入れたみたいだったけど、逆に私は寂しく感じてしまった。
寂しく、酷く心配に。






それはアスランと一緒にいても胸に残り、ゆっくりと不安を煽っていく。






私がいることにあんなに嬉しがってくれたのに、アスランの殺気から私を守ろうとしてくれたのに、こんなに早く別に行動しなきゃいけなくなるなんて。
















「そんなの、やっぱりだめだ」
















せめて、彼が安全なところに入るまで見届けるべきだったんだ。
私ったら、何してるんだろう。




とうとう私は、アスランと別に行くことにしたんだ。

















「私、もう少しコルを見守ってからいく」

「………そうか。が望むならばそうするのがいいだろう」

「ありがとう、アスラン」
















彼の大きな顔にキスをして、手を振って別れた。
言葉の間が気になったけど、アスランが何も言わなかったから大丈夫だと思ったんだ。










































でも、それが間違いだとこのあとすぐに気付いた。










































「いい気持ち。戦いが待ってるとは思えない」
















アーケン国の城門付近の戦いは、本ではそうではなかったけど、その戦い自体は血生臭いものだと思う。



だから少し嫌なんだよね。やっぱり戦いは嫌だもん。

















「ナルニアには負けるけど、アーケン国も自然が美しいよね。木々は踊らないだろうけど」














ルンルン気分で別れたコルを探し始めると、草を掻き分けた。
でもいくら掻き分けても彼は見つからない。


どこいっちゃったんだろって焦り始めた時、ずーっと向こうの方…ナルニア国にコルの後ろ姿を見つけた。
















「よかった、ちゃんと着いたんだ」














ホッとして胸を撫で下ろすと、私も早々に退散しなきゃいけないと気付く。
だって、ラバダシ王子達が追い付いてくる。
コルさえナルニアに到着してくれれば、私はもうアスランとこに戻らなきゃ。














辺りを見回して誰もいないことを確認し、忍び足で歩き出したその時…















「っ…!」















草むらからラバダシ王子率いるタルカーン達が現れ、一斉に囲まれてしまう。
逃げる隙もないほど、あの黒くて髭の生えた顔がずらり。
















「やはりお前か。

ナルニア国に帰ったはずのお前が、ここで何をしてる?」

「ここで何してようと、私の勝手だよ」

「相変わらず気の強い娘だ」















つんと顔を背けると、皮肉っぽくフンと笑われる。
でもすぐに機嫌を直したのか、私を上から下まで舐めるように見た。

















「我らともナルニア人とも異なる種の娘だ。それも一の王の寵愛を受けている」















ラバダシ王子は楽しそうに言うと、タルカーン達を見回した。
















「この娘はナルニアの何であるのか、気になるな」

「王子、人質にもってこいです」

「我らの慰みになってもらってもいいしな!」

「命さえあれば、人質としての価値は十分ある」















タルカーン達のニヤニヤ笑いが気持ち悪い。
だてに29歳じゃないよ、彼らの言ってることくらいわかる。



こんな危険な目に合うなんて、思ってもみなかった。
どうしよう、恐い。

















「はっはっは、顔色が悪くなってきたな、娘。大丈夫か?」















ラバダシ王子も一緒になってニヤニヤしながら、私の顎をクイと上げた。











またキスされる!!











そう思ってぎゅっと目をつむるったけど、そうはならなかった。

















「ふっ、せいぜい夜を楽しみに待つがいい」

「……」















彼はそう言うと、部下に私をぐるぐる巻きにするように命令した。






































夜が来るのがこんなに恐いことなんて、今まで一度もなかった。
だって、夜はいつもゆったりした時間で…こんなに忙しく、慌ただしくはなかったし、ロープでぐるぐる巻きにされたこともなかった。














私、どうなっちゃうんだろ。




……慰みってあれだよね。
絶対いや。考えたくない。













でも誰も助けに来てくれなかったら、どうすることもできないもん。
剣がなければ何も出来ない。逃げられない。
















アスラン、助けて。








































私の心境なんか関係ないかの如く、フクロウがホーッホーッと鳴く。
周りは真っ暗、木々が鬱蒼として恐怖を煽る。















ああ、どうしてこんなことに?

アスランはどうして助けてくれないの?














何がなんだかという状態で、頭の中を疑問だけが飛び交う。




今までだって危険なことはたくさんあったもん。これが最大で最後の危険かもしれないじゃない。

これさえ我慢すれば……
















我慢?
やっぱり我慢なんて無理!嫌なもんは嫌だもん!!
あんな奴らの……
















「気分はどうだ、娘。一人では寂しいと思って来てやったぞ」















うわ〜っ!

気持ちを諦める前にラバダシ王子が来ちゃったよ!!!
キスだけでも嫌なのに、あんなことやこんなことまでされるなんて耐えられない。

















「そうか、さるぐつわでは喋れないな。

しかし外さんぞ。お前みたいな気の強い娘に騒がれたら敵わんからな」
















くくくと笑いながら、成す術もない私の前にしゃがみ、さらりと頬っぺたを触られた。
















「ん〜っ!」

「お前のことは気になってたんだ。誰とも違う人種、一の王の寵愛…しかしその割には手を出していないようだ。

そんな存在がナルニアにいるということは…」















ラバダシ王子はもう一度頬っぺたを触ると、真っ直ぐ私の瞳を見た。
そのギラリと光る瞳は、惚れ薬を飲んだ瞳とは違ったものがある。











それは狡猾さだ。
この人、本で読んだラバダシ王子よりもずっと賢いんだ。
















「お前はナルニアの王、女王よりもずっと、ナルニアに近い存在だろう。そしてお前を手に入れるということは、ナルニアだけでなく世界を手にするかもしれない」

「……」















答えられなかった。
まあ、喋れないから答えられないけど。



この人、自分なりの核心があるんだ。それで私の存在を使おうとしてる。

















「スーザン女王は美しい。この世界に二人とない美しさだ。しかしお前は、その美しさをも凌ぐ程の存在だ。

それをこの私が手にした…こんなに素晴らしいことが他にあるだろうか!」















恍惚と天を仰ぎ、ラバダシ王子は勝利の笑いを口にした。
彼はそのままこの場を後にすると、見えなくなってしまった。












ふう、よかった〜。
でもまた後で来るかもしれないもんね。事態は全然良い方向に進んでないし…。


ああ、どうしよう!

どうにかして逃げなきゃ!!!













その時、遠くの草が不自然に揺れた。
ラバダシ王子の消えた方だ。
















また戻って来たのかもしれない。今度こそ…かな。

ああ、誰か助けて!!!
















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コルは無事にナルニアに到着しましたが、今度はヒロインが!
一体どうなるのか!
次回へ続く☆


2008/10/06





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