「……か?」
「うん。久しぶりだね、オレイアス」
家の外で子供に剣の稽古をつけているオレイアスを見つけ、ヘラクスは駆け寄った。
背中に乗っている大人な私を見て、彼はすぐにだと気付いたみたい。
「…ああ、久しぶりだ。何か話があるのだろう?家に入ってくれ」
「うん。そうさせてもらうね」
ヘラクスの背中から滑り下り、オレイアスの子供達にお辞儀した。
「お父さんをちょっと借りるね」
そう言うと、長男のシリウスが目を丸くして私を見つめた。
そっか!私の姿を見てびっくりしてるんだな。
「久しぶりだね、シリウス。どう、私の本当の姿は」
「本当になんだ?!すげーっ!大人になってる!」
「でしょ!」
「うん。ずっとあのままだと思ってたよ!いつか僕がを追い越すはずだったのに」
「残念でしたー。ふふ」
そだね。
いつか追い越されると思ってたけど、もうそんな日は来ないね。
「シリウス、弟達を見ていなさい」
オレイアスはシリウスにそう言うと、稽古をつけてた息子達をシリウスの前に突き出した。
「はい、父上」
シリウスは言葉を正してそう言うと、弟達の腕を引っ張って家から離れた。
「ヘラクスも久しいな」
「今頃かよ。俺は取って付けた従者じゃないんだからな」
「はは、そう言うな」
膨れるヘラクスを見て、オレイアスは楽しそうに笑った。
彼は城勤めを辞めて、家族と過ごすようになってからよく笑うようになった気がする。
あの険しい表情が見れなくなったのは残念だけど、やっぱり笑ってくれてる方が嬉しいよね!
家の中に入ると、そこには誰もいなかった。
ふとオレイアスを見ると、彼は私を見つめていた。
「…キャサリンは出掛けている」
「そう…なんだ…」
ホッとしたような残念なような複雑な気持ちになる。
それが表情に出ちゃったのか、オレイアスは心配そうに私に寄って来た。
そして…
「!」
きゅっと抱きしめられて驚いちゃった。
前だったらもっともっと抱きしめられたいと思ったかもしれない。
でも今は、そうやって思う程子供じゃなくなっちゃった。
彼の胸に手を当ててそっと押し返す。すると無言で開放された。
「私達、話があってきたの」
ちょっとの間が気まずくて、すぐに切り出す。
オレイアスはいつも通りの彼に戻ってて、どっちかというとヘラクスのがおかしな顔をしてた。
「ああ。王と女王がいなくなったというのは本当なのか?」
「うん…」
心に冷たい風が吹く。
そうだ、そうだった。彼にはそこから話してあげなきゃならない。
「…アスランの考えなのだな」
「そうだと思うよ」
「では、が大人の姿になって残ったのもアスランの考えか?」
「それはっ…」
言葉を切る。
本当のとこはよくわからなかった。でも…
「違う。私は自分の考えで大人になって、ここに残ったんだよ!」
「そうか…」
オレイアスの手が延びて来て、今度は何をされるかとびくりとする。
すると、彼は私の頭にぽんと手を置いた。
「こんなに姿も変わってしまったのだな」
「オレイアス…」
彼を見上げて泣きそうになってしまう。
寂しい気持ちが表面に出てきそうで必死に押さえ込む。
その時、急に後ろからヘラクスに抱きしめられた。
「俺達は、お前にケア・パラベルに戻って来てほしくてここに来たんだ。な、!」
ヘラクスの声が震えててドキリとする。
やだ、そんな慌てないでよヘラクス。私とオレイアスはそんな関係じゃない。
「うん。私は王じゃないし、ヘラクスは星読み出来ないからセントールの騎士団の全信頼を得てない。だから、オレイアスの力が必要なの」
「……」
オレイアスは黙ってしまった。
どうしよう、大丈夫かと思ったけど無謀なお願いだったのかな。
「あっ、えと、オレイアスにはキャシーもいるし、子供達もいるから駄目だよね」
「!何引き下がってるんだよ!」
「で、でも…」
「行こう」
きっとここでオレイアスがそう言ってくれなければ、私は「やっぱりいいや」って言ってたと思う。
それでヘラクスにブーブー言われてたかもね。
「い、いいの!?」
「ああ。そろそろシリウスも騎士見習いに上げる歳だ。それに着いて行くのも悪くない。
ただし、隊長はお前のままだ。ヘラクス」
「あったり前だ!この地位は譲らねぇ!!!」
ヘラクスはそう言いながら、どさくさに紛れて私を抱きしめ頬っぺたにキスをしてきた。
「ちょっ…何してんのヘラクス!」
「いいだろ?いつかはそういう仲になるんだ」
「なんないし!」
彼の王子様みたいにキレイな顔を叩く。
歳をとってもこの顔が変わんないのがくやしいくらい、と思ってもう一回ひっぱたいた。
「いて、いてーよ!容赦ねーんだからな」
ヘラクスは汚いものをポイするように私を突き飛ばす。
ホント、乱暴なんだから!
「ヘラクスは諦めることを知らないな」
「諦めねーよ。どんなに時が経ったとしても、絶対に手に入れる」
「そうか」
オレイアスは嬉しそうにニヤリとした。
でも、私としてはフクザツじゃん。
セントールのヘラクスと一緒になるなら、あの時オレイアスをキャシーに譲ったりしないし!
あ、
「キャシーには…」
「置き手紙をして行く。無駄な口論は避けたい」
「無駄な口論って、オレイアス…!」
そんな言い方おかしい。
だって、夫婦なのに。
「は心配しないでくれ。彼女は……病気なのだ」
「えっ…」
「下の子を置いていけば大丈夫だ。シリウスだけ連れて行く」
「そんな!オレイア…」
食ってかかろうとした時、ヘラクスに止められた。
そして彼は顎でオレイアスの表情を見るように私に指した。
あっ……、こんな悲しそうな辛そうな彼を私は見たことないよ。
キャシーと一体、何があったんだろう。
「わかった。じゃあこのまま俺達とケア・パラベルに行くんだな」
「ああ、息子を呼んで来てくれヘラクス」
「了解」
ヘラクスがシリウスを呼びに行っている間、オレイアスはキャシーへの手紙を書いた。
文章は短く、とても今回のことを説明しきれてなかったけど、私は何も言えなかった。
二人の間の事だから、他人の私が口を出すものじゃないもんね。
「連れて来たぞ」
「ああ。シリウス、これからケア・パラベルに向かう。お前が騎士になるためだ」
「本当!?母上はあんなに反対してたのに、いいんだね!」
「そうだ。お前は騎士になりたいのだろう?」
「うん!父上のような、ヘラクスのような立派な騎士になりたいっ!」
この言葉を聞いて、ヘラクスが「へへっ」と照れるもんだから笑っちゃった。
カワイイとこあるんだから!
「では、行こう」
「はい!」
彼等は身仕度をすることもなく、その家から逃げるように私達に着いて来た。
後で聞いた話だけれど、
キャシーはオレイアスの心が誰か別の女の人にあると言って彼を信じなくなってたみたい。
最初は違うと言ってたオレイアスも、毎日のように責め続けられる内に否定しなくなったんだって。
そうしたらどんどん二人の仲が悪くなって、息子の行く末も口論する程になっちゃって…。
それで、私達が彼とその息子をケア・パラベルに連れて行った後、キャシーは……
「キャシーが亡くなったって…!?」
「……ああ」
オレイアスがいない時に、私はヘラクスに詰め寄った。
一体何が起こったのかわからなかったよ。
「子供達は大丈夫だったから、今あいつが迎えに行ってる。家族全員で城で暮らすことになるな」
ペベンシー四兄妹がナルニアを去って一年、たくさんの出来事に追われる毎日で、かつて仲良かったキャシーの心情を察してあげることが出来なかった。
私は、自分のためにオレイアスを連れて来ちゃったんだ。
「キャシーは、キャシーは何で死ん…」
「自殺だ」
「えっ…」
そんなこと…!!!
「セントールが自ら命を断つのは罪深いことなんだ!だから、もう死んじまったってのに俺以上にセントールのキャシーへの風当たりが強い。
でもな、お前は悪くないんだぞ」
「そんなことない!私がオレイアスをキャシーから奪ったから!」
見開いた目から涙がぼたぼたと落ちて来た。
絶え間無く流れるものだから、干からびるかと思っちゃうよ。
「それは違う!道を選んだのはオレイアスだ」
「でも…!」
「お前は、ナルニアの事だけ考えてろ!!!」
ごつごつした両手に頬を強く挟まれ、痛みに耐え兼ねて思わず目をつむる。
わかってるよ、今の私はナルニアの事で精一杯だもん。
噛み締めた唇に、柔らかいものが当たって、思わず目を開けた。
驚きに口を開けると、そこから入るぬめりとしたもの。生きた何かみたい。
優しく這って、愛をくれる。
私は初めて、男の人と愛のあるキスをした。
**************
なんか足早になってしまいました^^;
彼らが帰ってしまったその後、ヒロインにどんなことが起こったのかかい摘まんで書きます。
ちゃん、もうちょっとナルニアでがんばりましょう☆
2009/01/12
62話へ