『誕生日おめでとうーっ!』
「ありがとう!」
お礼を言ってケーキに刺さってるろうそくの火を見つめる。その火に向かって思いきり息を吹くと、ろうそくの火はあっけなく消え去った。
私はそれを見てナルニアの戦いを思い出した。
戦いは命の灯をあっけなく消す。生き物の生は軽んじられるものであってはいけないものなのに、同じ生き物がその生を奪うの。
なんておかしい話なんだろう。
だって、同じ尊いものだというのに。
「ちゃん」
「ん、何?」
「マユモ君は来ないの?」
「うん……、一応メールはしたんだけど…」
あれから二年、私はマユモと一言も口をきいてない。
それは何度も話し掛けようとしたんだけど、マユモは何か異様な空気を放って私を退けるの。
「あんなに仲良かったのに」
「うん…」
仲たがいのことはすぐに友達中に知れ渡った。だって今まではおかしなくらい仲良かったのに、全く喋らなくなっちゃったもん。
友達から質問攻めにあったけど、詳しいことは何も言えなかった。私もわけわからないから。
説明出来るとしたら、マユモだけだろう。
「辛気臭くなるなよ!、歌おうぜ!」
「え!?あ、うん」
そう、ここはカラオケ屋。友達のお父さんが経営してるから、今日だけケーキとか持ち込みオッケーにしてもらったの。
もちろん私の誕生日パーティーなんだよ。
「あいつ、マユモのこと狙ってんぞ」
「あいつって…リコちゃん?」
「おう」
リコちゃんはさっき私を心配してくれた子。そして私と一緒に歌ってるこいつはサイオンジ。
「そうなんだ、初めて知ったよ」
「お前な、そんな悠長に構えてて大丈夫なのか?マユモのやつ、とケンカした頃くらいから性格が大胆になっただろ?……モテるんだぜ」
「へーっ」
そうなんだ。知らなかったよ。
マユモがモテるなんて、二年も経つわけだ。
「なんか拍子抜けだよな。結局お前らはただの幼なじみだったわけだな」
「それ以外ないよ」
「ふーん……」
サイオンジはそう言って私の顔をじっと見た。
うう、なんだっていうの。
「お前、髪の毛ばっさりいかない方がよかったんじゃね?男っぽくなった」
「……言ってくれるね」
ポカリと殴ると、私はサイオンジを置いて席に戻った。
私の誕生日だっていうのに何なのかなぁ。
どうせショートカットにして男の子っぽくなっちゃったよ。
「ちゃんてサイオンジ君と仲良いんだね」
「別に普通だよー」
「そっかなぁ、付き合ってみたら??」
リコちゃん、それは行き過ぎでしょ。
なんて言うこともなく、私は苦笑いで済ませた。
「ケーキ切るよ!」
誰からともなく声が上がる。
今日1番の楽しみはケーキだったから早く食べたい!
ワクワクしながらケーキを見つめていたその時、部屋のドアが勢いよく開いたの。
バンていう音と共に入って来たのはマユモだった。その顔は険しく睨み付けるよう。
「マユモくん…!」
リコちゃんが立ち上がった。
そういうのを見ると、サイオンジが言ってたマユモ狙いってのがわかる気がする。
「遅れた」
マユモはそう一言いうと、私とリコちゃんの間に座った。
一体、どういう風の吹き回しだろ。
「ホントだよ!マユモ君たら、幼なじみの誕生日に遅れるなんてよくないよ」
リコちゃんの頬が心なしか赤い。やっぱりマユモが好きなのかな。
「そうだな、悪かった」
マユモはおもむろに手を挙げると、私の頭の上に置いてわしゃわしゃと撫でた。
途端に出る悔し涙。
何、これ。
今まで無視してたのはなんだって言うの!?
「ちゃん…!?」
リコちゃんの驚く声。私が泣いてるのがバレちゃったんだ。
ゴシゴシと涙を袖で拭いて、すっくと立ち上がる。
ケーキ、まだ食べてないのに。
「ふざけないで」
「ふざけてなんてない」
キッと睨むと、それを真剣に受け止める姿勢のマユモが見えた。
なんなの、一体。
「そんな簡単に謝るなら、無視なんてしないでよ」
「悪かった」
「っ…」
涙が止まりそうになかったから、それ以上そこにはいれなかった。
だって二年間だよ!?
そんな長い間無視してきて、いきなり悪かったとか言われてもどうしていいかわからない。
だからって、悔しくて許すってことも出来ない。
「!」
飛び出したドアからマユモが追ってくるのがわかった。
全速力で逃げる。でも男の子の足には勝てないし…エレベーターも来ない。
私は慌てて非常階段に逃げ込んだ。
「逃げるな!」
ドアをちゃんと閉め忘れた私は、やっぱり見つかっちゃって追い掛けられるはめに。
もう逃げられないって観念したと同時にマユモに腕を掴まれた。
「捕まえたぞ」
「わっ」
そのまま後ろに倒れ込んで抱き抱えられてしまった。
焦って離れようとしたけど、逃げられないようにがっしり掴まれてて無理だった。
「」
「……何?」
「悪かった」
「今さらじゃない」
「今だから言えるんだ。あの時の俺は混乱してた」
またおかしなこと言い始めた。これじゃあ二年前のあの時と一緒じゃない。
「だけど、今は違う。自分が自分であることをやっと受け入れたんだ。だからお前にもやっと話せる」
「何を?私がナルニアにいったことを何故知ってるかってこと?」
マユモの腕をぎゅっと握りしめる。力が強くて痛いかもしれない。けど握りしめないとしゃんとしてられる自信がなかった。
「それもだ」
「それ…も?」
ホント、何が言いたいんだろう。自分が自分であることを受け入れたって……、まるでマユモがマユモじゃなくなったみたい。
でも言動はおかしくなったけど、マユモはあまり変わってない気がするし。
「ああ。俺がなんでそれを知ってるかって言うと……あっ!」
「えっ!?」
いきなり上がる素っ頓狂な声。
マユモは私をじっと見て、あろうことか力強く抱きしめた。
「ちょ、何するの!」
顔が真っ赤になる。
やだ、やだやだやだよ!何で抱きしめたりするの!?
でもマユモは打って変わって何かに必死だった。
おかしいな、と気付いた頃には私の体は半分程消えちゃってるし。
「えっ?なにこれ!」
「くそ、またかよ!」
「もしかして……ナルニア?アスランが呼んでるの?」
マユモはほとんど消え去った私の肩に手をかけてもがく。でもどんどんと首まで透けてしまった。
「もしかしなくてもそうに決まってるだろ!
この、勝手に連れてくな!」
マユモの手が私の頭をスカッと通り抜けて現実が視界から消え去ろうとした時、彼は激怒の声で叫んだ。
「アスランの野郎!」
と。
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17歳のヒロイン。
ついにナルニアへ旅立ちます。さあ、どんな旅になるのでしょうか。
ちょっと大人になったあなたの壮大なナルニア世界が始まります☆
2009/06/18
68話