「おいしー!!!」


















ほっぺたが落ちそう!なくらい美味しい果物を食べてる私。ナルニアでは食べたことがないし、違う国で採れるんだろうなぁ。
私が大喜びする度に男の子はフッと目を細めて笑う。
彫りの深いイタリア人的な顔立ちが歪むけど、それはそれでカッコイイ気がした。


















「お前はよく食べるな」

「だって、美味しいんだもん」

「そうならいいんだ」


















彼はきっと嬉しいんだ。
他のどこかわからない国から来た私が、テルマールのものを一つでも褒めることが。


















「そろそろ日が暮れて来たな…」

「ほんと…。今日の宿はどうしよう」

「私が用意する。だから心配するな」

「うん。ありがとう」


















そういえば、まだ名前を聞いてなかったなぁ。でも聞いてもこないし、いいのかな。


















「……星を見よう」

「星?」

「ああ。テルマールから見る星は格別だ」

「うん」


















彼はどこかを目指してずんずんと歩いていく。坂のような道を上ってくから、きっと高台のようなとこに向かってるんだと思う。
見ず知らずの私にこんなに素敵な時間をくれて、なんてもったいない。


















「誰もいないといいが……、先客がいるかもしれないな」

「先客?他の人もいるってことは、星を見るベストスポットなんだね。楽しみだなぁ」

「ああ、期待していい」


















どんどんと日が暮れて間もなく、橙色の空が消えると美しい闇が広がる。
そのグラデーションはビロードのような淡くたなびき、たくさんの輝きを抱きしめた。


















「わぁっ、スゴイ!」


















崖で危ないというのに思わず身を乗り出して彼にむんずとマントを掴まれた。
このくらいは大丈夫なのに。


















「落ちるなよ」

「大丈夫だってば!」

「元気な娘だ」


















あ、またフッと笑った。
これじゃあまるで、私が笑わせてるみたい。


















「よく笑うんだね」

「!…そうか?」

「なんか、私が笑わせてるみたい」


















そう言うと、彼は少し考えてクスリと笑う。


















「お前が面白いやつだからだ」

「むー!ヒドイヒドイヒドイ」

「ははは」


















私達は笑い合うと、一緒に星を見上げた。
この男の子とは仲良くやっていけそう。
よくわからないけど、カスピアンに会うまでは彼といればいいのかな。アスランはどう考えてるんだろう。


















「そうだ、お前の名前を聞いていなかった」


















彼はこっちを向くと、優しく言った。
もう強引さとかは感じられない。


















「名前を聞かれないんじゃないかと思ってた」

「本当に、忘れていただけだ」

「そういうことにしてあげるよ」


















私は彼を見上げてにっこり笑う。
よかった。名前を聞かれたんだから教えたら聞き返してもいいんだよね。
ずっと誰なのか気になってたんだよ。


















「私の名前はだよ」





















ん!?あれ!?
なんか、彼の声と一緒にマユモの声が聞こえたような気が…

















まさか…


















まさかと思って体を見る。すると、ジェイディスの時と同じように体が透けてきていた。


















帰るんだ!!!


















、どうし……!!体がおかしいぞ!透けて…」

「私、帰るみたい…」

「帰るってどこへ…!」

、戻ってこい!』


















マユモの声が近くなる。元の世界の方が近くなってるんだ。
彼の名前だけでも聞きたかったのにもう、時間がない。


















「今日はありがとう!名前を聞きたかったのに私…」


















そこまでだった。
彼が口パクで自分の名前と私の名前を言ったみたいだったけど、聞こえなかった。
世界は元の世界に戻ってて、目の前にいるのはマユモだった。


















「大丈夫か、

「大丈夫だけど…」


















マユモは悪くないけど、思わずムッとしてしまう。
あとちょっとで名前を聞けるはずだったのに、呼び戻されるなんて。


















「具合悪いか?」

「大丈夫だってば」

「…、なんで機嫌悪いんだ?」


















マユモもムッとしだした。
私は溜め息を吐くと、「もうちょっとだったのに」と呟く。


















「…もうちょっと?……お前、今どこにいってた?ナルニアだろ!」


















びっくりした。
ううん、びっくりなんてものじゃないよ!こんな企業秘密、幼なじみだって知ってていいわけがない。


















「!

なんで、マユモがそんなこと知ってるの?」

「なんででもいいだろ!ったくアスランめ、なんでこんな頻繁にをナルニアに呼ぶんだよ」

「ちょ!アスランの悪口を言ったな!!!」


















カーッと頭にきて掴みかかる。何がなんだかわからないけど、マユモがどこまで知ってるのか恐ろしくなった。


















「いて、いてて!引っ掻くなよ!」

「うるさーい!アスランの悪口を言うから悪いの!それに、なんでそのことを知ってるの?」

「アスランなんてただのライオンだろ。そりゃさ、スゴイとこもあるけどな…」

「ただのライオン!ふざけるなーっ!」


















もうあったまきた!
確かにね、マユモは物語しか知らないよ?それも小さい頃に私が読み聞かせたとこだけ。
だけどもそれがアスランの悪口を言っていいことにはならない。


















「ナルニアをちゃんと知らないのに言いたい放題で!」

「ナルニアならお前より知ってる。ただ、まだ頭が混乱してるんだよ」

「昔から混乱してるんだよ!馬鹿幼なじみ!」


















ガツンと言ってやった。
すると、マユモはピタリと言動を止める。


















「なっ…!お前な、今日俺が言ったこと忘れてるだろ…」

「今日?」


















何があったっけ。
ナルニアに行って男の子に会って美味しいもの食べて星を見たけど…、マユモと
は…
























「あ」


















思い出しちゃった。
私ってばマユモに告白されたんだ。それで倒れてナルニアに行ってる間に、マユモは私を部屋まで連れてきてくれたんだよね。


















「いきなり意識無くして心配したのに、なんだよその言い草は」


















それは、アスランの悪口を言われたからで…。


















「意を決して告った俺に、馬鹿幼なじみだと?お前こそそうだろ!?」

「……それは…」


















何も言えない。
そうだよね、自分勝手だった。心配して私の名前を呼んで連れ戻したのに、文句言われたら怒るよね。


















「そうだよね、うん。ごめ…」


















謝ろうとしたけど、寧ろ止められた。それも口を塞がれてね。


















「俺も、アスランの悪口言ったからな。が崇拝してるの知ってながら。ただ、俺はまだ混乱してるとこがある。そこはわかって欲しい」


















一体何を言ってるやら。
私がナルニア行ってるの知ってて、こっちのが混乱してるのに。


















「だから告白は有効のまま、俺はお前から離れる」

「!」

「俺に話し掛けるなよな」


















マユモはそう言うと、私の口から手を離して部屋から出て行った。

えっと……何がなんだかわからないんだけど…、私とマユモは仲違いしたの?
もう話し掛けるな?
私達、幼なじみなんだよね。今までたくさんケンカして仲直りしたよね。
今回も、そうなるよね?
大丈夫……だよね…?

毎日そう思って過ごした。
けれどもマユモは完全に私を無視して…、それもナルニアにも呼ばれることなく、二年の月日が経った。


















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幼なじみと仲たがいしたまま、次は二年後の旅が始まります。


2009/06/08








67話