、君は相手を持った方がいい」

「えっ…?」


















オレイアスに呼ばれ、円卓の会議室に二人きり。
そんな時、何を言われるかと思えば…


















「相手…?」

「そうだ。婚約でも結婚でもいい、添い遂げる相手を見つけるのだ」


















絶句した。
確かに私はもう33歳になるところ。ナルニア国のことで頭がいっぱいで、結婚とか考えてなかった。
でもいきなりなんで、そんな事を言われるのか。


















「なんで結婚?」

は女王にはならない、一人で国を支えていける人物ではない。それでもナルニアを支えると言うならば、頼れる者と…」

「!」


















そっか。
オレイアスの言う通りだ。
私はナルニアの女王にはなれない。アスランが居てこその守人なのに、今のナルニアにアスランは居ない。


だから私もただのなんだ。
ただのがペベンシー四兄妹のようにナルニアを治めるなんておかしい話だね。


















「そのうち反乱分子が出てくるかもしれないね…」

「……」


















オレイアスは何も言わなかった。けど、その視線はそこまでわかっているなら話は早いという意味が含まれてる。
うん、それならば…


















「受けるよ、オレイアス。ダーリンの求婚を」

「承知した。早速アンバードに使いをだそう」


















こんな私にずっと求婚してくれてるダーリンしかいない。
それは私もオレイアスもわかってる。
だから、私はダーリンと結婚するよ。


















四人がいなくなってから三年くらい。
私だっていろいろな事を知ってきた。だから、私に結婚が必要なのもわかるよ。



でも、こんな形で決めるなんて……ダーリンに申し訳ないよね。


















、ダーリンと結婚するって本当か!?」

「えっ、う、うん…」


















翌日の朝、まだ皆が起きてないような時間に浜辺を散歩しようと外に出た。
隠れて隠れてやっと城を出たっていうのに、何故かヘラクスがついて来たんだ。


















「なんでだよ!俺と結婚しろよ!」

「バカ!あなたはセントールでしょ!」

「セントールだからって結婚出来ないなんて嫌だ!俺はをモノにすると決めたんだ」

「ヘラクスってば…!」

「俺だって、気持ちはダーリンに負けない」


















強い瞳で見つめられてタジタジしてしまう。
ヘラクスの気持ちはずっと感じてたけど、彼はセントールだから正面から向かい合うことはしなかった。
でも、それはヘラクスを傷つけてるのも知ってたんだ。


















「ダーリンが人間だからといってを取られるなど納得出来ない」

「そんなこと、言われても…」


















ヘラクスの瞳は私から離れない。きっと何か考えてるんだろうな。何か言いたそうだもん。


















「ヘラクスあのね…」


















言いかけたその時、彼は私を抱きしめた。そしてこう言ったの。


















「偽装結婚するならダーリンじゃなくていいだろ!俺がいる!!!」


















偽装…結婚…?
なに、それ!そんなこと思って…!!!


















バシンッ


















それからは、確かヘラクスの体を押し退けて強く頬を打った気がする。
彼は目を丸くしたけど、すぐに眉間に皺を寄せて私を見たんだ。



































でも、私は背中を向けてケア・パラベルに戻ったの。
その意味はすぐにわかったよ…。



































「ありがとう、俺を選んでくれて」


















嬉しそうに言うダーリンを見上げながら頷く。





上手に笑えてるかな。
ダーリンとうまくやってけるかな。

そう思いながら彼と腕を組む。
そう、今日は私達の祝福の日…





ヘラクスとの一件があってから、私はよくよく考えてみた。
彼の言ったことは最もだと思ったの。









偽装結婚…









オレイアスも望んだこと。そしていつの間にか物分かりがよくなっちゃった私が受け入れたこと。
それを認めたくなくて、私はヘラクスの頬を打って逃げたんだよね。



私が悪いのに、ヘラクスには謝ってない。



彼は、ナルニアから消えてしまった。
だから謝れないんだ。


















、行こう」

「うん、ダーリン」


















それから少しの間だけ幸せな生活が続いた。
ダーリンと私は一緒にナルニアの事を話し合ったりして…
ヘラクスの穴埋めはオレイアスの息子のシリウスが担ってくれたしね。
でも、そのうち変な噂が流れ始めたんだ。


















「私が、ナルニアを支配する?」

「ダーリン様と組んでナルニアを人間だけの国にするって事なんだ」


















最近ダーリンもオレイアスもそわそわしてたから気になってたけど、こんな事になってたなんて!
こっそりと教えてくれたシリウスに感謝。最近は専らダーリンがナルニアの事を管理してるからわからなかったよ。


















「まさかみんな…信じてないよね…」

「それが…」


















シリウスが言うには、ナルニア人達は四人がいなくなった事自体私が力を使ったと考え出したみたい。
あの時、着いてくのを拒んで一人でここに残ったから…。
まさかこんなことになるなんて思わなくて。


















「どうすればいいの?」


















私の呟きに、シリウスは困ったように唇を噛む。
そうだ、私は四人の代わりなんだからナルニアの民に不安を与えちゃいけない。


















「大丈夫、なんとかするから」


















にっこりと微笑んで、シリウスを部屋から出す。
なんとかなんてなるだろうか。はっきり言ってわかんないよ…。でもやれるだけのことはやらなきゃだ。


















私は昔一回やったようにケア・パラベルを出てナルニアの各地を廻った。もちろんジョージに乗ってね。
彼はもう高齢だったけど、私を乗せるのは自分しかいないって言い張ってくれたんだ。
ジョージが私を信じてくれてると思うと、とっても心強かった。同時に彼のお喋りは健在だったから、道中とっても楽しめたしね。

でもこの旅はとても厳しいものになったよ。
どこに行っても視線は冷たく、これがナルニア人かと思うくらい。
私が知ってるみんなはこんなんじゃない。まるで誰かに扇動されてるかのように、全員で私を蔑む。


















「王達を追放してナルニアを自分のものにするつもりだな」

「何がアスランの守人だ!アスランを守ってもいないくせに」

「昔、アンバードに住む者達もナルニア人だったらしいが、まさかナルニアを支配しようとするなんて」


















私だって最初は抗議したよ?
でも無駄だってことがわかったんだ。
誰も私を信じてくれない。


















「ジョージ、私とダーリンは何故信じてもらえないの?」

「私は信じてますよ」

「うん、わかってるよ。ありがとう」

「……、もう休んで下さい。あなたは疲れています」

「うん…」


















段々食事も喉を通らなくなってく私を気遣って、ジョージは優しく尽くしてくれた。
でもナルニア人のみんなの態度は変わらず、頑なになってくばかり。



私には何も出来そうになかった。


















「もう、帰ろうか…」

、そうしましょう」

「うん。でももうちょっとだけ休んでから…」

…?」


















頭の中が真っ白になったかと思うと、そこで意識が途切れてしまう。
それからどうなったかはわからないけど、次に気付いた時はケア・パラベルの自室のベッドに寝てたの。
うっすらと目を開けると、そこにはダーリンとオレイアス、そしてヘラクスがいた。
彼らは何かこそこそと話し合ってるとこだった。


















「…なんでヘラクスがいるの?」

「「「!!!」」」


















三人の声が合わさって一斉に振り向く。
よく見ると、彼らの目の下にはクマが出来かかっていた。


















「もう起きないかと思った。、大丈夫か?」

「ダーリン、大丈夫だよ」

、勝手に城を出ていくな。それも一人で行くなど…」

「オレイアス、ジョージがいたし皆に行くこと言ったよ」


















オレイアスには言わなかったけどね、と心の中で付け加えた。




















「ヘラクス」


















彼の面持ちは真剣で、何事も有無を言わせぬ雰囲気を持っている。
ヘラクスは以前と違う人になってしまった気がした。


















「お前はもう帰るんだ」

「ヘラクス、何言って…」

「ナルニアはもうお前がいる国じゃない。お前を必要としてない」

「そんなこと…!!!」


















ない、なんて言えなかった。
私を必要としてくれるのは数人だけ。他のナルニア人は私を必要としてない。


















「もう潮時だ、帰ろう」

「でも、ヘラクス…」


















それでも帰りたいなんて思えない。私はナルニアに何か出来るはず。


















が出来ることは何もない。もう終わったのだ」

「オレイアス…」


















涙が溢れてきた。
こんなに頑張ろうとしてきたのに、もう必要じゃないなんて。
どこかに、帰れなんて。

私がいるとこはナルニアだけなのに。


















「ダーリン、私は…」

、偽装結婚はもうやめだ。らしく生きて欲しい。それが俺の願いだ。

今まで、ありがとう」

「ダーリン…」


















今までつかまってたものに、ポンと放された気がした。
もう、掴むものもない。



































「うっ……わあぁぁぁっ…」



































その場で泣き崩れると、誰も何も言わなかった。
もう誰も手を差し延べてくれない。


















「私、どこに帰るっていうの?ここが家なんだよ?」

「忘れたのが一番いけなかったんだ」


















ヘラクスがゆっくり近づいてきて抱きしめてくれた。温かくて、心地いい。
その時ダーリンの舌打ちが聞こえた。




…そっか、心が離れたわけじゃないんだ。
そう思ったら一気に涙が止まる。


















「忘れた?」

「そうだ。お前はアスランの守人になる前はどこにいたんだ?」

「どこに…?」

「ナルニアに長く居すぎたんだ、


















ヘラクスが何を言ってるのかわからなかった。
私の故郷はナルニア…だったよね?


















「ピーター王達はどこに行ったんだ?」

「ピーターは自分の世界に…」

「じゃあ、お前はどうなんだ?」

「私?

…私のいた世界………あっ!」


















思い出した。
私ってば何忘れてんの?ナルニアと違うとこからアスランの守人として来たんじゃん。
それも押し入れから。


















「やっと思い出したか」


















ヘラクスがくすりと笑う。
彼は歳をとってもハンサムだと思った。ヒゲが伸びてるけど、ニヒルな感じ。


















「ごめん、ヘラクス。ダーリン、オレイアスごめんね」

「いや、思い出したならよかった。は、元気な姿が一番いい」

「ダーリン……」


















ヘラクスから離れ、夫の元へ歩く。
ダーリンも愛おしそうに手を差し出してくれた。


















「私、帰らない。ダーリンと一緒にナルニアを治める」

「「「!」」」


















三人の叫びが重なった。
嬉しそうに怒るなんて、みんな変じゃないの。
やっぱり私が必要なんだね。


















「だめだ」


















ヘラクスがきっぱりと答えた。
彼は何でこんなに頑ななのか。理由があるのだろうけどわからないよ。
私は本当に必要じゃないの?


















「お前らはおかしいと思わないのか?
今までナルニアに尽力していたを、ナルニア人がいきなり毛嫌いするようになるか?
これは絶対に仕組まれてる。が、ナルニアから消えるようにと」

「私がここから消えるように…?」

「この後、ナルニアにがいたら困るんだろうな。こんなことを仕組みやがった奴を見つけ出して八つ裂きにしてやりたい!!!」


















ヘラクスは鼻の穴をこれでもかというくらい膨らませて怒りを剥き出しにする。
彼は感情を表に出してくれるから嬉しい。私のこと心配してくれてるってわかるから。

オレイアスとダーリンはいつも表情に出さないで私に内緒にするんだ。だから私も二人に言わないで城を出ちゃったんだけどね。


















「こうなった以上、はナルニアから消えるのが1番だ。だから元にいた世界に帰るべきだ」

「……ヘラクスの言う通りだと思う。そうするべきだ、。ナルニアは大丈夫、オレイアスとヘラクスと、力を合わせて俺が守る」

「ダーリン…」


















彼はゆっくりと私に歩み寄った。そして私の頭を撫でる。


















「願うんだ、元にいた世界に帰ることを。君はもう帰る準備が出来ているじゃないか」

「え…」


















そういえば、ダーリンが大きく見える。オレイアスもヘラクスもなんかいきなりでっかく…?


















「その姿を見るのは久しぶりだ。俺が好きになっただ」


















ダーリンに言われて気付く。
くるりと回って自分の体が小さくなっているのを理解した。


















「戻ってる…」


















手をグーパーさせて確かめる。何もかもまだ中途半端な大きさだよ。
いつの間にか子供の私だ。


















「……そうみたい。私は帰るべきなんだね。この姿に戻ってわかったよ。私ってば、こんなにナルニアに固執してたなんて…」

…」

「アスランが知ったら怒るだろうなぁ」


















くすくすと笑うと、三人は優しく微笑んだ。
出会った頃から数えていい年頃のこの三人なら、ナルニアを良い方向に導いていけるかもね。
もしかしたら侵略に負けたりしないで、ケア・パラベルが崩れ去ることもないかも知れない。


















「ナルニアとケア・パラベルの四玉座は、彼ら王、女王が戻るまであなた達の腕に任せます。

これは王、女王の友人であり、アスランの守人である の願いです」

「「「はっ、仰せのままに」」」


















私の言葉に三人はさっと膝をつく。そして彼らが顔を上げる頃には私の体は透け出していた。


















、いってしまうんだな」

「ごめんねダーリン。大好きだよ」


















透けつつある体で、精一杯ダーリンを抱きしめる。
大人になって、彼にはたくさんの心配と迷惑をかけてきた。その申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを込めてね。
次はオレイアス。
彼には最初に出会った時からずっと…今まで惹かれてたと思う。
きっと、命尽きるまでナルニアに仕えてくれるだろうね。子孫もずっと…。


















「ありがとう、

「これからも明るく、ナルニアを見守ってくれ」

「うん、オレイアス!ずっと私を助けてくれてありがとうね!」

「いや……、私こそ多く助けてもらった。は私にとって大切な主だ」

「オレイアス…」

「オイオイ、俺を忘れるなよ」


















オレイアスとの視線の交わし合いにヘラクスが邪魔をする。
だから思わず睨んじゃった!


















「おっ、らしーな。昔に戻ったみたいだぜ」

「もう、ヘラクスったら!」


















彼のお腹をバシバシ叩く。
焦げ茶色の毛並みがつやつやと光り私を照らした。


















「また会おうぜ!」

「えっ…」

「また…な…」


















その一瞬で周囲が全て消えた。
ううん、きっと私がナルニアから消えたんだろう。


















私が辿り着いた場所、それは小さな池がぽつんぽつんとある森のようなとこだった。



















**************

長くなった上に展開が早くてごめんなさい!
ペベンシーの四兄妹が帰った後もナルニアに残ったヒロインのお話でした☆
辛い時期を乗り越えた彼女は、これからどうなるのでしょうね???

2009/02/26









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